ニュース

AWSが中堅中小企業向け事業を強化、介護サービスやオンライン英会話でのAI活用事例も紹介

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWSジャパン)は18日、中堅中小企業向け事業の戦略説明会を開催した。同社では、これまでも中堅中小企業に向けた支援策に取り組んでおり、AWSジャパン 執行役員 広域事業統括本部 統括本部長の原田洋次氏は、「日本企業のうち99.7%は中堅中小企業で、日本の成長の源となっている。これらの企業をしっかり支援していきたい」と語った。

AWSジャパン 執行役員 広域事業統括本部 統括本部長 原田洋次氏

 原田氏は、2024年に注力する分野として、「生成AIによる経営課題の解決」と、「AWSパートナーと顧客との連携」を挙げる。生成AIについては、「事業運営のあり方から働き方まで、仕事を変革するゲームチェンジャーだ」と原田氏。その上で、帝国データバンクによるデータから、61%の企業が生成AIを活用または検討していると回答したことや、同社主催の「AWS Summit Japan」にて生成AIを学んだ人の数がのべ5万人以上になったことについて触れ、その注目度が高まっているとした。

2024年の取り組み

 パートナーとの連携については、「AWSパートナーと共に全国を担当する体制で、顧客の課題発見から寄り添い、課題解決に導く」(原田氏)としている。今年初めには、「中堅中小企業向けコンピテンシーパートナー」という認定制度も開始し、この市場の顧客を支えるパートナー制度を拡充した。

中堅中小企業向けコンピテンシーパートナー

 多くの中堅中小企業が抱える人材育成の課題に対しては、AIやクラウドの学習基盤となる「AWS Skill Builder」で支援する。これは、デジタルトレーニングによるインプットとハンズオン環境によるアウトプットで実践的なスキルを習得できるデジタルトレーニング。日本で独自工開発し収録したトレーニングも40以上用意しているほか、今年に入ってAI関連のトレーニングを50以上追加したという。

 経営者向けのカルチャー改革支援としては、チームをイノベーションへと導くリーダーの心の知能開発を支援する「EPIC Leadership」というプログラムを新たに追加した。EPICは、「Empathy(共感)」「Purpose(目的)」「Inspiration(ひらめき)」「Connection(つながり)」の頭文字から来ており、「この分野に注力することで、生産性や創造性が高まりイノベーションにつながるという、AWSがこれまで実践してきた独自のアプローチを紹介するプログラムだ」(原田氏)という。

経営者向けカルチャー改革支援

 生成AIに関する具体的な取り組みは、AWSジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長/ソリューションアーキテクトの小林正人氏が解説した。

AWSジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長/ソリューションアーキテクト 小林正人氏

 小林氏は、AWSが3つのレイヤーにて生成AIテクノロジーを提供していると話す。そのひとつは、大規模言語モデルや基盤モデルを活用した構築済みアプリケーションで、完成品としてそのまま利用できる「Amazon Q」がこれにあたる。2つ目のレイヤーは、大規模言語モデルや基盤モデルを組み込んだアプリ開発のためのツールで、「Amazon Bedrock」として展開するサービスだ。そして3つ目のレイヤーが、基盤モデルのトレーニングと推論のためのインフラストラクチャで、「独自のモデルを構築するなど、より本格的な開発に注力してもらえる環境だ」(小林氏)としている。

生成AIのテクノロジースタック

 Amazon Qは、現時点では日本語未対応となっているが、「2024年中にはAmazon Q Businessの日本語対応を予定しているほか、東京リージョンでの利用も可能になる」と小林氏。また、近日発表予定としていた生成AIの実用化を推進する組織に向けた「生成AI実用化推進プログラム」は、来週にも正式発表するという。

Amazon Q

 さらに小林氏は、生成AIを実際に体験できるツールとして「Generative AI Use Cases JP」も紹介。「日本のAWSチームで開発しているもので、GitHubにて公開している。AWSのアカウントがあればサービスの利用料のみで誰でも利用可能だ」とした。

Generative AI Use Cases JP

在宅介護からオンライン英会話まで、AIの活用事例

 説明会では、実際にAWSのサービスを活用している企業の中から、株式会社やさしい手 代表取締役社長の香取幹氏と、株式会社ネイティブキャンプ CTOの大西さくら氏も登壇し、それぞれの活用事例を紹介した。

