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日本IBMとFBRI、日本のドラッグ・ラグ/ロス解決と創薬力強化に向けてAI組み込み型の臨床開発を共同推進

 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構(以下、FBRI)と日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は10日、両者が有するリソース、技術・知見などの提供についてのパートナーシップを締結し、日本のドラッグ・ラグ/ロス解決と創薬力強化に向けて、生成AIを含むAI技術と、電子カルテなどの医療リアルワールドデータを活用した、AI組み込み型の臨床開発を推進し、臨床開発業務プロセス全体の業務変革支援に取り組むと発表した。

 海外で承認されている薬が日本で承認されていないことによる、いわゆる「ドラッグ・ラグ」や「ドラッグ・ロス」の問題は、2019年から2023年までの5年間でFDA(米国食品医薬品局)が承認したNME(新規化合物)243品目のうち、164品目(約67.5%)は日本では未承認で、そのうちの過半数は日本では開発されていない現状があるという。

 この問題の背景には、製薬企業にとっての日本市場の魅力度といった構造的な課題に加え、治験における被験者リクルーティングの遅れや、各種の関連文書・資料の作成・整備を含めた手続きの煩雑さなどによる、治験期間の長期化も理由の一つとして考えられていると説明。既存の治療法がない、もしくは限られている患者にとっては、新薬が早期に市場に出ることで救命や生活の質の向上が期待され、迅速な治験の実施は、患者への治療オプションの提供を早めるだけでなく、医療の進歩にも貢献する重要な課題だとしている。

 これまで、FBRIに属する医療イノベーション推進センター(以下、TRI)と日本IBMは、一般社団法人ライフ・インテリジェンス・コンソーシアム(以下、LINC)のワーキンググループでの活動を通じて、大学病院、研究機関、製薬企業などと協議を重ね、電子カルテなどの医療リアルワールドデータを活用して、治験と患者を早期にマッチングすることで、患者リクルーティングを効率化する施策の調査・検討をしてきた。

 今回、LINCでの検討を踏まえ、FBRIと日本IBMが新たに締結したパートナーシップに基づき、TRIと日本IBMは、AI組み込み型の臨床開発業務の実現による抜本的な課題解決に取り組むと説明。具体的には、TRIと日本IBMがその知見を出し合うことによって、今後、「開発関連情報検索」「電子カルテスクリーニング」「治験患者マッチング」「同意取得支援」「有害事象情報検知」「データ・マネジメント」「文書生成支援・プログラム生成支援」の7つの機能を含むシステムを開発し、将来的には臨床開発業務全般にわたり、生成AIや従来型AIを活用していくことを目指すとしている。

 「開発関連情報検索」は、AIにより組織内外の情報を検索の上、市場情報やUMN(アンメットメディカルニーズ)・実施治験・競合情報を回答し、引用元を提示する。「電子カルテスクリーニング」は、jRCT(臨床研究等提出・公開システム)から生成AIにより選択・除外条件を構造化し、電子カルテデータの構造化情報および生成AIによるテキスト情報の検索を行い、選択・除外条件に合致する候補施設ごとの患者数・患者一覧を提示する。

 「治験患者マッチング」は、AIにより選択・除外条件に合致する治験候補を提示する。「同意取得支援」は、AIによる被験者からの質疑対応の支援を行う。「有害事象情報検知」は、AIによる検索・抽出を行う。

 「データ・マネジメント」は、EDC(エレクトロニックデータキャプチャー)へのデータ連携を自動化するとともに、連携されてきたデータの不備を、生成AIを活用して検知する。
「文書生成支援・プログラム生成支援」は、CSR(治験総括報告書)・CTD(コモンテクニカルドキュメント)の文書、解析プログラムの生成AIによるドラフトおよびレビュー支援を行う。

 TRIと日本IBMは、特に治験長期化に影響の大きい患者リクルーティングの早期化に寄与する、電子カルテ検索支援および治験患者マッチングに関して、医療機関や製薬企業と連携して、システムの開発と実用性評価を行う。そして、AI技術と医療リアルワールドデータを活用した、AI組み込み型の臨床開発の実現と社会実装により、臨床開発期間の短縮とコストの削減、ひいては日本の「ドラッグ・ラグ」や「ドラッグ・ロス」の解決と創薬力強化の一助になることを目指していくとしている。