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テクノロジーソリューション事業で2022年に営業利益率10%を――、富士通・田中達也社長が経営方針の進捗を説明

 富士通株式会社は26日、経営方針進ちょくレビュー説明会を開催し、「テクノロジーソリューション事業において2022年に営業利益率10%の達成を目指す」とした

 富士通の田中達也社長は、「本業へのテクノロジーソリューションへの集中が進んだことから、今後は、テクノロジーソリューションを対象に、全社費用を加味して示す。ビジネスの内容を着実に進化させ、成長を実現する」と語っている。

富士通の田中達也社長
目指すビジネスモデル

テクノロジーソリューションで2022年度に売上高3兆1500億円を目指す

 2015年10月に発表した経営方針では、田中社長の在任期間中に、連結営業利益率10%以上、自己資本比率40%以上、フリーキャッシュフロー1500億円以上、海外売上比率50%以上を目標に掲げていたが、「自己資本比率とフリーキャッシュフローの指標は、見込み通りに進ちょくしているが、営業利益率、海外売上比率は見直すことになる」とした。

 具体的な数値目標として、2022年度に、テクノロジーソリューション事業で、売上高3兆1500億円、営業利益率10%を目指すことを新たに発表した。

経営目標
テクノロジーソリューションで営業利益率10%を目指す

 そのうち国内では売上高2兆1500億円、海外で1兆円を目指す。この計画はM&Aを含まないオーガニックな成長をベースに策定。海外売上高比率50%の目標については、2022年度までの計画からは除外することにした。

 田中社長は、「海外事業は売り上げ規模を追うのではなく、顧客への価値提供を目指し、強固な収益体質の確立を目指す」と述べた。

 富士通のテクノロジーソリューションは、ITシステムのコンサルティングや設計、アプリケーション開発、実装などのインテグレーションを行うソリューション/SIと、ICTシステムをデータセンターなどにおいて、一括運用管理を行うアウトソーシングや保守サービスを中心にインフラサービスを展開する「サービス」、ITシステムを構築するサーバー(メインフレーム、UNIX、基幹PCサーバーなど)やストレージシステム、ミドルウェアなどのシステムプロダクトと、携帯電話基地局や光伝送システムなどのネットワークプロダクトを軸としたる「システムプラットフォーム」で構成されている。

 「私の過去の経験からも、この目標については達成できると考えている。稼ぎ頭はグローバルインテグレーション。顧客のビジネスに深く入っていくサービスインテグレータとしての事業が稼ぎ頭になる」(田中社長)とした。

 このほか、今回の新たな計画の発表にあわせて、いくつかの構造改革についても発表したが、「日本における構造改革の成果が現れるのは2020年度前半、海外では2020年度後半になる。そのため、2019年度の成果は横ばいと見ている」とし、2018年度見通しの売上高3兆1000億円(国内2兆500億円、海外1兆500億円)から、2019年度は売上高3兆円(国内2兆500億円、海外9500億円)へと一時的に縮小させる。

 またM&Aについて、「機会があれば積極的に行っていく。富士通が提供するサービスを強化する上で、補完ができ、シナジーが高まる企業や、製品を強化するために有力な技術を持っている企業がM&Aの対象となる。相手先企業の規模も柔軟に考えたい。 だが、スピードが優先されている世の中で、機能的にM&Aをしていくことが合っているだろう」とした。

 田中社長は、「サービスオリエンテッドカンパニーとして、つながるサービスで収益力を高め、成長を目指しているのが、いまの富士通の姿。この実現に向けて、コア事業であるテクノロジーソリューションに経営資源を集中する『形をかえる』取り組みと、テクノロジーソリューションの事業内容を進化させ、成長を目指す『質をかえる』ことに、これまで取り組んできている。『形をかえる』取り組みについては、デバイスソリューション事業、ユビキタスソリューション事業の主要ビジネスに関して、独立化を進め、ひとつの山を越えたと考えている。今後は、『質をかえる』取り組みにより集中させ、成長を目指す」と位置づけた。

成長に向けた3つの施策

 成長に向けた施策として、「国内ビジネスの営業改革」、サービスインテグレーションビジネスの強化や商品力強化などによる「事業の強化」、「新たなグローバル体制の構築」の3点から説明した。

成長に向けた施策

 国内ビジネスの営業改革では、富士通本体とグループ会社に分散している国内1万人以上の営業体制を見直し、重点分野にパワーシフトするという。具体的な取り組みとして、従来のアカウント営業に加えて、専門営業を強化。「顧客から見てもわかりやすいシンプルな営業体制になり、より付加価値の高い提案を、スピーディに行えるようになる。国内市場における収益拡大やシェアアップにつなげ、圧倒的な事業基盤の確立を目指す」とした。

