イベント

MWC 26のホットトピックは「AI-RAN」――RANやエッジにGPUが必要か否かが論点に

 通信機器関連の展示会「MWC 26」が、3月2日~3月5日(現地時間)にスペインのバルセロナ市にある「Fira Gran Via」などで開催された。ここ数年のMWCは、コンシューマ向けのデバイス展示会ではなく、もともとのコンセプトである通信機器の展示会という側面を強めており、近年では5G Core(5G通信の契約情報などを格納する機器)やRAN(Radio Access Network)のソフトウェア定義化(Software Defined Network)などが大きな話題になっている。

 そうしたMWCでの今年のホットトピックといえば、「AI-RAN」だ。2年前に立ち上げられた業界団体「AI-RAN Alliance」により推進されているAI機能を統合したRANが、AIの普及とともに注目を集めている。

AI-RAN Allianceブースに掲出されていた看板

話題が先行するAI-RAN、ベースになっているのはO-RANなどのソフトで実現されるvRAN

 そうした新たな潮流になりつつあるAI-RANだが、そもそもAI-RANとは何かという定義に関して取材を進めると、明確な定義はないということがわかってきた。

 RANとは、通信キャリアのネットワークの一部分になる。例えば、通信キャリアの5Gネットワークでは、携帯電話側に近い側から無線基地局(RU:Radio Unit)があり、そのRUと、5Gコアなどと呼ばれるユーザーの契約状況などを処理する機器の間にあるネットワーク部分がRANとなる。

 詳しく言うと、RANはCU(Central Unit)とDU(Distributed Unit)に分かれており、前者が5Gコアとの接続、後者が信号の変調や復調、通信制御などを行っている。基本的には無線のハードウェア近くにあって、ネットワークの制御を行っているのがRANだと考えてよい。

 そのRANだが、4G世代までは、ほとんどが専用のハードウェアで構成されていた。ユーザー宅の無線ルーターが専用のハードウェアで構成されているイメージでとらえるとわかりやすいだろう。

 これに対して5G世代(および一部の4G世代)では、SDN(Software Defined Network)化が実現されている。ざっくりいうと、専用ハードウェア+ファームウェアだったものが、ソフトウェア+汎用プロセッサーに置きかえられており、無線ルーターにたとえれば、専用ハードウェアがPC+ソフトウェアに置きかえられたようなものだと考えるとわかりやすいだろう。

 専用のハードウェアは、調達価格そのものに加えてメンテナンスコストが高く、通信キャリアにとっては高コストな設備になっていた。それに対して、IntelのXeonなどの安価な汎用プロセッサーに、RANの機能を実現するソフトウェアを組み合わせることで安価に構成されたRANを、vRANと呼んでいる。

vRANや5Gコアは、こうした汎用のサーバーブレードとソフトウェアで実現される

 このvRANを実現するための仕様を作っているのがO-RAN Allianceで、5Gなどのワイヤレス通信の仕様を決定している3GPPなどと協調しながら、「O-RAN」と呼ばれるvRANの仕様を作ってきた。そして通信キャリアの多くは、そのO-RANの仕様をもとにvRANを構築してきた。それが、5G世代(一部4G)におけるRANのSDN化の歴史となる。

 さらに、このvRANをAI化していくことが、「AI-RAN」の基本的な考え方になる。

明確に定義がないAI-RAN、AI-RAN Allianceでは3つのユースケースを定義

 では、AI-RANとは何かと取材を進めると、基本的にはこれがAI-RANだという定義はないことがわかった。簡単に言えば、前述のvRANが、AIを実行する機能を備えていればAI-RANと呼べるらしい。つまり「言った者勝ち」の状況にあるといえる。

 というのも、2年前(2024年)のMWCで、NVIDIAやソフトバンクなどを中心に設立されたAI-RANを推進する業界団体「AI-RAN Alliance」は、あくまでプロモーター(普及推進の団体)という位置づけであり、vRAN自体の規格などは3GPPやO-RAN Allianceなどで策定されるものであるためだ。

