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Google Cloud Next Tokyo '23、2日目の基調講演はサービスを利用する企業の“変化の最前線”を紹介

 11月16日、「Google Cloud Next Tokyo '23」 2日目の基調講演を開催した。クラウドを活用するエンジニア・開発者に向けた最新情報、ユーザー企業がGoogle Cloudのサービスを利用することでどう変化していくのかなどを紹介。さまざまなGoogle Cloudのサービスを利用することで変化する企業の実態を説明した。

「Google Cloud Next Tokyo '23」会場の様子

ユーザーに提供するサービスのベースは自身が培ってきた技術

 基調講演の冒頭、今年25周年を迎えたGoogleがこれまでに手がけた技術の振り返りが行われた。Google Cloudのカスタマーエンジニアリング 技術本部長である渕野大輔氏が、25年間のトピックといえる技術を紹介した。

Google Cloud カスタマーエンジニアリング 技術本部長 渕野大輔氏

 渕野氏は、「1998年、Googleの検索エンジンの仕組みは、高価なサーバーではなく、どこにでもあるようなPCで構築されていた。何千台ものPCを利用したサービス運用で発生する問題の1つは、特定のデータがどこにあるかを追跡するのが難しいこと。そしてPCのディスクは頻繁に壊れる。また、サービス開始当初はデータセンター間に高速なネットワークを引くことができず、距離の離れたデータセンター間のデータ転送は、HDDを満載した車で物理的に輸送していた。そこで2003年に、これらのディスクを管理する画期的な分散ファイルシステムの構築を開始した。2010年には、Colossusと呼ばれる、より回復力に優れたスケーラブルなバージョンに進化させた。今日では、仮想マシンのディスクオブジェクト、ストレージ、データベース、Googleドライブ内のファイルなど、あらゆるデータがColossusに保存されている」とする。

 そうしてサービスを提供していく中で、Googleには新たな課題が生まれた。運用負荷が、サービス拡大と呼応するように上昇していったことだ。

 「Googleの検索サービスは、Pythonの構成ファイルとサーバーの状況を管理するためのMySQLデータベースを使用した、非常にシンプルなものからスタートした。しかし運用負荷が拡大したことで、2003年、私たちはBorgの最初のバージョンを作成した。この仕組みは、現在に至るまでGoogle Cloudのすべてのアプリケーションをオーケストレーションするシステムであり、我々のデータセンター運用に欠かせない技術となっている。そして2013年、私たちは同じコンセプトのオープンソースバージョンをリリースした。これがKubernetesだ」(渕野氏)。

 このようにGoogleは、サービスを運営する中で必要な技術を自ら開発してきた歴史がある。ロードバランサーについても同様だ。

 渕野氏はこれについて、「2008年当時、利用していたロードバランサーはサードパーティ製ハードウェアデバイスだった。特有のトラフィックに遭遇すると、壊滅的な障害モードに陥っていた。利用していた製品のベンダーからは、この問題を修正することは不可能と告げられていた。そこでサービスの担当チームは、悩んだ末に自分たちで解決策を考え出す決断をした。汎用Linuxサーバー上のソフトウェアで、独自の負荷分散の仕組みを作り始めた。これが現在ではクラウドのロードバランシングを含む、すべてのデータセンタートラフィックの分散を行っている、高速で信頼性の高いMaglevを開発したきっかけとなる」と説明した。

 また淵野氏は、「Colossus、Borg、Kubernetes、Maglevは、Google25年の歴史の中で非常に重要なソフトウェアイノベーションで、Googleの各サービスを支え、データセンター運用の根幹をなしている。これらのアイデアは突然生まれたのではなく、非常に泥くさいタスクをこなし、それをいかに合理的に、効率化するかと悩み抜いたところからイノベーションが生まれている。そしてこれらのテクノロジーを土台として、Google Cloudの各サービスが提供されている。この強固な土台があるからこそ、我々は各サービスを素早く進化させ、新しいクラウドの使い方を皆さまに提供できる」とし、愚直に実践を積み重ねたからこそ、新しいテクノロジーが生まれたと話した。

3つのトピックについて取り組みを紹介

 次に、Modern Infrastructure Cloudとして、Google Cloudでインフラ、アプリケーション開発を担当する技術部長の安原稔貴氏が、次の3つのトピックにおける最新動向を紹介した。