 やさしい手は、在宅介護をサポートする企業だ。同社は情報の精緻化施策として生成AIを活用。介護業務にまつわる文書処理を自動化し、よりパーソナライズされたサービスの提供と高いアカウンタビリティを実現しているという。

 「Amazon Bedrockを活用し、1カ月につき利用者あたり6万字の介護記録を、利用者やその家族、医師、ケアマネージャーにとって読みやすい文体で報告するという業務を自動化している」と香取氏は説明する。報告書の内容は、ケアマネージャーなどの専門職向けには専門用語を用い、家族向けには専門用語を使わずわかりやすい言葉に加工される。

やさしい手 代表取締役社長 香取幹氏
介護記録業務をAIで自動化

 また、基幹システムの介護記録や音声データから、Amazon Bedrockを用いて個別の作業手順を自動更新しているほか、利用者別のケアプラン案を自動生成する取り組みも進めているという。

 香取氏は、Amazon Bedrockを選択した理由について、「すぐに業務活用できるアプリが提供されており、簡単にPoCが実現できることがひとつ。また、これまで利用していなかったデータを、生成AIによって価値ある経営資源として再活用できること。そして、当社の経営課題に寄り添い、段階を追って都度最適なアプローチ方法を一緒に考えてくれる支援体制があったことだ」としている。

やさしい手がAmazon Bedrockを採用した理由

 今後はAmazon BedrockのRAG(検索拡張生成)を活用し、「利用者や家族からのLINEの問い合わせに適切かつリアルタイムに回答できるよう、自動化を進める計画だ」と香取氏は述べている。

 一方、オンライン英会話サービスを提供するネイティブキャンプでは、「AIレッスンサマリー」という機能の開発に取り組んでいる。これは、レッスン中にメモを取りたいが大変だという受講者側の課題と、終日レッスンしている講師が各受講者と話したテーマを忘れてしまうという講師側の課題を解決するもの。具体的な仕組みとしては、レッスン全体の音声データを大規模言語モデルで処理、内容を自動的にまとめ、改善点などを提案する機能を備える。

 AIレッスンサマリーでは、AIサービスのAmazon SageMakerとAmazon Bedrockを活用している。「SageMakerのMLインスタンスを使い、GPUによる文字起こしを実行。その後、要約を指示するプロンプトと文字起こしされたテキストを使ってBedrockを呼び出し、要約されたデータを受講者に通知したりデータベースに保存したりする」と、大西氏は説明する。

AIレッスンサマリー

 SageMakerについて大西氏は、「社内には機械学習に詳しいエンジニアがおらず、かつGPUインスタンスを持つパソコンが存在しない状態で、わずか2日間という短期間でこの部分に関する機能の開発が完了した」と述べている。

ネイティブキャンプ CTO 大西さくら氏

 また同社では、レッスン時のトークテーマを講師に提案する「AIトピックサジェスト」という機能も開発した。これは、受講者のプロフィールをベースに、AIがトークテーマを生成する機能だ。この機能はすでに公開済みで、講師の負担軽減につながっているという。

AIトピックサジェスト

 こうしたAI機能の開発にAmazon Bedrockを採用した理由について大西氏は、「まずはセキュリティとプライバシーだ」と話す。「Bedrockを利用することで、AWSのプライベートサブネット内にある当社のインフラから直接Bedrockにアクセスすることができ、データをよりセキュアに受け渡しできる。モデルのトレーニングに社内データが使われない安心感もあった」と大西氏。

 また大西氏は、カスタマイズが容易だったこともBedrockを選んだ理由だとしている。特に、社内ナレッジを組み合わせて回答するするナレッジベース機能や、出力をフィルターするガードレール機能を大西氏は挙げており、「当社は出力を直接ユーザーに返すため、ガードレール機能を導入したかった。Bedrockを使うことで、非常に少ないコードで機能が容易に実装できた」としている。

ネイティブキャンプがAmazon Bedrockを採用した理由

 今後について大西氏は、「生成AIによるコンテンツ生成で業務改善を進めるほか、講師の質を高める機能の開発にも活用していきたい。また、講師の採用やトレーニングにおいて、現在人間が行っている作業をAIに置き換えていきたい。こうして採用や教育活動を自動化することで、講師全体のレッスンスキル向上を目指したい」と語った。