ニュース

山梨県小菅村とNTT東日本など、林業の労働災害抑止と獣害対策に関するIoTの実証実験

山間部を効率的にカバレッジする自営ネットワーク環境を構築

 山梨県小菅村と北都留森林組合、株式会社boonboon、株式会社さとゆめ、東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)は22日、豊富な森林資源を有する小菅村山間部にIoTを実装し、林業に関する課題解決およびSmart Villageの実現に向けた実証実験を2月から開始すると発表した。

 同日に行われた5者共同会見では、実証実験を行う背景や取り組みの概要について説明した。

写真左から:boonboon 代表取締役社長の青柳博樹氏、さとゆめ 代表取締役の嶋田俊平氏、北都留森林組合 組合長の波多野晁氏、山梨県小菅村 村長の舩木直美氏、NTT東日本 山梨支店長の繁尾明彦氏

 現在、日本の林業は、戦後の積極的な造林により人工林の半数以上が伐採適齢期を迎え、国産材利用の増加などを背景に木材自給率は上昇傾向にある。その一方で、林業従事者数は30年間で約1/3まで減少しているという。加えて、伐木作業中の倒木事故など林業従事者の労働災害が多く、死傷率は全産業平均の約10倍と最も高いため、早期の対応が急務とされている。また、持続可能な森づくりや災害対策の観点から、伐採後の植林や育林の必要性が高まっている一方、シカなどによる新苗などへの食害が深刻化しつつある。

 これらの課題は、IoTの活用によって抑止や効率化を図ることが可能だが、定住地域から離れた山間部では、IoTを活用するための通信環境そのものが整っていないケースが多いという。

 そこで今回、村を挙げて地方創生に取り組む山梨県小菅村と、当該エリアの森林整備や販売を担う北都留森林組合、鳥獣害対策ベンチャーのboonboon、村の地方創生総合戦略に携わってきたさとゆめ、全国各地でICTの観点から地域との協働事例を創出してきたNTT東日本は、林業の共通課題である「林業従事者の労働災害抑止」および「シカ等の獣害対策」に対して、5者協働でIoT技術を用いた実証実験を開始し、林業の成長産業化を通じたSmart villageの形成を目指す。

プロジェクトメンバーと役割

 記者会見では、5者の代表者が出席し、実証実験に向けて意欲を語った。山梨県小菅村 村長の舩木直美氏は、「小菅村は、多摩川源流に位置する人口約700人の小さな村だが、人口よりも鹿の数のほうが多く、獣害が深刻な状況になっている。現在は一人の若者が獣害対策に取り組んでおり、山内各地に設置した罠を1日かけて確認するなど、厳しい作業を強いられている。これを、IoTを活用することで、瞬時に罠の状態を把握し、ジビエにつなげていけるようにしていく。そして、今回の事例を、獣害に悩む全国の市町村に展開していきたい」と述べた。

山梨県小菅村 村長の舩木直美氏

 北都留森林組合 組合長の波多野晁氏は、「北都留森林組合は、山梨県東部に位置し、上野原市、小菅村、丹波山村を管内としており、豊富な森林資源を抱えている。そこで、“山おこし”をすることが“村おこし”につながると考えていたが、今回、IoT活用による実証実験の機会を得られたことを幸せに思っている。この実証実験を通じて、日本のさらなる成長には、林業の成長産業化が重要であることを訴えていきたい」との考えを示した。

北都留森林組合 組合長の波多野晁氏

 さとゆめ 代表取締役の嶋田俊平氏は、「当社は、この5年間、村の地方創生総合戦略の策定など、小菅村の地方創生の取り組みをサポートしてきた。小菅村は、村民、事業者、役場のすべての人々が地方創生に努力しており、直近5年で観光客数は2.2倍、村内に5社のベンチャーが誕生、22世帯75人の子育て世代が移住など著しい成果を上げている。一方で、村の面積の95%を占める森林を700人で守るのには限界が来ていた。今回の実証実験は、NTT東日本によるIoTの力を活用して、小菅村とその森林資源を守っていくことの決意表明でもある」と力を込めた。

