インタビュー
電話をサービスに組み込むことで新たなユーザー体験を、Twilio・ローソンCEO
(2013/4/23 13:33)
KDDIウェブコミュニケーションズ(KWC)は4月17日、米Twilioが提供するクラウド電話API「Twilio」の国内での提供開始を発表した。
Twilioは、ウェブアプリケーションやサービスなどに電話の機能を組み込めるクラウド電話APIを提供する米国企業。2008年の創業以来、現在までに利用開発者数は15万人に達し、40カ国以上でサービスを提供している。
KWCでは2012年10月にTwilioと業務提携を締結。日本でのサービス提供に必要な各種設備や日本国内の通信事業者との接続を実施。日本語のウェブサイトやサポートなど日本での利用環境を整え、今回、正式サービスを開始した。
今回、KWCが開催したイベント「Twilio JAPAN SUMMIT」に合わせて来日した、Twilioの共同創業者でCEOを務めるジェフ・ローソン氏に話を聞いた。
スタートアップから大企業まで、電話をクラウドインフラとして提供するTwilio
――Twilioはどのような事業を展開しているのでしょうか。
ローソン氏
Twilioは“Communication as a Service”を実現する企業だ。Twilioの顧客は、さまざまなアプリケーションやサービスの中にTwilioが提供する通信/コミュニケーション機能を組み込んで活用できる。優れた“ユーザー体験”を実現するために、TwilioはクラウドインフラとAPIをユーザーに提供している。Amazon Web Services(AWS)がコンピューティングリソースをIaaSという形で提供しているのと同様に、Twilioはコミュニケーション機能をグローバルなクラウドサービスとして提供している。
Twilioでは既に40カ国以上の電話番号が利用可能になっており、発信に利用できる。着信相手としては全世界200カ国以上のキャリアがサポートされており、音声通話やテキストメッセージによるコミュニケーションが可能だ。Twilioが拠点を構えているのは3カ国で、創業の地でもある米国(サンフランシスコ)、約1年前にオフィスを開設した英国(ロンドン)、そして今回KDDIウェブコミュニケーションズ(KWC)とのパートナーシップによって日本進出を果たしたところだ。
Twilioのユーザー企業は、スタートアップ企業からFortune 500企業までさまざまだ。代表的な利用例としては、コールセンターの刷新に使われている。オンライン動画配信サービスを提供しているHulu社は、既存のデータセンターを刷新してTwilioベースに切り替えた。
従来の発想なら、CISCOやAVAYAなどからコールセンターインフラのための専用ハードウェアを大量に購入し、多額のコストと時間を費やしてコールセンターを構築することになる。しかし、Twilloを使ってコールセンターを構築すれば、既存のデバイスを流用して極めて迅速に構築が完了する。
また、アプリケーションやソフトウェアを開発しているISVもTwilioの顧客となっている。たとえば、ヘルプデスクサービスを提供するZendesk社では、彼らのソフトウェアにTwilioの機能によって音声通話機能などを組み込んでいる。
また、セキュリティの分野では、Dropboxなどが2要素認証を実現するためにTwilioを利用している例もある。ユーザーのログイン時にTwilioを介してユーザーの携帯電話にテキストメッセージの形でPINコードを送信し、それを入力することで正当なユーザーであることを確実に認証する強固なセキュリティを実現している。
現在では、創業当時には想像すらしなかったような広範な領域でTwilioのサービスが活用され始めている。
大規模なコールセンターの構築も可能、ローカライズは日本が初
――Twilioの競合相手はどこになるのでしょうか。
ローソン氏
ユーザー企業がコミュニケーションに対してどれほど多額の投資を行なってきたかを考えると、Twilioにとっての最大の競合相手は既存のコミュニケーションインフラを提供しているCISCOやAVAYAといった企業だと言える。われわれは“未来はクラウドにある”と信じているので、電話交換機などの巨大で高価な“レガシー・インフラ”は今後クラウドに置き換えられていくと考えている。たとえばHome Depot社は、従来はAVAYAのハードウェアを使って大規模なコールセンターを構築していたが、新しいコールセンターではTwilioを採用した。
