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凸版印刷、施設内の異常音を検知する収音センシングシステムを開発

 凸版印刷株式会社は14日、工場や施設内での、金属同士の衝突や摩擦により起こる音など、正常稼働時には発生しない異常音を遠隔監視する収音センシングシステムを開発したと発表した。このシステムは、「収音センサー」と「データ閲覧アプリ」から構成され、凸版印刷のスマート点検支援サービス「e-Platch」専用のツールとして提供される。

 工場や施設では、複数の装置が同時に稼働しているため、常に機械音や作業音が発生している。これまでは、施設の管理者が一日数回現場に足を運び、これらバックグラウンドノイズの中から、ボルトのゆるみから起きる衝撃音、部品の劣化に起因する機器の摩擦音など、機器の不具合やその予兆を示す異常音を経験に基づいて聞き分け、異常を察知していた。

 このプロセスを遠隔管理するためには、異常音検知センサーなどの導入が必要となるが、市販されている機器は、一台の価格が数十万円台と高価で多機能なものから、音源が発する音の大きさのみを記録するものまで、製品の幅が広く、適切な機器やシステムの選択には高い知見が必要となる。さらに、検知した信号を伝送するためには、ケーブルを敷設し、電源を確保する必要があり、このことが工場や施設に新しいシステムを導入する上での障壁となっていた。

 凸版印刷ではこの課題を解決するため、2022年6月にコンセプトを発表していたスマート点検支援サービスのe-Platchに、異常音検知の機能を追加した。e-Platchは、工場や施設において、排水の水位や水素イオン濃度を始めとする環境データを自動収集し、工場全体のリスクマネジメントを強化する統合的監視システム。センサー機器から監視システムへのデータ伝送には、次世代LPWA(低消費電力広域ネットワーク)の「ZETA」を採用している。

「収音センサー」(左)と「データ閲覧アプリ」の画面例(右、画像は開発中のもの)

 e-Platchが収集する環境データは、「温度」「照度」「水位」「ガス濃度」など、機器から閲覧アプリに伝送されるデータ容量が数バイト~数十バイトの低容量なものが想定されており、容量が大きい音データは、ZETA通信での取り扱いが困難とされていた。凸版印刷では、約50年におよぶ半導体設計事業により培った回路設計技術や、クラウドサービス事業におけるデータ加工のノウハウを駆使することで、音データをZETA通信の環境下で効率的に取り扱うことを可能とし、今回のソリューションを実現した。

 収音センシングシステムは、発生している音を収録し、収集した音データの160ヘルツから1万6000ヘルツの帯域を21分割して、周波数帯ごとの音強度データを取得、独自の手法によりデータを圧縮・分割してアプリ側に伝送する。アプリ側では、受信したデータのデシベル値を周波数帯ごとにプロットし、音の傾向をグラフ上に見える化、ユーザーが設定した「しきい値」を超過した場合には、アラートを発報する。

 ZETAの持つ「超狭帯域による多チャンネル通信」「メッシュネットワークによる分散アクセス」「双方向での低電力通信」といった特長と、付属の収音マイクが防水仕様であることを生かし、工場や施設の屋上や、地下の入り組んだ場所にも設置が可能。それらの場所で稼働する装置の故障予測・騒音対策が取れるようになる。

 アラートを発報したり、収音したデータの傾向から「異常」を定義・検出したりするなどの機能を、センサー側からアプリ側に移行することで、従来品と比較して半額以下での提供を実現。これにより、同額の予算内でセンサーの設置個所を倍以上にできるなど、監視できる対象をきめ細かく設定することが可能となる。

 凸版印刷は、今回開発した収音センシングシステムに加え、温度・湿度・照度・二酸化炭素濃度を計測する「マルチセンサー」を始めとした各種センサーをラインアップした「e-Platch」の拡販を進め、2025年度までに650以上の施設での導入を目指す。また、e-Platchの普及により、点検業務の負荷軽減や人手不足の解消に加え、工場・施設における事故発生リスクの低減と、安全で効率的な製造現場の実現に貢献するとしている。

「e-Platch」サービス概念図