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富士通が原則テレワークへ移行――、新常態の働き方「Work Life Shift」を推進
2022年度末までに国内オフィス半減を目指す
2020年7月7日 00:00
富士通株式会社は6日、ニューノーマル時代における新たな働き方として、「Work Life Shift」のコンセプトを打ち出した。リモートワークを活用することで、従業員が働く場所を、それぞれの業務目的に最も適した形で自由に選択できるようにするほか、オフィス全席をフリーアドレス化。2022年度末までに、オフィスの規模を現状の50%程度に最適化するという。
また2020年7月から、コアタイムのないスーパーフレックス勤務を、製造拠点や顧客先常駐者などを除いて、約8万人の国内グループ全従業員に適用するほか、在宅勤務のための環境整備費用補助金「スマートワーキング手当」を月額5000円支給。通勤定期券代の支給廃止や、テレワークと出張によって業務に対応できる単身赴任者を自宅勤務に切り替えたり、介護や配偶者の転勤などの個人的な事情によって転居を余儀なくされたりする場合でも、テレワークや出張を活用して遠隔地から勤務できる制度の整備を行う。
富士通 執行役員常務 総務・人事本部長の平松浩樹氏は、「Work Life Shiftは、リアルとバーチャルの双方で、常につながっている多様な人材が、イノベーションを創出しつづける状態をつくることを目指す。働くということだけでなく、仕事と生活をトータルにシフトし、Well-beingを実現することをコンセプトにしたものであり、それを実現するために、固定的な場所や時間にはとらわれない働き方の実践と、社員一人一人の高い自律性と相互の信頼によって取り組んでいくことになる」と述べた。
最適な働き方を社員自らが自律的に使い分ける「Smart Working」
Work Life Shiftは、最適な働き方を実現する「Smart Working」、オフィスのあり方を見直す「Borderless Office」、社内のカルチャーの変革を進める「Culture Change」の3つの要素から構成されるという。
Smart Workingでは、仕事内容や目的、ライフスタイルに応じた最適な働き方を、社員自らが自律的に使い分けるもので、「これまでは固定的なオフィスに全員出勤することを前提とした勤務制度や各種手当、福利厚生、IT環境が整備されていたが、これらを全面的に見直し、時間や働く場所にとらわれないスマートな働き方を実現する」という。
一部の社員に適用していたコアタイムがないスーパーフレックス制度を全社員に適用。在宅勤務では仕事と生活の時間配分を、各自の裁量と責任でコントロールすることになる。また通勤という概念をなくし、通勤定期券の支給を廃止。テレワーク勤務を原則とするため、多くの社員の勤務場所が自宅となる。業務都合でオフィスに出向く際には、交通費を精算する仕組みになる。
さらに、「単身赴任者はテレワークと出張で対応できるかを棚卸しして、対応可能な社員については、随時、単身赴任を解消する」とし、「テレワークを最大限活用することで、今後は場所の制約を超えて、最適なメンバーでスピーディにチームを編成。ライフの充実を犠牲にしない環境が実現する」という。
テレワークの環境整備については、通信料、光熱費といった自宅で発生する費用や、机やいすなどの費用補助として月額5000円を、全社員に支給。社員は、会社から支給されるスマートフォンを利用するか、BYODで社員が所有するデバイスを利用するのかのいずれかを選択する。これにより、社員同士の1対1のコミュニケーションを実現するとした。
「これまではPCでしかできなかった各種社内申請や業務システムとの連携も、スマホで対応する。いつでもどこでもコミュニケーションが行え、業務遂行が可能になる。また2020年4月からは、外部のWeb教育コンテンツを会社負担で視聴できる環境を整備しており、社給スマホを使って、自宅やカフェ、移動中でも費用を気にすることなく自己研さんができる」とのこと。
勤務する場所に縛られない働き方と、それを支えるオフィスを実現
2つ目の「Borderless Office」では、勤務する場所に縛られない働き方と、それを支えるオフィスの実現を目指す。