大規模なコールセンターを利用しているユーザー企業の中には、外部のコールセンター事業者のアウトソーシングサービスを利用しているかもしれないが、こうしたコールセンター事業者は競合というよりは潜在的な顧客となるか、またはパートナーとしてTwilioのソリューションを広く提供することに力を貸してもらえると考えている。
大規模なコールセンターでは、世界中に設備を分散配置して24時間のサービスを提供する例が珍しくないが、Twilioではクラウドベースで仮想化された設備を利用できるため、こうした全世界規模の大規模なサービスを安価かつ迅速に実現できる点も我々の強みとなる。Twilloなら、オペレーターにTwilio対応のアプリケーションを準備し、それをインストールしたiPadを渡すだけで即座に新規のコールセンターが開設されたことになるのだ。
――今回、日本でTwilioのサービスが開始されますが、こうしたローカライズは初めてのことでしょうか。
ローソン氏
Twilioがサービスを英語以外の言語にローカライズして提供するのは、今回の日本が初めての例となる。当然、米ドル以外の通貨でサービスに課金するのも始めてなら、日本語版のWebサイトを用意したのも初めての試みとなる。
日本がアジア太平洋地域で最初のTwilioの進出先となったのは、まずパートナーとなったKWCの存在が大きい。また、日本にはソフトウェア開発者やユーザー企業が多数存在しているというのもTwilioにとって魅力的な点だ。日本では国内向けのさまざまなサービスを開発/提供しているIT関連企業が活発に活動している。Amazon AWSのユーザーも多く、これは国内に先進的なIT環境/ITユーザーが多数存在している大きな市場であることの証明と見ることができる。高度な開発力を備えたソフトウェア開発者も多いので、われわれはこうした刺激的な市場に参入できることを心から喜んでいるし、Twilioにとって優先順位の高い市場であることは間違いない。
Twilioで新しいサービスを実現する“ソフトウェア人”に期待
――ウェブとコミュニケーションを融合する価値はどこにあるのでしょうか。
ローソン氏
サンフランシスコでオンデマンドの送迎サービスを提供しているUber社では、迎えの車が到着すればユーザーの携帯電話にSMSでメッセージが届くので、いつ来るか分からない車を屋外で待ち続ける必要はない。これは、Twilioを使って実現されている。
また、駐車可能な時間が終わる前に運転者にテキストメッセージで知らせてくれるパーキングメーターもTwilioを使って実用化されている。Starbucksでコーヒーを買うと、レシートをテキストメッセージで送ってくれるのだが、これもTwilioで実現されている。満員のレストランに出かけたときに、席が空いたらSMSが届くというサービスもTwilioで実現されている。これまで人々が日常的に利用してきたさまざまなサービスに新たにコミュニケーション機能を組み込むことで、そうしたサービスに全く新しいユーザー体験を付与できるのがTwilioのメリットだ。
あらゆる分野において、“ソフトウェア人”(Software People)が、それぞれ独自の発想で既存のサービスに新たなアイデアをもたらし、ユーザー体験を改善できる。そうした開発者たちが使える道具を提供しているのがTwilioだ。パーキングメーターのような昔ながらの機器であっても、“ソフトウェア人”がイノベーションを起こし、Twilioが提供するコミュニケーション機能を組み合わせることで優れたサービスを生み出すことができるのだ。
――最後に、日本の開発者へのメッセージを。
ローソン氏
Twilioを利用すれば、ごく簡単に強力なアプリケーションを迅速に開発でき、豊かなユーザー体験を提供できる。日本の開発者にも是非イマジネーションを発揮してもらい、すばらしい成果を達成して欲しいし、どのような利用例が生まれることになるのかわれわれもワクワクしているところだ。