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国内企業の2021年度IT予算、増加基調は維持もコロナ禍で減速~ITR調査・予測
DXに積極的に取り組もうとする企業の意識は高まる
2020年11月13日 06:00
調査会社の株式会社アイ・ティ・アール(ITR)は12日、「IT投資動向調査2021」を発表した。
20回目となる今回の調査は、2020年8月21日から9月1日にかけて、国内企業のIT戦略やIT投資の意思決定に関与する役職者に対象にウェブで調査を実施。2667人から有効な回答を得ている。
これによると、2020年度(2020年4月~2021年3月)のIT予算額は、前年度から「増額」とした企業が36%を占めた。前年調査時に、2020年度予想では「増額」とした企業が33%であったことに比べて微増となった。また「減額」とした企業の割合は前年調査時の予想を上回り、2019年度実績からほぼ倍増して15%に達したという。
さらに、IT予算の増減傾向を指数化した「IT投資インデックス」では、2020年度の実績値は1.93となり、2019年度の2.62から減少したが、プラスを維持した。リーマンショックの影響を受けた2009年度には-3.80と大きなマイナス値になったことに比べると、異なる様相が見られているのが今回の特徴だ。
「コロナ禍で経営が悪化するなかでもIT予算は縮小しない、という傾向が見られる。デジタル化で乗り越えなくてはならない、あるいは必要な部分には投資をするという機運がある」(アイ・ティ・アール シニア・アナリストの三浦竜樹氏)と分析した。
だが、IT投資インデックスはプラスになったものの、5年ぶりに2ポイントを下回った。2021年度見通しもプラスを維持する想定ではあるが、さらに下降しており、「IT予算増額の勢いは引き続き減速することが予想される」とした。
また業種別では、「サービス」のIT投資インデックス指数が、他業種に比べ極めて低い結果が出ており、「コロナ禍における営業自粛などの影響を大きく受けたものと推察される」としている。
最重要視するIT戦略上の課題としては、これまでの調査結果と同様に、「売上増大への直接的な貢献」、「業務コストの削減」、「顧客サービスの質的な向上」が、上位3位までを占めた。主要なIT動向に対する重要度指数では、「全社的なデジタルビジネス戦略の策定」、「基幹系システムのクラウド化の実践」、「テレワークの全社規模での定着」が上位を占めた。
「コロナ禍でテレワークへの投資を優先するといった傾向が見られている」という。
また下位の項目のなかでは、「IT部門スタッフの人材育成」が順位を上げているが、「コロナ禍において、IT企業がユーザー企業のもとに直接出向くといったことができなくなったり、頻度が減ったりしたことで、自前でやらなくてはならないという企業が増加したことも影響しているのではないか」(アイ・ティ・アール シニア・アナリストの舘野真人氏)と分析した。
DXのための何らかの組織体を有する企業は増加
デジタル変革(DX)に向けた調査では、DXのための何らかの組織体を有する企業は前年から増加し、67%に達したことがわかった。
内訳を見ると、既存部門が掛け持ちで担当していたり、部門ではなくプロジェクトチーム(タスクフォース)が担当していたりする企業が多数派ではあるものの、専任部門を設置している企業は、前年調査の15%から、3ポイント増加し、18%になっており、「DXに積極的に取り組もうとする企業の意識が高まっている。また、デジタル変革部門を設置している企業こそ、IT投資に積極的である。これからIT投資をしていく考えている企業は、少なくともタスクフォースを設置しているととらえることもできる」(舘野シニア・アナリスト)とした。
調査では、「DXを推進する専任部門が設置されている」企業では、IT投資インデックスにおいて、2021年度予想が3.22と、2020年度と同様に増額する勢いを示しており、コロナ禍に伴う厳しい経済情勢下においても、積極的なIT投資を継続する見通しを示している。
また、デジタル変革の位置づけについては、「少なくとも部門、部署によっては取り組むべき重要事項だと思う」との回答が33%、「全社レベルで取り組むべき最重要事項だと思う」との回答が27%を占めた。
ただ、「重要だが、自社において、効果は限定的だと思う」との回答が22%を占めており、3番目に多いという結果が出ている。「この回答をする人は、デジタルには詳しいが、自社には適用しても効果がないという発想の人が多く、企業のDX推進において、ブロッカーになる可能性が高い。特に公共分野に多く見られる回答であり、この回答者をどう処遇していくか、いかに社内にポジティブな人を増やしていくかが、DX化においては重要になると考えている」(同)とした。
