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AWSクラウドが“新しい標準”である7つの理由
AWS Summit Tokyo 2015基調講演

 Cloud has become the new normal(クラウドは新しい標準になった)――。

 これは2014年11月に米国ラスベガスで行われたAWS(Amazon Web Services)の年次カンファレンス「AWS re:Invent 2014」で、同社シニアバイスプレジデントのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏が発したメッセージだ。

 その半年後の6月2日、東京・品川で開催された「AWS Summit Tokyo 2015」初日の基調講演で、アマゾン データサービス ジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏は、ジャシー氏のこのコメントを引用しながら「5年前はクラウドにまったく興味をもっていなかった企業が、いまはクラウドを導入したいという相談を持ち込まれるようになった。クラウドが新しい標準になったことをあらためて強く実感する」と発言している。

 クラウドに見向きもしなかった層をクラウドに引き寄せたAWSの強さは何をベースにしているのか。本稿では長崎氏が提示した7つのポイントをベースに、あらためてAWSの魅力に迫ってみたい。

アマゾン データサービス ジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏

顧客満足の向上こそがAmazonのDNA

 基調講演の冒頭、長崎社長は「AWSは親会社であるAmazonのDNAを受け継いでおり、CEOのジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)が起業したときから“顧客満足なくして成長はない”という原点は変わっていない」とAmazonグループ全体に共通する体質について触れている。そしてその顧客中心主義の基本は徹底した低価格戦略だ。

 「低価格を喜ばない顧客はいない」というのはベゾスCEOがよく引用するフレーズだが、AWSは2006年にビジネスを開始して以来、実に48回の値下げを実施している。この徹底した低価格戦略にほかのクラウドベンダーが追いつき、対抗していくことは、企業体力的にかなり困難だと言わざるを得ない。

 「利益を内部にためこむのか、それとも顧客に利益を還元するのか、Amazonは後者のビジネスモデルを選ぶ。もちろんAWSも同じだ」と長崎社長はAWSの成長モデルが顧客への利益還元に基づいていることを強調する。

 「低価格を貫くことでAWSのユーザーが増え、それに引きつけられて一緒にやりたいというパートナーが増えていく。もちろんAWS自身もイノベーションを重ね続けることで、さらに顧客を引きつけ、その利益を値下げというかたちで顧客に還元していく。大事なのはそのサイクルを早く回すこと」(長崎社長)。

ジェフ・ベゾス氏がAmazonを起業する際に紙ナプキンに書いたとされる理想の成長のモデル。顧客満足が新たなトラフィックを呼び込み、新しいセラーや商品を引き込むことを示している

新しい標準であり続けるAWSの魅力

 かたくなに守り続ける顧客中心主義と低価格戦略――AmazonのDNAでありAWSの原点であるこれらの理念が、2006年の「Amazon S3」ローンチ以来、AWSを支え続けていることは間違いない。だが、クラウドが“新しい標準”となった現在、AWSにはさらに顧客を引きつける魅力が加わっている。

新しい標準となったクラウド

 以下、長崎社長が紹介したAWSが競合他社の追随を許さない7つのポイントを挙げていく。

1.スタートアップ

 AWSがサービスを開始して2、3年のころは「クラウドはスタートアップのためのインフラで、エンタープライズには使えない」という声をよく聞いた人も多いだろう。現在のエンタープライズにおけるクラウド採用の流れを見るとずいぶん昔の話のように思えるが、その真偽はともかく、設立されたばかりのスタートアップ企業によるAWS採用が初期のAWSクラウドを支えたことは疑いない。人員も資金も少なく、ハードウェアリソースをほとんどもたない彼らにとって、ビジネスをローンチするのに必要な環境をすべてクラウドで構築できたことは、10年前では考えられないような急激な成長を可能にした。

 「ゼロからスタートするスタートアップにとって大切なのは、自由な発想、低コスト体質、そしてスピード。クラウドをインフラに選ぶことで、スタートアップはこの3つをクリアできる。特に重要なのはスピード」と長崎社長の言葉にあるように、AWSクラウドによってビジネスの最初のハードルを取り除くことに成功したスタートアップの中には華々しい成功を遂げている企業が少なくない。

