仮想化からクラウドへ――過渡期の企業インフラを支えるのは“ハイブリッドクラウド”

「Windows Server Cloud Day 2012」キーノート


日本マイクロソフト株式会社 サーバープラットフォームビジネス本部 業務執行役 本部長 梅田成二氏

 BtoCにおけるクラウド導入事例は国内でもかなり増えてきたが、ことBtoBとなるとまだ仮想化止まりの企業が多い――日本マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 業務執行役 本部長 梅田成二氏は5月31日に行われた「Windows Server Cloud Day 2012」のキーノート冒頭でこう切り出した。スマートフォンに代表されるモバイルデバイスの急激な普及もあり、コンシューマ主導でITの世界がクラウドへと舵を切っているのはまぎれもない事実だが、企業ITがコンシューマ同様にクラウド、それもパブリッククラウドを積極的に活用するようになるにはまだ時間が必要――これがマイクロソフトのクラウドに対する見解である。

 だが最終的にはBtoBにおいてもクラウドへの移行は避けられないとも梅田氏は言う。では現在、仮想化からクラウドへと歩を進めつつつある企業ITにおいてマイクロソフトはどのような解を用意しているのか。「Windows Server 2012とSystem Center 2012が実現する、次世代クラウドプラットフォームの全貌」と題された同氏のキーノートの内容から、その答えを探ってみたい。

System Center 2012

 前述したように、マイクロソフトは企業ITもコンシューマと同様にクラウドへと移行しつつあるが、「ネットワーク仮想化のむずかしさやセキュリティに対する懸念、法整備などの問題から、クラウドが主流になるにはまだ時間を要する」という見方をしている。

 そういった過渡期にあって、いま企業ITで必要とされているソリューションは、「クラウドへのスムースな移行をうながす基盤、オンプレミスとの混在を可能にし、プライベートクラウドとパブリッククラウドのシームレスな運用を実現する環境」(梅田氏)ということになる。それが4月にリリースされた「System Center 2012」ファミリと、今年後半にリリース予定の「Windows Server 2012」だという。

 System Centerファミリは1990年代から提供されているITリソースの運用管理製品群(8製品)である。クラウド対応を強化したSystem Center 2012は、物理/仮想を問わず、スマートフォンからデータセンターまでを一元管理できる包括性が最大の特徴で、複雑化する一方の運用管理を「本来のシンプルな姿に戻す」(梅田氏)ことを謳っている。

 とくにプライベートクラウド構築および運用管理においてはその威力を最大限に発揮する。企業内のITリソースを仮想化→自動化→監視→サービス化し、クラウドのメリットをオンプレミスな企業ITにかぶせることができるプライベートクラウドは、パブリッククラウドの導入には躊躇する企業の間でも普及しつつある。

 このプライベートクラウドをよりユーザーに近い存在に変える製品が、System Center 2012だ。自動的にインシデントからプロセスを呼び出し、ワンクリックで簡単に仮想マシンが作成できる。自動化を設定するにあたっても、複雑なカスタマイズやコーディングは必要ない。また管理対象となる環境も幅広く、OSもハイパーバイザもアプリケーションも、サードパーティ製やスクラッチ開発プロダクトを含め、多様なプラットフォームに対応している。

マイクロソフトのクラウドSystm Centerの進化System Center 2012では、PCとデバイス、プライベートクラウド、パブリッククラウドが管理可能


導入事例

三井物産株式会社 IT推進部 技術統括室 室長 林郁夫氏

 キーノートでは三井物産、グリー、gloopsによるSystem Center 2012導入事例が紹介された。

・三井物産 … あらゆるサービスをプライベートクラウドを経由してタブレットやスマホから利用できるように現在も構築中。「System Center 2012 Virtual Machine Manager」と「System Center 2012 Orchestrator」を連携させることで、仮想マシン作成のステップを50%以上自動化できた。今後は本番適用を積極的に進めたい(IT推進部 技術統括室 室長 林郁夫氏)

