ソリューションプロバイダとしてのDellが挑むクラウド戦略“Dell Cloud”とは?

公共/ラージ・エンタープライズ事業 プレジデントのベル氏に聞く


 米Dellは今年8月、VMwareの年次カンファレンス「VMworld 2011」の時期に合わせ、同社初のパブリッククラウドサービス「Dell Cloud with VMware vCloud Datacenter Service」(以下、Dell Cloud)を発表した。その名が示す通り、VMwareのアーキテクチャをベースにしたマルチテナント型のIaaS環境で、米国では2011年第4四半期に正式提供を開始、日本を含むアジア太平洋地域および欧州では、2012年からの提供となる。

 ハードウェアベンダーとして長年培ってきたイメージを一新し、最近ではソリューションベンダーへの転換を着々と図っているように見えるDellだが、Dell Cloudに象徴される同社のクラウドビジネスは、ビッグベンダー同士の競争が激化する中にあって、どのような方向を目指しているのだろうか。今回、米Dellで公共/ラージ・エンタープライズ事業 プレジデントを務めるポール・ベル氏にお話を伺う機会を得たので、これを紹介したい。

 

クラウドインフラの活用には、パブリッククラウド基盤は欠かせない

――8月に発表されたDell Cloudについて、まずはサービスの概要を教えてください。

米Dell 公共/ラージ・エンタープライズ事業 プレジデントのポール・ベル氏

ベル氏:Dell CloudはDellのデータセンターを利用して、エンタープライズクラスのセキュアでロバストなクラウド環境を提供するオファリングです。パブリッククラウド、プライベートクラウド、そしてハイブリッドクラウドのメニューを用意しています。

 パブリッククラウドは仮想CPU、メモリ、ストレージ、ネットワーク、IPアドレス、ファイアウォールといったインフラへのアクセスを提供するIaaS環境です。プライベートクラウドでは企業のプライベートクラウド構築をDellのデータセンター、または企業所有のデータセンターを利用して構築します。その際、VMware vSphere、VMware vCloud DirectorといったVMware製品やDellのvStartが環境構築に使われます。

 そしてハイブリッドクラウドでは企業のオンプレミス環境、またはプライベートクラウド環境と、Dellのパブリッククラウド環境をVMware vCloud Connectorで接続/集約し、ハイブリッドなクラウド環境を届けます。

――あえてパブリッククラウドをメインとしたサービスに進出した理由をお聞かせください。

ベル氏:ご存じの通り、ここ最近パブリッククラウドへの注目度が非常に高くなってきています。以前よりもセキュリティや可用性の面での信頼性が高くなってきているということもありますが、それとは別にラージエンタープライズクラスのお客さまが、オンプレミス環境やプライベートクラウドではそのワークロードを処理できなくなりつつあるという事実があります。現時点では対応できていても、近い将来、リソースの不足に向きあうことは避けられない。

 またオンプレミス上のデータをパブリッククラウドに移行する、あるいはその逆を行うといったマイグレーションの需要がこれからはますます増えると思われます。お客さまがクラウドのインフラを最大限に活用するためには、パブリッククラウドの基盤は欠かせないものと判断し、サービス提供に踏み切りました。

 

最初がVMwareだっただけ、他社との連携も可能性はある

――MicrosoftやCitrixではなく、パートナーとしてVMwareを選んだ理由はなぜでしょうか。

ベル氏:最も大きな理由は両社の長年のパートナーシップによります。その結果、両社の技術/製品の親和性は高く、お客さまに信頼されるクラウド環境を構築可能になりました。ですが、MicrosoftやCitrixとも、今後、何らかの形でDellのクラウドサービスと提携する可能性は十分にあります。ほかを排除したわけではなく、最初のパートナーがVMwareだったというだけです。

 

Dellにしか提供できないクラウドのニーズに応える

――パートナー企業との連携を通してクラウドを提供するというこれまでの姿勢から一転して、Dell自身がクラウドビジネスのプレーヤーとして参戦するに至った背景について、もう少し詳しくお聞かせください。

ベル氏:さまざまな要因がありますが、最も大きな理由はDellにしか提供できないクラウドサービスへのニーズがあるということです。

 クラウドを求めるお客さまのニーズはさまざまですが、われわれは「地球上に存在するすべての企業をエンドツーエンドでつなぐことができる唯一の企業」だと自負しています。オフィスの机にある1つのデスクトップPCから、データセンターまでをつなぐアセットも技術も持っている。お客さまがオフィスで使っている環境にも精通していて、データセンター環境も整っている。こんなベンダーはDellしかありません。

 われわれはこれらのアセットと技術を駆使して、お客さま、特に私が担当しているラージエンタープライズのお客さまに対して最適なクラウド環境を届けていく予定です。

 クラウドビジネスのプレーヤーとしての条件は、すでに十分に整っています。まずクラウドの核となる仮想化/コンバージェンス技術としてAIM(Dell Advanced Infrastructure Manager)という製品を昨年発表しました。

