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より包括的なデータプラットフォームに進化した――、日本IBMが「IBM Cloud Pak for Data V3.0」提供

 日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は15日、AIのためのデータプラットフォーム新版「IBM Cloud Pak for Data(CP4D) V3.0」の国内での提供を、6月19日から開始すると発表した。

 CP4D V3.0は、企業がデータを収集・編成・分析し、組織全体にAIを組み込む方法をモダナイズできる、データとAIのための統合プラットフォーム。IBM WatsonのAIテクノロジーを、データ管理やDataOps、ガバナンス、ビジネスアナリティクスのテクノロジーと統合し、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を支援するという。

IBM Cloud Pak for Data

 日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 理事の正木大輔氏は、「AIの実用化に向けてデータプラットフォームを包括的に支援。企業が必要とする情報アーキテクチャを確立し、競争の源泉となるデータプラットフォームを統合的に構築できる。企業がDXを実現する上で重要になるデータプラットフォームに、効率的に価値を提供する」とした。

日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 理事の正木大輔氏

より包括的なデータプラットフォームに進化した新版

 CP4Dは2018年にリリースして以降、今回のCP4D V3.0が8回目のバージョンアップになる。

 日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 テクニカルセールス部長の田中孝氏は、「データプラットフォームとしてカバーできる範囲を広げ、より包括的なデータプラットフォームに進化した。一貫性のある環境を提供するIBM Carbon V10ユーザーインターフェイスの採用など、ユーザー体験の一貫性を向上。Planning AnalyticsやInstaScanといった新たな機能も追加した。また、DataOpsやMLOps、AutoAIなどの既存機能を強化している。オープンソースやサードパーティ企業の製品も提供するエコシステムの拡張も、今回の進化の特徴である」とする。

日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 テクニカルセールス部長の田中孝氏

 CP4D V3.0で提供するデータカタログWatson Knowledge Catalogの機能強化では、収集するデータの意味や品質を、AIを活用して自動的に管理できるようにした。データ活用に向けて必要となる工数を低減しており、ここにInstaScanを活用し、機密情報が集中している領域を素早く判別して、ホットスポットに優先的に対応。また、企業のポリシーに違反しているデータに分類ラベルを自動適用することが可能になる。

Watson Knowledge Catalogの機能強化

 また、Watson Studio&Watson Machine Learningでは、AutoAIを強化。AutoAIパイプラインの自動コード生成のほか、パイプラインコードをPythonノートブックに保存し、任意のIDEで実行を可能にするなど、自動化による工数削減を実現している。

Watson Studio&Watson Machine Learningの機能強化

 さらに、「CP4Dでは、企業にとって共通的な課題となるものを開発済みのコンポーネントとして提供する。カスタマーケアやオペレーター支援、予算計画や予測、リスク管理などを用意した」という。

 ここでは、複数部門に渡る財務計画や顧客管理に関する計画を、リアルタイムに調整できるPlanning Analyticsを新たに追加。「経験と勘に基づいて計画したり、Excelなどによる手作業での計画立案を行ったりするのではなく、リアルタイムにデータを連携しながら、計画、予算編成、予測を迅速に方向転換できる」と述べた。

Planning Analyticsのサポート

 加えて、Red Hat OpenShift 4.3の採用による非機能の強化、IBM Power Systems上での稼働を新たにサポートするなど、より強固な基盤へと進化させた点も見逃せない。

 「オンプレミス環境での稼働を保証しつつ、各コンポーネントのバックアップやロギングなどの共通的な非機能を、OpenShift側でカバーすることができる。また、CP4Dを信頼性の高い基盤や、パフォーマンスの高い環境で活用したい場合にはIBM Power Systemsを選択できるようになった」と述べた。

 また2020年下期から提供する機能として、利用に応じた課金により“AI Ladder(AIのはしご、後述)”を構築できる「Cloud Pack for Data as a Service」、データ発生現場でのリアルタイム分析と全社横断的な管理および最適化の実現を行う「Cloud Pack for Data Edge Analytics」、点在したデータからAIモデルを作成し、データ移動を行わずに統合モデルを作り、AI on the Edgeを可能にする「Federated Learning」を用意することも明らかにした。

 「Federated Learningは、親会社と子会社、本社と現場、あるいは外部の企業に対して、すべてのデータを公開したくないが、知見は共有したいという場合などに活用できる。データを活用したモデルだけを統合することができ、セキュリティ面でも耐性がある」とした。

Cloud Pack for Dataのさらなる進化

 なお、CP4Dの導入事例としては京セラを紹介した。同社では、社内に点在するシステムやデータの統合や連携に向けて、2017年からデータ基盤を構築しているほか、2019年からはCP4Dを活用してデータ基盤を進化させ、2020年5月から本番環境で利用するという。

 「生産現場から日々あがってくるデータを分析することで、生産性向上、業務改革、効率化を目指している。日本IBMは、人材育成にも貢献し、全社におけるデータ活用を、仕組み、サービス、人材育成といった観点から包括的に支援している」と述べた。

京セラの事例

“AI Ladder”とCP4D

 一方、会見では、日本IBMが提唱する“AI Ladder”についても説明。データを簡単にアクセス可能に収集、接続する「COLLECT」、データを分析可能に整理、整備する「ORGANIZE」、AIモデルを構築、説明性を担保、洞察を発見する「ANALYZE」、AIモデルをビジネスに活用する「INFUSE」といった4つの段階を踏むことで、AIを実用化できるとした。

 正木氏は、「AI Ladderで示していることは当たり前のことであるが、これをシンプルに、簡単にできていない企業が多い。特に、COLLECTやORGANIZEに課題がある。それを解決するための方法がデータプラットフォームであり、日本IBMが提案するのがCP4Dになる」と位置づける。

AI Ladder

 そして、「CP4Dは、AI Ladderで示すCOLLECT、ORGANIZE、ANALYZE、INFUSEの機能を提供し、シングルアプリケーションとして活用できる。また、クラウドネイティブで設計しており、さまざまな環境で利用することを前提としている。データを活用する基盤としてだけでなく、ビジネスユーザーが利用するアプリケーションも提供することができる。ビジネスの計画や予約編成に活用する機能なども提供できる」と述べた。

 さらに、「データプラットフォームの価値は、企業内に分散するさまざまなデータに対して低コストでアクセスでき、単一ビューを管理する環境を実現する『データモダナイゼーション』、企業レベルでのデータ品質などの管理を行い、反復運用による俊敏性のあるデータガバナンスを提供する『DataOpsの実現』、エンド・トゥ・エンドのAI開発や、ライフサイクルの高速化、AIモデルのモニタリングを提供する『AIライフサイクルの自動化』の3点がポイント」とした。

 このほか正木氏は、「DXが大きな転機を迎えている。企業でのデジタル活用やAI活用は実験レベルが多い。ビジネスプロセスの変革に取り組み、デジタルやAIを成長戦略に組み込む第2章が始まっており、その動きを新型コロナウイルスが加速させている。そして、多くの経営者が、今後も新型コロナウイルスのような予期せぬ課題が発生すると考えており、そのなかでいかに事業を維持、成長させるのかが重要な課題となっている。そのために、デジタルやAIがますます活用されるようになる」と前置き。

 「価値あるアプリケーションを継続的にデリバリーすること、データとAIを活用して、変化に柔軟に対応するために継続的なデリバリーを行うことの両輪があって、初めて変化に迅速に対応したITサービス提供ができる。今後は、DevOps、DataOps、MLOpsによる継続的なデリバリーモデルを実現する必要がある」との考え方を示している。