Google Cloud 技術部長(インフラ、アプリケーション開発) 安原稔貴氏

1)AI-Optimized infrastructure:機械学習のトレーニングや推論を行うために設計されたインフラストラクチャを提供
2)Modern and Enterprise Workloads:複雑化し高度な要件や運用が求められるワークロードに対して高度な機能を提供
3)Reliable and scalable infrastructure:Googleのサービス支える信頼性が高くスケーラブルなインフラストラクチャを提供

 1)のAI-Optimized infrastructureについては、「Google CloudのAIサービスは、用途に応じさまざまな選択肢を提供している。我々Googleの提供する機械学習モデルを活用いただくサービスから、今回紹介するモデルを自分で作成しサービスとして提供する際に必要となるサービスまで、幅広く提供している」と前置き。

 その上で、「Google Cloud Nextで発表された新しいCloud TPU v5eは、最新の生成AIモデルなどの幅広いAIワークロードに対し、スケーラブルで費用対効果の高い学習や推論を行う。NVIDIAのGPUベースを利用できるA3 VMsは、生成AIや大規模言語モデルなど、AIモデルのトレーニングやサービスに特化して構築されている、A3はGoogle読字設計のインテルプロセッシングユニットにより、ハードウェア側のチップでネットワーク処理をフロートすることで、20Gbpsのネットワーク領域を利用可能。A2 VMと比較すると最大で10倍のネットワーク帯域幅を得ることができる。いち早く2024年6月に東京リージョンから利用できることも発表させていただいた。データを国外に持ち出したくないお客さまのニーズを頂いており、国内で最新モデルのGPUを利用した機械学習処理を行うことが可能となる」と説明する。

 また、「NVIDIAの14GPUを搭載したG2 VMも提供するなど、機械学習を行うためのさまざまな選択肢を提供している。お客さまの用途に合わせ、最適なアクセラレーターを利用していただくことが可能となる。大容量データを利用する機械学習において重要なクラウドへのデータマイグレーションが必要になる場面では、東京リージョンでTransfer Applianceを利用いただくと、データをお客さま先に多くさせていただくApplianceにコピーすることで、簡単活高速にオンプレミスからクラウドにオフラインでデータ移動させていただくことも可能となる」とも述べた。

 2つ目のトピックであるModern and Enterprise Workloadsは、複雑化するエンタープライズアプリケーションに対し、最適化された選択肢を提供することが狙いとなっている。

 安原氏は、「すでにあらゆる組織がコンテナを利用している。調査会社であるガートナーのデータでは、2027年までに世界の組織の90%以上がコンテナ化されたアプリケーションを本番稼働させると予測され、2021年の40%未満から大幅に増加することになる。コンテナ実行環境としてGoogle Cloudでは、第一歩に最適な、簡単に使い始められるCloud Run、Google Kubernetes Engineを提供している。一般提供が始まったCloud Runサイドカーは、サイドカーコンテナをデプロイできるようになり、オープンソースやサードパーティの拡張機能をより簡単に利用できるようになった」とする。

 またGoogle Kubernetes Engineについては、「提供するサービス拡大に伴い、マルチリージョンやマルチクラスター構成を採用するお客さまが増え、その運用負荷に悩まされているお客さまが多いと理解している。提供が始まったGKE Enterprise editionでは、こうした複雑化するマルチクラスター管理を簡略化することができる。複数チームやクラスターをまとめて管理することが可能で、セキュリティ対応、マネージドサービス利用により、より少ない運用工数でパワフルなKubernetesのエコシステムを利用することが可能となる」と説明した。

 3つ目のトピックであるReliable and scalable infrastructureについては、次のように説明された。

 「Google Cloudでは、Googleのサービスを支える、独自開発した、信頼性が高くスケーラブルなインフラを皆さまのサービスの基盤として利用していただくことができる。先ほども少し触れたインテルプロセッシングユニットに関しては、CシリーズのVMファミリーが拡大された。Googleのサービスを支えるBprgやColossusのインフラストラクチャによるオフロードを実現し、VMのリソース最適化とストレージの性能向上が可能となっている。新しいブロックストレージの選択肢となるHyperdiscストレージプールのプレビュー版は、シンプロビジョニングとデータの削減によるコスト最適化を実現する。加えて、データの圧縮や重複排除などを行うことで、データベースワークロードにおいてTCOを最大で40パーセント低減できる」。

