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ソフトバンク・宮内謙社長が法人事業を説明 「法人向け事業の営業利益を数年後に2倍へ」

 ソフトバンク株式会社は2日、法人向け事業戦略について説明する記者会見を開催。同社内に設置した120人体制のデジタルトランスフォーメーション本部を通じて、2020年度までに、17案件の法人向け新規ビジネスの収益化を目指しているほか、「小売・流通」「不動産・建設」「サービス・観光」「ヘルスケア」の4つの領域を重点分野に位置づけ、事業拡大を目指す姿勢を明らかにした。

 ソフトバンクにおける2018年度の法人向け事業の売上高は6205億円、営業利益は763億円。ソフトバンク 代表取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏は、「法人向け事業の営業利益を、数年後に2倍にすることを目指す」とした。

法人事業の売上高と営業利益
ソフトバンク 代表取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏

新たなビジネスを創出する専任体制を構築

 現在、ソフトバンクは3000人規模の法人向け営業部門を持つが、2年前に優秀な社員を選抜し、120人規模で新たなビジネスを創出する専任体制を構築。これをデジタルトランスフォーメーション本部とし、法人向け事業の成長をドライブさせる組織に位置づけた。

 ソフトバンク 代表取締役副社長執行役員兼COOの今井康之氏は、「デジタルトランスフォーメーション本部は、社会の課題解決に向けた専門組織。国内企業の非デジタル化率が8割という段階で設置した組織であり、これまでに450の事業アイデアを出し、そのなかから、現在は35個のプロジェクトが進んでいる。そのうち、2020年度までに17案件で収益化を目指している」と説明する。

デジタルトランスフォーメーション本部
DX本部のミッション
通信ではなく、新規事業に必要なスキルを徹底強化したという
ソフトバンク 代表取締役副社長執行役員兼COOの今井康之氏

 ソフトバンク 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部の河西慎太郎本部長は、「17案件についてはすでにビジネスモデルが固まっている。レベニューシェアやジョイントベンチャー、プライベートイクイティ、資本業務提携などの形がある」とした。

 これまでに三菱地所、住友生命、国土交通省などとの共創事例があるという。

ソフトバンク 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部の河西慎太郎本部長
社会課題解決に向けた共創がスタート

イオン九州との実証実験

 今回の会見では、具体的な事例としてイオン九州との実証実験を取り上げた。

 これは、「ラストワンマイルの配送マッチング」の事例であり、生鮮食品を含む生活品を、午後10時以降にも受け取れるサービスにより、買い物客が会社からの帰宅後に商品を受け取れるようにするほか、ネットスーパーの積極的な活用によって、買い物の負担を軽減することで、家族との時間を増やせるようにする。一方ネットスーパー側では、配送コストの削減、サービスの拡大および向上が図れるという。

 システムとしては、CBcloudの配送マッチングサービス「PickGo」を利用。IoTを活用して配送状況を見える化するとともに、現在、約1万人に達している登録ドライバーも活用し、荷量に応じて必要な車両数だけを手配する。また地域のドライバーとマッチングして、午後10時以降の配送需要にも対応するという。

 ソフトバンクの河西本部長は、「2019年6月からスタートした実証実験では、イオンショッパーズ福岡店のネットスーパーで午後3時までに注文したものであれば、当日の午後10時以降にも配送する。ドライバーとのマッチングは、99%を超えている。また、PickGoへの登録ドライバーは、毎月10%ずつ増加している。デマンドとサプライをマッチングし、配送コストを下げることにつながっている」などとした。

ネットスーパーの夜間配送の実証実験を開始
配送マッチングサービスの活用

 調査によると、生鮮食品のEC化率はわずか2%にとどまっており、その理由として、共働き世帯が増え、配達時間に家にいない、すぐに商品が手元に届かない、配送料金が高いなどの理由が挙がっている。また、事業者側では、配送時間帯の延長ゃ配達回数の増加などによる配送コストの増加という課題があった。

 イオン九州との実証実験は、こうした双方の課題を、デジタルを活用することで解決する取り組みのひとつだといえる。

生鮮食品のEC化率はわずか2%

 ソフトバンクの河西本部長は、「今後は、ドライバーの登録を促進させるとともに、ドライバーの教育、全国展開の検討のほか、クルマを活用した配送だけでなく、バイクを使った配送やドローンを使った配送、将来的には、自動運転による配送も提供したいと考えている」と説明。

 「現在、成功に向けたKPIの数字を確認をしている段階であり、まだ、成功モデルといえる段階にはない。KPIを達成するための取り組みを進めているところだ」とした。

「小売・流通」を特に重要な領域に位置付け

 ソフトバンクでは、「小売・流通」「不動産・建設」「サービス・観光」「ヘルスケア」の4つの領域を法人向け事業の重点ターゲットしており、収益化を目指す17案件中、「小売・流通」で4件、「不動産・建設」で3件、「サービス・観光」で2件、「ヘルスケア」で2件が進行中だという。

