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データベースにAIを組み込みビジネスを加速――、日本IBMの新たな事業戦略

 日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は26日、データベースに関する新戦略発表会を開催した。

 これまで、データベースのAI活用は運用負担を削減することなど、システム担当者の負担を軽減するものだった。しかしIBMでは、業務やアプリをAI化することで、ビジネスを加速することを狙う。

IBMのAIデータベースとは?

 そのためにAIを組み込んだ「IBM Db2 the AI database」を提供。「AIに必要なデータの仮想化統合」「データに隠された新たな洞察を導き出す」「自然言語で人と会話するようなデータ探索」という3つを実現することで、業務プロセスやアプリに密接にAIが入った世界を実現する。

 またクラウドデータベースとして、3月末から米国のAmazon Web Services(AWS)でIBMのDb2を提供するフルマネージドサービス「Db2 Warehouse Flex on AWS」がスタートした。今後、AWS以外の他社クラウドでも利用できるようになる予定だ。

あらゆる人がデータ活用できる仕組みを提供

 日本IBMでは2月末に事業を改編し、データベース事業と、SPSSなど分析関連の事業が1つの事業部となった。IBMのDataとAIに関する事業方針としても、「Any Data=あらゆるデータを使いやすく、生産性向上・コスト最小化」「Anyone=だれもがデータ分析者、データサイエンティスト不足の解消」「Any AI=あらゆるAIに対応、新たなビジネスへの挑戦、売上向上・コスト削減」という3つを事業方針として掲げている。

IBM Data&AI事業方針

 「他社のデータベースやデータストレージからも活用できる仕組みを整え、あらゆる人がデータ活用できる仕組みを提供する。あらゆるAIということでWatson以外、他社AIも活用できる仕組みを目指す。今日の話は大きな節目になる製品とビジョンの発表となる」(日本IBM クラウド事業本部Data and AI事業部 Products & Solutions統括部長 村角忠政氏)。

日本IBM クラウド事業本部Data and AI事業部 Products & Solutions統括部長 村角忠政氏

 今回発表するAIデータベースについては、多くの企業がAIを取り入れているものの、米国での調査でも「業務プロセスにAIを組み込んで活用しているのは、AIを活用する企業20社のうち1社のみ」と、まだ少ない。

 「IBMではすでにAIのテクノロジーそのものをデータベースに入れて、IT部門がメリットを享受するものとして提供している。ただし、これは他社もやっていること。当社はお客さまの業務システムにAIを組み込むためには、Build for AIという考え方を提唱する。今日はその代表的な3つの機能を紹介する」(村角氏)。

AI活用のステップ

 1つ目の機能は、あらゆる場所に点在している、複数データソースにたまっているデータを、物理的に1カ所に集めることなく仮想的にデータを統合する「IBM Data Virtualization」。従来はデータウェアハウス(DWH)のようにデータをコピーして蓄積する場所を必要としていたが、Data Virtualizationでは、それぞれのエッジから受け取った結果を管理ノードとしてマージし、そこから処理・演算を行う。

 データソース同士が自律的にやり取りを行ってデータを取得し、データ移動やETLは不要となるため、オーバーヘッドがなくシンプルで高性能となり、物理的にデータを統合せずにコスト最適化を実現するという。

IBM Data Virtualization
従来のテクノロジーと何が違うのか?

 2つ目の機能は、隠された新たな洞察やトレンドを自動で導き出す「Cognitive Query」。2019年7月をめどに提供を開始する予定だ。

 「例えば、SQLは正確に書いたものを正確に戻すもの。しかし、違うデータベースに行くと、もう少しチューニングしないと良い結果を得ることができないなんてことがよくある。そこでクエリーそのものをニューラルネットワークで賢いものとするのがこの機能。どんどん賢くする作業を機械学習によってさらに良くしていく」(村角氏)。

Cognitive Query

 3つ目の機能は、自然言語で検索することができる「Natural Language Query(NLQ)」と、データ探索ツール「Db2 Augmented Data Explorer」。例えば、「月ごとの平均売上」といった自然言語でデータ探索することができるので、SQLを学習しなければデータ探索できないといったことがない。データ分析の専門家だけでなく、現場の担当者がデータ探索できるようになる。

 データを確認する軸となる変数も、自動的に検知・リコメンデーションする。また、売上変遷の将来予測といった使い方もできる。

Natural Language QueryとDb2 Augmented Data Explorer
自然言語による分析デモ
グラフと分析コメントで表示し、グラフも円グラフ、棒グラフなど選択が可能

 なお、それぞれの機能を理解するためにユースケースが紹介された。米国では製造業がIoTで採用。エッジの数は数万、データベースの種類もさまざまになる中、データも膨大となっていた。さまざまなところにあるデータベースからデータを持ってくる作業をData Virtualizationで実現している。

 流通・販売業では、売上データやWebログなどが分散し、事業部ごとに顧客情報のデータがバラバラになっていることから、データ仮想化によって必要なデータのみをDWHへ統合。Cognitive Queryで販売傾向や離反傾向を予測するために活用しているという。

 また経営分析では、買収などで異なるシステムを統合しなければならない場合に、自律的にデータソース同士が通信し、テーブル名、列名のゆらぎも吸収しながら必要な形式のデータを自動的に整形し活用する、といった具合に利用することができるとした。

ユースケース(IoT/製造業)
ユースケース(流通/販売業)

 日本IBMでは、こうしたAI機能を備えたデータベースによって、業務アプリのAI化を促進していく考えだ。

 あわせて今回は、クラウドデータベースの最新情報も公開された。導入事例としてTHK株式会社が全世界の販売データ、国内の生産データ分析のための基盤として、IBM Db2 Warehouse on Cloudを採用したことが発表された。IBMのiシリーズ上の基幹データに関して、一元化とリアルタイム化を実現し、実効的なPDCAサイクルを構築している。

THKの事例