 タクシー配車サービスのUber、ファイル共有サービスのDropbox、宿泊施設の仲介サービスAirbnbなどはその最たる例だろう。こうしたサービスはクラウドが基盤でなければ決して生まれなかった事例でもある。「現在ニューヨークでは、一般客のホテルの宿泊日数は平均4日なのに、Airbnbは7日という状況が生まれている。Airbnbの急激な成長はいまやホテル業界にとって最大の脅威」という長崎社長の言葉にあるように、クラウドという新しいインフラから生まれた新しいサービスは、既存の旧弊なビジネスモデルに変革を迫る存在になりつつある。

2.スピードとアジリティ

 ビジネスにスピードが重要なのは、いまやスタートアップに限ったことではない。クラウドが普及する前は、新しいビジネスにはハードウェアリソースをそろえることが絶対条件だったが、いまやその障壁は取り除かれた。「“新しい標準”であるクラウドはユーザーが使いたいときにすぐに使える環境を用意する。その影響で、3年前にはまだ難しかったデジタルトランスフォーメーションが、現実に多くの企業で起こっている」(長崎社長)

 長崎社長の言うデジタルトランスフォーメーションとは、IT、とりわけクラウドによる急激で劇的なビジネスの変化だ。ここで長崎社長はいくつかのAWSクラウド事例を紹介しており、その中には昨年11月のre:Inventで発表されて大きな話題を呼んだ米MLB(Major League Baseball)による「Statcast」も含まれている。これは軍事技術を野球に転用したトラッキングシステムで、ミサイルを追尾するレーダーのようにボールや各選手、審判の動きをリアルタイムに追いかけ、分析を行い、実況や解説に使えるレベルまで落としこむ。データを取得する頻度は1秒間に2000回で、1試合あたりのデータ量は7テラバイトにも及ぶ(1シーズンの全試合では17PB)。

 視聴者は映像に重ね合わされたボールの軌跡や各選手の過去の成績、それらに基づいた次のプレーの予測などを試合中継と同時に見ることができる。利用しているAWSのサービスはEC2やS3のほか、KinectやRedshiftといったリアルタイム分析を支援するものが中心だ。このように、いままで不可能だったことがクラウドのスピードとアジリティでもって可能になるデジタルトランスフォーメーションの事例はさらに増えていくと予想される。

昨年のre:Inventで発表されたMLBのStatchat。AWSのあらゆるサービスが駆使されており、これまでにない野球観戦が実現した(スライドはre:Inventのもの)
3.多様な顧客のニーズ

 本サミットの前日の6月1日、SAPジャパンはAWS上で稼働するSAPアプリケーション導入企業が国内で100社を超えたことを発表しており、長崎社長も基調講演の壇上でこのニュースを紹介している。日本通運や旭硝子などの大手企業の名前も出され、エンタープライズにおけるAWS移行が年々勢いづいていることをうかがわせる。

 ひとくちにSAP ERPといっても、企業の規模や使用しているツール、アドオンの程度などは非常に多岐にわたる。AWSの強みは、こうした企業の多様なニーズに応えるだけのサービスとオプションを数多くそろえている点だ。

 例えばEC2インスタンスだけでも7つのCPUタイプのもと、実に広いレンジのスペックが用意されており、ユーザーは自分のニーズに最適なタイプを選択できる。これはAWSが2006年のローンチ前から10年以上に渡ってクラウド技術をイノベートし、顧客のニーズに対応し続けてきたからこその結果であり、他社の追随を許さない部分でもある。

 「多様なニーズに応え続けるのはAWSの使命。顧客の声だけを聞き続けたから、エンタープライズのクラウド移行を容易にするDirectConnectや、ペタバイトクラスで伸縮するElasticFileSytem(共有ファイルシステム)などを提供できた。クラウドアーキテクチャに慣れていない顧客のマインドをクラウドに近づけることを支援するノウハウがわれわれには蓄積されている。そのレベルは他社とは次元が違う」(長崎社長)。

