ITの地道な活動が評価される場、グリーン・グリッドアワードの意義を聞く

今年も気軽な応募を呼びかけ


 グリーン・グリッド データセンター・アワードが今年も開催される。データセンターやサーバールームの省エネ活動・改善活動を表彰するアワードで、今年で3回目の開催となる。5月9日~9月7日までを応募期間として、現在、多くの企業からの参加を募っている。

 同アワードはPUEのような絶対的な指標で競うのではなく、改善度合いにフォーカスし、取り組みの姿勢などを評価する点にある。そのため、大規模なデータセンターや大規模な投資が必ずしも有利なわけでなく、コツコツと積み上げた工夫にも受賞の可能性があるのが面白いところ。

 今回もその点は変わらず、一方で3.11を契機とした電力不足を乗り越えた実績から、“今、私たちが誇れること”をテーマに、幅広く省エネに取り組む団体・企業を募集している。

 今回、グリーン・グリッド 日本技術委員会代表の田口栄治氏と同日本マーケティング委員会代表の坂内美子氏に、過去のアワードの成果や今回の意気込みなどについて話を聞いた。

田口栄治氏坂内美子氏



――改めてグリーン・グリッドについて教えてください。

田口氏:
 2007年~8年ごろからデータセンターが増え、電気をたくさん使うようになりました。
その省エネを推進するために設立された業界団体です。2007年に米国で、2008年に日本で設立されました。


――データセンターの省エネアワードを実施する意義とは?

田口氏:
 グリーン・グリッドでは省エネを定量的に進めるための指標(PUE)を発案したり、技術的なベストプラクティスを出したりしています。しかし、省エネに取り組んでいる皆さんの活動を評価し、成果を皆さんで共有することが省エネの推進には効果的で、施策としてやっていかなければいけないと思いました。

 特に日本だと規制ばかり多くて、省エネはやって当たり前という風潮ですから、実際の担当者がその苦労の割に評価される機会がほとんどない。そうした日々頑張っていらっしゃるIT担当者の皆さんを勇気づけることを目標に始めました。

 趣旨は明確。省エネに向けた改善活動を認めよう、です。当然、最新設備を作れば電力効率は良くなりますが、すべてのデータセンターでそうはいきません。10年20年と古くなったデータセンターやサーバールームも含めて、いかに改善したかにフォーカスしたアワードとして企画しています。


――アワードは今年で3回目ですが、過去2回を振り返ってどのような成果が上がりましたか?

田口氏:
 そうですね。地道な活動をしてきた人たちが外から評価されて「うれしかった」という感想があがったのが主催者側としてもうれしかった。一番心に残ってますね。やはりICTの世界は動いて当たり前、不具合でると叩かれることばかりの世界ですからね(笑)。

 もう少し具体的な成果ですと、どういうことをやると効果が出るのかという事例がたくさんできてきたことです。事例をホワイトペーパー化していろいろなところで発表しました。

 2011年は震災の影響で省エネが国策として採られました。事例の中には即効性のある取り組みあって、その可能性を示すこともできました。おかげで事例の共有化が進んだのが、大きな成果と言えます。


――省エネというと3.11以降の電力不足が欠かせないテーマでしたが、3.11の業界への影響はどうでしたか?

田口氏:
 もともとそれ以前から意識の高い業界ですよね。データセンターの運用費のうち電気代が占める割合は以前より大きいですから。それでも3.11以降にグリーン・グリッドが実施したアンケートでは、さらなる省エネや新しい取り組みをしますかという問いに6割がYESと答えました。省エネの活動が加速されているのは間違いありません。

 3.11以降の4月・5月ごろ、即効性のある施策はないかという質問が相次ぎました。エアフローの見直しや不必要な冷却をしているところも多々あったので、それらを回答していました。ただ、大事なのはやはり長期的な視点を持つことなんですよね。


――ホットアイル/コールドアイルの考え方が出て、データセンターがあまり寒くなくなりましたよね。それもグリーン・グリッドの活動の成果といえるのでしょうか。

田口氏:
 そう思いたいですね(笑)。ただ、グリーン・グリッド単独でできることは多くありません。グリーン・グリッド以外にも活動母体は多数あって、それらが連携することでさまざまな成果が出ていると思いたいです。

坂内氏:
 そういう意味ですと、The Green Gridもグローバルな団体なので、3.11以降に、海外から多くのお話がきました。例えば、「日本は今年の夏大変そうだね、The Green Gridはこうしたことをやっているよ、ここから何かアイデアが生まれるかもしれないよ」ということを言ってきてくれたんです。