 「また、Google Cloudではお客さまのサービス安定化のために信頼性向上の努力を続けている。この度、すべてのVMの可用性を、99.5%から99.9%とし、SAPなどミッションクリティカルなワークロードで利用されるメモリ最適化VMでは、99.95%と改善している。複雑なマルチクラウド、ハイブリッドクラウド構成が増え、オンプレミスやクラウド間の接続品質がワークロード品質に直結するため、特に要件の厳しいワークロード稼働のために、シンプルで信頼性の高いネットワークが求められる。この課題を解決するために、提供開始したCross connectは99.99%のSLAを実現している」(以上、安原氏)。

ゲームと金融機関という異なるユーザーがGoogle Cloudを選択した背景を紹介

 またGoogle Cloudを利用するユーザーとして、カプコン、北国フィナンシャルホールディングスの2社が登壇した。

 カプコンは、対戦格闘ゲーム「ストリートファイターシリーズ」で知られるゲームソフト開発を行う。ストリートファイターは1987年に初代製品が開発され、長い歴史を重ねてきただけに、「ファンの固定化」が課題となっていた。カプコンのシステム基盤部部長の井上真一氏は、最新の「ストリートファイター6」開発について、次のように振り返る。

 「続編なんだからコアファンだけに向け、シリーズを踏襲し同じように作っていくという選択肢もあった。しかし、少しでも多くの方に手に取っていただけるゲームにしたいという強い思いで立ち上がったプロジェクトが、ストリートファイター6。もちろん、これまでの格闘ゲームファンにも満足していただけるようになっている」。

株式会社カプコン システム基盤部 部長の井上真一氏

 そこで従来になかった仕掛け作りが行われ、それを支えたのがGoogle Cloudだとする。

 井上氏は、「操作は、一般的なゲーム専用機についているコントローラーに最適化し、ワンボタンを押すだけ必殺技が出せるモダンタイプによって、初めて遊んだプレイヤーもすぐに対戦格闘ゲームの面白さに触れることができる。一方、1人でじっくり遊びたい方には、自身のアバターを作って、ストリートファイターの世界に飛び込むワールドツアーモードを用意した。皆でわいわい遊びたいプレイヤーには、仮想空間の中にゲームセンターとも言えるバトルハブを用意した。オンラインにいつでも気軽に集まることができる。それら、数えきれない挑戦がユーザーに届き、発売わずか3日で100万ユーザーを突破し、1カ月後には200万ユーザーとなった」と、作品の特徴を説明。

 その上で、「多くの機能の裏側にGoogle Cloudが活用されている。ストリートファイター6では、従来の特定のプラットホーム同士しか遊べない制約を取り除き、PCでもゲーム専用機でも遊んでいるハードがどんなものであっても、世界中の人たちとつながれるクロスプレイを実現している。この点で、Google Cloudの持つ低遅延で障害に強いグローバルネットワーキングは、私たちの要求に見事に応えてくれている。地球規模プラネットスケールとも言えるインフラは、まさに最適な選択肢だった。ユーザーデータベースとして、Cloud Spannerは大きな役割を果たしている。世界中でリアルタイムに数百万のプレイヤーが正確なランキングに参加する。非常に書き込みが多いデータベースという、ゲームならではの厳しい要件も見事に満たしている」と、ゲームプラットフォームとしての魅力に触れた。

 なお現在、ゲーム開発を行う企業は、開発費高騰という大きな課題を抱えている。この課題に対応するという点でも、Googleには大きな可能性があるという。

 「昨今の技術の向上によって、ゲームの品質は飛躍的に向上している。その一方で、開発費は大きく膨らみ、その多くが人件費となっている。そこでGoogleのマネージドサービスを中心としたアーキテクチャが、ごく少人数での開発、運用が可能となっている点は、非常に重要と言える。また、こうしたバックエンドの分野だけでなく、クリエイターの開発環境や、膨大な時間がかかるテスト環境に、AIによるリソースの省力化にも取り組んでいる。こうした効率化、最適化を実現しつつ、テクノロジーは面白さのためにあるという考え方で、Googleと今後もお付き合いしていきたいと考えている」(井上氏)。

 もう1社、ユーザーとして登壇したのは、北國フィナンシャルホールディングス 代表取締役社長の杖村修司氏だ。

北國フィナンシャルホールディングス 代表取締役社長の杖村修司氏

 杖村氏は、「北國銀行は、北陸地域を中心として3つの銀行が合併してできた地方銀行。2021年に北国フィナンシャルホールディングスとして、金融持ち株会社に生まれ変わった。おそらく、地方銀行と聞いて、だいぶ堅くて、スピードが遅い、大丈夫かと思われる方もいらっしゃると思うが、我々は少し違う。例えば、個人のスマホのデジタルバンクをパブリッククラウドを使い4年前にローンチした。『LIFFE+(ライフタス)』という名前で、基本的に振り込みもすべて無料、基本料金も無料、ATM引き出しも無料の画期的な商品として、サービスを提供させてもらっている。社内体制も2015年から、皆さんがよくご存じのノルマ営業を完全に廃止した。短期的な利益のためではなく、中長期的な目線でお客さまの夢や暮らしをサポートする提案を行っている」と、自社の特徴を説明。

