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PTC米国本社のバルアCEOが来日会見、生成AI「Codebeamer Copilot」β版を2025年より提供開始へ

複数の日本企業と先行導入に向けた協議を実施

 PTCジャパン株式会社は5日、日本における事業戦略について説明。来日した米国本社のニール・バルアCEOは、「日本への投資を加速する」と発言し、事業拡大に向けて人材確保に力を注ぐ姿勢を示した。

 また、マイクロソフトなどとの協業によって開発している生成AI「Codebeamer Copilot」のβ版を2025年から一部企業に提供することを発表。先行利用企業として、複数の日本企業が導入する方向で協議していることも明らかにした。

 PTCのバルアCEOは、「この1年間の日本でのビジネスは大きく成長しており、その背景には、日本の製造業がDXの重要性を認識しはじめたことが挙げられる。導入を大規模に展開する上でも、PTCが日本の企業からの信頼を得ているという手応えを感じている。日本での成功はPTCのビジネスにおいて重要である」と前置き。「日本での投資は引き続き強化し、日本法人を支援していく」と述べた。

PTC 最高経営責任者(CEO)のニール・バルア氏

 具体的な投資領域として、バルアCEOは、「PTC製品の採用を決定したあとに、導入および展開を支援できる人材の強化、顧客にアプローチする営業人材の拡充、PTCの価値を認識してもらうためのマーケティング活動への投資を進めていく」としたほか、PTC最高製品責任者のケビン・レン氏は、「業種別にアプローチをしていく必要があると考えており、日本では、自動車や産業機械、エレクトロニクス・ハイテクを重点的に取り組んでいく。日本のお客さまからの要望も収集し、海外のお客さまの声とハーモナイズさせながら、製品に反映させたい」と語った。

PTC最高製品責任者のケビン・レン氏

 一方、PTCジャパンの神谷知信社長は、日本における事業戦略として、「パートナーエコシステムの確立」、「テクノロジーリーダーシップの実現」、「マーケティングの強化」の3点を挙げた。

PTCジャパン 社長執行役員の神谷知信氏

 神谷社長は、「上流コンサルティングから設計、導入のほか、複雑なシステム連携などにおいては、パートナーとの連携が重要になる。これらの領域におけるパートナー連携を強力に推進していきたい。また、PTCが、三次元CADやPLM(製品ライフサイクル管理)、ALM(アプリケーションライフサイクル管理)、SLM(サービスライフサイクル管理)のすべての分野でリーダーシップの立場にある強みも生かしたい。今後の課題は、PTCの知名度を高めることであり、PTCが、DXのリーダー企業であることを知ってもらいたい」などと述べた。

PTC JAPANの優先事項

 CADでは、三次元CADの有効性を訴求するほか、PLMでは、三次元CADデータを活用したコネクテッド製造を推進。ALMでは自動車業界におけるSDV化の支援に力を注ぐ。「ALMのCodebeamerを、自動車のSDV化やEV化に向けたソフトウェア開発プラットフォームのデフォルトにしていく。また、自動車のサイバーセキュリティ領域についても力を入れていく。2024年からは、自動車の専任部隊を設置し、欧州での先行事例活用しながら、日本の自動車業界にアプローチしていく」とした。

SDV、EV化のSW開発プラットフォームのデフォルト化へ

 加えて、神谷社長は、「日本の製造業は、競争力を維持するために苦労している。また日本では、『2025年の崖』と言われるように、作り込んだアプリケーションが多く、保守コストが高かったり、人材不足によってメンテナンスができていなかったりという課題もある」と指摘。

 PTCのバルアCEOは、製造業を取り巻く環境について言及しながら、「多くの製造業に共通している課題は、複雑化した製品を、より短期間に開発することであり、特に、日本では高品質のモノづくりが求められている。また、自動車をはじめとしたリアルの製品のほとんどに、ソフトウェアが組み込まれており、ソフトウェア開発を単純化して、製品を差別化する必要がある。中でも、自動車業界では、メカ(ハードウェア)とソフトウェアの世界を連携した取り組みがますます重要になっている。ここを解決していく必要がある」と、製造業の課題を示した。

