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日本のITはサイロからの脱出を~日本IBM、仮想アプライアンスセンターを新設

三瓶雅夫氏

 日本IBMは4月15日、東京都中央区の晴海事業所に「IBM仮想アプライアンスセンター」を開設したことを発表した。独立系ソフトウェアベンダ(ISV)やSIerが仮想アプライアンスを作成することを支援し、日本企業の仮想化利用を促進することが主な狙い。日本IBM 専務執行役員 システム製品担当 三瓶雅夫氏は「仮想アプライアンス化を進めることで、ISVやSIer、そしてユーザ企業が抱えているITのサイロ化という課題の解決に近づくことができる。日本のIT産業は労働集約型から抜け出す時期にきており、新しいビジネスモデルを構築することが急務。IBMとしても仮想アプライアンスセンターを通して国内IT産業の変革を支援していきたい」と語る。

仮想アプライアンスとは

仮想アプライアンスとは

 仮想アプライアンスとは、仮想化環境上で稼働する仮想マシン上にOSやミドルウェア、アプリケーションなどを事前にインストール/設定し、その状態でひとつのファイルにしたもの。構成情報や設定情報も含まれるため、自動デプロイや再利用も容易で、導入作業の負荷や保守サポート費用を大幅に削減することが可能になる。個別にマシンをセッティングする作業に比べ、「8時間かかっていた導入作業が1時間に、24人月かかっていた保守サポートのコストを12人月に削減などがすぐに実現できる。テンプレートベースなので広範な(OSやミドルウェアごとの)専門スキルも必要としない」(三瓶氏)点が特徴だ。

 IBM仮想アプライアンスセンターでは、企業ITシステム管理の標準化団体「DMTF(Distributed Management Task Force)」で定義されたフォーマット「OVF(Open Virtualization Format)」に則ったファイルを仮想アプライアンスとしている。利用者は事前にハイパーバイザ(PowerVM/KVM/VMware)の環境にひな形となる仮想マシンを作成し、その上にOSやミドルウェア、パッチ、アプリケーションなどを設定したのち、ICCTという仮想アプライアンス作成ツールを使ってOVFファイル(xxx.OVA)を出力する。このOVFファイルが仮想アプライアンスとなり、一度作成すれば別のハードウェア環境であってもハイパーバイザが同じであれば容易に展開することが可能となる。

 IBM仮想アプライアンスセンターではISVやSIerに対し、

・仮想アプライアンス作成ツール「IBM Image Construction and Composition Tool(ICCT)」の無償提供
・仮想アプライアンス作成環境の無償提供
・仮想アプライアンス作成の無償技術支援
・IBMグローバルにおける最新技術情報の提供
・IBMデモセンター(全国4カ所)の利用(順次展開予定)

 といった支援を行う。ISV/SIerは自社で作成したアプリケーションをIBM仮想アプライアンスセンターに持ち込み、仮想アプライアンス化が可能かどうかをテストすることも可能だ。作成した仮想アプライアンスはIBMのWebサイトを通して全国規模で紹介され、外販の促進につなげることができる。また会員間の情報共有/交換の場もIBM仮想アプライアンスセンター内に設けられる。

IBM仮想アプライアンスセンターの概要
支援内容

IBM仮想アプライアンスセンター設立の狙いは国内IT産業の構造変革

 IBM仮想アプライアンスセンターは日本IBM独自の取り組みであり、日本IBMはこの開設によって「IBM自身のビジネスにすぐに直結させようとは思っていない」(三瓶氏)としている。今回のセンター開設の目的はあくまで「ISVやSIer、ユーザ企業など、日本のIT産業の仮想化を促進するため」(三瓶氏)であり、そうすることで、保守/運用コストに70%以上を割いている国内IT産業の労働集約型の構造そのものを変えていきたいとしている。

 過去の資産に縛られない新興国と異なり、日本企業にはレガシーが多く存在し、そこから動けない状態になっている企業は少なくない。「システム資源の85%がアイドル(非稼働)という非効率」(三瓶氏)な状況を理解していても、そこから抜け出すスキルもノウハウもない。サイロからの脱出を図ろうにもできない状態がこのまま続けば、日本のIT産業は縮退する一方となり、ひいては国力の低下そのものにつながっていく。

 その状況を打破するための施策としてIBMが提案するのが仮想化の推進であり、IBM仮想アプライアンスセンターの開設である。仮想化ですべてを解決するのではなく、仮想アプライアンスによって標準化と自動化を進め、新しいリソースに移行しやすい環境を整え、技術者であればクラウド時代に求められるスキルセットを習得する。三瓶氏は「日本企業のIT部門には"この人がいないと動かせない"というインフラやアプリケーションが多すぎる。属人的過ぎるIT環境は非常に危険。本来人間がやらなくていい作業はできる限り自動化し、その空いた時間やコストを利益を生み出す分野に当てるべき」と強調するが、手作業でのマシン設定やマシンごとの保守サポートなどはまさにそうした"属人的"な作業といえる。いわば、仮想アプライアンスのような標準化/自動化を推進するテンプレートをうまく活用する文化そのものを醸成することがこのセンターの目指すべき目標のひとつなのかもしれない。

(五味 明子)