ニュース

GitHubのイベントに日本マイクロソフトの榊原CTO登壇、「今後もGitHubの独立性を守る」と明言

 GitHubは12日、独自イベント「SATELLITE TOKYO 2018」を開催。初日の基調講演には、米GitHub テクノロジー担当シニアバイスプレジデントのジェイソン・ワーナー氏が登壇し、「ソフトウェア開発の未来」と題した講演を行った。

 ワーナー氏は、「ソフトウェア開発者にとって、もっとも大きなチャンスがある時代が今」と話しながら、多数の言語やコードがはんらんしており、その中からどれを選択すべきかなど、開発者は多くの課題を抱えている時代でもある、と説明。GitHubはソフト開発をよりシンプルに行えるものとすべく、今後も発展を続けるとした。

米GitHub テクノロジー担当シニアバイスプレジデントのジェイソン・ワーナー氏

 この講演の後半には、サプライズゲストとして日本マイクロソフトのCTOである榊原彰氏が登場し、「(米Microsoftによる)買収が完了した後でも、GitHubの独立性は損なわれない」と、単独企業として存在していくことを強調した。

最初の米国外の拠点として誕生した日本オフィス

 基調講演の冒頭には、日本法人のカントリーマネージャーである公家尊裕氏が登場。「GitHubが誕生し今年で10年になるが、3年前、大きな決断を行った。それは本社以外の場所に拠点を置くこと。その最初の米国外の拠点として誕生したのが日本オフィスだった」と話した。

ギットハブ・ジャパン合同会社 カントリーマネージャー 公家尊裕氏

 GitHubでは全世界に2800万のユーザーを持ち、登録されているリポジトリ数は8500万。日本の状況についても、「ユーザー数は250%増加し、PULL REQUESTは550%、OSSユーザーは77%増加した」と、公家氏は紹介した。

 昨年も今年と同様に日本でイベントを開催したが、「昨年のイベントには200人が参加。今年は今日と明日の2日間で800人の皆さんとの情報交換を!と考えたが、申し込み開始から2日で800人の枠が埋まってしまい、多くの方がウエイティングリストに名前を登録して待ってもらっている」とし、注目度が高くなっていると述べた。

 今回の基調講演のスピーカーとして登壇したのは、ワーナー氏。同氏は、アポロ11号のために開発したソースコードが書かれた紙の山と、IBMのマーガレット・ハミルトン氏が写っている写真を紹介し、「当時はこの紙に書かれたソースコードをパンチカードに転記して利用されていた。バージョンコントロールはキャビネットの中で行われるものだった」と、往年のソフトウェア開発は、現在とはまったく異なる環境で行われていたことを説明。

 そして、「ソフトウェアデベロッパーになることに、今ほど適した時期はない。その一方で、デベロッパーは今まで以上に多くのことを学ぶ必要がある。常に新しいものが登場している。ソフトウェアの進化は終わることがない。これについて行くことは容易ではない」とした。

後ろの写真は紙に書かれていた時代のソースコード。これはIBMで開発されたアポロ11号用のソースコードと開発したマーガレット・ハミルトン氏の写真

 GitHubが誕生した10年前を、「10年前のソフトウェアはもっとシンプルなものだった。ちょうどAmazon、Dropbox、salesforce.comといった企業が注目され始めたころだった」と振り返った。

 そして設立後について、「信頼性の高いバージョンコントロールシステムを提供し、これがコミュニティのベースとなった。ソフト開発者がお互いにつながり合って、複雑な問題を共同で解決することができるようになった。われわれのシンプルなプラットフォームによって、データやツールがつながり合って、さらなるパワーを持つようになった」と述べ、開発者にとって利便性が高い世界となっているとした。

 しかし、その後もソフトウェア開発の複雑性は止まることがなく、むしろ加速している。

 「新たにソフトウェア開発を始めるハードルは低くなっているものの、エンドトゥエンドをコントロールする高い能力が必要になっている。また、開発のためにさまざまな言語、ツールが提供され、多くの選択肢がありすぎることで逆に生産性が下がってしまっている。すべてのものをマスターすること、評価することはほぼ不可能で、アシスタントとなる存在が必要。われわれのPull Requestはこの世界を変えた」

 今後についても、「ソフトウェア開発には今後も新しい流れが起こるだろう。新たな変化が起こった際にも、ソフトウェア開発者をサポートするためにわれわれがいる」とソフトウェア開発者をサポートするための進化を続けることを宣言した。

かつては右肩上がりに上っていった開発手順だが、現在は凸凹して複雑なものとなっている。これを昔のように右肩上がりに一本道としていくのがGitHubだと説明
複雑さの要因のひとつ、多数の言語や開発環境のはんらん

 これは先日発表されたMicrosoftによるGitHub買収後も変わらない姿勢だと説明した後、ゲストとして、日本マイクロソフトのCTOである榊原彰氏を紹介した。

 榊原彰氏は登場するなり、「設計図共有サイトファンの皆さん、こんにちは」(編集注:一部メディアでGitHubが設計図共有サイトとして紹介された)とあいさつして話を始めたことで、場内は大爆笑に包まれた。

サプライズゲストとして登場した日本マイクロソフトの榊原彰氏(右)

 その後、「マイクロソフトはかつての姿とは大きく変わったとあちこちで話しているが、なかなか信用してもらえない。ことばではなく、態度で示さないと信頼は得られないだろう。われわれが買収したLinkedIn、マインクラフトはいずれも買収後も独立性を担保している」と、買収後もきちんと独立性を保った関係を続けていくと強調した。

 なお、買収は榊原氏にとっても驚きだったそうで、「まさかこの場で、こうして皆さんにあいさつをすることになるとは、数日前まで思ってもいなかった」と本音を明らかにした。

日本マイクロソフトの榊原彰CTO(中)を囲む、米GitHub ジェイソン・ワーナー シニアバイスプレジデント(左)、ギットハブ・ジャパン カントリーマネージャー 公家尊裕氏(右)

 基調講演後、ワーナー氏を囲んでプレスとのQ&Aセッションが開催されたが、やはり買収の影響について質問が飛んだ。

 ワーナー氏は、「まだ買収が完了していないこともあり、具体的なことを話すことはできない時期にある」としながら、買収後も独立性は保たれること、AWSやGoogleとは今後も協力関係を続けていくことなどを説明。Microsoftとは独立性を保ちながらも、お互いにプラスメリットが生まれることは間違いないとアピールした。

 また、今後搭載予定の機能として、登録されているレポジトリの中で既知の脆弱性対応が済んでいないものが多いことから、ソースコード自体に脆弱性対策となるような機能などセキュリティ対策強化のための機能を検討していること、多くの開発ツールや言語から適切なものを選択するための新機能などを実現することを検討していることを明らかにした。