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マイクロソフトが提唱する「フロンティア組織」へ変革するための4つのフレームワークとは

Microsoft AI Tour Tokyo基調講演レポート

 米Microsoftは24日、グローバル年次イベント「Microsoft AI Tour Tokyo」を、東京・有明の東京ビッグサイト東7ホールで開催した。

東京ビッグサイトで開催されたMicrosoft AI Tour Tokyo

 Microsoft AI Tourは、Microsoftが全世界40カ所以上の都市で開催しているイベントで、累計10万人が参加。東京では3回目の開催となる。ビジネスリーダーや技術者などを対象に、組織や個人でAIを活用し効果を上げるためのさまざまな情報を提供。基調講演やブレイクアウトセッション、ワークショップ、ライトニングトークのほか、展示会場であるConnection Hubでは、Microsoftの最新技術や、参加企業の製品やソリューションを展示したほか、ライブデモやインタラクティブシアターセッションが行われた。

展示会場であるConnection Hubでは、Microsoftの最新技術や、参加企業の製品やソリューションを展示していた
展示会場の様子

「フロンティア組織」へ進化するために――沼本氏が示す成功のフレームワーク

 午前10時10分から行われた基調講演では、「Frontier Transformation」をテーマに、米Microsoft エグゼクティブバイスプレジデント(EVP)兼チーフマーケティングオフィサー(CMO)の沼本健氏や、日本マイクロソフトの津坂美樹社長などが登壇。AIトランスフォーメーションに関する最新情報と、Microsoftが提唱している「フロンティア組織」になるためのフレームワークなどを示した。

米Microsoft エグゼクティブ バイスプレジデント(EVP)兼チーフマーケティングオフィサー(CMO)の沼本健氏

 Microsoftの沼本氏は、「Microsoftが提唱する『フロンティア組織』は、変化に対して後ろ向きになるのではなく、AIが人の可能性を引き出し、創造性やイノベーション、人と組織の成長を加速させることを目指した考え方である。また、AIの民主化によって、誰でもAIを有効活用できることを目指す。だが、『フロンティア』組織を実現するには、組織がリーダーシップを取り、AIに対する考え方を提示し、強い意志を持つ必要がある」と述べた。

 Microsoftが世界各地において、数千社のAIプロジェクトを支援してきた経験をもとに、AI活用で成功したケースに共通しているのは、技術主導ではなく、ビジネス主導でのマインドセットを持つことだと指摘する。「『AIで何ができるのか』から始めるのではなく、『ビジネスの課題解決にAIをどう活用するか』から始めている企業が成功している」という。

 そして、AIを有効活用し、成功するためのフレームワークとして、「従業員エクスペリエンスの強化」、「顧客エンゲージメントの改革」、「ビジネスプロセスの再構築」、「イノベーションの加速」の4点を挙げた。

 「従業員エクスペリエンスの強化」では、優秀な人材を採用し、育成し、AIを組み込んだツールを従業員に幅広く提供。その成果をKPIとして可視化し、ビジネスへのインパクトを認識する作業を行っている企業が、AIの活用において成功しているという。

 2つめの「顧客エンゲージメントの改革」では、顧客との体験をよりリアルタイムに、パーソナライズされたものとし、コスト削減ではなく、新たな体験と価値を創造している企業を挙げた。

 「ビジネスプロセスの再構築」では、「既存のプロセスにAIを当てはめるのでは革新的な成果は出てこない」と指摘。「業務プロセスのすべてを見直して、AIファーストのプロセスに抜本的に設計し直すことで、ビジネスに大きなインパクトを実現することができる」と述べた。

 そして、最後の「イノベーションの加速」では、「フロンティア組織は、イノベーションの加速に、AIを直接活用している。それぞれの業界のなかで自社の強みを、より加速するためにAIによるイノベーションを推進している」とした。

 この4つのフレームワークを「What」とすれば、次に示すアプローチを「How」と位置づける。

 ここでは、「人間の思いを成果へつなぐAI」、「あらゆる場所に広がるイノベーション」、「スタック全体にわたる可観測性(オブザーバビリティ)」の3つの観点から説明。これを「フロンティア組織として成功する企業に共通したアプローチ」と定義した。

フロンティア組織の成功のフレームワークと3つのアプローチ

 ひとつめの「人間の思いを成果へつなぐAI」では、日々の業務の全体に自然にAIを活用する仕組みを作るというアプローチが重要であると語る。「プロンプトを入力して、こんなことができたという『一発芸』のようなものではいけない。重要なのはビジネスのアウトプットとして役に立つかどうかである。ビジネスに必要なワークフローを考えると、どの作業も一人で完結することはない。多くの人が関与し、反芻、推敲が行われ、承認が行われる。ワークフロー全体をサポートして、人の思いが成果につなげられるようなAIの導入が不可欠である」とした。