 AI-RAN Allianceではユースケースの定義を行っており、AI-RANとはこういうイメージだということは説明している。それが、「AI-on-RAN(RANでAIを実行する)」、「AI-for-RAN(RANを実現するためのAI)」、「AI-and-RAN(AIとRANを同時に実行する)」という3つのユースケースだ。

富士通が紹介していたAI-RANの3つのユースケース、「AI-on-RAN(RANでAIを実行する)」、「AI-for-RAN(RANを実現するためのAI)」、「AI-and-RAN(AIとRANを同時に実行する)」

 AI-on-RANは、RANで実行するアプリケーションの1つとしてAIを実現する。すでに述べたとおり、RANは基地局に近いところに置かれており、ユーザーの端末(例えばスマートフォンなど)との距離も近い。このため、低遅延でユーザーの端末と接続されるので、これまでなかったようなアプリケーションが想定される。

 今回のMWCのエリクソンブースでは、ソフトバンクがAI-RANを利用したロボットのデモを行っていた。通常、こうしたロボット本体には強力なAI処理機能を持つプロセッサー(例えば、NVIDIAのJetson ThorやAGX Orinなど)を配置するのが一般的だ。しかし、その場合には本体のコストが上がってしまうため、AI処理をAI-RAN側で行うことで、コストを抑えながらインテリジェントなロボットを実現する。これがAI-on-RANの考え方だ。

ソフトバンクはMWCのエリクソンブースで、AI-RANとロボットをRAN側のAIで動かす様子を公開

 AI-for-RANは、RANの実現にAIを利用する。現状、いわゆるvRANはCPUとレイヤ2(L2)向けのパケット処理アクセラレーターから構成されており、そうした汎用プロセッサーとソフトウェアで実現されている。それをGPU+CUDAベースのソフトウェアに置きかえるのが、NVIDIAのAerialだ。AerialではL2のパケット処理をGPUで処理するため、別途L2アクセラレーターが不要になるのが大きな特徴となる。そのように、GPUを利用してRANの機能を実現していくことを、AI-for-RANと呼んでいる。

 3つ目のAI-and-RANは、AI-for-RANでソフトウェア的にRANを実現するためのハードウェア(つまりはGPU)を、通信キャリアがクラウドサービス事業者(CSP)になって他者に貸し出す。そうしたハードウェアをシェアするクラウド事業のことを意味している。というのも、RANに必要なハードウェア要件は一定ではなく、増えたり減ったりする。その余剰部分を他社に貸し出すことで、通信キャリアがCSPとしてのビジネスを展開するというのがAI-and-RANである。

CPUベースのvRANで先行するIntel、「CPUかGPUか」という対立軸ではないと主張

 ここで論点となるのが、AI-RANにGPUが必要かどうかということだ。AI-RAN Alliance自体、NVIDIA自身が創設メンバーの1社であるため、GPUを使うのが当たり前という風潮があることは否定できない。しかし、取材を進めると、AI-RAN Alliance自体はどのようなプロセッサーを採用するかに関しては規定しておらず、CPUやAIアクセラレーターなどを組み合わせてAI-RANを実現することは否定されていない。それどころか、ArmやQualcommなども幹事社(Executive Member)として参加しているため、MWCのAI-RAN AllianceブースではQualcommのデモも行われていた。

 そのAI-RAN Allianceには加盟していないが、現在のvRAN、そして5Gコア向けのプロセッサー市場では覇者と言えるのは、実はIntelだ。Intelブースには、世界中の通信キャリアのロゴが掲出され、vRANや5GコアでIntelのXeonが採用されていることをアピールしていた。そこには日本のNTTドコモ、KDDI、そして楽天モバイルといった代表的な通信キャリアの名前が出されていた。

Intelブースの壁に紹介されていた、Intel CPUを採用したvRANや5Gコアを採用している通信キャリア。日本の通信キャリアは4社中3社(NTTドコモ、KDDI、楽天モバイル)が紹介されていた