 専門営業は、製造・流通分野を中心に、顧客の事業やLoBに入り込み、パートナーとともにビジネスを創出するチーム、AIやIoTといった最新のデジタルテクノロジーにより、顧客の事業に新たな価値を提供するチーム、組織や業界の垣根を越えて、顧客同士をつなぎ新たなビジネスモデルによるクロインダストリーを創出するチームで構成される。

 「専門営業については一部の部門で着手しているが、これを加速して2020年度には1200人の規模に増強する。アカウント営業に専門営業を加えることで、事業部門とのシナジーをさらに高め、より細かく顧客の事業に貢献し、ビジネス創造できる真の事業パートナーに発展したい」と述べた。

国内ビジネスの営業改革
専門営業の強化を図る

 事業強化に向けた施策では、基本方針として、世界に通用する商品開発を目指す「統一戦略によるグローバル商品開発」、テクノロジーにこだわり有力な製品を開発してきた姿勢を維持しながらも、有力なパートナーが持つ商品やサービスを組み合わせ、高い価値を実現する「自前主義からの脱却」、事業部門や研究開発部門を戦略的に各リージョンに配置し、ニーズを適切に把握し、地域における営業部門と密接に連携する「市場特性にあったスピーディなサービス提供」、世界各地において、多様で実践力がある人材獲得を行う「グローバルに競争力のある人材の獲得、育成」の4点を挙げた。

事業強化の基本方針

 「統一戦略によるグローバル商品開発では、開発の司令塔を、世界の最適な場所に設置。第1弾として、AIについてはカナダ・バンクーバーに本社機能を設置した」と述べた。

 事業強化に向けた具体的な取り組みとしては、まずはコンサルティング部門の強化を挙げた。「昨年富士通では、顧客のデジタルトランスフォーメーションを支える組織を立ち上げたが、今後、この組織と富士通総研の連携を強化。これを中核として、資質のある人材を投入することで、500人規模のコンサルティング組織を立ち上げる。外部からのコンサルタントの獲得に加えて、コンサルタントパートナーとして他社とのアライアンスにも積極的に取り組む」とした。

 2つめが、サービスデリバリーの変革だ。「アジャイル手法をエンタープライズ分野に適用するため、すべての組織にエンタープライズ・アジャイルを展開する。さらに、これに対応可能な人材を、統一したメソドロジーに基づき、日本および海外で順次育成。特にEMEIAでは、先行して1万人を対象にした教育をスタートし、AIやRPAなどのデジタル技術を推進するとともに、作業の自動化や高度化を進める。2020年度には、少なくとも100億円の効率化の効果を目指している。さらに、従来は人月をベースにしたモデルであったが、今後は提供価値をベースにしたモデルにシフトしたい。付加価値の高いサービスを提供する」とした。

サービスインテグレーションビジネスの強化

 また国内市場においては、営業の強化と連動しフロントリソースを強化する。中でも、製造・流通分野のエンジニアリソースを強化。現在、3800人の人員を、2020年には4300人まで増員する。

 海外では、すでにサービスデリバリー人材へのシフトを進めており、今後も強化するという。具体的には、グローバルデリバリーセンター(GDC)の高度化に取り組む。現在、GDCは世界8カ国で、1万4000人のリソースを擁しており、オフショア機能に加えて、高度なサービスを支えるグローバルハブを設置する。業種ナレッジやテクノロジーナレッジをここに集結し、日本を含めた各リージョンから活用できるようにするという。「GDCは、専門力を生かしたビジネス拡大という全社方針の実行を、サービスデリバリーにおいて支えるものになる」とした。

 特に、強化するのがSAP関連人材の強化。「2020年度には通過点として、全世界でSAP関連人材を5000人にまで強化し、2025年に訪れるSAPライセンスの切り替えに向けて、顧客ニーズに対応する体制を作り、このビジネス機会を確実に収益につなげたい」とした。

 成長に向けた施策として3つめに掲げた「新たなグローバル体制」としては、グローバルマトリクス5.0と呼ぶ仕組みを採用。各リージョンにおけるマーケティング機能を強化するほか、世界中から集めた情報をグローバルな営業戦略や事業戦略に反映。人材についても適材適所に配置し、グローバル人材を育成するという。

 「富士通がマトリクス経営を導入してから5年を経過した。その進化系として、これをグローバルマトリクス5.0と呼ぶ。世界中の顧客に対して、価値があるサービスをスピーディに提供する枠組みが整備されると考えている」(富士通の田中社長)とした。

