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アクセンチュア、オフィス回帰やAI、個人情報の活用などについての最新トレンドを解説

 アクセンチュア株式会社は25日、生活者の視点から社会やビジネスのトレンドを分析した最新調査「アクセンチュア ライフ トレンド 2023」を発表した。

 アクセンチュア ライフ トレンド 2023は、同社が2008年より「フィヨルドトレンド」として発表してきたレポートを継承したもので、2023年に企業が留意すべきトレンドや取るべきアクションを紹介している。同レポートについて、アクセンチュア Accenture Song デザインリーダーシップ エグゼクティブの番所浩平氏は、「世界40カ所以上の拠点で活動するAccenture Songのデザイナーやストラテジスト、社会学、人類学、テクノロジーの専門家が、各地域での知見と調査結果を集約して作成した」と説明した。

アクセンチュア ライフ トレンドについて
アクセンチュア Accenture Song デザインリーダーシップ エグゼクティブ 番所浩平氏

 今回のレポートで、アクセンチュアは5つのトレンドを紹介している。その5つについて、アクセンチュア Accenture Song デザインリサーチ アソシエイト・ディレクターのレベッカ・ブッシュ氏は、「1点目では、長期にわたる不安定な状況に、人がどのように適応しているかを探る。2点目では、技術によって顧客ロイヤルティーの考え方が、単なるプログラムから相互に関係する存在へと変化していることを示す。3点目では、ハイブリッドなワークスタイルにおいて、オフィスが持つ無形価値を設計する重要性を説明する。4点目では、AIを活用し、誰もが生まれ持った創造性を引き出す可能性について解説する。5点目では、今後3~5年以内にユーザーが自ら個人情報の活用を完全にコントロールできるようになることを予測する」としている。

5つのトレンド
アクセンチュア Accenture Song デザインリサーチ アソシエイト・ディレクター レベッカ・ブッシュ氏

 1点目の不安定な社会環境への適応についてブッシュ氏は、「地域によって社会環境への適応速度は異なるが、人はいずれ必ず適応する。重要なのは、適応する方法を企業が常に把握しておくことだ」と語る。

 「ストレスに対し、人は闘争、逃避、集中、凍結といった反応を示す。こうした反応は、消費者が購買するモノやサービス、ブランドや企業に対する印象にも影響を与える。そのため、デザイナーやブランドは、ユーザーが納得できる体験を提供し、ブランドの価値創造を促進する機会を作り出すことを考えなくてはならない」とブッシュ氏は述べている。

不安定な社会環境への適応反応

 2点目の顧客ロイヤルティーの変化については、「不安定な状況の中、自分の居場所を求め、コミュニティに参加する人が増えている。こうした中、多くのブランドがロイヤルティープログラムを用意し、コミュニティを構築するなどして顧客基盤を拡大し、利益につながるロイヤルティーを獲得している」とブッシュ氏。

 その具体例としてブッシュ氏は、Reddit、Discord、Twitchなどのプラットフォームを活用したコミュニティや、トークン保有者だけが参加できる限定コンテンツをトークン化するトークンゲート、デジタルアートやトレーディングカードなどのコレクターズアイテムを挙げる。これらはすべて先端技術を活用しているが、「顧客が関心を示しているのは先端技術そのものではない。企業は顧客に提供するメリットに注力し、技術に頼るのではなくコミュニティを通じてメリットを提供することで、ロイヤルティー構築につなげるべきだ」と述べた。

新たなあり方を見せるロイヤルティー

 3点目のオフィスが持つ無形価値の設計は、パンデミック後に多くの企業がオフィスへの復帰にいまだ試行錯誤していることに注目したものだ。「2020年は事業継続に注力するあまり、リモートワークをどう設計すべきかまで手が回らず、仕事のあらゆる側面に影響が出た。業務に直接関係のない同僚との会話や、後輩を間近でサポートすることなど、目に見えない価値が失われている」とブッシュ氏は指摘する。