多彩なサービスラインアップでどんな企業のニーズにも応える
4.ビッグデータ分析

 ここ1、2年のAWSサービスのローンチで特徴的なのはRedshiftやDynamoDB、Kinect、Lambdaといったビッグデータ関連のサービスが目立つ点だ。特に国内ではクラウド上でのデータウェアハウジングを実現するRedshiftの人気が高く、有名な事例としてはあきんどスシローがRedshift導入で廃棄率を大幅に下げたことが挙げられる。長崎社長は「AWSの絶え間ないイノベーションがユーザーにワンクリックでビッグデータを扱うことを可能にした」と強調する。

 そして現在、AWSが最もイノベーションに注力しているビッグデータ関連技術がマシンラーニング/ディープラーニングだ。今年4月、AWSは「Amazon Machine Learning」をローンチし、クラウド上での機械学習ツール提供を開始している。「Amazonで買い物をしたことがある人ならAmazonのレコメンドシステムはご存じのはず。機械学習のエキスパートが提供するサービスだからこそ、いままでにないスピードと高い精度での結果を体感できる」(長崎社長)。

AWSがビッグデータ分析に提供するサービス群
話題の新サービスAmazon Machine Learningは誰もが手軽に利用できる機械学習サービス。今後の需要拡大が期待できる
5.古い足かせからの解放

 AWSクラウドが果たした役割のひとつに、レガシーITの存在意義を問い直したということが挙げられる。その一例として長崎社長はRDBMSを挙げ、「データベースはオンプレミスしか選択肢がなかったために、ユーザーは高価、独自仕様、ロックイン、制約だらけのライセンスといった状況から抜け出せなかった」と指摘、クラウドがその足かせからの解放を実現したと強調する。

 AWSはクラウドで利用できるRDBMMSとして、OracleやSQL Serverといった商用RDBMSだけでなく、オープンソースのMySQLやPostgreSQLも「Amazon RDS」のサービスとして提供している。また2014年11月のre:Inventでは、MySQLベースの従量課金サービスである「Amazon Aurora」を発表し、話題を呼んだ。

 レガシーからの脱却を促すサービスとしてもうひとつ注目されているのがフルマネージドな仮想デスクトップ環境を提供する「Amazon WorkSpaces」だ。最近の事例としてJohnson&Johnsonが2万5000台のWorkSpaces導入を実現しているが、国内でも住友重機械工業の事例がすでに発表されており、確実に広がりを見せている。

6.継続的な変化

これは3.で挙げた顧客ニーズへの対応と大きく関連するが、AWSがクラウドのパイオニアでありながら、10年近くにわたって圧倒的なシェアトップの座を守り続けている最大の理由は、同社自身がイノベーションとサービス改善を継続しているからにほかならない。

 「他社にフォーカスするのではなく、顧客のみにフォーカスする」というのはAWSのエグゼクティブが必ず口にする言葉だが、これまでローンチしてきたサービスはすべて顧客の声に応えるためのものだ。

 その最たる例が、これも2014年11月のre:Inventで発表されたコンテナ管理サービス「Amazon EC2 Container Service」だと言える。このサービスはユーザーから「EC2のフルインスタンスではなく、アプリケーション単位で細かく使いたい」という要望に応えたもので、Dockerコンテナに詰め込まれた複数のアプリケーションを容易に管理することを可能にする。長崎社長はECSの国内事例としてChatWorkのDevOps環境を紹介しており、継続的なデプロイと構成管理の自動化がECSで可能になったとしている。

11月に発表されたコンテナ管理サービスECSをすでに活用しているChatWorksの事例

 ECSもそうだが、DynamoDBやKinesis、Lambdaなど、AWSが近年発表したサービスは「より小さな単位のコンピューティング」を意識したものが多い。例えばサーバーもOSも必要としないイベント駆動型のコンピューティングサービスであるLambdaは、課金のタイミングはイベント発生時となっている。“Microservices”という言葉にも代表されるように、コンピューティングリソースの利用単位を小さくし、継続的で頻度の高いアップデートを繰り返していくというトレンドは、現在のITにおいて主流になりつつあるようだ。

7.資産の簡単な移行

 ここ最近の海外のAWS事例で目立つのは、基幹システムを含むすべてのITリソースをAWSに移行する“AWS All-in”な事例だ。「われわれはクラウドにすべてのリソースが移行できると信じている。だが急激にそれを行うのではなく、中長期的にアセスメントして、移行できるものから徐々に移行していくという手法を推奨している」と長崎社長は強調するが、特にレガシーの多い日本企業では順当な手法だといえる。

