ニュース

日本の金融機関はクラウドが禁止されていると勘違い?――Forrester調査

 新しい技術に対して常に保守的な日本の金融機関。クラウドに関しても、未だにプライベートクラウドが中心で、パブリッククラウドの導入に踏み切る金融機関は少ないのが現状だ。この事実についてForrester Research リサーチディレクターのFrederic Giron氏は、「どうやら日本の金融機関では、一般的にクラウドが禁止されていると考えてるようだ」と指摘する。

 これは、Microsoftからの委託によって、Forrester Consultingが2015年11月から2016年2月にかけて行った調査によるものだ。Microsoftが開催したプレス向けセキュリティイベント「Microsoft Cyber Trust Experience 2016」にて、Giron氏が調査の詳細を解説した。

 同調査の対象となったのは、アジアパシフィック地域9カ国の金融機関。IT導入の決定権を持つ34人へのインタビューがベースとなっている。

Forrester Research リサーチディレクター Frederic Giron氏

金融業界の発展に欠かせないクラウド

 Giron氏は、金融業界の発展にはクラウドが欠かせないと見ている。そのため、「各金融機関がクラウドに関する金融取引の規制を理解し、社内でクラウドに関するポリシーを策定し、クラウドベンダーや金融当局の協力の下、ベストプラクティスを採用すべきだ」としている。

 Giron氏によると、法令を正しく把握している金融機関ほど、パブリッククラウドを採用する傾向にあるという。その一方で、多くの機関が金融取引に関するクラウド関連の法令を完全に理解しておらず、実際にはクラウドの導入が規制されていないにも関わらず、そのような規制があると認識しているケースが多かったという。

法令を正しく把握している金融機関ほど、パブリッククラウドを採用する傾向にある

 ただし、金融機関におけるクラウドの導入が一般企業より遅れているかというと、必ずしもそうではないようだ。Giron氏は、2015年に行った別の調査から、「むしろ金融機関はほかの業界よりもクラウド導入率が高い」と指摘、この傾向は今後1年でさらに加速するだろうとしている。

 その背景としてGiron氏は、クラウドによってサービスの導入速度が大幅に向上することや、ハードウェアを自社内に抱えメンテナンスする必要がなくなることなどが、ITおよびビジネスの意志決定者に支持されているといった点を挙げる。

 「金融機関はかつて、クラウドは利点よりもリスクの方が大きいと考えていた。それが今では、クラウドを導入しないことの方がリスクだと考えるようになっている」(Giron氏)。

クラウドの利点

プライベートクラウドに固執する日本

 Giron氏は、調査対象となった各国の状況についても個別にコメントしている。中でもオーストラリアおよびニュージーランドは、ここ数年でクラウドに対する視点が大きく変わったといい、「さまざまなクラウドの導入方法とその利点に対する理解が深まったことが背景にある」としている。また、顧客の要望に応え、オンラインサービスの機能拡充を迅速に行うためにも、ビジネスの意志決定者がクラウドに注目しているのだという。

各国のクラウド導入の現状

 一方で、Giron氏は日本の金融機関が未だにサーバー仮想化を中心としたプライベートクラウドに固執している点を指摘する。「日本の金融機関では、サーバー仮想化がクラウドだと認識しており、今もすべてのハードウェアやソフトウェア、ネットワークを自社で抱えている。自社で管理した方が効率的だと考えているようだ」とGiron氏。

 Giron氏は、日本の金融機関が金融当局の指針やガイドラインを把握しきれていないと指摘する。今回の調査でインタビューに応じた日本の金融機関の多くは、具体的なデータが存在していないにもかかわらず、金融当局がクラウドを禁止していると考えていたという。これは、金融機関が当局のガイドラインを理解しているかどうかということよりも、個人情報保護法に基づく規制に触れるのではないかと恐れていることが大きいと、Giron氏は指摘。「実際にやってみればいいのだが、どの金融機関も最初に試してみようとは思わないようだ」としている。

 ただし、イノベーションに対するプレッシャーにより、この状況は今後2~3年の間に改善するとGiron氏は予測しており、「日本の金融機関でパブリッククラウドが普及するには、クラウド関連の規制をより正しく理解する必要がある。世界のクラウドベンダーが存在感を増すことや、FinTechなど新たなサービスが登場し、従来の市場が脅かされることなども、クラウドの普及を促進するきっかけとなるだろう」としている。

 Giron氏は、金融機関が自ら積極的に当局にアプローチして関係を築き、信頼関係を得ることの重要性を説く。これにより、コンプライアンスに課題がある場合も早い段階で対処できるためだ。「今後、戦略的に当局との関係を築くことが鍵となる。クラウドに関する法令をより深く理解することで、当局とどのタイミングでどのように関係を築くかも見えてくるだろう」とGiron氏は述べた。