ニュース

富士通、AI技術で5Gモバイルネットワークの品質劣化を防止する技術を開発

 富士通株式会社は15日、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業である「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、人工知能(AI)技術を活用し、モバイルネットワークの通信品質を高めつつ省電力化を図る世界初の技術などからなる、ネットワーク運用を高度化するアプリケーションを開発したと発表した。

 富士通は、無線装置(RU)においてグローバル市場における導入実績をもっており、今後は、同アプリケーションをO-RAN仕様に基づく運用管理システム(SMO)「FUJITSU Network Virtuora Service Management and Orchestration」に搭載し、RUで培ったフットプリントを生かすことで、全世界のモバイルネットワーク事業者に向けて11月からグローバルに順次提供を開始する予定としている。

 開発したアプリケーションは、AIでネットワーク品質をリアルタイムで推定し、品質を維持する技術と、イベント開催時などネットワーク品質の劣化を未然に防止する技術、基地局のカバーエリアを再設計して品質を維持する技術の3つで構成され、運用環境に近い条件下での検証で有効性を確認している。

 これにより、モバイルネットワークの利用者が最も期待する「つながりやすさ」を、通常時だけでなく自然災害などの有事やイベント開催時にも実現し、利便性と満足度向上、有事の安全性確保につなげる。モバイルネットワーク事業者においては、トラフィック量に応じた適切な運用により運用コスト削減、省電力化を支援し、世界的な社会課題の解決に貢献する。

 富士通では、モバイルネットワーク事業者には今後、さらなる超低遅延や多数同時接続といった機能強化や、利用者単位、アプリケーション単位でのネットワーク品質確保が期待されていると説明。また、RAN(無線アクセスネットワーク)領域では、O-RANの構想に基づいてオープン化・仮想化が進んでおり、TCO削減も期待されているという。

 こうした背景を踏まえ、NEDOが実施する事業において、富士通はRANの自律化や自動化などのインテリジェント化を担う、O-RANに準拠したSMO(ネットワークサービス運用管理システム)内部に配置されたRIC(RANのパラメータ設定や運用の最適化を自律的に実行・制御するコントローラー)上で動作する、体感品質(QoE)向上、省電力化、通信品質維持を実現する3つのアプリケーションを開発した。

 AIを活用し、モバイルネットワーク利用者のQoEのリアルタイム推定と品質確保を実現。QoEをリアルタイムで推定し、QoE低下を検知した際には、自動的に他の基地局のネットワークエリアに切り替える技術を開発した。同技術は、100GbpsのRANのトラフィックに対応した高速なパケット解析から、利用者単位、アプリケーション単位の統計データ(KPI)を算出し、そのKPIから特徴量を選択するだけで、容易にアプリケーションごとのQoEを推定するAIモデルを生成する世界初の技術で、多様なアプリケーションに柔軟に対応できる。

 これにより、利用者一人ひとりのQoEを正確に把握し、必要なリソースを割り当てることで利便性・満足度を確保しつつ、過剰リソースを抑制することで、一つの基地局あたりの収容利用者数を19%向上させることを可能とした。

パケット解析によるQoE推定

 また、通信トラフィック上昇を予兆検知し、基地局の起動・停止により品質維持と省電力化を実現。自然災害などの有事やイベント開催などの際に、通信トラフィックが通常時から上昇していることをAIで予兆検知することで、それまでスリープさせていた基地局を事前に起動させ、利用者の通信品質の劣化を未然に防止する技術を開発した。

 これまで、エリアごとのトラフィックをリアルタイムに監視し、起動させる必要のない基地局をスリープさせることで省電力化を図っていたが、今回はそれに加え、例えば地域のイベントなど、通常時とは異なる人流の増加を検知することで、その後のグリッド単位でのトラフィック上昇を予兆する世界初の技術を開発した。この予兆検知技術により、実証期間の99.8%の時間で利用者品質に影響を与えず、事前に基地局を起動することを実現した。

 これにより、トラフィック状況に応じたきめ細かい基地局起動・停止を行い、富士通が2023年12月に発表した省電力アプリケーションと組み合わせ、QoE維持と省電力化の両立を可能にし、利便性と満足度向上、有事の安全性確保や社会課題の解決に貢献する。

 さらに、サービス品質の劣化検知とエリア再設計によるサービス品質維持を実現。単一セルにおける異常検知技術では、トラフィックの低下要因が単純な負荷低下なのか、異常なのかの判断が困難な状況があった。開発した技術では、単一セルではなく、周辺セルとトラフィック傾向を比較してAIにより判断することで、高い故障検知精度(適合率92%以上)を実現した。少ない故障データでの教師あり学習や、教師なし学習にも対応する。また、セルの重畳状況を踏まえたサービス影響度を把握することにより、優先的に復旧させるエリアを判断できる。

 この異常検知技術により、サービスへの影響が大きいと判定されたエリアに対して、技術ではさらに、影響があるエリアを救済するため、周辺セルの指向方向や負荷状況に加えて、実フィールドのパスロスを考慮した電波伝搬予測モデルにより、最適な周辺セルにおけるチルト角の算出を行い、故障セルによるサービス品質への影響を最小化する。これにより、装置故障など異常発生時において、これまで復旧までに1日程度かかっていたところを、1時間以内に短縮し、利用者への影響を最小限にとどめることに成功した。

サービス品質低下検知と復旧

 富士通は今後も、さまざまな産業のアプリケーション、サービスを支えるネットワークに対してAIを中心とするテクノロジーを駆使したO-RANプロダクトを提供することによって、より安心・安全でサスティナブルな社会の実現へ貢献するとしている。

 NEDOは、今回開発した技術を始め、今後もポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発および製造基盤の強化を目指すとしている。