・グリー … さまざまなITリソース、とくにハイパーバイザは数も種類も多く混在する環境において、System Center 2012を使ってすべて一元管理

・gloops … プライベートクラウド(Windows Server 2008 R2)とパブリッククラウド(Windows Azure)をSystem Center 2012でシームレスに管理。プラットフォームの違いを意識せずにリソースを運用管理

 もっともプライベートクラウド構築は、ノウハウがないところからいきなり始めるのは難しい。そこでマイクロソフトはSystem Center 2012を活用したプライベートクラド構築支援プログラム「Microsoft Private Cloud Fast Track」をパートナー7社と協力して提供している。「プライベートクラウドはサイジングがかなり面倒だが、それらの作業を半自動で行えるパッケージソリューションがMicrosoft Private Cloud Fast Track。検証済みの構成なので導入リスクも少なく安定して稼働する。導入までのスピードもそこそこ速い」(梅田氏)

三井物産では、あらゆるサービスをプライベートクラウドを経由してタブレットやスマホから利用できるように現在も構築中System Center 2012を活用したプライベートクラウド構築支援プログラム「Microsoft Private Cloud Fast Track」を提供「Microsoft Private Cloud Fast Track」を利用することで、稼働までの期間を3分の1に圧縮できる


Windows Server 2012

 System Center 2012がクラウドの運用管理に適した製品であるなら、Windows Sever 2012は「クラウドそのものに最適化した製品」である。マイクロソフトがWindows AzureやOffice 365、Dyanmics CRMといったSaaSオファリングなどのパブリッククラウドで培った技術を投入し、仮想化の機能を“コモデティ化”したクラウド基盤、それがWindows Server 2012のコンセプトだ。「データセンターからデスクサイドまで、すべてのITリソースを仮想化しクラウド化するプラットフォーム。とくに、ディスクやストレージに比べて仮想化がむずかしいとされるネットワーク仮想化を強化した。ネットワークの仮想化はIPアドレスの書き換えがネックになっているが、Windows Server 2012であればマルチテナント環境でもコンフリクトが起こらない。データセンターをひとつの大きなコンピュータとして扱うことが可能になっている。」(梅田氏)

 Windows Server 2012の主な機能強化ポイントは以下のとおり。

・ストレージの仮想化
・ネットワークの仮想化
・オンプレミス、パブリッククラウド、プライベートクラウドをシームレスにつなぐActive Directoryによる認証統合
・ディザスタリカバリを容易に実現するHyper-Vレプリカ
・Windows Azureへのオンラインバックアップ
・共有ディスクを必要としないライブマイグレーション

 キーノートでは、容量の異なる物理ディスクをまとめて(記憶域プール)、物理容量以上のストレージを仮想的に割り当てるデモンストレーションが行われた。仮想ディスクは必要時にオンライン状態で追加することも可能となっている。また、ストレージデータの重複除去機能も備わっており、利用効率を高める構造になっている。

Windows Serverプラットフォームの進化Windows Server 2012製品コンセプトデータセンターからデスクサイドまで


記憶域プールストレージデータの重複除去Hyper-Vレプリカ

 Windows Server 2012は6月1日からリリース候補版(RC版)の提供が開始されているが、それとは別に、国内パートナーとして唯一IIJが、Windows Server 2012ベースのクラウドを無償で利用できる「Windows Server 2012クラウド無償パイロットサービス」(http://www.iij.ad.jp/ms/)を提供する。キーノートに登壇したIIJ プラットフォーム本部 本部長 立久井正和氏は「Windows Server 2012には仮想サーバの基盤として大きく期待している。実質的にコア数の制限がなくなる"持たないプライベートクラウド"がようやく実現する。」

 クラウドコンピューティングへの移行が“パラダイムシフト”と言われてからすでに数年が経過している。実は意外なほど"シフト期間"は長い。スマートフォンが業務でも普及し始めるようになり、ようやくクラウドへの移行が加速してきたともいえる。仮想化からプライベートクラウドへ、そして部分的に適用しているパブリッククラウドとの融合へ - 多種多様なIT環境を本格的なクラウドへと導く過渡期のハイブリッドプラットフォーム、それがWindows Server 2012とSystem Center 2012の役割だと言えるだろう。


関連情報
(五味 明子)
2012/6/1 14:06