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【OpenStack Day 2013基調講演】OpenStackはなぜ関心を集めているのか?

OpenStack FoundationのCOOが世界的な盛り上がりをアピール

 IaaS基盤を構築するオープンソースソフトウェアOpenStackをテーマとしたイベント「OpenStack Day 2013」が、3月12日に秋葉原で開催された。参加者1000名以上が集まり、講演や展示が行われた。

「OpenStackの成長はオープンなエコシステムから」

Mark Collier氏(OpenStack Foundation COO)

 基調講演には、OpenStack Foundationの共同創設者でありCOOのMark Collier氏が「The Rising Stack: How & Why OpenStack is Changing IT」の題で登壇。冒頭で「OpenStackは、ソフトであると同時にコミュニティでもある」と位置づけ、OpenStackの世界的な盛り上がりと、その源泉であるオープンさについて語った。

 Collier氏はまず、「OpenStackの開発プロセスはプロプライエタリなソフトとは違うもの。これを理解することが大切」と説明した。1年に2回のタイムベースでリリースされ、同じく年2回の開発者会議「Design Summit」に開発者や利用側が集まり、次のリリースについてそれぞれが必要な機能を持ち寄って話しあう。コードも、50社以上から800人以上がコントリビュータとしてコミットしており、「これほど多様性のあるプロジェクトは多くないのではないか」とCollier氏は意見を述べた。

 開発コミュニティの活動の活発さを示す例として、運用マニュアル「OpenStack Operations Guide」の制作のエピソードも紹介された。これは実は、2週間前にオースチンに世界中から人が集まって、5日間で作られたものだという。80カ国、700以上の都市から2000人以上がダウンロードし、都市別ランキングでは東京が4位だとも説明された。

開発コミュニティの規模
5日間で作られた運用マニュアル「OpenStack Operations Guide」
「OpenStack Operations Guide」の制作風景のビデオ

 OpenStackの反響を示す例として、大手企業のOpenStack採用事例も紹介された。1分に2万6000ドルの売り上げが発生するPayPal、社内利用のために69個のデータセンターを抱えるIntel、“南米のE-Bay”と呼ばれるMercadoLibre、ロシアのDataFort、イタリアのCloudUPなどが挙げられ、「人力では管理しきれない膨大なコンピュータ資源の管理を自動化する」ためにOpenStackが利用されていると氏はCollier氏は説明した。

OpenStackのユーザーとなる企業
PayPalの導入事例
Intelの導入事例

 盛り上がりを示すデータも挙げられた。Design Summitは年々参加者が増えて次回は2000人を超えると見込まれている。openstack.orgのサイトには世界中から年100万以上のアクセスが集まり、そのうち日本は7位。5ァ月前に開始したYouTubeのチャンネルも37000ビューを超えるとのことで、Collier氏は「Design Summitに行けない人もビデオで見てほしい」と語った。

Design Summitの参加者数の推移
YouTubeに設けられたOpenStack Foundationのチャンネルのアクセス数

 ライバルであるCloudStackやEucalyptusと比較としたデータとしてて、Collier氏はGoogleトレンドやメディアで取り上げられる回数を示し、OpenStackの人気を強調した。そのうえで、開発者数の推移や、OpenStackのバージョンごとのコミット数が示され、「着実に増えており、プラットフォームの将来に賭けていい、ということではないだろうか」と語った。

 「産業界の支持も欠かせない」として、OpenStack Foundationの体制についても紹介された。9月に会員5600名で発足して現在8000名以上。当初からIBMやRed Hatなどが参加したことで報道され、大企業からベンチャーまでさまざまな企業がスポンサーとなっている。最近はNECがゴールドスポンサーになり、Quantum(ネットワークのコンポーネント)に多大なコミットしたことも紹介された。

 3月初頭にはIBMが自社クラウド製品のベースをOpenStackにすることを発表している。これについてCollier氏は「最初から参加しているので採用自体は驚くにあたらないが、コミットメントを発表したことには驚いた」とコメントした。