 ハイブリッドコンピューティングやハイブリッドクラウドという言葉を使うIT企業は多いが、AWSが提唱するのは将来的なAWS All-inを前提とした、移行プロセスとしてのハイブリッドであることに注目したい。

 この秋に日本でもサービス提供を開始するNetflixは、2009年からAWS All-inを実現している。まだクラウドがエンタープライズでは無理と言われていた時代、あえてリスクを取ってAWSの全面移行を果たしたまさにパイオニア的なユーザー企業だ。AWSの急激な成長と成功の背景にはこのNetflixの存在は大きく、AWSが提供する新しいサービスを一緒に作りこんできた、ユーザー企業というよりはむしろ開発パートナーに近い。NetflixのようにAWSに徹底的にのめり込めるユーザー企業やパートナー企業がいることも、AWSが他社の追随を許さない大きな魅力のひとつだろう。

ユーザーの声:クラウドワークス、リクルートテクノロジーズ、ファーストリテイリング

 基調講演中、3名のゲストがAWSクラウド導入について語っている。以下、その内容を簡単に紹介する。

クラウドワークス 代表取締役社長 吉田浩一郎氏

 クラウドワークスは2014年、創業からわずか3年で上場を果たすことができたが、これはAWSによるインフラ支援によるところが大きい。リソースを持たずに、使った分だけ支払うというAWSの理念は人材の世界にいるわれわれにも共感するところが多く、僕も“日本版ジェフ・ベゾス”を目指したい。AWSのように、クラウドワークスはクラウドソーシングで人材調達の世界に革命を起こしていく。正社員比率が50%切る時代、個人の労働市場に手を入れる余地は十分にある。

クラウドワークス 代表取締役社長 吉田浩一郎氏
リクルートテクノロジーズ 代表取締役社長 中尾隆一郎氏

 いまのリクルートグループは海外におけるビジネス比率が27%にもなっている。海外でも通用するサービスを開発するため、現在「R-CLOUD」というAWSベースのクラウド基盤を社内のエンジニア向けに展開中。既存の商用サービスはオンプレミスで提供しており、R-Cloudとは分けている。

 R-CLOUDに載せているのはスパイク(突発的なアクセス急増)の予想がつかないもの、フレキシビリティ/ファンクショナリティが必要なサービス。具体的には「パン田一郎」「受験サプリ」「Pusna-RS」など。パン田一郎はLINEで宣伝したら150倍のアクセスを記録したが次はもしかしたら500倍かもしれない。そういう見えない部分のニーズはAWSに任せるに限る。

リクルートテクノロジーズ 代表取締役社長 中尾隆一郎氏
ファーストリテイリング CIO 玉置肇氏

 ユニクロはグローバル展開が基本のブランドなので、インフラもグローバル展開しやすいことが必須。したがってデータセンターはクラウド以外考えられない。ITの世界で25年以上生きてきたが、サイジングは常に頭が痛い問題で、ストレス&ボリュームテストはあたったためしがない。コンシューマの世界でサイジングなんて占いの世界だと思っている。

 クラウドの中でもAWSを選んだのは、スケーラビリティ、アベイラビリティ、アジリティ、コスト削減効果などいろいろあるが、最大の理由はラージコミュニティの存在とグローバル展開に必要なマルチリージョン。われわれは2020年までに5兆円の年間売上を達成するつもりでいる。そのためにこれから24~36カ月以内にすべてのシステムをAWSに移行し、基幹システム導入後はクラウドネイティブのアプリケーションメインに切り替えていく。今年の終わりには2000以上のEC2インスタンスを走らせている予定。

ファーストリテイリング CIO 玉置肇氏

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 基調講演の最後、長崎氏は「重力には逆らえない、クラウドへの流れはもう止められない」と締めくくっている。本サミットへの登録者人数は過去最高の1万35000人、まさにAWSクラウドの止まらない勢いを象徴している。その勢いはこの2日間でさらに増幅されていくのは間違いない。

五味 明子