 2つめの「あらゆる場所に広がるイノベーション」では、それぞれの現場にAIツールを届ける重要性を指摘。「より効果的でインスピレーションにあふれた解決策が、現場から生まれてくる」という。

 そして、「スタック全体にわたる可観測性(オブザーバビリティ)」によって、すべてのレイヤーで、どのようなAIエージェントが動作し、どんな権限を持ち、どのデータにアクセスできるのかを可視化し、管理することで、幅広い現場でAIツールが活用できるようになるという。また、AIツールが期待通りの成果やROIを出せているのかどうか、AIが正確に、速く、信頼できる形でアウトプットを生み出しているのかどうか、コストマネジメントができているのかということを把握する必要があるとも述べた。

 また沼本氏は、「AI時代に最も大切なものは何か。みなさんも考えてほしい」と会場に呼びかけた。

 少し間を置いてから、「LLMだと思った人もいるだろう。推論やトレーニングに使用するシリコンだと思った人もいるだろう。だが、Microsoftは、これらが最も大切なものではないと考えている。一番大切なのは、お客さまが自分で作り上げるインテリジェンスと、それを利用する際のトラストである。それぞれのお客さま、組織が持つユニークなインテリジェンスを構築し、有効活用できるようにすることが大切だ。だが、AIソリューションの現状を見ると、開発者が膨大なデータの海のなかで戦いながら、無数のコネクタやAPIを使い、細いストローでデータを吸い上げながら推論を行っている。AIは本来、誰がどう働き、誰と誰が協業し、どんな意思決定をしているのかを理解し、動作すべきである。Microsoftは、そのための包括的なプラットフォームを提供する」とした。

 さらに、「インテリジェンスと対になるのがトラストである」とし、「AIのガバナンスやセキュリティが担保されなくては、優れたテクノロジーも広まることはない」と断言した。

 Microsoftでは、具体的な製品として、社員の働き方を理解する「Work IQ」、ナレッジベースとしてあらゆる情報をまとめ、エージェントが正しい回答をするための基盤となる「Foundry IQ」、バックエンドのデータソースをまとめてデータ基盤として提供する「Fabric IQ」、これらの3つのIQを活用したエージェントの運用管理を行う「Agent 365」、さらに、これらのAI環境の企業への導入を支援する「Agent Factory」を提供していることについて説明した。

フロンティア組織への進化を支える製品群

 基調講演では、Zavaと呼ぶ架空の企業において、主力モデルの新製品を市場投入する「ネクストプロジェクト」をテーマに、マーケティング部門、財務部門、サプライチェーン部門、開発部門、セキュリティ部門などが、それぞれの業務において、Work IQやFoundry IQ、Fabric IQのほか、Copilot Studio、Agent 365などのMicrosoftの最新テクノロジーを活用し、業務を高度化、効率化し、高い生産性のもとで、プロジェクトを推進している様子を紹介した。

Zavaという架空の企業の新製品開発をベースにデモンストレーションを行った
AIを活用して資料作成やサプライチェーンリスクの管理、開発支援などを行った

 沼本氏は、「Zavaの事例では、さまざまな業務がつながることで価値を実現している。Microsoftは、AIの活用や、フロンティア組織の実現において、最も重要なのは、お客さまが構築するインテリジェンスとトラストだと強く信じている」と繰り返して強調。「日本には、さまざまな業界において、多くのフロンティア組織が生まれており、それを推進しているリーダーがいる。これらの先進的な組織では、実証実験のフェーズを終え、ビジネス課題を解決し、成果を生み出すためにAIを活用しはじめている」と述べた。

日本でも数多くのフロンティア組織が生まれているという

日本市場の現状と先行事例:東京都や明治安田生命などが語るAIの価値

 日本マイクロソフトの津坂美樹社長は、「日経225の94%の企業がCopilotを導入している」と報告。続けて、「総務省によると、日本のAI市場の規模は、すでに1兆3400億円となり、2029年には4兆円を超える規模になると想定されている。圧倒的なスピードとスケールで、日本の社会や経済を変えようとしている。AIエージェントも広がり、2028年には13億エージェントが使われると予測されており、フォーチュン500の80%の企業がエージェントを使用している」と、AIに関する各種情報を紹介。

 「今回のMicrosoft AI Tourでは、Microsoft自身がAIにどう向き合っているか、人としてどう受け入れるかをお伝えする」と切り出した。

 ここでは、日本マイクロソフトの事例も紹介。Microsoft AI Tour Tokyoの開催にあわせて、マーケティング部門では、メッセージや集客ページの作成をAIで自動化し、作業時間を3分の2に削減。さらに品質が向上したことで、申込数は目標を25%上回ったという。