 これは物理/仮想環境の両方において、データセンターのITリソースを一元管理する製品です。ITリソースをプール化し、データセンター環境の自動で最適な状態にすることを可能にします。オーケストレーション機能にたけており、バーチャルとフィジカル、バーチャルとバーチャルなどさまざまな環境を接続することができます。Dellがリリースした初めてのクラウド上で展開するアプリケーションであり、Dellのクラウドアーキテクチャを象徴するアーキテクチャです。

 また、AIMはオープンアーキテクチャを掲げているので、Dellのハードウェアだけでなく、他社のストレージもつなぐことができます。お客さまの環境はDellだけで構成されているわけではありません。大半のお客さまが何らかのシステムをすでに導入済みで、そのすべてをリプレースするのは大きな無駄です。AIMのオープン性が無駄なTCOの削減につながります。

 

Perot Systemsの買収によりデータセンターを得た

 次にここ数年の買収戦略により10社ほどの買収を果たし、クラウドビジネスに欠かせないすぐれた仮想化技術、ストレージ、データセンターアセットを手に入れることができました。中でも2009年のPerot Systemsの買収により、35ものデータセンターがわれわれのものとなったことは大きかったといえます。

 もうひとつ、クラウドビジネスを展開するには、サービス/コンサルティング部門に優秀な人材がそろっていなければなりません。現在、Dellでは全世界の従業員約10万人のうち、約4万3000人がサービス部門に従事しています。これは競合他社と比較してもかなり多い数字だと思いますが、数万の顧客に対してITインフラの最適化というビジネスを提供し、クラウドへのマイグレーションを進めていくのであれば、このくらいは妥当な数字ではないでしょうか。

 それらのことを考慮すれば、Perot Systemsの買収はDellのクラウドビジネスにとって非常に大きな出来事だったといえます。先に挙げたように多くのデータセンターが手に入っただけでなく、アプリケーションの専門知識を持った優秀なコンサル人材が入社したからです。これまでソリューションベンダーとしてDellに不足していた部分をPerotが補完してくれた部分は大きいですね。

 今後、他社との差別化が図れる分野としてはクライアントの仮想化(Virtual Desktop-as-a-Service)が挙げられます。世界中のオフィスにデスクトップ/ノートPCを届けているDellならではの強みが生かせると思っています。端末からデータセンターまでを真の意味でエンドツーエンドでつなぐ、これが当面の注力分野になります。

 

ソリューションベンダーとして認知してもらうために

――これまでのDellはハードウェアベンダーとしてのイメージが強かったのですが、今後はそこから脱却してソリューションベンダーとしてクラウドを含むビジネスを展開していく、と理解してよいでしょうか。

握手を交わす米Dellのベル プレジデント(左)とデル日本法人の郡信一郎社長(右)

ベル氏:おっしゃる通りです。ソリューションベンダーへの転換はわれわれにとって大きなチャンスでもあり、そして課題でもある。急にハードウェアベンダーからソリューションベンダーへと言っても、従業員やお客さまのマインドセットを変更することは決して容易なことではありません。

 そこでわれわれはお客さまにも、当社を知っていただくためのご説明をしています。Dellのアセットやサービスの変化を知ってもらうのです。その成果がいま、少しずつ出てきているところで、最初から「ソリューションを依頼するならDell」と言ってくれるお客さまも増えてきています。ソリューションベンダーに変わりつつあるDellをお客さまも応援してくれていると実感しています。

――先ほどお話に出てきた買収戦略についてですが、Dellの買収方針として一貫しているポリシーはあるのでしょうか。

ベル氏:2つあります。1つは次世代のコンピューティングモデルを持っている企業ということです。お客さまの課題を解決するための最高クラスのIP(知的財産)を持っている企業をわれわれは高く評価します。小さな企業が対象になることも多いですね。

 もう1つは“Open, Capable, Affordable”という条件を満たしている企業です。つまり、オープンで、すぐに市場で展開しやすい、現実に即した技術を持っていて、なおかつ購入しやすい金額であるという点を重視します。たとえその技術自体が洗練されていなくても、その技術を使えば洗練されたソリューションができるのであれば、検討に値します。

 例えばわれわれは、ここ数年の間にいくつかのストレージ関連企業の買収を行いました。これらの企業の技術はライフサイクルマネジメントなどにおいて、Dellの既存ソリューションと親和性が高く、非常に展開しやすいものとなっています。つまり現実に即したメリットを得ることができているわけです。ROIの面でも非常に良い買い物だったといえます。

――最後に、Dellのエグゼクティブとして、またはITにかかわる一個人として、現在のIT業界の変化をどう見ていらっしゃるでしょうか。

ベル氏:まさしく数十年に一回の変革のときだと感じています。次世代に向けての大変革が着々と進みつつあるリフレクションポイントに立っていると言っていいでしょう。

 そして時代のトレンドは確実に仮想化に向かっています。ITを構成するさまざまなコンポーネントが仮想化され、それに伴いコンバージェンステクノロジが発展しつつある。Dellにとってもお客さまにとってもビジネスが大きく変化するときであり、すばらしい機会であることは間違いありません。

 お客さまがチャンスをつかめるように、しっかりとDellがクラウドソリューションでサポートしていきたいと思っています。

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