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LIXILがSAP S/4HANAの基盤としてGoogle Cloudを採用したワケは?

 株式会社LIXILは13日、基幹システムとして採用したSAP S/4HANAのプラットフォームに、Google Cloudを採用したと発表した。2020年11月にSAP on Google Cloudで会計システムを稼働させたほか、2021年4月にはSAP Central Financeを稼働させている。

 LIXIL 常務役員 Digital部門システム開発運用統括部リーダー兼コーポレート&共通基盤デジタル推進部リーダーの岩﨑磨氏は、「Google Cloud Platform(GCP)上に3基のSAPシステムと、30以上のランドスケープ、120を超えるSAP関連サーバーを構築。クラウドのスケールメリットを最大限に活用している。新基幹システムをGCPが支えることになる」とする。

LIXIL 常務役員 Digital部門システム開発運用統括部リーダー兼コーポレート&共通基盤デジタル推進部リーダーの岩﨑磨氏

 同社では、アプリケーション環境を8カ月という短い期間で構築することに成功。ビジネスプロセスの最適化も並行して実施したという。

 Google Cloudの導入においては、Google Cloudコンサルティングチームおよびプレミアムサポートを活用した。グーグル・クラウド・ジャパン カスタマーエンジニアの浅沼勉氏は、「初期段階での基盤設計でのサポートのほか、SAPに特化したプロフェッショナルサービスを提供した。だが、LIXILでは自律性を持った導入を基本姿勢としており、Google側からは意見を出しながらも、手を動かしたり考えたりする部分はLIXILが担うという、特別な形での対応を図った」という。

グーグル・クラウド・ジャパン カスタマーエンジニアの浅沼勉氏

 LIXILの岩﨑氏も、「基本的な骨格づくりは内製とGoogleで行っており、スピードを高めるために、外部のコンサルティングサービスなどを活用した」としており、こうした取り組みが、短期間での新基幹システムの稼働につながっているようだ。

Google Cloud選択のポイントは?

 LIXILは2011年に、トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの国内大手5社が合併して発足した。さらに、ドイツのGROHE(グローエ)や米American Standardを子会社化しており、その結果、グループ内での情報連携の難しさが課題になっていた。

 「特に、財務部門では膨大な工数をかけて連結情報を取りまとめて、そこから意思決定を行っていた。また、国内ではメインフレームが3基稼働しており、安定稼働をしているものの、COBOLで書かれたシステムの今後の維持や、コロナ禍において体験した急激な環境変化への迅速に対応を考えて、SAP S/4HANAへの刷新を計画した」という。

 そして、会計基準を国際会計基準(IFRS)に統一し、メインフレームで支えてきた基幹業務をSAP S/4HANAに置き換える際に、IaaSとしてGoogle Cloudの活用を検討した。

 当初は、プライベートクラウドをベースにした環境構築を進めてきたが、「リソースの効率化ではメリットがあるものの、デマンドの急速な変化に伴う柔軟なリソースの強化や、物理拠点に依存したディザスタリカバリ環境であること、自ら運用を行う工数が増加し、それに対応する人員確保が難しいといった課題があった。そこで、パブリッククラウドへの移行を検討した」という。

 LIXILは2018年から、マーケティング部門を中心に、Google CloudのBigQueryを活用したデータ分析基盤を通じて、広告効果やWebサイトからの店舗誘導率の向上を図ってきた経緯がある。

 「今回のGoogle Cloudの採用はIaaSの観点だけから決定したものではない。すでに、BigQueryにさまざまな情報が集まっており、企業に価値貢献する基盤としても活用できる点を評価した。これまでの基幹システムでは欲しいデータを出すのに1日かかっていたが、新たな環境では10秒で結果を出すことができる。Google Cloudのパワフルな基盤と、数十億件の膨大なデータを持つERPを融合することで、LIXILの成長を支える基盤に進化できる。そして、コスト面でもメリットが生まれている」とした。