 Intelは、MWCが開催された初日に以下のBlogを公開し、「AI in networks isn't "CPU vs. GPU" - it's right compute for the workload」(AI-RANの半導体はCPUか、GPUかではなくワークロードに適したコンピュート環境が必要だ)と主張した。

Smarter 5G Today, Seamless Path to 6G: Intel's AI-Ready Network Vision
https://newsroom.intel.com/opinion/smarter-5g-today-seamless-path-to-6g-intels-ai-ready-network-vision

 Intelの主張をまとめると、AIの機能はRANや5Gコアに必要だが、AIを実現する手段はGPUだけではない――というものだ。なぜかというと、RANや5Gでは、性能はもちろんだが、それと同時に電力効率も求められているからだ。

 例えば、通信キャリアのネットワークはお昼から夕方ぐらいが負荷のピークで、そこから深夜に向かって負荷が下がっていき、朝になると再び上がり始める――そうした負荷に偏りがあるサービスである。そのため、深夜などの負荷が低い時にはプロセッサーをアイドル状態にして消費電力を下げる、そうした変動する負荷への対応が求められている。

 実のところ、GPUにとっては、それはあまり得意分野ではない。GPUが電力的に高効率なのはピーク性能を発揮している時で、アイドル状態や低負荷である時には、電力効率があまりよくないというのがその特徴になる。

 それに対して、CPU、特にIntelのEコアから構成されているCPU(Sierra ForestやClearwater Forest)などは、そうしたアイドル時の消費電力が抑えられるように設計されているし、長年vRANや5Gコアのプロセッサーとして(Pコア製品も含め)IntelのXeonが選ばれてきた理由の1つなのである。

 今回Intelは同社のブースにおいて、楽天シンフォニー(楽天の子会社でvRANソリューションなどをグローバルに販売している)、Dell Technologiesと共同で開発した仮想DU(vDU)の展示を行った。

 楽天シンフォニーのvDUは、無線基地局の直下にIntel Xeon 6 SoC(Granite Rapid-D、L2パケット処理のアクセラレーターを搭載したXeon 6)を採用したDell Technologiesのエッジサーバーを置き、ソフトウェアによってDUの機能を実現している。

 この方式のメリットは、ソフトウェアで各機能が実現されているため、無線部分が同じ周波数であるならば、ソフトウェアをアップグレードするだけで、5Gから6Gへとシームレスにアップグレードできることだ。

 Intelの強みはまさにそこにある。今vRANや5GコアのプロセッサーとしてIntel Xeonが採用されていることで、2030年ごろだと考えられている6Gの導入が始まっても、ソフトウェアをアップグレードするだけで5G対応の基地局を6Gに切り替えることが可能になる。

 前述の電力効率と相まって、こうした点がIntelの強みとなっている。仮に6GでAIの機能が必要になるなら、AI推論のアクセラレーターを追加すれば、AI-RAN化することも容易だろう。

楽天の子会社楽天シンフォニーが楽天モバイル向けに開発したvDUのデモ。右側の上が無線部分、下がDell Technologies製の全天候型エッジサーバー
楽天モバイルのvDUのシステム概要
Dell Technologiesの全天候型エッジサーバー(PowerEdge XR9700)

 Intelは、楽天シンフォニーのvDUにも利用されているXeon 6 SoCの強化版として、今年の半ばまでにコア数を増やした72コア版の出荷を開始する(現在は42コア版までが出荷されている)。

 また、すでに、Clearwater Forestのコード名で開発が進められている「Xeon 6+」を、2026年前半に投入すると明らかにしている。現行製品の「Xeon 6 with E-cores」(開発コード名:Sierra Forest)はNTTドコモが採用することを明らかにしているなど、通信キャリアでの採用が進んでいるのだ。

左がXeon 6 with E-cores(開発コード名:Sierra Forest)、右がXeon 6+(開発コード名:Clearwater Forest)
Xeon 6 SOC(Granite Rapid-D)、左が42コア版、右が72コア版

NVIDIAは6G世代を見据え、NVIDIAのAIソフトを適用できるGPUベースのAI-RANのメリットをアピール

 こうしたIntelの主張に対して、これからvRAN市場に入っていき、そしてAI-RANでGPUの採用を狙っているNVIDIAの立場はどうなのか?

