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Google、先生の負担を軽減し“3つのDX”を実現する教育向けDXパッケージを提供
2022年11月11日 14:30
Googleは10日、学校の校務をデジタルで効率化する新パッケージ「Google for Education教育DXパッケージ」の提供を始めた。教育のDX、校務のDX、セキュリティのDXという3つのDXを実現する。さらに、DX実現のためのソフトだけでなく、無償の研修プログラム、パートナーによるDX導入サポートをあわせて提供し、学校DX実現を支援していく。
記者会見には、Google Workspace for Education Plusを導入している茨城県大子町が登壇。導入後の変化などを紹介した。
教育のDX、校務のDX、セキュリティのDXを進める新パッケージ
GoogleのGoogle for Education 営業統括本部本部長の杉浦剛氏は、「GIGAスクールスタートから2年目となり、教育機関を支援する中で、学校現場からさまざまな悩み、課題を聞く機会があった」と、今回のパッケージ提供の背景を説明した。
課題として挙げたのは、データ利活用の具体例の不足、教務や校務でのクラウド利用の制限、ゼロトラストへの理解と実績の不足の3点。
「せっかく端末が入ったのだからもっと生かしたい、特に生徒からはそういう要望が多い。その一方で、先生側では、働き方改革やクラウド活用がなかなか進んでいない現実もある。行政側のクラウド化が進んでいる一方で、まだまだ具体的な実績が少ない。さらにセキュリティに関しては、国はゼロトラストの必要性をアピールするものの、これまで紙で行っていたものをクラウドに上げて大丈夫なのか?といった漠然とした不安が教育現場にあり、導入が進まない現実がある」(杉浦氏)。
このギャップを埋めることを狙って提供を開始したのが、「Google for Education教育DXパッケージ」だ。DXを実現するエディションとDX支援ツールである「Google Workspace for Education Plus」、DX推進を実現するための無償研修「DX研修プログラム」、教育DXパートナーによるDX導入サポート「DX導入サポート」から構成されており、このパッケージによって、教育のDX、校務のDX、セキュリティのDXを進めるとした。
まず教育のDXでは、教育データを活用するためのプラットフォーム構築支援を行う。「データを活用するための基盤を作ることが教育DXの第一歩となる。点在するアプリケーションごとのデータを1つのクラウド基盤中に整えることで、そのデータをどう教育に生かしていくのかという議論が始まる」(杉浦氏)。
プラットフォーム構築後、個別最適化された学びの軌跡の可視化と、生徒の学校生活のサポートを行っていく。
「個別最適化された学びの軌跡を可視化する際、当社側からはBIツールのダッシュボードを用意している。先生方がどうデータを見たらいいか、どういうものが、先生の指導支援ができるのかについても、テンプレートを用意していく。生徒の学校生活サポートについても、テンプレートを提供し、例えば学校の情報、授業時間などを登録することができる。せっかく1人1台端末が配布されたにもかかわらず、紙を使って行われていた作業を、朝、学校に登校した段階で端末を開き、用意されたポータルを見ることで、必要な情報が全部集約されているという状態を作る。そこに生徒さんの体調、例えば体温といったものを記録し、健康状態を可視化していくことで、先生方にとっては指導に役立ててもらうようにする」(杉浦氏)。
校務のDXでは、「教務と校務の効率化による働き方改革推進サポート研修」、「ICT活用の基礎と発展を学ぶGoogle公式認定者資格試験」、「地域や保護者との連携を深めるための校務向けテンプレートを提供」を実施する。
「校務のDXはインフラ環境を整えることも大事だが、まず教職員向けのサポートに注力する。具体的には、業務と校務効率化を実現するビジョン設計や、コンセプト作りができる管理職を育成するワークショップを実施する。ペーパーレス化を実践し、クラウド側で管理する際の承認プロセスを含め電子化し、効率よく校務を行う仕組みを構築するための研修なども行っていく」とする。