 また、財務部門では、全世界で利用している900のエージェントの事例を社内で共有し、顧客の財務分析や予測などを自動化し、戦略的な業務へとシフト。人事部門では年2回実施している従業員満足度調査の結果をCopilotで集計し、AIを活用して課題を洗い出して、日々のアクションプランにまで落とし込んでいるとした。

 営業部門では、顧客先に訪問する直前になると、エージェントが自ら動いて社内外から情報を収集し、社内のビジネスプランとすりあわせながら、顧客に寄り添った視点で議論が進められるように資料を用意するという。

 津坂社長は、「私自身、毎日AIを使い、毎日AIエージェントを使い、そして、AIエージェントを自分でも作っている。日本マイクロソフトは、グローバルのなかでも、Copilotとエージェントの利用率がトップクラスである。毎日試行錯誤を繰り返し、毎日働き方を変えている」と語った。

日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏

 また、日本におけるフロンティア組織の事例を紹介。東京都 副知事の宮坂学氏、明治安田生命保険 取締役代表執行役社長 グループCEOの永島英器氏、日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役会長の冨山和彦氏の3人が登壇した。

 東京都 副知事の宮坂学氏は、「東京都庁では、4万人の全職員が生成AIを使える環境を整えており、すでに約1000のエージェントが稼働している。将来的に公務員の人口が減少するのは明らかだ。いまのうちからAIに投資して、AIが働けるようにしておかないと、都民に対する行政サービスが減るという悪い状況が生まれてしまう。すでに、都民や企業にサービスを届けるために時間がかかりすぎるという課題もある。AIの力を使い、世界で最も速く、必要な人にサービスを届けることができる行政を目指す」と述べた。

東京都 副知事の宮坂学氏

 基調講演では、東京都の小池百合子知事が、ビデオメッセージを送り、「AIは、暮らしを劇的に変えるゲームチェンジャーとして大きな期待が寄せられている。東京都が果たすべき役割は、変化を恐れず、誰一人取り残さない未来へと橋をかけることである。AIは人間の可能性を拡張するパートナーである。行政、企業、都民がAIを使いこなすことで、新たな価値創造のフロンティアへと踏み出すことができると確信している」と述べた。

ビデオメッセージを寄せた東京都の小池百合子知事

 明治安田生命保険 取締役代表執行役社長 グループCEOの永島英器氏は、「保険会社は、人とシステムで成り立っている。700万人のお客さまがいて、30年、40年という長い契約をしているため、レガシーからの移行が課題であった。Azureを利用して、モダナイゼーションに取り組んでいる。保険会社は安心と信頼が大切である。AIによってリスクを削ぎ落とすことで安心が実現できるが、信頼は人間的な感覚が必要である」などと述べた。

明治安田生命保険 取締役代表執行役社長 グループCEOの永島英器氏

 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長の冨山和彦氏は、「日本の人口減少は構造的なものである。特に、人が足りないのは現場現業である。AIはそれを補完するものであり、AIやロボットで武装した現場現業の人を増やしていくべきである。また、日本はホワイトカラーが多すぎる。中間管理職も多い。ここをAIで代替していかなくてはならない。AI時代においては、ボスと現場現業の両端には価値が残るが、その中間にいる人たちは、AIによってむしろ価値がなくなる。リーダーは、本質的な問いを立てられる力と、決まったことを実行するための人望が求められる。また、責任をとる覚悟が大事になる。ボスだけでなく、現場現業で判断するミニボスの役割も重要になる」などと語った。

日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長の冨山和彦氏

 基調講演の最後には、日本マイクロソフト 業務執行役員 エバンジェリストの西脇資哲氏が、日本の多くの企業が迎える年度末に多い業務を題材に、AIを活用したデモンストレーションを実施した。

日本マイクロソフト 業務執行役員 エバンジェリストの西脇資哲氏

 Excelの財務データをもとに、自然言語で、Copilotに分析ダッシュボードの作成を依頼。数多くの図表を交えた資料を3分間で作り上げたほか、決算説明会資料をPowerPointで作成するように依頼したり、それをもとにした決算説明会のナレーションまで自動的に作成できたりする様子を紹介した。

 さらに、この時期に多い人事異動の情報を収集し、それをもとに社内情報やLinkedInなどと連携して、企業情報や人物情報をまとめる様子もデモンストレーションしてみせた。

 ここでは、3月19日に発表されたシャープの社長人事を題材に資料を作成。シャープの企業情報と、新社長の人物情報や強み、注目点などをまとめて、社内の関係者に送付するとともに、就任祝いなどのアクションを提案。新たに連携提案などのアプローチなどについても提案をまとめる様子を見せた。

