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東芝、インフラ分野の点検・トラブル記録など専門データを高精度に理解するAIを開発

 株式会社東芝は13日、工場やプラントなどのインフラ分野において、蓄積された機器の図面・仕様書や、点検・トラブル記録といった専門的な文書(以下、専門データ)を高効率・高精度に認識し、保守点検の効率化を実現する、専門分野に特化した文書理解AIを開発したと発表した。

 このAIをインフラ保守の現場に適用することで、従来のAIでは認識が困難だった熟練者の経験や知識が蓄積された専門データを活用できる。過去に発生したトラブルの現象や対策などを高精度に抽出でき、インフラの事後保全の迅速化、さらには予防保全の実現への貢献が見込めるとしている。

開発した技術の概要

 東芝では、工場・プラント・ビルなどに数多く導入されている設備は、老朽化と慢性的な人手不足が課題となっており、省人化につながるリモートメンテナンスなどの保守点検サービスが求められていると説明。老朽設備の保守点検を高い精度で実施するには、対象設備に関する高度な知識や過去に実施された保守点検の経緯を把握することが必要だが、熟練者の知識や経験が蓄積されている保守点検記録などの専門データは、現状、それらを保守点検業務に活用できるほど十分に整理されていないといった課題があるという。

 こうした課題に対して東芝は、インフラ分野における専門文書を高精度に理解し、迅速で効率的なインフラ保全に貢献するAIを開発した。文書を高精度に理解するための基盤技術としては、大規模な汎用言語モデルが知られているが、汎用言語モデルは計算規模が大きく、インフラ保守の現場では計算リソースを確保することが難しいという課題がある。開発したAIは、一般的に入手可能な大規模な汎用言語モデル(教師モデル)から効率よく一般用語を学びながら、少ない専門データを用いた別カリキュラムで適用分野の専門用語も学習する。一般用語および専門用語ともに効率よく学習することで、小規模な言語モデル(生徒モデル)の生成を実現し、少ない計算リソースで高精度に専門的な文書を理解する。

 東芝は、電力設備の保守点検記録に記載されたトラブルに関する表現を見つける言語解析試験(情報抽出タスク)において、開発したAIの有効性を検証した。AIで生成する生徒モデルの計算規模は、一から学習する大規模な汎用言語モデル(従来手法)の半分、本AIが学習時に使用する文書量は従来手法の100分の1。試験の結果、AIが保守点検記録の中からトラブルが発生した機器の状況を示す「現象」や、機器を修理するために保守員が実施した「対策」が記載された場所を、正解率89%で抽出できることを確認。この精度は、実用水準と言われる正解率90%に迫る高い精度で、一から学習する大規模な汎用言語モデル(従来手法)の学習時間1週間程度と比較して、学習時間は5時間(約97%削減)に短縮できたという。

 東芝では、保守点検の現場で記録された熟練者の知識を効率よく整理し、活用することで、事後保全を迅速化するサービスの実現に向けて、2024年に東芝グループ内の事業現場で開発したAIの運用開始を目指す。また、研究開発を進め、将来的には東芝グループ内外のインフラ設備における予防保全にも適用し、「攻めの保守」の実現を目指すとしている。

技術の性能評価