 さらに、IT分野でもサービス拡大に向け自社ATMを開発しているほか、2021年5月から勘定系システムにパブリッククラウドのMicrosoft Azureを採用し、フルバンキングシステムを稼働させるという、日本で初めての試みも行っているとも述べた。

 その同社が、なぜGoogle Cloudを採用するのか。

 杖村氏は、「これらの政策を次世代地域デジタルプラットフォームと呼んでいる。北陸地域を日本のデジタル先進地域にしたいという思いを持っている。このチャレンジの中で、数々の課題にも直面してきた。ご存じのように、銀行の勘定系は“超に超がつく”ミッションクリティカルなシステム。しかし、残念ながらクラウドでも一定頻度で障害が起こる。その場合は、我々は待つしかないが、お客さまにサービスを提供させていただいている上では、これは非常に苦痛だ。1つのクラウドだけに依存することは、ITガバナンス上、プライム市場の企業として許されることではないと考えるに至った。自分たちでコントロールしなければならないと考えた」と、その理由を説明する。

 さらに、「現在の勘定系は1つの巨大なシステムであり、小回りがきかない面がある。経営としては、20年・30年先を見据えて、フロントシステムの生産性と、勘定系の生産性を同等のものにしていきたいという思いがある。複数のクラウドの長所を活用できるシステム構造を取る。いわゆるコンテナ化と、Java化によるアプリケーション構造の見直しにつながる。このタイミングでWindowsとCOBOLから脱却したいと考えた。現在の勘定系を大きく進化させ、Google CloudとAzureを使った勘定系のマルチクラウド化、モダナイゼーションアプリケーション構造の見直しを決断した」とも述べた。

 そして、新たにGoogle Cloudを採用する理由として次の3点を挙げている。

1)安定性:全世界規模の大規模障害の発生率の低さ
2)コンテナ技術:コンテナ技術の先駆けであり、リーダーシップ
3)Googleの企業カルチャー:北國フィナンシャルホールディングスとの親和性の高さ

 杖村氏は、これらを踏まえ、「AzureとGoogle Cloudの2つを組み合わせることで、コントロール可能で、高い多様性を持つシステムが実現できると考える。また、クラウド間ネットワークについて、Cross-Cloud Interconnectが2023年にローンチされ、我々も実環境での性能テストも開始している。障害部位の削減、レイテンシー削減の両方に期待する。コンテナ技術は、銀行の勘定系には不可欠で、Kubernetesの採用を期待している。その際、直接Googleの堅牢な基盤を活用ができる点が大変魅力的。我々のマルチクラウド、勘定系モダナイゼーションを絶対にやり遂げる。やり遂げることができる素晴らしいチャレンジだと思っている。Google Cloudとともに、高い価値をお客さまに届け、ともに新しいステージへの挑戦をしていきたい」と、金融系の勘定系システムをマルチクラウド化する挑戦への強い意欲を、あらためてアピールした。

社内改革にGoogle Workspaceを導入したTBS

 Google Workspace導入による社内改革に挑んでいるユーザーとして、TBSテレビ メディアテクノロジー局 ICTセキュリティ戦略部長の山本善尚氏が登壇した。

株式会社TBSテレビ メディアテクノロジー局 ICTセキュリティ戦略部長の山本善尚氏

 「TBSでは2018年に、Google Workspaceの前身であるG Suiteを導入した。2015年ごろから、ドラマや海外番組といった分野でメディアによる素材の受け渡しが煩雑で解決することはできないか?という声があがっていた。そこで大容量のファイル共有を解決するソリューションとして、まず一部のユーザーから利用が始まった」と導入の経緯に触れる。

 そして「その後、2017年に全社導入の検討を開始し、2018年に社内の業務フロー改善を目的として、G Suiteの導入が始まった。当時のTBSは、旧態依然とした紙文化での業務フローが数多く残っていた。当然だがファイル共有も行われていない。データはオンプレのサーバーに保存しており、クラウドよりオンプレの方が安全という意識のスタッフも数多く残っていた。それぞれ個別にファイルを管理し、業務を行うワークフローとなっていた。データをクラウドに保存するといったことや、ドキュメントやスプレッドシート等を共同編集することにより、業務効率を大幅に上げられるのではと考え、グループウェア導入を決定した」と述べた。