また、「ICTを学びたいという人向けには、Google公認の認定者資格を取得してもらうためのサポートを行う。教育のDXでは生徒向けテンプレートを紹介すると説明したが、校務DXとして先生向けにテンプレートを提供し、地域や保護者との連携を実現してもらう。学校のホームページについてもGoogleサイト化することで、学校内部のコミュニケーションだけでなく外部向け情報発信にも役立ててもらうことができるテンプレートも用意している」(杉浦氏)。
最後の、セキュリティのDXでは、「国が推奨するゼロトラスト環境を構築するためのセットアップサポート」、「高度なセキュリティ設定のためのセットアップガイド」、「モニタリング・早期発見のためのセキュリティ ダッシュボード」を提供する。
「働き方が大きく変わってきている中で、先生が使われる端末も持ち帰りや、個人端末を利用するケースも増え、学校の情報を安全に扱うためにはセキュリティ設定が必須となる。そこで当社側からゼロトラスト環境のセットアップサポートをさせていただく。次に、不正なアクセスや誤ったファイル共有状況といったミスを事前に防ぎ、実際にインシデントが起こった際も即座に対応できるようなダッシュボードと設定の提供を行う」(杉浦氏)とした。
茨城県大子町の導入事例
導入事例としては、令和4年度にGoogle Workspace for Education Plusを導入し、学校内のDXを進めた、茨城県大子町 教育委員会 指導主事の大森和行氏が、自らの取り組みを紹介した。
大子町は人口1万6000人、6つの小学校と4つの中学校がある小規模な自治体だ。情報化への取り組みには積極的で、平成30年度から共有Chromebook導入を開始。令和2年度から全小中学校にChromebook1人1台環境を整備し、校内に高速Wi-Fi環境を整えた。その後、令和4年度にGoogle Workspace for Education Plusとモチベーションワークス株式会社のフルクラウド校務システム「BLEND」を導入し、クラウド利用環境を強化している。
強化を行った背景を大森氏は次のように説明する。
「コロナ禍でオンライン授業の重要性が増した令和2年度から3年度にかけ、茨城県教育委員会から指定を受け、『遠隔教育実証事業』として、授業力に優れた教員が、他校にオンライン授業を配信した。このほかにも、小規模校同士をつなぎ、子どもたちがオンラインで学び合う体験の実施など、オンライン活用場面が増えていった。Google Meetの利用に慣れていったことで、教員からはGoogle Meetの機能強化を求める声があがるようになった。具体的には、『授業を録画し、リアルタイムでは参加できなかった児童生徒に後から配信できないか』、『オンラインで話し合いをしたい』、『児童生徒から個別の質問を受け付けたい』といった内容だった。また、『オンラインでは出欠を取るのが大変だが、良い方法はないか?』といった問い合わせがあった」。
要望を受けて検討を行ったところ、Education Plusを導入すれば、要望があった機能をほぼカバーできることがわかったという。
「欠席した児童生徒に録画した授業を見せたいという要望には、会議を録画し児童生徒に共有できる機能で実現可能。ブレイクアウトルーム機能を使えば、Meet上でルールを作成し、集団での学び合いをすることができるようになる。個別質問を受けたいという要望については、Meetのチャット機能を使うこともできるが、皆の前で質問をすることに抵抗がある子どももいる。そういった場合にも、個別に質問をして回答をもらえる機能がある。オンラインでは出欠が確認しにくいという問題についても、会議終了後、自動的にレポートが作成され、誰が何時何分から入出していたということが記録されているので、確認作業が楽になった」(大森氏)。
こうした機能を利用した結果、感染症で登校できない児童生徒の学習の保証がしやすくなり、オンライン行事を実施するための敷居が大幅に低くなったという。現在は海外との交流での利用、教員の研修をオンラインで実施するなど活用場面が拡大している。