さとゆめ 代表取締役の嶋田俊平氏

 boonboon 代表取締役社長の青柳博樹氏は、「当社は、山に生息するシカやイノシシなどの捕獲および食肉加工を手掛けており、ジビエ肉の提供も行っている。また、一般の観光客に獣害対策の大変さを体験してもらうツアーも実施している。今回の実証実験では、当社の持つ知見やノウハウを提供し、獣害対策について広く情報発信していきたい」と話した。

boonboon 代表取締役社長の青柳博樹氏

 NTT東日本 山梨支店長の繁尾明彦氏は、「山梨支店では、これまでも山梨県の農業や観光業において、地域と連携した取り組みを進めてきた。今回は、豊富な森林資源を有する小菅村をフィールドとし、特に『林業従事者の労働災害抑止』と『シカ等の獣害対策』の課題に対して、IoTを活用した実証実験を行う。当社は今後も、地域とともに歩むICTソリューション企業として、地域の人々と密に連携しながら、さまざまな課題解決を支援していく」とした。

NTT東日本 山梨支店長の繁尾明彦氏

 実証実験の具体的な取り組み概要としては、LPWA(Low Power Wide Area)の規格において最大送信出力である250mWの機器で長距離通信を可能にするとともに、中継機を複数利用するメッシュマルチホップ機能によって広範囲へのエリア拡張を実現することで、従来無線の届きにくかった山間部のネットワーク環境を構築するという。

実証実験の全体像

 NTT東日本 営業戦略推進室の中西雄大氏は、「今回は、親機1台を小菅村中央公民館4階に、中継機4台を山内各地に設置し、小菅村を広範囲にカバレッジする自営ネットワーク環境を整備する。このネットワーク環境においてセンサーやカメラなどのIoT技術を活用し、『林業従事者の労働災害抑止』と『シカ等の獣害対策』の取り組みを行い、安心安全で効率的な林業経営を目指していく」としている。

NTT東日本 営業戦略推進室の中西雄大氏

 「林業従事者の労働災害抑止」の取り組みでは、双方向通信可能な子機や専用アプリの活用により、「SOS発信」「位置情報把握」「チャットコミュニケーション」の3つの仕組みを提供する。これにより、緊急時の現場から事務所への救助要請や業務を円滑化するコミュニケーションを実現する。

労働災害抑止用ウェアラブル端末

 「SOS発信」は、伐木作業中の倒木事故などで負傷した際、子機本体のボタンを押下することで、SOS信号を発信できる。また、子機に内蔵された加速度センサーにより転落など急な衝撃をもとにトラブルを検知し、SOS信号の自動発信ができ、緊急事態の早期発見・早期対応が可能となる。

 「位置情報把握」は、子機内臓のGPSで補足した作業者の位置情報を地図上に表示することで、救助要請者の居場所の把握が可能になり、迅速かつ効率的な救助を実現する。

 「チャットコミュニケーション」は、専用アプリを介し、テキストや位置情報をチャットで送受信することで、これまで携帯電話の電波が届く所まで移動して行っていた業務連絡等の作業効率化を図ることができる。

 「シカ等の獣害対策」の取り組みとしては、子機に内蔵されたセンサーが罠の作動を検知すると、あらかじめ指定した宛先に捕獲通知が届き、捕獲の早期発見・駆け付けや巡回ルートの最適化が可能となる。加えて、巡回が困難な場所には、カメラを設置し、捕獲有無や害獣種別・大きさなどを画像で確認することで、巡回稼働の効率化を図る。

くくり罠(左)と捕獲検知/通知センサー

 実証実験の実施期間は、2月中旬から9月までの予定。今後の展開について、NTT東日本の中西氏は、「今回の実証実験で整備する自営ネットワークをSmart Villageの基盤とし、他の産業への活用を通じた地域の活性化や経済の循環を目指す。また、この取り組みを契機に、多様なパートナーとの連携を深化させ、林業界における他の課題へのICT実装やデジタルトランスフォーメーション化の検討を進めていく」と説明した。