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日本IBM、先駆的な最高データ責任者の特長と日本で取り組むべき課題を解説

CDOスタディ「データから価値を創造する」日本語版を公開

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は26日、最高データ責任者(CDO:チーフ・データ・オフィサー)の調査に関する記者説明会を開催した。

 これは、米IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が、世界30以上の国で3000人のCDOを対象に調査したもの。同社では、CDOに相当する役職を「データ品質およびデータガバナンスの責任者、また経営計画に沿ったデータ戦略およびデータマネジメントに関わる責任者」としており、日本からは180人がこの調査に参加した。調査結果は「グローバル経営層スタディ:CDOスタディ」として日本語でも公開している。

 今回の調査により、データから価値を創造する先駆的なCDOには4つの特長があることがわかったという。それは、1)データから価値創造に至る道筋を明確化していること、2)データ投資によってビジネスの成長ペースを加速していること、3)データをビジネスモデルのイノベーションの中核として位置付けていること、4)エコシステムパートナーとの連携を最大化していることだ。

先駆的なCDOの特長

 1点目の「データから価値創造に至る道筋を明確化している」ことについて、日本IBM IBMコンサルティング事業本部 データ&テクノロジー事業部 アソシエイト・パートナーの鈴木至氏は、「多くの先駆的なCDOは、ビジネスとテクノロジーの両面を念頭に活動しており、そのためにデータリテラシーとデータ保護を重視している」と話す。

 鈴木氏によると、先駆的なCDOは「データから最大の価値を生み出すには、組織内のデータリテラシーが不可欠であると認識しており、企業全体でデータ活用のリテラシーを高める施策を実行している」という。また、データ保護についても、「社内外でのデータ活用において信頼関係を築く重要な要素ととらえ、サイバーセキュリティはもちろん、データ倫理やデータの透明性にも取り組んでいる」とする。

 この2分野に関する日本での状況については、「日本では社内の有用な人材を獲得することが活発に行われている反面、研修の拡充や従業員のリスキリングなど、育成面や人材戦略の立案がこれからの課題。また、日本はサイバーセキュリティ対策には取り組んでいるが、データの倫理性や透明性はこれから施策を打っていく必要がある」(鈴木氏)とした。

データから価値創造に至る道筋を明確化するための手引き
日本IBM IBMコンサルティング事業本部 データ&テクノロジー事業部 アソシエイト・パートナー 鈴木至氏

 2点目の「データ投資によってビジネスの成長ペースを加速している」ことについては、60%の先駆的なCDOが、自社のデータ管理戦略を明確にDXに連携させていることから見て取れるという。

 データ戦略とDX戦略の連携においては、特にAIへの取り組みが進んでいると鈴木氏。「AI自身がデータ活用ツールでもあり、ビジネスを支援する強力なツールでもあるため、グローバルで取り組みが進んでいる」とする一方で、「日本ではまだ議論段階で、現場でさまざまなAI適用が検討されているところだ」という。その上で、「日本ではDXのD、つまりデジタル側に注力している企業が多いが、今後はX、つまりトランスフォーメーション側にもチャレンジしていくべきだ」としている。

データ投資によってビジネスの成長ペースを加速するための手引き

 3点目の「データをビジネスモデルのイノベーションの中核として位置付けている」という点は、87%の先駆的なCDOが、データ投資を通じて価値を創出する新たな源泉を追求し、イノベーションを推進していることに基づいている。

 日本では、データのサイロ化により、データ活用がなかなか進まないといった意見が多いという。「既存データをうまく活用しようと、集中型データアーキテクチャに注力しているが、先駆的なCDOは分散型データアーキテクチャやリポジトリ、データファブリックといったものを組み合わせてデータの開放性に対応している」と鈴木氏は指摘する。

 「日本はIoTやデータの収集に取り組んでいるが、データを開放的に使うという観点からは、AIやクラウド、パブリックアーキテクチャなどに取り組む必要がある。現場の課題解決や業務効率化だけでなく、トランスフォーメーションの視点で技術の組み合わせを考えることが重要だ」と鈴木氏は述べている。

データをビジネスモデルのイノベーションの中核として位置付けるための手引き

 4点目の「エコシステムパートナーとの連携を最大化している」ことについては、データ共有や他社との協業にはリスクが伴うものの、トップクラスの実績を上げているCDOは取り組みに値する以上の成果を得ているという調査結果に基づくものだ。

 鈴木氏は、「さまざまなビジネスモデルが構築される中で、他社とのパートナーシップがますます重要になってくる。その際、安全にデータを連携できるかどうかが大きなポイントだ」と語る。

 先駆的なCDOは、自社のポリシーを固めた上で顧客企業やパートナー企業とポリシーを共有、さらには市場で発信することもあるという。鈴木氏は、「データをどのような形で連携するかはビジネスニーズに基づいて決定しているが、まずは自社の基準や規定、標準を固めることが1番重要だ」としている。

エコシステムパートナーとの連携を最大化するための手引き

 こうした特長を踏まえた上で、日本IBM IBMコンサルティング事業本部 データ&テクノロジー事業部 シニア・パートナー 事業部長の松瀬圭介氏は、日本のCDOが取り組むべき課題を「戦略」「テクノロジー」「人材」「ガバナンス」の観点から語った。

日本IBM IBMコンサルティング事業本部 データ&テクノロジー事業部 シニア・パートナー 事業部長 松瀬圭介氏

 まず戦略面においては、「ユーザーがデータリテラシーを高めつつ、データを活用して企業の成長に貢献できるよう、企業を横断した形で描ける世界観を持つ必要がある。そのためにもデータ活用の戦略を持つことが重要だ」と話す。

 テクノロジー面では、「クラウドネイティブなソフトウェアやレイクハウスといったファブリックを推進する技術、仮想の世界でデータを活用するエコシステムを作り上げ、データ流通を促進するテクノロジーが出てきており、こういった技術をうまく活用することでデータ活用が推進できるだろう」としている。

 人材面では、「データを意識することなく業務を推進する中で、結果としてデータが生成されるかもしれない。それらを資産として利活用できるかどうか判断するには、データリテラシーやデータサイエンスが必要となる。また、データとビジネスを結びつけるデータスチュワードの位置付けも重要だ。企業内でデータに関わる人材をどう育てるのか検討するべきだろう」とする。

 そしてガバナンスについては、「サイロを打破したデータ利活用環境の提供と、ビジネスの変革に応じたデータ管理および運用を整備する体制が重要だ」と述べた。

日本のCDOが取り組むべき課題