これまでは、規模の差はあっても共通していた全国の事業所の環境・設備を、今後は業務の目的やコミュニケーションのスタイルにあわせて再編。コラボレートを目的とした「ハブオフィス」、コネクトを目的とした「サテライトオフィス」、コンセントレートを目的とした「ホーム&シェアドオフィス」に分け、それぞれにあわせた形でリノベーションする。
「目的とロケーションから社員が選択し、自律的に利用することになる。ハブオフィスとサテライトオフィスをあわせ、今後3年をかけて国内の既存オフィスの床面積を、現在の50%程度に最適化し、全席をフリーアドレス化。快適で創造性が発揮できるオフィスを構築する」という。
「ハブオフィス」は主要拠点が対象になり、多様な人材がリアルに集い、イノベーションの創出を目的とした環境に整備する。社内外のコラボレーションやネットワーキング、情報発信の場として活用するほか、最新技術の実証の場、ショーケース機能、組織の壁を越えたコミュニケーションの場として活用するという。
「サテライトオフィス」は、これまでにも主要な事業所内に設置され、出張者などが利用してきたが、今後は自宅の最寄りのオフィスとして、多くの社員が活用できるよう、社員が多く住むエリアに拡大するとした。
ハブオフィスと同様のセキュリティやネットワーク環境を実現。高性能テレビ会議システムを全拠点に導入。多地点でつなげることができるようにする。在宅勤務によって発生するストレスの解消や、リフレッシュのためのソフト、サービス面での取り組みも進める。
「ホーム&シェアドオフィス」では、自宅での勤務に加えて、都心や郊外の駅前に設置されているシェアドオフィスを法人契約して利用できるようにする。「現在、180カ所の契約シェアドオフィスをさらに拡充して、施設を自由に使えるようにする。デスクワークやオンラインミーティングなど、限られたメンバーで、集中して業務を遂行する際に活用できるようにする。自宅では業務に集中できない場合や、顧客訪問の前後の止まり木として、短時間の活用を想定している」とした。
なお、オフィスの立地については今後検討していくことになるが、「機動力が損なわれることがなく、日本全国で圧倒的に強い体制を維持したい」と述べた。
また顧客先に常駐する社員については、「顧客と職場の幹部社員が働き方のあり方について、テレワークの可能性も含め、相談しながら改善していきたい」と述べたほか、富士通で働く請負企業や派遣社員についても、PCの貸与をはじめとしたテレワーク環境を整えるという。
さらに、これらのオフィス環境の整備では、「Well-being」を意識して推進することも強調した。社員の健康に対する貢献や、社内外コミュニティ形成の一助となるように、人が集まりやすい機能を設置するという。
あわせて、富士通アドバンストエンジニアリングのロケーションプラットフォーム「EXBOARD for Office」を国内すべてのオフィスに導入。スマホやPCのWi-Fiから人の動きを可視化し、オフィスの利用状況や社員の位置情報を把握して、データを活用した最適なオフィス環境の改善に生かしたり、感染症対策として、オフィスの密集度や感染者発生時の行動履歴を把握することで、安全で、快適な働き方の実現につなげたりするという。
加えて、新たな働き方とオフィスのあり方にあわせ、常にセキュリティポリシーを最新化するとともに、あらゆる場所から必要な情報にダイレクトにアクセスできるセキュアなネットワーク基盤をグローバルに構築。2021年1月から順次展開する。
インフラ基盤として、「Microsoft Teams」などのコミュニケーションツールの活用や業務システムとの連携強化によって利便性向上させることも示した。
一方で、「オフィス面積の半減とコストダウンが主目的ではなく、新たな働き方の創出に向けた投資を含めたオフィス最適化の一環」と位置づけ、「出張旅費の削減や、通勤定期代のコスト面でも相応の効果があると見ている。だが、オフィスのリノベーションの投資がかかる。オフィスの規模を50%程度に最適化するまでの3年間で回収できるようにしたい。全体的なコストメリットはあると考えており、同時に、社員にとって生産性があがり、快適な働く環境が実現できる点が重要である」とした。
社員の高い自律性と「ピープルマネジメント」の高度化による企業文化の変革へ