 さらに、バルアCEOは、「製造業において、AIの活用は、すでに重要なテーマになっている。そのためには、企業で活用するには信頼できるデータ基盤を整えることが必要である」と発言。そして、「地政学とグローバル動向においては、状況がますます複雑化し、どこで、なにを、どれぐらい生産するのかといったことが重要なテーマになる。PTCの製品を活用することでこれらの課題を解決でき、日本における高齢化の問題にも貢献できる」と述べた。

製造業共通のテーマ、優先事項、課題

 加えて、「次世代エンジニアの育成についても重要なテーマである。業界全体のデジタル化が進まないと、若い人たちの採用も進まないという状況になりかねない。ワクワクして環境で仕事をしてもらう必要がある」とも語った。

3社で共同開発した「Codebeamer Copilot」の最新状況

 一方、2024年12月3日に発表した「Codebeamer Copilot」についても説明した。

 Codebeamer Copilotは、PTCとマイクロソフト、フォルクスワーゲングループの協業によって開発を推進。PTCのALMソリューションであるCodebeamerをベースに、マイクロソフトのAzure AIを組み込むことで、ソフトウェア開発者が製品の要件を効率的に作成できるほか、管理、テスト、検証、リリースすることを支援。リアルの製品に組み込むソフトウェアの開発をサポートする。仕様やテストケースの作成において重複を排除し、既存の品質基準と照合することで、要件内容の品質を向上させることができ、エンジニアが効率よく作業できるようになるメリットもある。

 PTCとフォルクスワーゲングループは、戦略的提携を結んでおり、すでに9000人のエンジニアがCodebeamerを利用している。

 PTCのレン氏は、「SDVの開発にCodebeamerを利用し、多くの成果をあげている。Copilotの技術を組み合わせることで、さらに効果が高まる」と述べた。

 Codebeamer Copilotは、フォルクスワーゲングループにおいて活用しながら、改善を加えることで、2025年中に出荷を予定。また2025年第1四半期には、一部顧客向けにβ版の提供を開始する計画も発表した。ここでは、複数の日本の製造業が、Codebeamer Copilotの先行導入を行う方向で協議を進めていることも明らかにした。

 PTCジャパンの神谷社長は、「先行導入に関しては、もっと増やしていきたいが、PTCジャパンのリソースの問題もあり、限定的になる。だが、製品がリリースされたあとには、日本の多くの製造業に使ってもらいたいと考えている。そのための体制づくりにも取り組む」と述べた。

AIを活用した製品開発

PTCについて

 なおPTCは、1985年に設立された企業。米国ボストンに本社を置き、従業員数は約7500人、世界35カ国で事業を展開し、産業機器メーカーや政府、航空宇宙、防衛、エレクトロニクス・ハイテク、ライフサイエンス、自動車、流通・小売など、約3万社の顧客を持つ。昨年度の売上高は20億ドルで過去最高を更新。時価総額は240億ドルに達しているという。

 主力製品として、三次元CADの「Creo」のほか、製品コンテンツと業務プロセスを一元管理するPLMの「Windchill」、ソフトウェアの開発と管理を支援するALMの「Codebeamer」、保守やメンテナンス、利用者の利便性を向上させるSLMの「ServiceMax」などを提供している。

PTC:製造業のDXを支援する企業

 アジアパシフイック地域では、約20カ所に拠点を展開し、約3000人の社員を擁している。トヨタやコマツ、オムロン、サムスン、ヒョンデなどが、長年に渡り同社製品を活用しているという。

 また、PTCでは、デジタルスレッド戦略を打ち出しており、その考え方を、デジタルデータとフィジカルを一本の糸で結んだように表現。情報、企画、設計、生産、運用、監視、サービスといったライフサイクル全体をループでつなぎ、三次元データによって開発した製品を、PLMによって製造現場に渡し、それをもとに、生産だけでなくサービスにもデータを活用。現場で起きている課題を、次の製品開発や設計に反映するといったことが可能になることを強調した。PTCジャパンの神谷社長は、「PTCは、ライフサイクル全体のループを実現するコンポーネントを、すべて持っている唯一のアプリケーションベンダーである」と述べた。

 さらに、デジタルスレッド戦略を構成するPTCのあらゆる製品に、AIを活用していく考えも示した。軽い素材を使用した軽量モデルを設計する際にも、AIを活用することで、人にはできない設計を生み出すことができているという。