また、デジタル変革テーマの取り組み状況では、「ワークスタイルの変革」が最も多く、28%となり、次いで、「コミュニケーション/コラボレーションの高度化」が26%、「業務の自動化」が24%となった。
「これまでできていなかったことが、コロナ禍によって一気に表面化したともいえる。だが、新型コロナによって、DXが加速するのかといった点では、疑問がある。製品、サービスやビジネスモデルの変革ということにつながれば本物になるといえる」(舘野シニア・アナリスト)などと指摘した。
IT支出におけるIT部門の決定権については、42%という結果が出た。
これは、1億円のIT予算があった場合、IT部門が4200万円の予算枠を持つという指標であり、調査項目に加えた2013年度以降で最も低い水準になった。
「DX推進専任部門を持っている企業は、IT部門が決定権を持つIT支出が低く、DX推進担当部門組織が存在しない場合には、これが高い。IT部門が見る領域が明確になることが影響しているのではないか」(アイ・ティ・アール シニア・アナリストの水野慎也氏)と述べた。
現在でも70%の企業が在宅勤務を実施
今回の調査では、在宅勤務の実態についても調査した。
これによると、コロナ禍以前では、65%の企業が在宅勤務をほとんど実施していないという結果であったが、緊急事態宣言期間中では、全社の80%以上の従業員が在宅勤務を行っているとの回答が18%となり、現在では14%となっているという。また、現在でも70%の企業が在宅勤務を実施しているという。
「在宅勤務の比率は緊急事態宣言期間中に比べると減少しているが、この仕組みは定着したと見ていいだろう。だが、最近の通勤電車の混み具合を見ると、週に何回かをテレワークにしているという状況になっているようだ」(三浦シニア・アナリスト)とした。
一方で、コロナ禍の緊急施策の実施状況では、「テレワーク制度の導入」、「コミュニケーション・ツールの新規・追加導入」、「リモートアクセス環境の新規・追加導入」、「PC、モバイルデバイスの追加購入・追加支給」といった内容に関しては、実施した、あるいは完了しているという回答が多い一方で、「社内文書(申請書など)の電子化対象拡大」、「社外取引文書(契約書など)の電子化対象拡大」、「ネットワーク・インフラの増強」などを、今後の取り組みに挙げる企業が多かった。
社会への浸透を期待するITソリューションとしては、オンライン研修のほか、電子印鑑や電子契約などが挙がっているが、自社導入の促進だけでなく、取引先や業界全体としての導入を期待する声が上がっているという。
また、コロナ禍によって、IT戦略遂行(デジタル化の進展)が加速すると考えている企業が半数になる一方で、減速すると考える企業は2割にとどまる結果が出ているが、「金融・保険」および「情報通信」においては、デジタル化が加速すると回答した企業が約6割と高い結果が出たという。
製品・サービスの現在の導入状況と今後の投資計画を、5分野110項目について調査した結果では、2021年度の新規導入可能性では、「5G(パブリック)」、「電子契約/契約管理」、「電子署名/タイムスタンプ」となり、投資の増減指数では、「ビデオ会議/Web会議」、「ローカル5G」、「IaaS」が上位となった。
「5G(パブリック)は、大手通信キャリアが、2020年3月下旬に商用サービスを開始したばかりで、サービス提供エリアは限定的だが、8K映像のライブ配信、工場や建設現場などでの機械の遠隔操作、医療における遠隔診療、手術など、さまざまな可能性への投資意欲が表れている。また、コロナ禍で多くの企業で課題となった脱ハンコ関連の製品、サービスの導入を新たに検討している企業が多いことがうかがえる一方、投資増減指数で1位となったビデオ会議/Web会議は、全体の半数強を占めていた導入済み企業において、コロナ禍でライセンス数を増やしたり、クラウドサービスへ移行したりするなどの動きが見られている」とした。
三浦シニア・アナリストは、「今回の調査では、企業のIT予算は、2年連続で減速傾向にはあるが、2021年度も増加基調が維持されるとの見込みが示された。リーマンショックのときほど、IT投資インデックスが下がらなかったことには安心している。だが、DXが推進されたものの、テレワークや電子契約などの社内業務の改革が中心である。DX専任部門がある企業では、5GやAI、エッジコンピューティング、VR/ARの活用も進んでいる。これらを活用した外向きのDXに、IT投資を振り向けて、ビジネスのデジタル化によって、売り上げへの貢献を期待したい」と総括した。
なお、同社では、今回の調査結果を、「国内IT投資動向調査報告書2021」として発刊。A4サイズ、422ページの構成とし、価格は12万8000円(税別)となっている。