開発者数の推移
OpenStackのスポンサー企業

 こうした背景のうえで、Collier氏は“なぜOpenStackが関心を集めているか”の理由として「プラットフォームのエコシステム」を挙げた。氏はプラットフォームのエコシステムを、技術的なプラットフォーム、イノベーティブなエコシステム、グローバルなユーザー数の3要素から説明し、Appleの場合、Androidの場合、Facebookの場合、Microsoftの場合、そしてOpenStackの場合を図で例示。「3つのどれでも無視すると崩壊する。3つの交差したところに重要なものが生まれる」と主張した。

 さらに、「プラットフォームのエコシステムには巨大な市場が生まれるが、勝者は少ない」として、AmazonとOpenStackの市場比較。Amazonは明らかに一位で及ばないが、エコシステムが広がっていると語った。

プラットフォームのエコシステムの3要素
Amazonとの比較

 最後にCollier氏は、「なぜOpenStackが将来のプラットフォームになるか。それはコミュニティによって推進されているオープンなもので、さまざまな業界に支援されているから」とまとめ、「ベンダーロックインにノーを、自由にイエスを。Join the Revolution!」と呼びかけて講演を締めくくった。

「ベンダーロックインにノーを」

アカデミックでのOpenStack実利用例

国立情報学研究所(NII) 横山重俊氏

 2つ目の基調講演では、「Education and research on open cloud」と題し、OpenStackを使った教育用クラウドと研究用クラウドの実運用例を、国立情報学研究所(NII)の横山重俊氏が解説した。

 NIIでは現在、教育用クラウドとしてEucalyptusベースのシステムを、研究用クラウドとしてOpenStackベースのシステムを主に利用しているという。講演は、教育の手段としてのクラウド、教育の対象としてのクラウド、研究の手段としてのクラウド、研究の対象としてのクラウドの4つについてなされた。

 もともとEucalyptusベースでクラウドを作っていたが、機能を本家に取り入れてもらう働きかけを呼びかけるためにNASAの研究所を訪問し、やがてクラウドを接続する共同実験を実施、その縁でOpenStackコミュニティに参加したという。

NASAとの共同実験

 現在、Novaベースの「dodai」と、Swiftをベースにした広域分散オブジェクトストレージ「colony」を開発。実験・演習基盤の「edubase Cloud」などで利用している。講演では実際に、デプロイツールでdodai-deployからOpenStackやEucalyptus、パブリッククラウドのノードを表示してみせた。

 教育の対象としてのクラウドについては、社会人教育「トップエスイー」のクラウドコースが紹介された。Eucalyptusのプライベートクラウド構築の体験や、プライベートクラウド上でアプリケーションを運用し講師からの負荷やインシデントに耐える実習などを実施しているという。

edubase Cloud
教育用クラウドのdodai-deployでノードを表示するデモ
教育の対象としてのクラウドである、「トップエスイー」のクラウドコース

 研究の手段としてのクラウドとしては、研究クラウド「gunnii」が紹介された。研究者がバラバラにクラスタを作っているのを集約して利用率向上を図るもの。物理サーバーとIaaS基盤の間に「Cluster as a Service(CaaS)」のレイヤが入り、物理リソースからIaaSを切り出して使えるようにしているという。さらに、既存クラスタをそのままに、研究クラウドと接続して使う様子について、「クラウドを“ぐにー”っと伸ばす」と名前の由来を紹介した。

Cluster as a Service(CaaS)の構造
既存クラスタと研究クラウド「gunnii」の接続

 研究の対象としてのクラウドとしては、インタークラウド基盤が紹介された。災害や電力などのディザスタリカバリーを目的に、各大学のクラウドを接続するもの。各大学のハードウェアをリソースとしてつなぎ、その上で大学間をまたいでクラウドを動かすという。共有ストレージとしてはSwiftを拡張したcolonyを開発して利用している。現在、NIIクラウド、大阪大学クラウド、北海道大学クラウド、九州大学クラウド、海外アカデミッククラウド、パブリッククラウドを接続して実証実験中。

 横山氏は最後に、OpenStackのオープンさへの期待や、ヘテロな環境、アカデミックからの貢献の可能性などについて語り、講演をまとめた。

大学をまたいだインタークラウド基盤の実証実験
インタークラウド基盤の構成

(高橋 正和)