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日本マイクロソフトがAIサービスに関する最新状況を解説、ビジネス事例やパートナー施策なども
2023年10月24日 06:30
日本マイクロソフト株式会社は、MicrosoftのAIサービスについてのプレス説明会を10月23日に開催した。同社のパートナー企業向けイベントにあわせて開催されたもので、Microsoftの生成AIへの取り組みや、AI関連サービス、ビジネス事例、パートナー施策などについて紹介がなされた。
Azure OpenAIはグローバルで1万1000社以上、日本では560社以上が利用
まず日本マイクロソフト株式会社の岡嵜(おかざき)禎氏(執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長)が、MicrosoftのAIサービスについて紹介した。
岡嵜氏はまず、昨今の生成AIについて、Microsoftにとっての変化ポイントとして、自然言語によるインタラクションによる「コマンドラインからGUIに変わったのと同じような」変化と、推論エンジンが「おそろしく賢く」なって人と遜色(そんしょく)ないようなパフォーマンスを見せるようになった変化の2つを挙げた。
こうしたAIに関する日本向けの施策として、10月11日に「Microsoft AI Co-Innovation Lab」を神戸に開所したことを氏は紹介した。AIを企業のシステムへの適用について、Microsoftラボエンジニアがいっしょになって開発する場だ。
続いて、Microsoftがクラウド上でOpenAIの生成AI技術を提供する「Azure OpenAI Service」の企業利用状況を岡嵜氏は説明した。2023年1月のGA(一般提供開始)からの8~9カ月で、全世界1万1000社以上、日本でも少なく見積もって560社以上が利用しているという。
大手からスタートアップまで利用する中で、特に大手金融機関での利用が進んでいる点を岡嵜氏は取り上げた。早く利用が進んだ理由として、氏は、効果がわかりやすく、実感の手応えが感じられることを挙げ、規制が厳しい業界でも、生成AIを利用する方向で制度の整備が進んでいると述べた。
そのほか、Azure OpenAI Serviceの最近のアップデートとして、生成した中の不適切なコンテンツをフィルタリングがGAになったことや、GPT-3.5などを元にしたファインチューニング可能モデルがパブリックプレビューになったことを岡嵜氏は紹介した。
メルカリとベネッセのAzure OpenAI採用事例
ここで国内事例2つを岡嵜氏は紹介した。1社目は株式会社メルカリで、メルカリの出品者を助けて、タイトルや説明文をアドバイスする機能「メルカリAIアシスト」を、Azure OpenAIを使って提供を開始した。
2社目の株式会社ベネッセコーポレーションは、「進研ゼミ小学講座」で夏休み自由研究の相談窓口としてAzure OpenAIによるチャットボットサービスを提供した。これについては株式会社ベネッセホールディングスの橋本英知氏(専務執行役員 CDXO 兼 Digital Innovation Partner本部長)が登壇し、「この技術を使ってより子どもたちが考えるようになる使い方ということで作った。例えばChatGPTだと「「星の王子様」の読書感想文」と尋ねると文例を答えてしまうが、こちらの場合は、本を読んでみよう、あるいはこういうことを考えてみようというアドバイスが出る」と説明した。
企業のAI導入に向けたMicrosoftの3つのポイント
続いて岡嵜氏は、AI導入に向けてMicrosoftが大事にしているポイントとして「Copilotによる生産性の向上」「お客様のAI基盤の構築」「ビジネスとデータの保護」の3つを挙げた。
各分野でCopilotにより生産性を向上
まずは「Copilotによる生産性の向上」。すでに言われているように、「Copilot」というのは人間が主役となってそれをサポートする副操縦士を意味する。Microsoft Copilotのロゴも、人とAIが握手している様子を表しているという。
その中の個別のサービスとして、ソフトウェア開発者向けの「GitHub Copilot」、ノーコード・ローコード向けの「Copilot in Power Platform」、ビジネスアプリケーションの「Microsoft 365 Copilot」、セキュリティインシデントの分析を助ける「Security Copilot」、ヘルスケアで患者とドクターのやりとりをサポートする「DAX Copilot」などを岡嵜氏は紹介した。
