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日本マイクロソフト、AIと企業のビジネスを融合するリーダー育成事業を開始
2019年9月12日 06:00
日本マイクロソフト株式会社は、マネジメント層にAIの知見を広める新施策「AIビジネススクール」を2019年10月に始めると発表した。これまで行ってきた、エンジニアを対象としたAI人材育成ではなく、ビジネス責任者がAI活用のポイントを理解することで、技術者とスムーズなコミュニケーションをとってビジネス施策を構築できる人材を育成する。
講習内容は、オンラインでの講習、G's ACADEMYとの協業によるハンズオン演習の両方を行う。オンライン講習についても、実ビジネスに近いラーニングを行うために、製造、小売り、医療機関、ファイナンス、政府/公共機関の5業界にフォーカスしたプログラムを提供するという。
この事業を担当する日本マイクロソフト 執行役員常務 マーケティング&オペレーションズ部門担当の岡玄樹氏は、「このプログラムはダラダラ展開しても意味がない。ターゲットを大企業としているので、1年で日経225の半数の企業へプログラム提供を実現したい。また企業経営者からは、AIがわかる人材を育成したいというリクエストもあり、そういった企業向けにはハンズオン研修の提供などを実施する」と、早期に人材育成を進める方針をアピールした。
4項目のコンテンツを活用したオンライン講習と、協業によるハンズオン演習を提供
今回提供するAIビジネススクールは、ワールドワイドで展開されているもので、グローバルでビジネススクールを運営するINSEADとMicrosoftが提携し、コンテンツ開発を行った。
コンテンツの内容は以下の4項目で、日本ではこの4項目のコンテンツを活用したオンライン講習と、G's ACADEMYとの協業によるハンズオン演習を行う。
AI戦略の策定
組織におけるAIの役割について、戦略的かつ総合的に考えるためのフレームワークを確立
AI活用に向けた組織文化の醸成
AIを活用して、財務、マーケティング、営業およびお客さまサービス向けのソリューションを提供できる組織への変革を推進
ビジネスにおける責任あるAIのあり方
リソース、ベストプラクティスおよびツールを備えたガバナンスモデルを開発するためのガイドラインを作成
ビジネスリーダー向け最新AIテクノロジー
組織が活用できるAIツール、製品、およびサービスの最新状況の理解
ターゲットとしている人材は、「企業の部長職といった役職ではない。企業側に相談すると新規事業室担当が良いのでは?と言われるが、本来は新規事業室に限らない」(岡氏)と、部署や役職は特定せず、ビジネスを担当する責任者だとしている。
今回の発表会にゲストとして登場した、グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長の田久保善彦氏は、「日本企業は依然として、『AIでなんかやってくれ!』と経営者からげきが飛び、中間管理職も、現場も右往左往するパターンが依然として続いている。ビジネス部門のリーダーがテクノロジーを理解し、ビジネスに転化するしかない。技術者と突っ込んだ話ができて、ビジネスが構築できるリーダーを育成することが必要」と述べ、テクノロジーを理解するリーダー育成が必要だとアピールした。グロービス経営大学院でも、テクノロジーを理解したMBA人材を育成していくという。
また、AIを取り入れた企業戦略の成功例としては、日本マイクロソフト自身のAI活用を紹介した。テレセールスと呼ばれる電話アポイント部門でAIを活用し、顧客に関する情報収集を行って社内に点在している情報も一元化。こうした情報をAIで分析し、アプローチすべき担当者を割り出す。テレセールスを行う担当者は、このAIの情報をもとに連絡、勧める商品を決めたところ、従来に比べ商談成約率が約3倍に向上したとした。
さらに、従来は人間がやっていた業務をAIに置き換えたものもある。
「2,3年前までは米本社に業績予測報告をすることが日本法人の重要な仕事になっていた。それが2年前、AIを使っての予測に切り替わった。当時は大丈夫?という声があがった。疑問視する人も多かった。しかし、実際にAI活用に切り替えたところ、従来予測作成に使っていた時間をほかの経営関連業務に振り分けることに成功した。時間が半分削減した。正直なところ、2年前の段階でははずれもあったが、2年かけることで成熟した。人を介さずに収束、問題があれば改善することができるのがAIの特徴。それがあるから社内オペレーションに活用できる」(日本マイクロソフトの岡氏)。
ハンズオンを担当するG's ACADEMYは、デジタル人材を育成するデジタルハリウッドが母体。これまで起業家育成を行うことが多かったが、「今回は、講義はオンラインで学び、ハンズオンでは自分のビジネスをどうするのか、じっくり考えてもらう。またAI活用によって、業務効率化だけでなく、仕組み、文化として社内に定着させるための体感をしてもらう。経営層や中間層に参加してもらうが、半日でAIのすべてはわからない。半日で全体像をつかんで、そこからお互いに教え合うことで、すべての企業、ビジネスにAIが入っていく世の中に向かってもらいたい」と、G's ACADEMY ジェネラルマネージャーの児玉浩康氏は説明した。
なお、2018年に日本で行われた「Microsoft Tech Summit 2018」の基調講演に登壇した、Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏は、「さまざまなソフトウェアの中にAIが組み込まれる時代となる。企業は、『AIを導入した』だけでは優位性を得られない時代が来る」と断言した。
この言葉通り、Microsoftのさまざまな製品にはAIが組み込まれているが、「その中で企業が優位性を得るためには、AIを人間拡張のために活用していくことが経営層に求められる。その入り口となるのがデータ。データによって多様な展開が可能となる」(日本マイクロソフトの岡氏)と、AI導入にとどまらず、活用のためにAIを使うことが必要と説明した。