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日立・德永社長「2026年はフィジカルAI元年」 HSIF 2026基調講演で「HMAX」新サービスやNVIDIA協創を発表

 日立グループ最大のイベントである「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN(HSIF 2026 JAPAN)」が、9月3日・4日、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催され、初日の午前11時からは、株式会社日立製作所(以下、日立)の德永俊昭社長兼CEOによる基調講演が行われた。

 「フィジカルAIで進化する社会インフラ~日立の『デジタルインフラ』最前線~」と題して、日立グループが考えるフィジカルAIの定義や活用事例、社会インフラを「デジタルインフラ」へと進化させる取り組みなどに言及。さらに、「HMAX Data Center」や「HMAX Cyber」、「HMAX Data Fabric」、「HMAX AI Operation」、「Physical AI FDE」を新たに発表した。

日立 執行役社長兼CEOの德永俊昭氏

「フィジカルAI」が描く自律進化するデジタルインフラと日立の強み

 冒頭、德永社長兼CEOは、「いまから100年後、2026年のことが教科書に載っていたとしたら、どう書くか。私は『フィジカルAI元年』と書く。フィジカルAIは、経営者が向き合うべき極めて大きな産業構造の転換である」と切り出した。

 德永社長兼CEOは、フィジカルAIの定義を、「自律化を推進し、環境や状況の変化に応じて、現場を構成する機器やシステムが自ら判断し、動作することである」とし、ヒューマノイドロボットやアームロボットを利用するものに限定しない考え方を示しながら、「日立がフィジカルAIによって目指しているのは、刻々と変化する社会インフラの状態を把握し、人がその都度介在しなくても運用を改善し進化させ、自律進化するデジタルインフラの構築である。フィジカルAIを使って現場を革新したデジタルサービスは、社会インフラを動かすOS(オペレーティングシステム)と言える存在になる」と位置づけた。

 また、「従来のAIは、膨大な学習に基づき助言や知識を提供するものであり、サイバー空間で活動する存在であった。ただし、現実世界で使用し、AIが判断を誤れば事故が起き、物が壊れ、時には人命を脅かす可能性もある。そのため、AIがサイバー空間を飛び出し、現実世界に直接関与することには慎重な姿勢をとってきた。しかし、状況が一変した。現場で稼働するさまざまな機器がデータから学び、考え、行動できるようになってきたからだ。これがフィジカルAIであり、現実世界を動かし始めている。フィジカルAIは、人があらかじめ決めた通りに機械を動かす『自動化』とは決定的に異なり、状況に応じて自ら判断する『自律』によって動くことになる」とした。

 日本では2040年に1100万人分の労働力が不足するとの推計があり、さらに、少子化によって生産年齢人口が減少するという構造変化の中にある。だが、社会インフラの運用現場においては、人が24時間365日にわたって監視し、対処を行っている現状を指摘。「守るべきものは増えるが、現場を支える人は増えない。この矛盾に向き合う鍵が、フィジカルAIになる」と述べた。

 德永社長兼CEOは、「フィジカルAIによって実現される自律進化するデジタルインフラこそ、日立が目指す新しい社会インフラの姿である」とし、フィジカルAIが現実世界を動かすためにクリアすべきステージを、4つに分けて説明した。

 第1のステージは「現実世界の法則を学ぶ」ことだ。サイバー空間に存在するAIが、現実世界を支配している重力や熱、流体などの物理現象や法則を学ぶことになるという。第2のステージが「デジタルツインで試行する」ことである。多数の試行錯誤を繰り返し、時には失敗することで、適切な判断とは何かをAIが学ぶことになる。そして、第3のステージが「特定業務におけるルールを学ぶ」ことだという。現場の流儀や作法をAIが理解し、安全や品質の基準、運用手順といった業界および業務特有のルールを学ぶという。これらのステージを経て、最後の第4ステージが「現場での実践」である。

フィジカルAIが現実世界を動かすためにクリアすべき、4つのステージ

 「いま、世界中の企業がフィジカルAIの実装に取り組んでいるが、それぞれにアプローチしているステージが異なる。NVIDIAは、第1ステージと第2ステージに注力し、それに向けたプラットフォームを提供している」と前置き。