注力領域

 そのなかでも「小売・流通」は、特に重要な領域に位置づけている。

 「過去2年間に渡って、さまざまな業界の企業と共創を進めるなかで、物流業界における各種課題が、各業界のビジネスの成長を阻害していることに気がついた。まだ、物流領域では、紙を使って仕事を進めているケースも多く、デジタル化によって、サプライチェーン全体の最適化を図る必要がある」とする。

 中でもソフトバンクが着目したのが、「配送デポから受け渡しのところまでの課題」である。

 「国内EC市場は年率9%で成長しており、同時に宅配個数は1年に1億個のペースで増加。ドライバー1人あたりの取り扱い荷物数は10年間で2.4倍に増加している。一方で、単身世帯や共働きの2人世帯は、30年間で10%も増えており、日中の時間帯に荷物が受け取れないケースが増加。再宅配率は20%に達し、場所によっては、50%を超える初回不在率が発生している。年間8億個が再配達になっているというのが実態だ。またこれまでのように、固定化された配送力では、デマンドが高まれば機会損失を招き、デマンドが減れば余剰コストが発生するという環境にある。デジタルを活用することで、物流の仕組みを高度化させることが必要である」と指摘。

 「ソフトバンクでは、基幹配送マッチング、ラストワンマイル配送マッチング、受け取り方の多様化に対応することで、新たな配送サービスを実現したいと考えている」とした。

固定化された配送力の課題
将来的なサービス構想

 さらに、「物流以外にも、日本の社会課題は多く、それによる経済的損失も大きい。自然災害や交通渋滞、生活習慣病、インフラ老朽化などの課題を合計すると100兆円以上の経済的損失がある。デジタルトランスフォメーション本部では、パートナーとの共創と、プラットフォーム型ビジネスモデルを基本戦略とし、社会課題を解決していくことになる」(ソフトバンクの河西本部長)と位置づける。

利益倍増で1兆円弱の売上規模を目指す

 ソフトバンクの法人事業は、JRの通信部門が独立した日本テレコムを2004年にソフトバンクが買収。法人向けに通信インフラを提供するところから始まっている。当時は、法人向け固定電話サービスとして、コストダウンのメリットを提案する「おとくライン」を提供し、150万回線の契約を獲得している。

 また、2006年には、携帯電話サービスのボーダフォンを買収してモバイル分野に参入。iPhoneを活用した企業のワークスタイルの変革を提案するなど、これまでに、約34万社へのスマートデバイスの導入実績を持つ。

 「日本テレコムを買収したときには、500億円を超える赤字であったが、現在では763億円の黒字となり、今後、倍増を目指す。利益を倍増したタイミングでは、1兆円弱の売り上げ規模になる」と、ソフトバンクの今井副社長兼COOは説明した。

法人事業の変遷
日本テレコム時代
ソフトバンクテレコム時代
法人事業の営業利益の推移

 「法人向け事業におけるスタンスは、プロダクトを販売するのではなく、企業がどこに悩みを持っていて、それをどう解決していくのかに力を注いでいくという点である。顧客目線でソリューションを作り上げることが大切である。企業の課題解決が、社会課題の解決につながる。現在、年商1000億円以上の上場企業のうち94%がソフトバンクとなんらかの取引がある。また、ソフトバンクには、データ収集から課金ができるところまでデジタルテクノロジーを提供でき、ソフトバンクグループが持つ世界の先端テクノロジーを、差別化したものとして日本に持ってくることもできる。だが、1社では、なにもできないことも痛感している。業界別に、キーパートナーとともに、ソリューションを作っていることが大切である」などとした。

 また、「デジタルトランスフォーメーション本部のミッションは、日本の社会課題に対峙(たいじ)するとともに、ソフトバンクの次の柱になる事業を創出することにある。通信事業にとどまらず、新規事業に必要なスキルを徹底的に強化し、新たなビジネスモデルをどう作り上げるかということを、企業とともに一緒になって解決していく。各業界のリーディングカンパニーや先進の取り組みをしている企業と、プラットフォーム型のエコシステムによるビジネスモデルを展開する。共創の上でビジネスモデルを磨き上げていく」(ソフトバンクの今井副社長兼COO)とも話している。

法人事業のミッション
企業解決の課題が社会課題の解決につながる
パートナーとの共創で新たな価値を創出
データ収集から課金までのプラットフォームを保有

 一方、ソフトバンクの宮内社長は、「通信事業によるコア事業は右肩あがりで伸びていく計画だが、それに加えて、『Beyond Carrier』の事業戦略のもと、通信事業者の枠を超えて、AIやIoT、5Gをはじめとした最先端テクノロジーを活用したサービスを提供することで、事業の拡大を目指す」とする。

 さらに、「世界のIoTデバイスは、2035年には1兆個になり、1人あたり100個のデバイスを持つことになる。また、世界のIoTデータ量は1カ月あたり2ZB(ゼタバイト)になる。1台のクルマが動くだけで4TBのデータが生成されるようになる。また、AI市場は2025年には318兆円に達し、データに基づくAIビジネスも拡大する。世界のデータ活用市場も2023年には40兆円になる。このように、新たなテクノロジーが新たな市場を作るとともに、テクノロジーの進化によって、あらゆる産業が再定義されることになる。ソフトバンクは、社会課題の解決を日本の企業とともに推進していくことになる」との意気込みを示した。