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NTTデータがサービスデザイン事業の拡大を表明、デザイナー集団の新ブランド「Tangity」をローンチ
2020年6月16日 06:02
株式会社NTTデータは12日、サービスデザイン事業における同社の取り組みに関し、報道関係者向け説明会をオンラインで実施。サービスデザイン活動をグローバルで積極的に展開していく方針を示し、「NTT DATA Design Network」に所属するデザイナー集団の新ブランド「Tangity」を立ち上げたことを発表した。
説明を行ったNTTデータ 取締役常務執行役員 技術革新統括本部長 木谷強氏は「ここ最近、サービスデザインへの注目が高まっているが、NTTデータグループにおいてもサービスデザインのチームがある地域は圧倒的な成長を遂げており、高い利益率を示している。以前からNTTデータが強みとしてきた技術力と信頼性、サービスデザインを新ブランドの下で組み合わせ、よりよい社会を実現するための貢献につなげていきたい」と語った。なお2020年度中に、NTTデータグループ全体で700名のデザイナーを育成/獲得していくとしている。
NTTデータのデザイン事業
NTTデータは現在、世界10カ国/16拠点のデザインスタジオを展開しており、それぞれのスタジオの知見とノウハウを連携させる「NTT DATA Design Network」を構築。サービスデザイン活動を通じた顧客のデジタル化をグローバルレベルで支援している。デザインネットワークに所属するデザイナーは約550名(2020年6月現在)で、全員がNTTデータの従業員という、完全にオーガニックな組織である。
NTTデータがサービスデザインに注力する理由には、サービスデザインを活用する企業は、より大きな成長を遂げているという傾向があり、またNTTデータにおいても、サービスデザインのチームがある国/地域の成長が著しいということが挙げられる。
例えば、2013年からデザインへの投資を強めてきたNTTデータイタリアは大幅な増収増益を続けており、利益率も劇的に向上している。現在、NTTデータイタリアでは3カ所のデザインスタジオ(ミラノ、ベニス、ローマ)で約100名のデザイナーが活動を続けており、NTTデータグループにおけるサービスデザイン事業の中心のひとつとなっている。なお日本では、2018年6月に東京・六本木にデザインスタジオ「AQUAIR」を開設、約50名のデザイナーが在籍している。
テクノロジーの世界における「デザイン」という言葉は、ユーザーインターフェイスなど、フロントエンドにおける機能を可視化する作業をイメージしやすいが、サービスデザインは機能の提供にとどまらず、プロダクトを通した、よりよいユーザーエクスペリエンス(体験)の提供に重きを置いている。
NTTデータではサービスデザインのプロセスを、
・戦略:ビジョン策定やビジネスモデル、エコシステムなどビジネスの全体像をデザインする(ビジネスデザイン)
・コンセプト:ユーザーを観察し、問題を定義する(サービスデザイン)/ペルソナやカスタマージャーニー、ストーリーボードを作成する(UX/UIデザイン)
・開発:開発計画を作成し、プロトタイプの構築と検証をアジャイル開発で行っていく
・サービス:サービスローンチ後のAIによるデータ分析やKPI管理を実施し、フィードバックを得ながら継続的な改善を図る
という4つのフェーズに分けており、それぞれのフェーズにおいて専門のデザイナーがシームレスに連携しながら作業を行っている。
サービスデザインの新ブランド「Tangity」 “触れない”に実体を与える
このサービスデザインのチームをNTTデータグループ内でより有機的に機能させるために、今回新たに誕生したデザイナー集団の新ブランドが「Tangity」である。
2020年6月時点でTangityブランドを使用できる国は日本、イタリア、ドイツ、英国の4カ国で、今後はこの枠組みでの事例/人材の共有をより促進し、顧客のデジタル化をサービスデザインで支援していくとうたっている。
