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IT予算は増える傾向も、効果を実感している企業が増えていない――、JEITAが国内企業のIT経営に関する調査を発表

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は15日、「2017年 国内企業のIT経営に関する調査」について発表した。それによると、「IT投資を極めて重要視している」と回答した企業が増加しているほか、「IT予算が増える傾向にある」とした企業も増加傾向にあることが浮き彫りになったという。ただし一方では、「IT投資に対する効果を実感している企業が増えていない」こともわかった。

 調査を担当したJEITA ソリューションサービス事業委員会の東純一委員長(富士通 執行役員)は、「守りのIT投資から攻めのIT投資へと移ってきているが、米国に比べて遅れている状況は変わらない。全世界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が起こるなかで、日本の生産性が落ちているとの指摘もあり、ITを活用して、日本の競争力を高めていく必要がある。ITを活用して暮らしやすい社会を作るためにも、新たな技術を活用することが必要であり、それを促進するところにIT産業の責任がある」とした。

JEITA ソリューションサービス事業委員会の東純一委員長(富士通 執行役員)

2017年9月に調査を実施、333社の回答を集計

 今回の調査は2017年9月に実施しており、333社からの回答を得た。

回答者の属性

 同調査は、2013年の「IT経営の日米比較」、2014年の「国内企業の攻めのIT投資実態調査」、2015年の「攻めのIT経営企業におけるIT利用動向関連調査」に続く調査として位置づけ、「最新の国内企業のIT経営状況を把握することを目的として調査を実施した」という。

 2013年6~7月に実施した調査と比較するため、設問はほぼ同様のものとし、経営者およびマネージャー職以上(IT部門を除く)を対象とすることで、国内企業でのIT投資に対する認識や予算傾向などについてまとめている。

 なお、同調査はIDCジャパンと共同で実施。比較する米国企業の調査は2013年時点のものを用いた。

 「この調査は、4年前から非IT部門を対象にした調査として実施。2013年の調査では、日本は業務効率化やコスト削減など守りのITが中心であったが、米国の企業では、新製品やサービスの開発といった、攻めのITに活用していることがわかった。また、米国では新たな技術に対して経営陣が関心を持っているのに対して、日本では新たな技術を知らないという経営者が多いことがわかった。この2013年の調査は、インパクトがある調査としてとらえられ、日本は守りにしかIT予算を使っていないことが多くのところで指摘された。同様の調査を新たに行うことで、日本の企業の状況を把握したり、新たな数字として引用してもらうことを狙っている」(JEITAの東委員長)と述べた。

「IT投資が極めて重要」との回答が1.6倍に

 調査によると、「IT投資が極めて重要」と回答した日本の企業は26%に達しており、2013年の調査で16%にとどまっていたことに比較すると、1.6倍に増加している。

 だが2013年時点で、米国では75%の企業が「IT投資は極めて重要」だと回答しており、「米国ではIT投資が当たり前となっている。日本の状況は、米国に比べてまだまだまだというのが実態」(JEITA ソリューションサービス事業委員会の川井俊弥副委員長)とした。

 また、「IT投資が極めて重要とした企業は、これまでにも製品/サービスの開発や提供などの攻めのITに投資する傾向が強く、ITを活用した競争力強化につなげている。さらに、これらの企業はさらに製品/サービスの開発、提供の強化を進めている」(同)という。

IT投資の重要性
JEITA ソリューションサービス事業委員会の川井俊弥副委員長

 CIOを専任で設置している企業は、2013年には25%であったものが31%と微増。だが、米国では2013年時点で78%が専任のCIOとなっていることに比べると大きな差がある。

 IT部門の役割では、「予算管理を中心としたIT部門」が23.1%から16.5%に減少。「IT投資の要請に対して順位づけをしたり、技術の選択を行うことが中心のIT部門」は38.5%から28.3%に減少した。

 これにより、提案型の役割を果たすCIOやIT部門が半数以上となり、「経営に対する貢献度が上昇しており、米国に追随する状況になってきた」という。

CIOの設置状況
CIO/IT部門の役割

 またIT予算の増減については、「増加傾向にある」と回答した企業は2013年の40%から52%と12ポイント上昇。「景気動向にも影響するが、IT予算が増加することは心強い」とした。だが、米国では2013年調査で、80%の企業が増加傾向にあると回答していた。

