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富士通、スパコン「富岳」上の商用アプリケーションによる高速解析をベンダー各社と実証

 富士通株式会社は23日、スーパーコンピューター「富岳」上で、流体解析などのシミュレーション向け商用アプリケーションを用いて大規模かつ高精細な解析が高速に行えることを、アプリケーションベンダー各社と協働で実証したと発表した。

 また、富岳および富岳の技術を活用した「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC(以下、PRIMEHPC)」シリーズ向けに、新たに製造業の顧客ニーズが高い商用アプリケーションについて、各社と協働して動作検証や性能チューニングを実施し、6月より各社から順次提供開始予定としている。

 製造業などの製品開発や技術研究における、流体解析や構造解析などのシミュレーションを行う商用アプリケーションは、PCクラスター上で広く利用されているが、大規模かつ高精細なシミュレーションが求められることで、計算結果が出るまで非常に時間がかかるといった課題がある。

 これらの商用アプリケーションをそのまま、大規模かつ高速な計算リソースを持つ富岳やPRIMEHPCシリーズなどのスーパーコンピューターで利用できれば、顧客が保有する商用アプリケーションのノウハウを活用でき、大きなメリットがあるとして、富士通ではPRIMEHPCシリーズ向けの開発環境および動作検証環境をアプリケーションベンダー各社に提供し、協働で動作検証などを実施した。

 大規模シミュレーションにおいて、商用アプリケーションが高速に動作するように性能分析し、発見したボトルネックを解消するチューニングを行うとともに、高並列で効率良く計算するための並列処理技術の適用などを実施。その結果、8つの商用アプリケーションの動作検証が完了し、そのうち3つの商用アプリケーションについて、富岳を用いた大規模解析において、高速かつ高精細なシミュレーション結果が得られたという。

 航空機の安全性や安定飛行に影響を及ぼす、バフェットと呼ばれる機体の振動現象を予測する解析では、富岳の最大19万2000CPUコアを活用して、熱流体解析アプリケーション「Cradle CFD | scFLOW」を並列実行し、2億3700万要素の高精細なモデルを、細かな渦が表現可能な解析手法であるLESで解析した。

 これにより、粗い計算格子を用いた従来の解析手法のRANSよりも、バフェットの予測につながる翼の表面上の圧力振動や細かい渦が生成される現象を、詳細に観測できるようになった。これにより、バフェットを考慮した航空機の安全設計につながる大規模解析ができることを実証した。

航空機の翼表面における乱流の熱流体解析結果の比較

 自動車などの燃費向上や環境性能改善に向けた、エンジンにおけるエネルギー効率向上の解析では、富岳の最大4620CPUコアを用い、エンジン内のピストン動作によるシリンダー内の燃焼などの一連の化学反応を考慮した燃焼解析を、熱流体解析アプリケーション「CONVERGE」を使った並列計算により、2時間で行えることを確認した。

 この解析では、領域全体を0.5mm単位の高精細な計算格子(最大667万格子)で分割し、LESを用いることで、粗い計算格子を用いたRANSでは難しかった、しわ状化した火炎構造を示す高精度な結果が得られた。これにより、製造業における設計業務などの限られた時間でも高精度の解析が実施できるようになり、エンジンのエネルギー効率向上や異常燃焼の低減などにつながることが期待されるとしている。

エンジンのシリンダー内の熱流体解析結果の比較

 電気自動車などの駆動用モーターのエネルギー損失低減に向けた解析では、駆動用モーターに用いられるIPMモーターの高精度な損失計算を、電磁界解析アプリケーション「JMAG」で検証した。

 鋼板を1枚ずつモデル化し、高調波を含む電流を投入したシミュレーションを行う場合、従来は数週間かかっていた計算を、富岳の8192CPUコアを用いて並列実行することで1日で計算できることを確認した。これにより、電気自動車などのエネルギー効率向上につながる解析が、より短時間で実行できることが期待されるとしている。

 富士通では、富岳の技術を活用したPRIMEHPCシリーズ向けに、顧客のニーズに応じた商用アプリケーションの動作検証を順次進めていく。これにより、大規模かつ高精細なシミュレーションが求められる、製品開発や技術研究を行う製造業などの顧客にPRIMEHPCシリーズを販売し、スーパーコンピューターの利活用による産業界全体の技術開発や研究の発展およびイノベーションに貢献していくとしている。