Copilotによる各分野の生産性の向上の例も岡嵜氏は挙げ、「コスト削減だけではなく、生産性向上が重要。それにより余力を作り出し、新しいチャレンジやビジネスができる、というのがメッセージ」と語った。
システムにAIを組み込むための基盤を提供
続いて「お客様のAI基盤の構築」、つまり企業のシステムへのAIの組み込みだ。
生成AIをシステムに組み込むときの考え方として、プラグイン、AIとシステムとのオーケストレーション、独自言語モデル作成やファインチューニング、の3種類があるという。「Microsoftでは、独自言語モデル作成やファインチューニングの方法も提供しているが、一番難易度が高い。9割から95%は、AIオーケストレーションでやれるケースが多いはず」と岡嵜氏は説明した。
さらに、企業でのAI利用において大事なのは、企業の持つデータだ。Azureではそのためのデータ基盤として、Azure SQL DBやAzure Cosmos DBをはじめ、さまざまなサービスを提供していると岡嵜氏は語った。
大規模言語モデル(LLM)の基盤モデルについても、オープンソースも含め多くの種類をAzure上で取りそろえている。
そのほか、AI開発に必要なツール群(ツールチェーン)として、GitHubや、Visual Studio、Power Platform、さらにAzure AI Studioなどを取りそろえていることも岡嵜氏は紹介した。
企業データや著作権問題の保護
最後に「ビジネスとデータの保護」だ。企業では、AIサービスにおける企業のデータの保護や、生成物での著作権などについて心配しているという。
AIのデータの保護についてはガイドラインを公表。「お客様のデータはお客様のもの」「お客様のデータはAIモデルのファインチューニングには利用されません」「お客様のデータとAIモデルは全ての段階で保護されます」とうたわれている。「金融機関や政府で利用されていることからも、問題が明確にクリアされていると思っていただいていいと思う」と岡嵜氏は述べた。
また、生成物の著作権侵害についてMicrosoftが責任を持ち、弁護や訴訟により課せられた金額を支払う「Copilot Copyright Commitment」も岡嵜氏は紹介した。
Microsoft 365 Copilotのデモ、社内データの問い合わせも
オフィスアプリケーションに生成AIを組み込んだ「Microsoft 365 Copilot」などのデモもなされた。
まずは、Bingから生成AIで画像を生成する「Bing Image Creator」で、画像生成AIが「DALL-E 2」から「DALL-E 3」になった。
続いてMicrosoft 365 Copilotの例として、Wordに自然言語の指示で企画書のひな型を作ってもらったり、「役割分担を付けてください」で作り直したりするところを見せた。
Microsoft 365 Chatでは、社内の情報を「国内出張申請のやり方」のように自然言語で問い合わせるところを見せた。これは、Microsoft Graphによる検索と生成AIとを組み合わせたオーケストレーションで、社内情報がモデルに学習されているわけではないという。一種のRAG(Retrieval Augmented Generation)の手法と思われる。
それによって、例えば岡嵜氏の年収を尋ねてもアクセスできないと答えるなど、社内データのアクセス権限の設定にしたがっているところを見せた。
Microsoft生成AI事業化支援プログラムを開始
AIに関するパートナー施策については、日本マイクロソフト株式会社の木村靖氏(業務執行役員 パートナー事業本部 副事業本部長 エンタープライズパートナー統括本部長)が説明した。
まず生成AIがもたらす市場機会について、42%の年平均成長率と、前述した国内560社以上のAzure OpenAI利用を木村氏は紹介。さらに、100社以上のAzure OpenAI Serviceリファレンスアーキテクチャ賛同パートナーという数字も紹介した。
そして、「Microsoft生成AI事業化支援プログラム(Copilot with Microsoft Partner)」を開始したことを説明した。「Learn(生成AIの事業アイデアをまとめる)」「Build(そのタネを育てる)」「Grow(花が咲いたものを拡販支援)」の3段階で、製品に生成AIを組み込むノウハウをMicrosoftから提供し、支援する。詳細は11月下旬にパートナーに案内する予定。
木村氏は、Microsoftではパートナービジネスについて、グローバルで1億ドル以上の大きな投資を予定していると語った。