 一方で、「日立は、第3ステージと第4ステージで、力を発揮する企業である。日立のITは80年間の歴史があり、プロダクトおよびOTでは、116年もの蓄積がある。フィジカルAIの実現には、IT、OT、プロダクトを現場で統合し、安全で持続的な価値に変えられる力が必要である。また、日立には、エネルギー、モビリティ、インダストリー、デジタルという幅広い事業領域がある。これだけ多様な社会インフラを支え、それらの現場を理解している企業は、世界中を見渡してみても多くない。フィジカルAIがその真価を発揮するのは、複数の領域にまたがり、社会インフラをつなぎ、運用全体を最適化する点である。日立は、これまで強化してきた個別事業の力に、AIの力を掛け合わせて、社会インフラ全体を進化させることに挑戦する。この挑戦によって、お客さまの現場の革新を実現することができる。これが、グローバルトッププレイヤーとして日立が価値を届けられる領域だと確信している」と述べた。

日立の持つ実績

 日立は2016年にLumadaを発表し、現在はLumada 3.0へと進化させている。

 德永社長兼CEOは、「Lumada 3.0は、お客さまの現場で稼働するプロダクトやシステムから、リアルタイムでデータを集め、日立が保有するドメインナレッジを学習したAIによって分析し、現場や経営課題を解決するサービスとして提供しているのが特徴である」とし、「その代表例がHMAXである」と述べた。

 HMAXは、AIとデータに日立のドメインナレッジを掛け合わせることで、社会インフラが抱える複雑な課題に挑み、顧客と社会に最大の成果と価値を提供する次世代ソリューション群だ。また、日立と顧客との共創により、継続的に運用を改善するリカーリング型サービスでもあり、IT、OT、プロダクトの専門知識を有するそれぞれのエンジニアがチームを構成して、顧客の現場に寄り添い、業務の高度化や運用保守の効率化を支援しているという。

 「HMAXは、日立が持つケイパビリティを掛け合わせた『真のOne Hitachi』によって開発したサービスである」とした。

 HMAXは、2024年9月に発表した鉄道事業者向けのHMAX for Railが第1弾である。鉄道車両に、センサーやカメラを取り付け、車体、線路、架線などの状態を示すデータを取得し、それらをAIによってリアルタイムに分析。運行と保守の最適化を支援している。欧州の鉄道会社では、保守コストを15%削減する成果を上げている。

 今回の基調講演では、半導体分野での事例として、日立が世界トップシェアを持つ半導体計測装置「測長SEM」を利用し、計測装置から得たデータをAIで分析することで、製造工程の改善や保守の効率化につなげ、開発期間を50%短縮したり、稼働率では90%を達成したりといった成果につながることを示した。「インテルとの協創拡大にも合意した。今後、半導体製造向けHMAX Industryを強化し、半導体の安定供給に貢献する」と語った。

フィジカルAIで半導体の安定供給に貢献

 また、HMAX Energyでは、オーストラリアのAkaysha Energyが、開発および運営する大規模蓄電池システムにおいて活用。設備から得られたデータをもとに、稼働率の向上や電力系統の安定化を実現するという。

 「HMAXは、現場の機器やシステムから収集したデータをAIで分析して、社会インフラの価値を継続的に高めるフィジカルAIサービスとして、日々進化を続けている。2026年度末には、売上高5000億円、利益率22%の事業に成長させる」とした。

現場のDXを加速させる「HMAX」ラインアップの拡充

 基調講演の中では、新たに3つのサービスを発表した。

 ひとつめは、「HMAX Data Center」である。

 HMAX MobilityやHMAX Energy、HMAX Industry、HMAX Financeと並ぶ、新たなドメイン対応型ソリューションと位置づけており、データセンターを支えるインフラの自律運用、保守、全体最適化までをワンストップで提供する。

 日立グループが持つ設備運用ナレッジと、フィジカルAIを組み合わせることで、さまざまなベンダーの電力、IT、冷却設備の統合監視を行ったり、設備をまたいだ障害の相関分析および対策を行ったり、運用改善までを伴走支援して、持続可能なデータセンターの実現に貢献するという。

HMAX Data Center

 2つめは、「HMAX Cyber」である。HMAXとしては初めてとなる共通ソリューションであり、高度化するサイバー攻撃から、顧客のシステムを守り、事業継続を支援するオペレーショナルレジリエンスサービスと位置づけている。

 潜在的なリスクを見通し、備えるための「Govern & Identify」、24時間365日の監視および運用を支援する「Manage」、有事の早期復旧を行う「Recover」を通じて、顧客のレジリエンス向上に貢献するという。