 IT予算が増加する部分では、「相変わらず守りのITが中心になっている」と総括したが、「新たな技術/製品/サービス利用」は、1.2%から27.6%へと急拡大し、米国とほぼ同等になったほか、「ITを活用したビジネスモデル変革」では、12.9%から21.3%に増加。「攻めのITに関する予算を増やそうという機運が出ている」と分析した。

IT予算の増減見通し
IT予算が増える理由(2013年調査との比較含む)
IT予算が増える理由(2013年日米調査との比較)

 また、新規技術の導入状況については、2013年においては、クラウドコンピューティングやビッグデータという言葉を聞いたことがない経営者が多かったが、2017年の調査では大きく変化している。

 具体的には、2013年の段階では、クラウドコンピューティングでは45.8%が「聞いたことがない」、ビッグデータでは42.6%が「聞いたことがない」と回答していたが、2017年にはそれぞれ16.5%、17.1%に大幅に減少している。

 とはいえ2017年の調査では、AI/コグニティブを「聞いたことがない」とした経営者が23.1%と約4分の1を占めているほか、AR/VRは26.7%に達している。

新規技術の導入状況

 さらに、ITがもたらした効果について、「社内業務の効率化/労働時間の減少」「社内情報共有の容易化」が上位にあることには、2013年の調査と比べても変化がなかった。

 また、IT部門への期待としては、「低コストでのオペレーション」が33.8%から18.6%への減少。「要望への迅速な対応」が33.3%から20.1%へ減少した。

 一方で、「ITを通じて業務変革提案と実行」は24.5%から28.5%へ上昇し、4位から2位に浮上している。「コスト削減よりも、革新に利用するといった動きが少しずつ出ており、ITを『投資』と考える企業が増加している」と述べた。

 ここでは、「IT部門に期待することはない」という回答が、2013年には2.3%であったのに対して、2017年の調査では7.2%に増加しているのが興味深い。「パブリッククラウドなどに浸透により、現場部門主導によるIT投資が進んでいることで、IT部門に頼らない動きが出てきたことが背景にある」と分析した。

ITがこれまでもたらした効果
IT部門に対する期待
IT投資重要度×これまでのITの効果

DXの認知度は高い、ただし間接業務への適用はこれから

 今回の調査では、「デジタルトランスフォーメーション」と「働き方改革」についても調査した。

 デジタルトランスフォーメーションに関して、「知らない、聞いたことがない」とした経営者は33.9%であり、「詳しく知っている」とした経営者は9%と、1割未満にとどまった。

 「デジタルトランスフォーメーションの適用プロセスでは、マーケティングが32.6%、市場分析が30.4%といった市場系の業務が多い。経理や法務などの間接業務への適用はこれからである」と分析した。

デジタルトランスフォーメーションの認知
デジタルトランスフォーメーションの適用業務プロセス

 また、働き方改革については、「残業時間の規制/短縮」が39.9%と約4割を占めるという結果が出た。また、働き方改革に向けたIT利用では、テレビ会議システムが42.2%、モバイル機器が32.2%となっている。

働き方改革に関する取り組み
働き方改革に向けたIT利用

 JEITAの東委員長は、「働き方改革が、守りか、攻めかというと、いまは、残業削減やテレビ会議で出張費削減という取り組みが多いため、守りの傾向が強い。だが、働き方改革では、今後、生産性をあげることを目標にしていかなくてはならない。無駄を排除したり、簡単な業務は機械でできるものに移行させることに広がっていくと、働き方改革が、攻めのIT投資になってくる」と総括した。

 なお東委員長は、「ソリューションビジネスが成長するなかで、1999年にソリューションサービス事業委員会を設置し、市場の健全性および普及のための施策、調査を行ってきた。同委員会には大手ITベンダー9社が参加しており、4つの専門委員会で運営しているが、2017年度からは、経済産業省の要請により働き方改革専門委員会を設置し、検討を開始している」と、同委員会の活用内容を説明した。

ソリューションサービス事業委員会の設置目的など
4つの専門委員会を運営している