グローバルマトリクス5.0

クラウドビジネスにおける商品力強化

 一方で、クラウドビジネスにおける商品力強化についても説明した。2018年度上期に以前からの自前主義を転換し、MicrosoftやVMwareといったメガクラウドパートナーとのアライアンスを積極化し、全世界1万人規模の認定エンジニアの育成を進めていること、クラウドへのマイグレーションや自動配備に関するツール群を拡充し、オンプレミスとつなぐハイブリッドITビジネスに注力していることに触れたほか、AIやIoTなどのクラウド上のアプリケーションを拡充することにも取り組んでいることを紹介した。

 また、グローバルに均一なサービスを提供することで、最適なクラウドを選択できるだけでなく、エッジからクラウドまで一貫したサービスを富士通から受けることができるようになる。

 「富士通にとっては、自社が強みを持つ部分に経営資源を投入でき、同時にグローバル企業向けのビジネスを拡大できる。またAIは、グローバル起点での開発と商品展開を行うために、AIの先進基地であるカナダ・バンクーバーに本社機能を持たせ、北米のスタートアップ企業との連携や人材獲得を行って、日本を含む世界の開発拠点と連携してトップクラスの開発を行う」とした。

クラウドの強化

 デジタルアニーラについては、難解な組み合わせ最適化問題を解決したり、製造工程の革新、新薬のスピーディな開発、最適な金融ポートフォリオの開発などにおいて実績が出ており、「今後は適用領域の拡大を進め、これらの成果をビジネスに展開していく」とした。

 セキュリティについては、同事業に関する本社機能を東京とロンドンの2カ所に設置。デリバリー体制を強化するために、セキュリティ・マイスターSEを2021年度までに1万1000人に増強するという。

デジタルビジネスの強化

 このほか、ネットワーク領域において、エリクソンとの戦略的パートナーシップを発表したことについても言及。日本市場において、モバイルキャリア向け5G無線基地局の共同開発を行い、将来的にはこれをグローバル市場に展開していくことにも触れた。ここでは、5Gネットワーク網パケットコア領域においても、エリクソンの製品をベースに、富士通がインテグレーションを提供。日米で保有する製造拠点でグローバル製品を生産することも検討していることにも触れた。

 田中社長は、「市場の変化に対応するためには1社でやる時代はすでに終わっている。富士通の持つ技術やサービスをどの企業と組めば最もシナジーが出るかということを考えた。期待できる関係になる」と発言。

 また富士通の塚野英博副社長兼CFOは、「エリクソンは無線の専業メーカーとしての強みがある。そこに富士通が持つ無線技術、光伝送技術、基地局同士をつなぐバックホール技術などの広範な技術と、インテグレーション技術、そして日本市場における信頼を組み合わせることができる。両社のシナジーを発揮できるだろう。夢になるかもしれないが、世界に向けて、一緒に製品を提供することも視野に入れたい」とした。

 その一方で、「ネットワークは国の神経系統であり、しっかりと守ることが大切であり、そこに富士通の使命がある。従来のネットワーク事業はハードウェアに依存した事業であったが、専用機を作るだけでは通用しない。富士通は、サービスオリエンテッドカンパニーを目指し、ソフトウェアとサービスを活用したインテグレーションに取り組む。ネットワークも同じである。自社のハードだけでなく、他社のハードウェアをつなげていくといったことも起こるだろう。だが、これは富士通がハードウェアを投げ捨てるものではない。ハードウェアは一緒に開発するといったことを行っていく」(塚野副社長)とも述べている。

ネットワークの強化を図る
富士通の塚野英博副社長兼CFO

 さらに、EMEIAにおいては、利益率改善に向けて抜本的な構造改革を実施。そのなかで、ドイツのアウグスブルグ工場の閉鎖に向けた検討を開始すると述べた。

 「これまで富士通の開発と製造は日本とドイツに分散していたが、これらの機能を本社に集約し、意思決定のスピードをアップするのが狙い。ドイツの拠点は販売機能に集中することになる。また、その他の拠点にある開発、製造機能も終息する。全体の半数にあたるプロダクトビジネスの依存度が高い不採算拠点を整理し、顧客基盤が強い、英国やドイツの拠点に経営資源を集中する。ドイツの拠点では、サービス中心への質的転換のために経営体制を刷新する」とする。

 一方、「EMEIAでは、サービスビジネスの強化に向けて、リソースの入れ替えなどの手を打ってきたが、売り上げ、利益率ともに十分ではなく、プロダクトビジネスの依存度が、引き続き高い状況にある。それが足を引っ張る課題となっており、成長の芽をつぶしてしまうこともある。ここに関しては、選択と集中の動きが遅かったと反省している」(田中社長)とした。

EMEIAにおける施策

経営体制の見直しを実施

 なお富士通では経営体制を見直し、2019年1月1日付けで、代表取締役を田中達也社長と塚野英博副社長の2人体制とするほか、執行役員を現在の執行役員常務以上とすることで、役員数を半減し、事業責任を明確化する。代表取締役を含むと、60人から26人に減少する。