 また普及の切っ掛けとしては、新型コロナウイルスの流行を挙げ、「特に、テレワークによるMeet活用が行われて、一気に普及することになった。それと連動し、ドキュメントやスプレッドシートでの共同編集作業が一気に増え、ワークロード変化、業務効率化というのが一気に進んだと考えている」(山本氏)という。

 最近では、TBSだけでなく、系列の地方局でもGoogle Workspace導入が進んでいる。

 「JNN28社でもGoogle Workspace導入が進み、現在は27社に導入され、残り1社も11月中に契約というところまで進んでいる。それが実現したことで、JNNグループでの資料共有が行えるようになっている。ただし、28社は会社としては全くの別会社になるため、各社のセキュリティポリシーも異なり、ファイル共有も簡単に実現できたわけではない。当初は、Googleアカウントを持っていない局やセキュリティの厳しい局には、その都度IDを発行するといったことも必要だった、ようやく全社がGoogle Workspaceを導入したことで、共有ドライブによるファイル共有がスムーズに行えるようになった」(山本氏)。

 さらに、業務改善のためにノーコードアプリ開発ツール「AppSheet」の活用にも取り組み始めているという。

 「各社同じテレビ局であり、同じような業務改善の悩みを持っている。その解決に向け、まずTBSがAppSheetを使って業務改善に取り組み、それをJNN全体にアピールし、各社で自由にアプリ開発、利用していくことができないかと検討している。TBSで11月からAppSheet導入が始まり、数千アカウントを契約させてもらった。TBSには、細かいものも入れ、数百のシステムが存在する。各部署やスタッフの要望に応え個別にスクラッチ開発されてきたシステムがほとんど。こういったシステムの保守費用が、開発コストより高いという問題が発生している上、業務内容の変化に簡単に追従できないという問題も抱えている。システムには、作り込んで使っていくべきものも当然あるが、各部のワークフローの変化に柔軟に対応できることも必要な時代となっていることも確か。こうした問題の解決手法の1つがAppSheetによる、市民開発ではないかと考えている。非IT人材が自らシステムを開発し、業務のDXを考えていくことが次のステップで取り組むべきことだと考えている」。

 このほか、非IT人材によるアプリ開発を進めていくためには、社内の仕組み作りも不可欠となる。そのために新入社員研修からAppSheetのハンズオンを実施したとのことで、山本氏は、「ハンズオンを実施したところ、自ら数個のアプリを開発する新人が現れ、若手の対応力に大変驚かされた。こういった力がDX推進の原動力になるのではと考えている。また、7月にハッカソンを実施し、TBSグループ全体から参加者を募ったところ、下は20代、上は50代と幅広い年代、幅広い役職の参加者が集まった。その後、アプリ開発を実践したところ、番組ロケに行った際の情報共有という即戦力となるアプリが開発されるといった動きも起こっている。さらに社内DXを進めるために、新たな部署を立ち上げ、その部署で開発したアプリ1号がローンチされたが、これは今後も継続的に進んでいくだろう」との見通しを示した。

 なおTBSでは、こうした業務改革とともに、AIの発展に期待している。

 「TBSでは2030年に向け、コンテンツ企業を目指した改革を行っている。その中、事務作業をAIで省力化し、コンテンツ制作などクリエイティブな作業に時間を費やせるようになることは我々にとって大変重要な変化になると考えている。実際の利用にあたっては安全に利用できるのかなどセキュリティや情報の管理がどうなるのかは気になるところ。また、日本語化が実現されていないために、実業務でのトライアルがなかなか進まないことが残念だと感じている」(山本氏)と述べ、AIが業務に影響を及ぼすと指摘した。

スタートアップ支援を受けた企業がメリットを説明

 最後のコーナーでは、Google Cloudが実施しているスタートアップ企業支援プログラムが紹介された。このプログラムでは、資金面での支援に加え、エンジニアによる技術支援、メンターシップなどビジネス面での支援などを行っている。