Google Cloud選択のポイント

BigQueryを基盤とした「LIXIL Data Platform」でデータを徹底活用

 一方、LIXILでは「データの徹底活用」というビジョンを掲げ、BigQueryを基盤とした「LIXIL Data Platform(LDP)」を構築。あらゆるデータを集約、分析し、アクションにつなげる取り組みを行っている。

 SAPをはじめとする各種SoRシステムのデータと、顧客接点を支えている新たなSoEシステムからのデータを、LIXIL Data Platformに蓄積、統合。AIや機械学習を活用したり、ユーザーの用途やレベルにあわせて、BIツールやGoogleスプレッドシートによる分析も可能にしているという。

 LIXIL Data Platformは、Google Cloudのデータテクノロジーを最大限に活用した全社横断型データプラットフォームといえるものだ。

LIXIL Data Platform

 また、「最近ではセルフサービス化に力を注いでいる」とし、「変革のスピードを高める上で、ボトルネットとなっているのがIT部門のリソース不足であり、業務サイドがやりたいと思っていることをクイックにかなえることができない。これを改善するために、業務サイドである程度、完結できる状況を作ることが必要である。シングルソースのデータをもとに、セキュリティガバナンスを利かせた形で、ローコード/ノーコードや、RPAを活用して、この問題を解決していくことができる」とも話している。

 手軽にデータを集計、可視化したい場合にはコネクテッドシート、複雑なクエリーを必要とする分析にはBigQueryコンソールを用いて、SQLでデータ分析するなど、用途とレベルに応じて適切な分析ツールおよびトレーニングを提供するという。

 「LIXILでは、すべての従業員が自由にデータを活用し、市場のニーズにあわせて、ビジネスを変革させることを目指している」とする。

 LIXIL Data Platformは、利益性を高めることができるインサイトを、従業員自らが作り出すためのデータ活用プラットフォームと位置づけ、「従業員自らが使いやすいようにデータを活用し、速やかな意思決定につなげていくことが大切であり、それを実現するプラットフォームに進化させたい」と述べた。

 今後、LIXIL Data Platformの拡張に向けて、Google Cloudのローコード/ノーコードアプリケーションモダナイゼーションプラットフォームや、AppSheetなどのソリューションを活用し、ミッションクリティカルな機能を数週間で実装していくとのこと。

 またLIXILでは、Google Cloudの導入にあわせて、テクノジーとは別の観点で注目しているポイントがあるという。

 それは、Googleが持つ、自由でオープンなカルチャーだ。

 「今後、グローバルでの事業拡大や、環境変化に柔軟に対応するためには、LIXIL自らの大きなカルチャー変革が必要である。Project Oxygenや10X Thinkingなど、Googleが持つ独自のカルチャーをLIXILに取り込んだ時に、どんなことが起きるかといったことも考えていきたい」とした。

 今回のGoogle Cloudの採用をきっかけにして、両社のHR部門同士が連携し、文化を学んだり、Google Cloud導入にかかわる作業などにおいて、両社が一緒に仕事をしながら、Googleの文化を吸収するといった活動が行われたという。

Googleの自由でオープンな文化を取り入れる

 グーグル・クラウド・ジャパンの浅沼氏は、「製造業は、グーグル・クラウド・ジャパンが重点的に取り組んでいる業種のひとつである。製造業はコロナ禍以前にも、コスト削減や現場の効率化に向けたモダナイゼーションなど、いくつもの課題に直面していたが、それに加えて、コロナ禍では、不安定な経済環境となり、新たな働き方や新たな収入源を模索することが求められている。新たな消費動向に対応できるペストプラクティスに関心が集まっており、リモートワークやコネクテッドワークフォースの拡大、AIの産業化、サスティナビリティへの注力、DXの大規模な推進が進められている。Google Cloudでは、そうした製造業のニーズや課題解決にも対応していくことができる」と述べた。