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導入から活用へ、普及期を迎えた日本のクラウドを支えるAWS 「AWS Summit Tokyo 2016」基調講演

「いままでできなかったことができるようになった」国内での最新事例を紹介

 ITによるイノベーティブな変革を「デジタルトランスフォーメーション」という表現で耳にすることが増えてきたが、端的にいえば「いままでできなかったことができるようになる」(長崎社長)ことにほかならない。そしてAWSクラウドを導入したことで「いままでできなかったことができるようになった」企業は、日本にも少なくない。ここでは基調講演で発表されたゲオホールディングス、日本電産、freeeによるAWS事例の概要を紹介する。

ゲオホールディングス

 レンタルビデオ事業からスタートし、中京地区を中心に全国規模の店舗ネットワークを展開するゲオグループは現在、これまでメインだった「ゲオショップ」を中心とするメディア事業からリユース事業へとポートフォリオの転換を図っている。

 「メディア事業で培った集客力を活かし、新規事業や商材の開拓を図り、オムニチャネルリテーリングをめざす」(ゲオホールディングス 業務システム部 ゼネラルマネージャ 末延寛和氏)というゲオが現在進めているのが、ITによる顧客ニーズの高い精度での予測だ。

 そのために、分析のベースとなるデータベース(基幹データベース、会員データベースをOracle ExadataからAmazon Redshiftへと全面移行することを決定している。2015年9月には基幹データベースの移行を完了、さらに2016年4月には会員データベースの移行も実施、9月までには「既存データセンターのサーバはすべてAWSに移行完了予定」(末延氏)という。

 「これまでは、過去の利用実績の集計をもとに、担当者が勘や経験に頼って商品ごとのニーズを予測していた。だがこれからは、大量のデータをITを駆使して瞬時に回すことで、顧客ごとのニーズを高い精度で予測していく。さらに担当者の勘や経験を掛けあわせることで商品ごとのニーズ予測精度も高めていく。Redshiftを導入したことにより、ITをフル活用すればシステム部門が経営を加速する存在になる、という確信がもてた」(末延氏)。

ゲオホールディングスが取り組む顧客ごとのニーズ予測の例
ゲオホールディングス 業務システム部 ゼネラルマネージャの末延寛和氏
日本電産

 総合モーターメーカーとして世界トップクラスの事業規模を誇る日本電算は、2010年からクラウドへのシステム移行を積極的に促進、2016年の現在は「社内には物理サーバーが1台もない状態」(日本電産 常務執行役員 CIO 佐藤年成氏)だという。

 2020年までには「SAP S/4 HANAも含め全ITリソースの"100%パブリッククラウド"を実現する」(佐藤氏)という「IT Vision 2020」を掲げている。このゴールの実現に向けて、製造ラインなどに配置しているセンサーやカメラ、データベースなどから吸い上げるIoTデータの分析基盤をAWS上で構築中だ。

 「IoTを推進しようとしても、現場から上がってくる要求は"すぐにやってほしい"とか"見極めは難しいけどとにかくやってほしい"といったあいまいなものが多い。従来のやり方では、スピードやコストの面で対応できないため、迅速かつ安価にシステムを構築できるAWSクラウドを選んだ」(佐藤氏)。

 現在は「クラウドネイティブ」「オープンソース/新技術」「内製化」をテーマにAWSの各種サービスをフル活用したIoT基盤を構築、担当者の勘と経験を頼りに条件設定していた製造の現場が、「画像データを瞬時に分析し、不備や問題点を即座に洗い出して迅速に対応するこどで、たとえば鋳造機の外観不備を20%から3%に下げることができた」(佐藤氏)と大きく変化しているという。

 また、生産現場のサーモグラフィにはSORACOMのSIMが挿さったRaspberry Pi3が接続されており、SORACOM Air経由でAmazon S3に温度データが送られ、AWSクラウド上でデータ解析が行われている。

日本電算のIoT基盤システム構成図。生産現場のIoT機器から得られたデータをAWSクラウドに送り、瞬時の分析を可能にする環境を構築している。GreenForestは日本電産が内製するクラウド対応のデジタル資産管理ソフトウェア
日本電産 常務執行役員 CIO 佐藤年成氏
freee

 「バックオフィスの最適化」を掲げ、個人事業主から従業員500人以下の中小企業に向けてクラウド会計ソフトを提供するfreeeは、現在、国内でももっとも成長スピードの速いスタートアップとして注目されている企業だ。

 すでにfreeeを導入している事業者は60万を超え、クラウド会計ソフトとしてNo.1のシェアをもつまでに至っているが、freeeの全サービスはAWS上で構築されている。「はじめてサービスをローンチしたときは3人で、しかも9カ月という短い開発期間しかなかった」(freee 代表取締役 佐々木大輔氏)という状況を支えたのはAWSクラウドだった。

 佐々木氏は「freeeにとっての課題はセキュリティとサービスの受容。大事な財務状況を預けてもらうにはセキュリティが担保されていることが必須だったが、AWSならそれはクリアできる。またfreeeのサービスは斬新過ぎて顧客に理解してもらうのが大変なので、早くフィードバックを得たかった。迅速に展開するにはAWSしかなかった」とAWS以外に選択肢がなかったことを強調する。

 「いま"FinTech"という言葉が流行っていて、freeeはその代表のように言われることも多いが、そもそもFinTechというブームが起こったのもAWSの存在があるからだと思っている。金融で自由にビジネスができるという環境をAWSが作ってくれた」(佐々木氏)。

freeeは全システムをAWS上で構築し、サービスを提供している。API経由で銀行との連携も可能に
freee 代表取締役 佐々木大輔氏

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 米国の企業と比較して「日本の企業はITに対して保守的/消極的」という批判を聞くことは少なくないが、ことAWSのユーザー事例に限って言えば、その先進性もユーザーの熱意も海外の先進企業に引けをとらないケースが多い。

 単にレガシーをマイグレーションするだけでなく、AWSによってビジネスや組織、さらにはマインドセットまでが短期間で大きく変わっている事例をいくつも目の当たりにすると、やはり同社がこの5年、10年に渡って国内に及ぼしてきた影響力の大きさを感じざるを得ない。

 単なるユーザー数や導入企業の数だけでなく、ユーザー企業がみずから発する声の強さにこれほど圧倒されるITベンダはほとんど存在しないだろう。ユーザーを中心とした強固なエコシステムこそがAWSのもつ最大の強みであり、今後の成長を支え続けるリソースであることは間違いない。

 クラウドが導入から活用へとフェーズの転換を迎えつつある現在、日本企業のデジタルトランスフォーメーションを支える存在として、AWSがクラウドのトッププレイヤーの座を譲ることは当面なさそうだ。