 日本でこのプログラムを受けている企業として、電動キックボードのシェアリングサービスを行っているLuupのCTO、岡田直道氏が登壇した。

株式会社Luup Software Development部 Co-founder, CTOの岡田直道氏

 Luupは街のあちこちに電動キックボード、電動自転車を置いたポートを設置し、モバイルアプリを使ってレンタルし、移動に利用するサービスを提供している。同社がモバイルアプリ開発に選択したのがGoogleのアプリ開発プラットホームであるFirebaseだった。

 岡田氏は、「Luupのようなスタートアップが新しいビジネスを始める際には、少ないアセットでサービスを立ち上げる環境が必要。クラウドサービスをアプリケーションのインフラに据えることが、今日のITスタートアップではスタンダードな選択になっているが、私たちはさらに開発の速度を求めるため、2019年の時点で十分に実用に耐えられそうで、今後もサービスとしての広がりがあると確信し、Firebaseを選定した」と、選定の理由を説明した。

 また、「短時間の移動に頻繁に利用されることが想定できる当社のサービスにとって、レスポンスが高速であること、高いトラフィックに対して適切にスケールできることは非常に重要な要素になってくる。Google Cloudはマネージドサービスが充実しているだけでなく、パフォーマンスにも優れ、さらに多様性という点でもとても信頼できる。創業期から2年前後まではモバイルアプリのバックエンドのAPIにCloud Functionsを採用し、サーバーレスアーキテクチャを構築している。認証関連のサービスを開発する上では、Firebaseのオーセンティフィケーションの活用が大きなメリットとなった」と、効果に付いて説明。

 このほか、「電動キックボードのような新しいモビリティをサービスとして提供することは、法律による規制や認可状況が時期によって大きく変わる。時には、実証実験の認可や自治体とのやり取りなど、展開可能時期からの逆算でサービスを開発するということが求められる時期もあった。そんな状況にも、Firebaseを全面的に採用した構成により、我々はスピーディに逆算での開発を進めることができた」とも述べた。

 なお、創業から時間がたった現在でも、LuupではGoogle Cloudを活用しているとのことで、「Google Cloudを使うことで、その後の事業展開においてもスムーズな拡大ができている。現在のLuupのアーキテクチャは、APIの種類が増え、外部サービス含めて非常に接続するサービスの数が多くなっている。依然としてベースの構成はCloud Functionsを中心としている。データ分析基盤もBigQueryをベースに、複数のサービスを採用したデータパイプラインを構築している」とする。

 また、これらの技術選定においても、Google Cloudのマネージドサービスを連結させ、アーキテクチャを設計することに恩恵を感じているとのことで、同社のシェアリングサービスを支えるデータ活用に生かしているとし、以下のように説明した。

 「1つは、ユーザーの利用動態の分析で、1日の利用者数、利用時間などのユーザー指標を分析し、適切にグロー施策やマーケティングキャンペーンに適用する戦略を構築している」。

 「2つ目は物理的なエリア展開計画へのフィードバック。都市ごとの利用状況、移動のトラフィックを分析していくことで、各都市のどのような場所にどれくらいの規模のポートが必要で、そこにどれぐらいの比率の車両を配置すればユーザーの利用機会を最大化できるのかなどが分かる」。

 「3つ目はさらに特有のもので、シェアリングサービスを維持するためのオペレーション業務に利用している。車両のメンテナンスや日々のバッテリー交換、先ほどお話しした車両の展開における配置業務自体も、大規模な輸送と現場作業を伴うヘビーな業務であり、この最適化がサービスの健全な運営にはとても重要となる。Luupではデータアクセシビリティ向上する活動を進め、エンジニアだけでなく、プロダクトマネージャーやマーケターなどさまざまな職種のメンバーがBig Queryや他のBIツールを使い、直接クエリーを書くことで分析を行っている。社内のコラボレーションにGoogle Workspaceを採用し、クラウド基盤と合わせて1つの社内IT基盤として利用できているがゆえに、アカウント管理や権限の管理がしやすいという点にもメリットを感じている」(以上、山本氏)。

 また、「当社のサービスはジオスペシャルであり、サービス上ではGoogle Mapsプラットフォームも深く利用している。この点でもGoogle Cloudサービスに構成が一本化されていることの恩恵がある」とした上で、「今日、お話ししたような歩みを経て、我々は次世代の交通インフラになるための1歩目、2歩目を踏み出した状態にすぎない。世の中の移動のあり方を変えていくには、さらに何回ものフェーズの変化を経る必要がある。今後もGoogle Cloudを活用することで、スケールに向けたさまざまな課題を乗り越え、我々のようなスタートアップが事業を拡大していく一助としていければと思っている」と述べて、自社の講演を締めくくった。