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日立、現場業務を迅速に進めるためのメタバース技術を組み合わせた「現場拡張メタバース」を開発

 株式会社日立製作所(以下、日立)は18日、これまで取り組んできた現場業務を迅速に進めるためのメタバース技術を組み合わせ、産業分野での活用を想定した「現場拡張メタバース」として発表した。

 また、同技術を、日立GEニュークリア・エナジー株式会社および株式会社日立プラントコンストラクションと連携し、両社内で実施された原子力発電所の実寸大模型(モックアップ)の移設工事に適用した。その結果、特殊なデジタル機器を使わず、遠隔の部署同士での認識齟齬(そご)による手戻り頻度を減少し、他の作業の完了待ちを低減するといった業務効率の向上に有効であることを確認したという。

メタバース空間上に再現された原子力発電所内の構造物の実寸大模型(俯瞰)

 日立では、社会インフラや建設・製造業における現場の持続可能な運用や維持管理には、熟練労働者のノウハウ伝承や、少ない人数でも維持管理するための業務効率化が必要となり、そのためにデジタルツインの開発や生成AIの活用などがグローバルに進められていると説明。しかし、業務活動の多くがサイバー空間内で完結し業務データの取得が容易なIT分野に比べ、実体を扱う現場が介在する産業分野では、業務データの収集や活用については改善の余地があるという。

 具体的には、単にデータを収集するだけでなく、それが現場のどこで取得されたデータなのか、どの設備・機器に関するデータなのかといった、実体の空間的情報とのひも付けを残す仕組みや、収集されたデータを遠隔地にいる関係者同士がリアルタイムで閲覧しながら議論できるプラットフォームが必要となる。しかし、多くの現場では依然、業務データが十分に収集できていない、あるいは、できていても実体とのひも付けがなされていない、大量データの中から所望のデータに効率的にアクセスできない、データを閲覧するために高性能PCや専用ソフトウェア、VR(仮想現実)ゴーグルなど先進のデジタル機材やそれを使いこなす人材が必要となり、デジタル技術の導入がなかなか進まないといったさまざまな課題があったという。

 そこで、日立では、遠隔地にいるユーザー同士でも同一の仮想空間を共有し、仮想空間内で同じ事物を見ながら会話をしたり、一緒に活動をしたりできるメタバース技術に着目した。これまでに蓄積した多様な産業分野でのデジタルソリューション開発の知見に基づき、簡便な3Dスキャン技術などによりメタバース空間上に現場を迅速に再現し、これを現場データの蓄積や可視化のためのプラットフォームと位置付けて、デジタル技術に不慣れな顧客でも生成AIを含むAI技術により、容易にデータを利活用できるシステムの構築を目指した。

 従来は、物理的な実態の制約によって、その場にいる作業員にしか把握できなかった現場を仮想空間上に拡張し、遠隔地にいる関係者にも直感的な形で現場を見える化するという意味を込め、これを「現場拡張メタバース」と名付けた。

 開発した技術のうち、現場のデータを5W1Hの情報とともに迅速に収集する技術は、日立が開発した作業着型センサーやスマートフォンアプリなどを用いて、データ取得位置を自動で特定し、位置情報をはじめとする5W1H情報を付与した形で、現場のヒトやモノに関する画像・映像・文書・音声・IoTデータなど多様な種類のデータを容易に効率的に収集する。

 蓄積データ活用のためのAI技術は、上記技術により蓄積される大量かつ多様なデータをAIで解析し、メタバース空間で5W1Hの情報やデータの種類に関するキーワードなどを用いて所望のデータに迅速にアクセスする技術や、生成AIを用いて多様なデータの中から必要な情報を対話形式で抽出する。

 ウェブブラウザーベースの簡便かつ軽量なデータ可視化技術は、高額なデジタル機材、特殊機器、専用ソフトウェアのインストールなどを必要とせず、ノートPCやスマートフォンなどからウェブブラウザーを通して、デジタル技術に不慣れな顧客でも簡単にメタバース空間やそこに蓄積された所望のデータを閲覧できる。

 開発した技術のプロトタイプシステムは、日立、日立GEニュークリア・エナジー、日立プラントコンストラクションの3社合同で、2023年7月から8月の約2カ月間、原子力発電所のモックアップの移設工事で実際に使用した。従来、工事の現場でしか実施されていなかった日次の夕礼を、プロトタイプシステムを用いて開催したところ、遠隔地にいる関係者同士がVRゴーグルや高性能PCなど特殊なデジタル機器を用いることなく、現場状況の情報共有やそれに基づく合意形成が可能になることを確認した。これにより、タイムリーな図面の発行や現場の実態に合わせた計画立案が可能となり、異なる部署間での認識齟齬に起因する工事の手戻りや他作業の完了待ちの低減など、業務効率向上に有効であることを確認したとしている。

 日立は、エネルギーや交通をはじめとするさまざまな分野の顧客と連携して、開発した技術の効果を検証し、現場作業の効率化を通じてグローバルな社会インフラの持続可能な運用と管理に貢献するとしている。