校務DXについては、校務支援システム導入の要望は以前から高かったものの、コスト面から導入が難しかった。また小規模校が多い地域で、児童生徒の人数が少ないことから、紙で十分ではないかという声もあったそうだ。
「そうした声が変化したのが、コロナ禍でクラウド活用が増えたことだった。クラウド活用で授業の利便性が高まったのに対し、旧来の校務システムの不便さが際立つこととなり、思い切ってクラウド型校務システム導入を決定した」(大森氏)。
校務システムについては入札を行い、最も低コストだったBLEND導入を決定。「完全クラウドにより、物理サーバー導入が不要で、小規模で財政に限りがある自治体でも導入可能になる。日常的に利用するブラウザから利用できるので、先生方はあらためてアプリケーション操作を覚える必要がないという点も大きなメリット。また、校務用に配布されているWindows、学習用のChromebookのどちらからもアクセスできる」(大森氏)という。
クラウド導入のメリットとして、オンプレミスに比べ災害や緊急時に利用しやすいという点もあり、「校長判断で先生がChromebookを持ち帰っている場合、校務支援システムへのアクセスを可能とする。管理職が出張などで不在の場合には外出先から児童生徒の出欠状況、各種日誌などに目を通すこともできる。教員間の連絡には電話やメールではなく連絡ツールを利用することで、セキュリティを保ち、操作ログによって管理職が後から適切な対応をすることもできる」と、緊急事態対策とすることもできると説明した。
利用場面が増えるにしたがい、セキュリティ担保の重要さも増すことになる。特に校務システムでは児童生徒の個人情報が多数含まれるため、利便性とセキュリティの両立が不可欠となる。
「本町で利用している事例をいくつかご紹介する。1つ目は児童生徒の出席記録のクラウド化。保護者がBLENDのアプリを利用し学校に欠席連絡を行うと、教員の端末に通知される。先生は授業用Chromebookに保護者からの欠席連絡をリアルタイムで受ける。もちろん、この連絡にとどまらず、放課後に担任から電話で様子を聞くといったフォローも欠かせない。2つ目は保護者との連絡機能。欠席連絡に加え、体温など健康状態について保護者から学校に連絡する機能や学校からお便りを配布する機能、アンケートなどを行えるが、保護者側がお便りを読んでいるのか、未読かを確認できるので、未読の保護者に再連絡することもできる。大切な連絡については漏れなく連絡できる。3つ目は学校内で活用しているさまざまな日誌をクラウドで作成する機能。日常的な日誌の作成、相互閲覧するものはクラウド化し、一元管理できるようにしている。日誌の内容によっては厳しい管理が必要になるものもあるため、アクセス権を厳密に管理し、校長先生の許可のもと、校外からのアクセス、確認が行えるようにしている」(大森氏)。
基本的なセキュリティについては、BLENDが持つ管理機能を利用。さらに学校内でのアクセス権を管理し、セキュリティを保持している。そこにEducation Plusの機能を組み合わせ、セキュリティを強化している。
「先生方のアカウントは、Chromebookからダウンロードされたデータは、すべてGoogleドライブに保存される設定としている。重要なファイルについては、Googleドライブ上で自動的にラベルが付与される。ラベルが付与されたファイルは、ラベルに応じ外部共有を制限する。特に児童生徒のアカウントへの共有を監視し、共有されそうになった場合は、管理者にアラートを上げ、必要に応じ共有範囲を制限する。ファイルがGmailに添付された場合も、検知し送信を制限する。こうした機能を使うことで、重要な情報が誤って児童生徒や外部アカウントに共有されてしまうことを防ぐことができる」(大森氏)。
今後の展望としては、クラウド間のデータ連係実現を検討している。データを活用し、子どもたちの学習過程、製菓を分析し、これまで教員側では把握できていなかった努力などを把握することを狙う。さらに、別々に稼働してきた教材や校務データとの連携など、新たなデータ活用も模索していくという。
このほかの導入事例としては、奈良県教育委員会が、学習支援プラットフォームをGoogle Cloud基盤で構築している例が紹介された。2023年の運用開始を予定している。