 「HMAX Cyberは、Anthropic、OpenAI、GoogleなどのフロンティアAIと、日立が社会インフラの現場で培った実践値を融合。あらゆるHMAXに活用できる共通ソリューションである。リスクの特定から監視、そして復旧までを一貫して支援し、お客さまが安心してAIを活用できる環境を提供する」と述べた。

HMAX Cyber

 3つめが、「Physical AI FDE」である。

 「お客さまの現場に入り込み、皆さまの持つ暗黙値をAIレディなデータへと転換するFDEで構成するエンジニア集団が、HMAXの各種ソリューションをシームレスに連携させ、経営課題の特定からAIの適用、運用までを一気通貫に支援する」とした。

Physical AI FDE

 さらに、德永社長兼CEOは、HMAXの共通ソリューションとして、現場の暗黙値やデータを統合するデータ基盤「HMAX Data Fabric」や、不適切なAIの挙動を抑止する「HMAX AI Operation」も発表した。

NVIDIAとのタッグで挑む日本発の社会インフラ革新

 基調講演では、NVDIAのジェンスン・フアンCEOのビデオメッセージが流された。

 フアンCEOは、「日立は100年以上に渡り、世界中の産業に電力を供給してきた。AIブームは、新たな産業の拡大を牽引するとともに、新たな電力基盤を構築する数百年に一度の絶好の機会となっている。日立とNVIDIAはこの分野で協業しており、AI時代を支える高度な次世代インフラを構築することになる。フィジカルAIは、現実世界に大きな影響をもたらすことになる。例えば、電力網では、両社の専門知識を組み合わせることで、新たな電力を、より早く系統に接続し、電力網の信頼性を維持し、あらゆる電力を効率的に活用できるようになる。現在、米国では、2テラワットの発電設備および蓄電設備が、電力網への接続を待っている状態にある。日立とNVIDIA、サウスウェストプールは、産業用AIと、アクセラレーティッドコンピューティングを活用して、このボトルネックの解消に取り組んでいる。発電設備の系統連系の解析時間を2年から、12カ月未満に短縮するように設計したシステムの構築にも取り組んでいる。これは、AIによって生み出される好循環である。AIには電力が必要である。その需要が発電設備や電力網への投資を拡大させる。日立は世界を支えるインフラを構築している。日本が誇る安全性と信頼性を維持しながら、一緒になってインテリジェンスなものへと進化させていきたい」と述べた。

ビデオメッセージを寄せたNVIDIAのフアンCEO

 德永社長兼CEOは、「このビデオは、AIではなく、リアルなフアンCEOである」と述べて、会場を沸かせたあと、「フアンCEOが2026年7月に来日した際に、エネルギー分野のほか、鉄道、製造、金融、公共システムなど、あらゆる社会インフラの現場において、フィジカルAIを実装するために協業を加速することで合意した」と報告した。

 最後に德永社長兼CEOは、「日立は、環境、幸福、経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に向けて取り組んでおり、その実現において、フィジカルAIは、なくてはならないものだと考えている」と前置き。

 「ハーモニー(調和)は、日本が古くから大切にしてきた考え方である。毎日、定時運行を続ける鉄道や、指定した時間通りに荷物が届く宅配サービス、長い期間にわたり、安定して動き続ける高品質な製品などは、匠の技や詳細な業務手順だけで実現されているわけではない。利用者を思いやる『おもてなし』の心や、わずかな異常も見逃さない細やかな『気配り』、複雑に絡み合う多様な要素を美しい全体へと『調和』させる考え方が、日本の社会を形づくってきた。日本の社会がはぐくんできた高信頼、高性能な製品、そこから生まれる高品質、高精度なデータや運用ノウハウは、フィジカルAIの実装と、その先に見据える自律進化するデジタルインフラの実現において欠かせない資産である。私は、日本だからこそ、ハーモナイズドソサエティを実現できると信じている」とした。

 その上で、「実現に向けたハードルは多い。だが、目の前にある真っ白なキャンバスに、ありたき社会像を描き、その実現に向けて取り組んでいきたい。かつて、英国から産業革命が始まり、インターネットが世界のつながりを変えたように、今度は、日本発の挑戦によって、未来を変えていきたい。ありたき社会の実現に向けた議論を、今日ここから始めたい。今すぐやろう、日立とともに!」と呼びかけ、基調講演を締めくくった。