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SSTと富士通、荷主企業・物流事業者向けの共同輸配送システムを構築

SSTがオープンプラットフォームを活用した共同輸配送サービスを提供

(左から)ヤマトホールディングス 代表取締役社長の長尾裕氏、SST 代表取締役社長の髙野茂幸氏、富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏

 ヤマトホールディングス株式会社と同社傘下のSustainable Shared Transport株式会社(以下、SST)、富士通株式会社の3社は27日、共同輸配送システムを稼働。オープンプラットフォームによる共同輸配送サービス「SST便」を2月1日より提供開始すると発表した。

 SST便は、幹線輸送をベースにした共同輸配送システムで、荷主企業と物流事業者をマッチングするオープンプラットフォームを活用。業界の垣根を越えた物流効率化を目指している。宮城県から福岡県の間において、1日16便のトラック便を運行し、標準パレットスペースの単位で利用できる「定時運行」、「中継輸送」、「混載」によって幹線輸送を提供。さらに、地域の物流事業者との連携により、荷主企業の要望に応じた「域内輸送」も提供する。

「混載」「中継」「定時」で日本の物流をサステナブルに(リアル)
SSTが提供する輸配送サービスネットワーク

 今後は、対象地域やダイヤの拡充に加えて、トラック輸送だけでなく鉄道や船舶なども含めたマルチモーダルを推進し、2026年3月末までに1日80線便に拡大。共同輸配送の活用を加速させる考えも示した。

 富士通はSSTと共同で、サプライチェーンに関するデータ連携基盤を構築するとともに、荷主企業として、SST便を活用する。さらに富士通では、SSTに対して5000万円を出資する。出資比率は12.5%となる。

 SSTでは、ヤマトグループが持つ約170万社の法人顧客と、3500社以上の物流事業者とのパートナーシップ、輸配送ネットワークやオペレーション構築のノウハウを活用するとともに、富士通が持つ製造および流通分野の業務知見およびシステム構築のノウハウを組み合わせることで、業界の垣根を越えた活用を目指すという。

 ヤマトホールディングスの長尾裕社長は、「持続可能なサプライチェーンの構築を目指しており、そのためには、標準化することが大切。今回のサービスは、標準化した仕組みをオープン化し、それを社会実装する第一歩になる。富士通とは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第二期 スマート物流サービスプロジェクトで一緒に活動をしており、この成果を社会実装し、成果につなげることに一緒に取り組んできた。商流データの標準化の取り組みを促進できた」とし、「物流の2024年問題は進行している課題であり、トラックドライバーの半数が50歳以上となっており高齢化も進んでいる。解決につながる活動になる」と述べた。

ヤマトホールディングス 代表取締役社長の長尾裕氏

 また、富士通の時田隆仁社長は、「富士通が取り組むFujitsu Uvanceは、異なる業種や企業間のデータを活用する基盤として、多くのお客さまが利用している。製造業や化学分野のお客さまでの利用のほか、JEITAでは、サプライチェーンにおけるCO2排出量の見える化に向けた企業間CO2データ交換の実証実験を開始している。さらに、クロスインダストリーでのデータを流通、活用することで、次の経営戦略に貢献するといった提案も行っている。今回のSSTとの取り組みは、これらの集大成になる。そして、経営において、データ活用が試されるという点では始まりともいえる」と前置き。

 「サプライチェーンでは、さまざまな業種の企業が携わることになるが、それぞれの業界や企業に最適化したシステムが利用されているため、データの連携が行われず、サプライチェーン全体の効率化や、意思決定の迅速化にはつながっていない。これを解決するためには、構造や仕組みを標準化し、誰もが参加でき、安全にデータ流通ができるオープンなプラットフォームが不可欠である。今回の取り組みでは、業種をまたがる複数の企業が、物流のための車両や拠点などを共同で利用し、最適な経路でモノの流れをつなげていくフィジカルインターネットを実現し、荷主や配送業者が柔軟につながることで、サステナブルなサプライチェーンを構築できる。富士通は、これをテクノロジーで支え、物流および商流分野のデータを連携させ、企業の生産性向上の実現や、輸配送能力の拡大を確保し、GHGの削減にも貢献する」と述べた。