 NVIDIAはMWCに参加していなかったが、米国カリフォルニア州サンノゼで行われたNVIDIAの年次イベント「GTC 2026」では、NVIDIA テレコム製品・マーケティング担当上級部長 カニカ・アタリ氏に話を聞く機会を得た。

NVIDIA テレコム製品・マーケティング担当上級部長 カニカ・アタリ氏
NVIDIAがCESで発表したRubin GPU
AI-RANを利用した送電網の最適化のデモ

 アタリ氏によれば、AI-RANの3つのユースケースのうち、普及の鍵になると考えているのはAI-on-RAN、つまりエッジユースケースであるという。

 アタリ氏は「今回のGTCではさまざまなユースケースを紹介しているが、特にエッジでの事例紹介を行っている。例えば、米国の通信事業者T-Mobileとの取り組みでは、AI-RANに対応した5Gネットワークにカメラを接続しており、交通渋滞の情報を解析できるようにしている。

 ほかにも、AT&TやCOMCASTなどとの取り組みを行っているが、重要な点はGPUがRANに入ることで、こうしたエッジアプリケーションを、ほかのAIアプリケーションから転用できることだ」と述べた。

 AIにおけるNVIDIAの強みは、CUDAと呼ばれる中間ソフトウェアでGPUを仮想化し、どの世代のGPUでも、1個から数十万個までのGPUを利用して演算できるという柔軟性にあることはもちろんだ。同時に、CUDA-Xのような、産業別に用意されている開発ライブラリを利用して、アプリケーションを容易に開発できることもよく知られている。それがRANにも適用されることになるのが、GPUをAI-RANで利用する場合の強みとなる。

 もちろん、NVIDIAはAI-on-RANの推進も続けており、日本の通信キャリアであるソフトバンクと協業して開発を進めている。AITRASと呼ばれる取り組みがそれで、ソフトバンクが九州に建設したAITRAS向けのGPUベースのデータセンターにおいて、現在実証実験が進められている。MWCでは、GPUとソフトウェアの組み合わせで16レイヤの大規模なMassive MIMOを実現できたことなどが発表されており、着々と商用化に向けて準備が進んでいるところだ。

ソフトバンクはGTCにブースを出し、同社のAI-RAN戦略を説明
MWCでは、AITRASを利用したGPUベースのRANの開発状況の進展を説明

現状は6G時代にGPUオンリーなのか、CPU+AI推論アクセラレーターなのか答えは出ていない

 このように、現状としてはどちらにも長所があり、短所もあるという状況だ。ただ、世界中の通信キャリアで商用利用が進んでいるXeonベースのvRANが一歩リードし、それをGPUのAIにおける処理能力というアドバンテージでNVIDIAが追いかけているといってよいだろう。

 その意味で鍵になるのは、6Gがどのような仕様、規格になるのかだろう。今回のMWCでも、多くの通信キャリアや機器ベンダーなどが6Gに関して語っていたが、共通していたのは、6GではAIが鍵になるという説明だ。その意味では、今後3GPPなどで策定が進む6Gの規格次第では、NVIDIAのGPUに大きなチャンスがあるともいえる。

 ただ、AI推論に特化したGroqのLPU(Language Processing Unit)といった製品が登場していることからもわかるように、エッジアプリケーションのようなAI推論では、学習とは異なり、NVIDIAのGPUだけが答えとはならない可能性もある。特にエッジでは、低遅延が大きな鍵になるだけに、遅延よりもスループットが重視されるGPUではなく、Groq LPUやSamba NovaのRDUなどのAI推論アクセラレーターにも大きな可能性があり、Intel CPU+AI推論アクセラレーターが主流になるシナリオが、むしろ現実的という見方もある。このように、まだ誰が6G時代のAI-RANで勝者になるのか、見えてきていない状況だ。