財務データを図表で表示した分析ダッシュボード
決算説明資料を作成し、ナレーションも自動でつける
シャープの新社長のプロフィールをAIがまとめる
新社長への推奨アプローチも示す

開発者が主役のAI共創時代へ:Anthropicとの連携やエンジニアの役割の変化

 一方、午後6時から行われたClosing Keynoteでは、日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏が登壇。ここでは主に、開発者を対象にしたメッセージを発信した。

日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏

 岡嵜執行役員常務は、「AIによる変革があらゆる場所で起きている。すべての変革の中心にいるのは開発者である。AIとの共創によるインパクトは開発者が一番実感しているだろう。AIによる開発の進化は目覚ましく、タスク完了速度は55%向上し、エンジニアの職場満足度は85%に達し、AIレビューの適用割合は90%以上になっている。本番の開発にもAIエージェントを活用する動きが現実のものになっている。Microsoftでは、50年以上にわたり開発者を支援してきた。AIによる新たな進化においても、ツールの提供だけでなく、開発者と一緒に、学習し、実践し、成長することを体感できる支援を行う。GitHub Copilot Questはその一例になる」とした。

開発におけるAIとの共創によるインパクト

 GitHub Copilot Questの最近の活動では、AIを活用して、参加者全員が20年前のJavaアプリケーションコードを、わずか1日でマイグレーションした例があるという。また、テストやレビューにAIを活用することで、変更したコードが動作することも確認しており、「実践的なノウハウを習得できる内容になっている」とした。

GitHub Copilot Questの取り組み

 また、「Microsoftは生成AIの登場以来、継続して選択の自由を提供し、開発者のためのエコシステムを構築している。そのなかでも注目されているのがAnthropicとの提携である。発表以降、さまざまな協業が加速している」と発言。2025年11月に米サンフランシスコで開催した「Ignite 2025」でのAnthropicとの戦略的提携の発表以降、GitHub上でのClaudeモデルの活用、Microsoft 365からのセキュアなCoworkの活用、FoundryからのAPIやClaude Codeへのアクセス、ClaudeとAzureによるスペック駆動型開発の実現などに取り組んだことを紹介した。

 Anthropic Japanパートナーアライアンスディレクターの伊部達哉氏が登壇し、Claudeの活用状況をデータとして公表している同社の「Anthropic Economic Index」をもとに、開発者の利用動向を説明。「日本の利用状況は、116カ国中33位である。だが、人口に基づく利用値を見ると1.59であり、日本の利用状況は期待を大きく上回っている。また、日本ではプログラミングの領域で利用されている割合が最も多い。ビジネスの価値創造やソフトウェア開発にClaudeを使用しており、開発者が日本のAIを牽引していることを示している。日本の開発を、より豊かにし、活気づけていきたい」などと述べた。

Anthropic Japanパートナーアライアンスディレクターの伊部達哉氏

 続いて登壇したのが、ULSコンサルティング 取締役会長の漆原茂氏と、LayerX 代表取締役CTOの松本勇気氏である。「AIと共創するエンジニアのリーダーの代表」と称して、岡嵜執行役員常務と3人でトークセッションを行った。

 漆原氏は、「AI駆動開発ブームによって、だんだんコードを書かなくなってきた。人がボトルネックになっていたエンタープライズシステムの開発が、AI技術によって置き換わろうとしている。その進化が激しすぎる。3年経過したら予測ができないぐらい進化しているだろう。エージェントが自律的に動き、自己修復したり、足りない機能を自動的に追加したりといったこともできる。ローカルエージェントが動くようになると、ドラえもんを連れているようなものになる。そうした世界がやってくるだろう。ただ、変革の時代を支えるのはエンジニアである。エンジニアがセクシーで、光り輝くことができる時代になってきた」と述べた。

ULSコンサルティング 取締役会長の漆原茂氏

 松本氏は、「2025年12月ごろから開発スタイルが大きく変わり、いまでは1行もコードを書かなくなってきた。顧客ニーズを実現するために、こんなアルゴリズムがいいと思ったら、すぐに実装できる。新規プロダクトといえる規模のものを、仕事の合間に、1人で毎月1本ぐらい作ることができる。プレゼン資料を作るよりも、ソフトを作るほうが速い」とし、「人がやるよりも、はるかにいいコードを書くエージェントがたくさんある。これからの開発者は、お客さまが、何が欲しいのかをしっかりとらえる必要があり、そのためのコミュニケーションに時間を割き、何を作ったらいいのかを特定する役割を担うべきである」と発言。AIによって、今後の開発者の役割が変化していくことを指摘した。

LayerX 代表取締役CTOの松本勇気氏