 さらに複数の事業部門を、テクノロジーソリューション部門としてひとつに集約し、指揮系統のシンプル化と、従来の部門を越えたシナジーの創出を図るという。また、全体最適の視点で、グループフォーメーション改革を加速するため、一部主要子会社の社長は富士通の担当役員が兼務し、グループガバナンスを強化する。

 「例年は4月に行っている役員人事を、1月に前倒しした。経営体制を例年以上に抜本的に見直した。サービスオリエンテッドカンパニーを目指した『質をかえる』取り組みを早期に実現するため、経営体制を抜本的に見直し、意思決定の実行力のスピードアップおよび責任と権限の明確化を図る」とした。

新経営体制

 さらに、5000人規模のリソースシフトによる成長領域の増強と、間接および支援機能の効率化、適正化を図るとし、コーポレートファンクションなどの業務ノウハウを活用した営業、SE、業務コンサルティング、SAPコンサルティング人材の育成などの育成に取り組む。

 一方、グループ会社の間接および支援機能を富士通本体に集約。サービスカンパニーにふさわしい人材投資の拡充、グループ内外へのキャリアチェンジや転進を支援する。そして、製造体制については、事業規模や業態に応じたフォーメーションの見直しを進めるとした。

 「5000人のうち、直接部門への異動や退職がどの程度になるのかということは現時点では言えない。間接部門の25%が対象になる。製造体制については、統廃合というよりも、作るものの量に応じた製造体制、コストを賄える製造体制を前提としている」(塚野副社長)と語った。

成長に向けたリソースシフト

2018年度上期連結業績

 富士通が発表した2018年度上期(2018年4月~9月)の連結業績は、売上収益は前年同期比4,6%減の1兆8345億円、営業利益は同240.2%増の952億円、税引前利益は同97.5%増の1172億円、当期純利益は同86.6%増の811億円となった。

2018年度上期経営成績

 第1四半期同様に、本業よりも再編影響および退職給付制度などの特殊事項が影響する内容になっている。「本業は、ほぼ前年並みの結果となり、ネットワークおよびLSIの所要減の影響を受けたものの、国内サービスを中心にカバーした。各セグメントは計画通りに進んでいる」(塚野副社長)という。

 セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上収益が前年同期比0.1%減の1兆4091億円、営業利益は同6.7%増の478億円。そのうちサービス事業の売上収益が同0.6%増の1兆2075億円、営業利益が同9.3%増の468億円。さらに、サービスの内訳となるソリューション/SIの売上収益が同5.8%増の4944億円、インフラサービスの売上収益は同2.7%減の7131億円。

 「ソリューション/SIは、上期としては過去最高の売上高となった。公共分野での大規模プロジェクトを獲得。製造・流通も引き続き好調に伸長した。インフラサービスは、実態では若干の増収。だが、一歩踏み込んだ改革が必要である」とした。

テクノロジーソリューションの概況
そのうち、サービスの概況

 テクノロジーソリューションの内訳となるシステムプラットフォームの売上収益は前年同期比4.2%減の2015億円、営業利益は同48.8%減の10億円。そのうち、システムプロダクトの売上収益は前年同期比9.7%増の1219億円、ネットワークプロダクトの売上収益は同19.8%減の795億円。

 「IAサーバーが国内、海外ともに増加。だが、国内向け携帯電話基地局の投資抑制が続いている。ネットワークの減収影響は受けているが、開発費圧縮などの費用効率化を進めており、減収幅を縮小した。今後もキャリア向けビジネスが厳しいと考えており、構造改革を進めることになる」とした。

テクノロジーソリューション(システムプラットフォーム)の概況

 ユビキタスソリューションは、売上収益が前年同期比23.5%減の2452億円、営業損失は128億円減の同20億円の赤字。「PCおよび携帯電話による事業再編により、連結対象となった減収影響が約マイナス800億円。再編影響を除くと、法人向けPCの販売が伸長し、約5%の増収になる」という。

 デバイスソリューションは、売上収益は前年同期比5.5%減の2641億円、営業利益は同68.9%減の22億円となった。そそのうち、LSIの売上収益は同12.6%減の1257億円、電子部品の売上収益は同2.1%増の1389億円。「スマートフォン向けLSIの物流減を中心に減収。円高による為替影響の減益につながった」という。

ユビキタスソリューションの概況
デバイスソリューションの概況
事業別セグメント情報(2018年度第2四半期)

 一方、2018年度(2018年4月~2019年3月)の通期業績見通しについては据え置き、売上収益が前年比4.8%減の3兆9000億円、営業利益は同23.3%減の1400億円、当期純利益は同35.0%減の1100億円とした。

通期業績見通し