また、デジタルビジネスの世界で深刻化するデザイナーの人材不足に対応するため、「グローバルでデザインの仕事を希望する、あるいは専門的なスキルをよりブラッシュアップさせたいデザイナーにとって魅力のあるブランドに育てていきたい」(木谷氏)という効果も狙うとしている。
グローバルブランドとしてのTangityの特徴として、木谷氏は大きく3つのポイントを掲げている。
多様なチームメンバー
デザイン/技術/ビジネスなど各分野の専門家が550名所属し、さらに若手/中堅デザイナーの育成に向けて各国の大学機関と連携、レベルや業務状況にあわせた複数のプログラムを実施
幅広い事例/ノウハウ
NTTデータグループのサービスデザイン事例として、すでにグローバルで106のユースケースがあり、これをケーパビリティとして示しながら、各国の顧客にNTTデータのサービスデザインビジネスをイメージしてもらい、案件へとつなげる。代表的な事例としては、Vodafone Italiaのセカンドブランド「ho.」の立ち上げ支援、ドイツ協同組合中央銀行の決済システムの刷新、UBSにおける新トレーディングシステムの設計など
Tangityは「実体がある」を意味するtangibleを語源とした造語である。木谷氏はブランド名の由来について「ITのサービスは見えにくく、複雑化しやすい存在だが、(サービスデザインを通して)人々にとってわかりやすく“手触り感”のあるデジタルサービスを作り上げていくという意図を込めている」と説明する。
もともとtangibleは、反対語のintangible(触れられない、実体がない)とセットで、サービスデザインやデザイン思考の世界でよく使われる単語でもある。ユーザーエクスペリエンスというintangibleな存在を、いかにサービスとしてtangibleな存在へと変化させていくかは、サービスデザインにおける重要な概念であるが、Tangityというブランド名の選択にもそうした意図が込められていると思われる。
なお、グローバル感の強いTangityだが、日本発のブランドでもあることを示すために、ワークショップやプレゼンで使用するコンセプトカラーには日本の伝統色を採用している。
NTTデータは今後、Tangityブランドを中心にサービスデザインブランド事業のグループ内の連携を進め、2020年度中に約700名のデザイナーを獲得/育成し、「できるだけ早期に1000名規模の組織にしたい」(木谷氏)と、デザイン事業拡大の意向を示している。
AccentureやIBMなど、ここ数年はテクノロジーベンダーによるサービスデザイン事業への進出も増えているが、そうした中にあってNTTデータは「これまで培ってきた信頼性/技術力を強みとした“形にする力”」(木谷氏)を、Tangityというブランドに集約して活動していくという。
NTTデータはこれまで買収によって多くの事業を拡大してきたが、Tangityおよびサービスデザインに関しては、各国/各地のスタジオの主体性を尊重しながらオーガニックな成長を図るとしている。あくまでグループ内での人材獲得/育成を進めながら本業であるSI事業との親和性を高めていくことで、競合との差別化を図っていく狙いだ。
例えば、事例のひとつである、Vodafone Italiaの若者を対象にしたカンドブランド「ho.」の開発では、フロントエンドの周辺系システム(アプリ、Webなど)はアジャイルでスピーディに開発しながらも、決済や回線などバックエンドの基幹システムはウォーターフォールで堅牢性を確保するという体制で臨み、8カ月でセカンドブランドリリースに至っている。
同社のSIの強さをよくあらわしたケースだが、買収では組成しにくいSIという強みをサービスデザインに生かすには、サービスデザインチームもまたオーガニックに成長させていくという方針のようだ。
「NTTデータはテクノロジー企業として、ベターソサエティー(よりよい社会)を作るために貢献する義務がある。サービスデザインを通してテクノロジーの複雑さを軽減し、ユーザーエクスペリエンスを向上させることで価値を提供し、暮らしやすい社会の実現に貢献していきたい」と木谷氏。同社が得意とする「形にする力」を武器に、ユーザーエクスペリエンスという目に見えない存在を“手触り感”のあるデジタルサービスへと形づくることにグローバルで挑む。