 オフィス回帰を試みる企業も増えているが、「従業員がこれまでと違う働き方を期待するようになった今、企業は通勤したいと思えるオフィスの価値を提供しなければならない」とブッシュ氏は述べ、「通勤に値する価値を提供するには、適切な投資と時間が必要だ。今こそ自社の事業と従業員にとって何が有効かを判断する時だ」とした。

仕事における見えない価値と新たなワークスタイル

 4点目のAIによって引き出す創造性については、「これまで創作活動は人間のみができるもので、AIが介入できない領域だと思われていたが、2022年には技術を駆使して人間の創造性をパワーアップするAIツールが誕生した」とブッシュ氏。今回のプレゼンテーションの画像作成にも、画像生成AIの「Midjourney」を使用したといい、「驚異的なスピードでイノベーションが起きている」とした。

 ブッシュ氏は、企業がこうした急速な進化を総合的にとらえ、基礎となるモデルの品質や偏見も想定した上で、「AIが生成したコンテンツがあふれる中で、どのようにして自社の差別化を図るべきか、またAIをどう活用して革新のスピードと独自性を高めるべきか検討する必要がある」とした。

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AIの能力がクリエイティブ領域へと拡大

 5点目の個人情報の扱いについては、現在危機的状況に陥っているデジタルアイデンティティの改善を予測するものだ。ブッシュ氏は、「データの開示設定を呼びかけるポップアップはとても煩わしい。しかも、サイトやサービスプロバイダーごとに個人情報を繰り返し入力し、何百ものユーザー名とパスワードが必要となる」と現状を説明した上で、「将来的には政府によってトークン化された個人情報をまとめてオンライン上で持ち歩くことができるユニバーサルデジタルウォレットシステムが登場するだろう。これにより、ユーザーが自らどの情報をどこまで共有するか管理できるようになる」と話す。

 「企業と共有する情報の範囲を決めるのは、企業ではなくユーザー自身であるべき。ブランド側はクッキーから得られるデータを失うことになるが、代わりにユーザーが自発的に提供するデータを直接入手できる。直接入手したデータは、クッキーの規制によって収集できなくなった第三者データより価値が高いため、Win-Winの解決策となる」とブッシュ氏は説明した。

デジタルウォレットで自身のデータが管理できるように

顧客起点のビジネスからライフ起点のビジネスへ

 こうしたトレンドを踏まえた上で、企業はどうするべきなのか。アクセンチュア Accenture Song グロース・ストラテジー マネジング・ディレクターの小林正寿氏は、「顧客起点のビジネスからライフ起点のビジネスに転換していくことが必要だ」と話す。

 「顧客起点のビジネスでは、顧客を購入者という側面でしかとらえておらず、購入行動から顧客をパターン化して画一的な商品を提案してきた。ただ、現在の生活者には多面的な価値があり、スピード感を持って変化している。価値の提供方法についても、生活を起点として柔軟な選択肢を用意し、状況に合わせて提案する必要がある」(小林氏)

顧客起点からライフ起点への転換
アクセンチュア Accenture Song グロース・ストラテジー マネジング・ディレクター 小林正寿氏

 ライフ起点のビジネスを実現するには、「ライフ全体をとらえて変化を察知すること。また、その変化に適応することが重要だ」と小林氏。ライフ全体をとらえて変化を察知するには、「生活者の行動をより深く、より幅広く理解する必要がある」という。「自社のコア領域を再定義し、その強みをベースにデータの取得手段を構築、データ取得に向けた価値を提供する。また、外部環境の変化による生活者行動の変化も予測し、対応策のビジネス成果をシミュレーションする必要がある」(小林氏)

 一方、生活者の変化に適応するには、「不確実な生活者行動の変化に追随できるよう、企業活動全体を再創造する必要がある」と話す。「顧客洞察力を持った社員を中核として、社内外の人材を柔軟に活用するプロジェクト型の組織運営を実施し、さまざまなバリエーションの中から最適解を自動生成できるようにする。その上で、生活者や社員の価値観に共鳴するパーパスを再定義し、顧客との関係性に重きを置いたKPIを設定することが今後求められるだろう」と小林氏は解説した。

ライフ起点のビジネス実現に向けた変革要素