「Culture Change」においては、社員の高い自律性と、会社が社員を信頼する「ピープルマネジメント」の高度化が重要だとし、「これを実現することが企業文化の変革につながる」と述べた。
信頼に基づく制度設計やプロセスの確立のために、制度やプロセスのシンプル化、上司や人事のチェックおよび承認の最小化を図り、各種社内手続きをオンラインでセルフサービス化するためにITを活用する。
また、社員一人一人の役割と期待の共有、適切な評価を行うジョブ型人事制度を導入。上司と部下による、月1回のワン・オン・ワンミーティングをすべての階層で実施するという。
さらに心身面でのサポートために、社員の声を随時吸い上げるためのデジタルプラットフォームや、仕事の状況を可視化するプラットフォームを導入する。同時に、従業員の不安やストレスの早期把握と迅速な対応を目的に、「パルスサーベイ」と呼ぶ、簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する手法を用い、従業員の満足度をもとに組織と個人の関係性の健全度合いを測るとした。
2020年度中には、一般社員に向けた適用を視野に入れて労働組合と話し合いを開始する。富士通は2020年4月から、1万5000人の管理職を対象にジョブ型人事制度を導入。各ポジションの責任と権限を明確にし、「適材適所ではなく、適所適材の実現を目指している」という。
加えて、社内公募制度を2020年度から大幅拡充。新任管理職にも公募制度を活用する。「社員の自律的なキャリア形成を促す仕組みにもなる。社内の人材の流動化が進み、多様化の実現につながる」とした。
一方で、新たな働き方を支えるツールとして、「FUJITSU Workplace Innovation Zinrai for 365 Dashboard」を活用。蓄積されたメールや文書のタイトル、スケジュールなどのビッグデータ、PCの利用状況を蓄積して仕事内容や業務負荷をAIが分析して可視化し、このデータをもとにして、上司と部下のコミュニケーションを通じ、生産性向上を図るという。
「作業進捗の把握、負荷状況の可視化、長時間労働の常態化の防止といったテレワーク実施上の課題を定量的に見ることができ、解決が可能になる。また、働き方の可視化による生産性向上が可能になり、どのような仕事に、誰が、どのくらい時間をかけているのかといったことを、業務内容から作業、対象、テーマといった観点でAIが分析する。組織や個人の事務的作業のシステム化や効率化、クリエイティブな業務へのシフトが可能になる」という。
平松執行役員常務は、「富士通は、ニューノーマル時代や、将来の環境変化に対応するためにDXを実践し、お客さまのリファレンスとなるような新たな働き方を、Work Life Shiftとして取り組む。ソリューションやサービスにつなげることを念頭におく。それがDX企業としての富士通の使命である」と述べた。
富士通は、2017年4月にテレワーク勤務制度を正式導入。新型コロナウイルスの感染拡大にあわせて、在宅勤務が増加。緊急事態宣言後は9割が在宅勤務となったという。現在、出社率25%を上限として在宅勤務を実施している。
「ここまで多くの社員が在宅勤務をするのは初めて。だが、テレワークでは対応できないと思われていた業務が、ITリテラシーの向上やペーパーレス化、仕事のやり方をテレワークに適用させるといった工夫によって、かなりの業務が対応可能であることがわかった。また、在宅勤務のストレスや不安を解決するには、コミュニケーションの重要性がわかり、そこにITが活用できることも理解できた。いまは、生産性が高く、安心して働ける環境が作れたと考えている」と前置き。
「社員3万5000人を対象にアンケートを採った結果、今後の働く場所としては、自宅とサテライトオフィスの組み合わせが3割、自宅とサテライトオフィス、通常のオフィスの併用が5割であり、従来のようにオフィスに出社する環境に戻りたいという社員は少数だった。働く場所を選択したいという社員が多い。用途にあわせてオフィスの環境を選択するということが、社員が望んでいることである。今回の仕組みもこうした社員の声を反映したものである。今後、定期的なサーベスやITの活用などを通じて、生産性などを確認しながら、軌道修正をしつつ、制度を定着させたい」と語った。