 さらに「今後はAIやAIエージェントをどう活用するかといったこと考えるとともに、量子技術を活用した配送ルートの最適化にも取り組みたい。また、このオープンプラットフォームを、他業種のデータ連携基盤と組み合わせて、広範囲なクロスインダストリーでのデータ連携の仕組みとして構築し、より多くの社会課題の解決に貢献していくことができる」と、今後、事業領域の拡大を目指す考えを示した。

富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏

 SSTは、2024年5月に、標準パレット輸送と標準化した商流・物流情報の連携による共同輸配送のオープンプラットフォームを提供することを目的に、ヤマトホールディングスが設立した。

 今回構築した共同輸配送システムは、富士通のオファリングである「Fujitsu Unified Logistics」によるデータ基盤を活用。荷主企業の出荷計画や梱包の状態、荷物量などの情報と、物流事業者の運行計画をもとに、最適な輸配送計画を作成する。

 荷主企業は、共同輸配送のパートナーを自ら探すことなく共同輸配送に取り組めるほか、同一区間でも複数の時間帯、複数の輸送手段の中から標準パレットスペース単位で最適な輸送方法を選択でき、効率的な輸送が実現するとした。

 一方で物流事業者にとっては、復路の空車走行の減少などにより、積載率や稼働率の向上、ドライバーの負担軽減や処遇改善を図ることができる。

 さらに、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第二期 スマート物流サービス」プロジェクトによって策定された「物流情報標準ガイドライン」に準拠しており、業種や企業間で定義が異なるデータ連携が容易に行えるようになり、荷主企業や物流事業者は、運送手段やドライバー配置計画などの輸配送に関する意思決定を迅速化でき、物流効率化に向けた企業間の協力を促進できるとしている。

 加えて、富士通が持つブロックチェーンなどの先進技術や、サイバーセキュリティの知見を活用することで、外部からの閲覧を防止する。ここでは、データ変更のログを取得することで、第三者による改ざんの検知に加え、迅速な対応や復旧もできるようにしている。業種や企業をまたいだデータ連携においても、セキュリティを担保した安全なデータ連携を実現できることを強調した。

SSTが実現する共同輸配送(デジタル)

 SSTの髙野茂幸社長は、「貸切トラック輸送が多い商業貨物において、共同輸配送を選択肢にすることを目指している。それを実現するために、リアルとデジタルの2つのプラットフォームを用意した。リアルでは混載、中継、定時といった輸送オペレーションを標準化することで効率化し、デジタルではSIP基盤と物流情報標準化ガイドラインを活用することで、標準化したプラットフォームを実現し、高いセキュリティ環境において、安心して利用できるようにした。いまは、商流情報と物流情報が分断しているため、頼んだ商品がどのトラックで輸送されるのかがすぐにはわかない。そのため過剰な検品作業や荷待ち時間の発生など、非効率になっている。共同輸配送システムによって、これらの課題を解決できる。共同輸配送によって、日本の物流をサステナブルにしていく」とした。

SST 代表取締役社長の髙野茂幸氏

 荷主は予約画面で、日付や出発地、到着地、荷物情報など、運びたいニーズを入力すると、輸配送可能な便が表示され、その中から便を選択して予約ができる。予約状況はリアルタイムで管理され、便の予約や手配の様子が確認でき、安定した輸送を支援する。

共同輸配送システムの特長①(荷主予約画面)
共同輸配送システムの特長②(SST運行管理画面)

 富士通の時田社長は、「物流・商流データの標準化による連携コストの削減、ブロックチェーンによるデータの信頼性担保が可能になり、データとAIによって物流アセット全体の最適化に貢献できる。経営の高度な意思決定も迅速化できるというメリットも生まれる。輸配送事業者だけでなく、富士通自らが荷主として、輸配送に関する発想の転換や行動変容を進めながら、利用を促進していく」と語った。

 事業目標については、「現段階では、売上規模や顧客数を掲げるタイミングではない」と、ヤマトホールディングスの長尾社長が回答。「仕組みを動かすことで、事業上の課題や、お客さまのメリットおよびデメリットを捉え、アジャイルに回しながら、より良いものにしていくフェーズである。これがうまく回り始めたら、どれぐらいの事業規模が望ましいのかが見え始める」として、明言を避けた。

 SSTでは、設立にあわせて、2025年度中にGHG排出量の低減により42.2%の削減率を実現するほか、ドライバーなどの労働環境や処遇の改善を進め、省人化率は65.1%を目指すことができるとの試算を発表している。