 例えば、ドイツ銀行がニューヨークの街中で外気冷却をしているんです。サーバーが安定稼働することを確認した上で、「東京とニューヨークは気候が似ているから東京でも」という提案をしてくれたそうなんです。東京のドイツ証券がその話を持って、グリーン・グリッドのセミナーにきてくれた。そうやって世界中のベストプラクティスを紹介できるのが、グリーン・グリッドの成果でもあるし強みでもありますね。

 3.11以降の日本の取り組みもホワイトペーパー化して海外へ発信しました。その結果、多くの海外のメディアが取り上げたいと言ってくれました。日本はもともと省エネの国と海外から観られているので、3.11のような事態に対してもさまざまなベストプラクティスが生まれるのではないかと期待されていますよね。


――では、アワードの話に戻って、過去2回はどんなアワードでしたか? どんな事例がありましたか?

田口氏:
 技術的な取り組みはたくさんあるのですが、例えば、エアフローを整える、ホットアイル/コールドアイルを混合しないようにする、基本的にはこういう点で冷却効率が上げられるんですね。細かいところでいえば、床下のケーブリングを整備するなど、地道に改善しようという取り組みが多かったです。

 もう1つは組織論なのですが、データセンターを管理するのはIT部門ですが、電気代を管理するのはファシリティ部門だったりと、いくらIT側で省エネしてもその結果が見えないことも多いのです。そこでデータセンターの省エネは組織横断的に取り組まなければならないといえるのですが、過去にアワードに参加していただいた企業に共通して言えるのは、組織の壁を破って全社的な取り組みとしている点が印象的でした。


――3回目となる今回の意気込みは?

田口氏:
 今までにない取り組みが見たいですね。省エネの方法は技術的には決まりきっているのですが、アワードをやると毎回何らかの驚きがあるものです。1回目はしきりに「匠の技」という言葉を使っていたことが思い出されるほど、繊細で細やかな改善を積み上げたケースがありました。

坂内氏:
 今回も気軽に応募してほしいですね。データセンターというと大規模という印象がありますが、そうではなく小さなサーバールームのようなところも、そういうところならではの取り組みがある。そこにも期待しているんです。


――気軽に参加してほしい、というメッセージが一貫していますが、そのあたりの認識は広まりましたか?

坂内氏:
 どうでしょうかね。今年はそういったことも含めて、告知に力を入れてみようと思っています。1年に1回こういう取り組みをしているのだと皆さんに知ってもらって、「今年はムリでも来年参加してみようかな」といった流れになればと。そうやってエントリー数を増やしていきたいです。


――一番知ってもらいたいのは、こういうことをやっているんですよ、ということですか?

坂内氏:
 そうですね。それとこのアワードはPUEの絶対値を競うものではなく、省エネに対する改善活動の度合いを競うものです、ということ。そこを自慢したい人は本当に気軽に参加してください、ということです。


――参加条件は変更なしですか?

坂内氏:
 はい。日本国内にデータセンターを設置していること。自社で、もしくは事業展開として、応募時点で6カ月以上データセンターを実務運用していること、です。


――募集がすでに始まっていますが応募状況はどうですか?

坂内氏:
 毎年そうなんですが、大体最後の数週間で申し込みが集まるんです。いまは「このような状況で応募しても良いでしょうか」といった質問をいただいているような状況です。

 いままでの2回とも応募は8件でしたので、今年は2ケタを目指したいと考えています。


――今後、このアワードをどう発展させていきたいですか?

坂内氏:
 今年から米国でアワードを実施することになりました。また、中国でもグリーン・グリッドの活動が開始されます。これまでの欧州、日本以外にも活動の輪が広がることになりますね。いずれは各国でアワードをやって、その中からワールドグランプリといったことができたら楽しいですね。


――最後に現在、応募を考えている企業にメッセージはありますか?

田口氏:
 どうぞ気軽に!

 グリーン・グリッドにお集まりいただければ意見交換もできます。アワードのような活動でまずはグリーン・グリッドを知っていただいて、気軽に活動を見ていただけるとお互いにいいことだと思います。

坂内氏:
 そうですね。昨年もメンバーの会合にアワード受賞者の方が来てくださってとても盛り上がりました。オタクの世界の意見交換なので非常に盛り上がるんですよ。まずはアワードからぜひ参加してみてほしいですね。

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