機能追加でブラッシュアップを図るXenServer 5.6 Feature Pack 1


 12月16日にシトリックスがリリースした「XenServer 5.6 Feature Pack 1」(以下、XenServer 5.6 FP1)は、単なるマイナーアップデートではない。今後のXenServerにとって大きなターニングポイントになるかもしれない、意味のあるものだ。そこで、今回は、XenServer 5.6 FP1の機能を解説していく。

 

Xenカーネルのメジャーアップデートはおあずけ

 XenServerがベースとしているオープンソースの「Xen」は、4月に「Xen 4.0」がリリースされている。しかし、5月にリリースされたXenServer 5.6では、「Xen 3.4」が採用されていた。これは、XenServerという商用システムにおいては、先進的な機能を取り込んだXenの最新バージョンではなく、安定したバージョンを使おう、という位置からだろう。ただし、XenServer 5.6は、Xen 3.4のままではなく、Xen 4.0に取り込まれている機能、ほかのオープンソースプロジェクトの機能を、シトリックスが独自に取り込んでいる。

 XenServer 5.6 FP1は、XenServer 5.6と同じくXen 3.4をベースとしている。しかし、XenServer 5.6からいくつかの機能アップが行われている。ある意味、Xen 4.0ベースのXenServerへとスムーズに移行できるように、機能追加が果たされているのだろう。

 Xen.orgは、Xen 4.1のリリースを2011年前半に予定している。このため、シトリックスでは、XenServer 5.6 FP1の次バージョンアップでは大きなトラブルがない限り、Xen 4.xベースに移行するだろう。

 

分散仮想スイッチを取り込んだXenServer 5.6 FP1

XenServer 5.6 FP1で採用された分散仮想スイッチ(Open vSwitch)は、レイヤ2/3をサポートしている
以前のXenServerでは、XenMotionで仮想マシンを移動するとネットワークのACLは変わらない

 XenServer 5.6 FP1は、オープンソースで開発されていた分散仮想スイッチのOpen vSwitchが統合されている。Open vSwitchのメリットは、オープンソースプロジェクトで開発されているため、XenServerだけでなく、KVM、VirtualBox、Xenなどもサポートしていることだろう。

 もともとOpen vSwitchは、Xenのクラウドプロジェクト「Xen Cloud Platform」で採用されている分散仮想スイッチだ。今回は、XenServerに統合されることで、プライベートクラウドなどの用途にもOpen vSwitchを利用することができる。

 XenServerの前バージョンでは、Linux Bridgeベースの仮想スイッチが採用されていた。この仮想スイッチは、単一の仮想サーバー上で動作するため、XenMotionなどで仮想マシンを移動した場合、ネットワークのACL(アクセスコントロールリスト)は引き継がれなかった。

 しかし、Open vSwitchを利用すれば、XenMotionで仮想マシンを別のサーバーに移動しても、以前のACLを引き継いで動作する。これにより、XenMotionを利用しても、仮想マシンのネットワーク環境は全く同じにできる。つまり、Open vSwitchは、レイヤ2だけでなく、レイヤ3の仮想ネットワークスイッチを提供している。

 Open vSwitchは、複数のサーバーを統合したクラウド環境におけるネットワークをコントロールすることが可能になった。VLAN、優先度に基づくサービス品質(QoS)、トランキング、ハードウェア加速化のサポート(シングル・ルート I/O仮想化ネットワーク・アダプタなど)といったエンタープライズレベルの機能も提供している。

 XenServer 5.6 FP1では、Open vSwitchのコンソールは、仮想アプライアンスとして提供されている。これにより、管理者は面倒な仮想マシンの構築を行わなくても、OSとアプリケーションが一体になった仮想アプライアンスをインストールするだけでOKだ。

 ちなみに、XenServer 5.6 FP1で採用されたOpen vSwitchは、ネットワークのJumbo Framesもサポートしている。

Open vSwitchは、複数のサーバーを1つのスイッチに接続するため、ネットワーク構成がフレキシブルになるOpen vSwitchのコンソールは、XenServerの仮想アプライアンスとして提供される
分散仮想スイッチの管理画面分散仮想スイッチの管理コンソールでは、ネットワーク全体のトラフィックも確認できる

 

VDI向けのストレージ最適化機能「InteliCacheテクノロジー」を搭載

InteliCacheによりローカルキャッシュにSSDを利用するとVDIのパフォーマンスはアップする

 XenServer 5.6 FP1に搭載された「InteliCacheテクノロジー」は、VDIのように同じOSイメージを多数使用するシステムにおいて性能をアップする機能だ。

 VDIを使用する場合、仮想デスクトップのパフォーマンスに最もかかわるのが、一時的なディスクへの書き込みだ。Windows OSを利用する場合、さまざまな場面でディスクにキャッシュを書き込むことが多い。仮想デスクトップにおいては、ストレージが仮想化されたり、iSCSIやNASなどのストレージエリアネットワークを使用したりしているため、ディスクの書き込みに対するペナルティが高くなる。

 そこで、XenServer 5.6 FP1に搭載されたInteliCacheテクノロジーでは、仮想デスクトップが使用する一時的な書き込みファイルを、ネットワークストレージではなく、サーバーのローカルにあるディスクを使い性能をアップしようというテクノロジーだ。

 InteliCaheテクノロジーに使用するローカルディスクは、HDDも使用できるが、高速なSSDを使用することで、仮想デスクトップの性能を一気にアップできる。

 また、一時的な書き込みにローカルディスクを利用することで、高価なネットワークストレージ内部に仮想デスクトップが占めるディスク容量を最小限にすることが可能だ。これにより、高速で、大容量の高価なネットワークストレージを使わなくても、ほどほどのネットワークストレージでも高いパフォーマンスで仮想デスクトップを動かすことができる。

 

仮想デスクトップでGPUを試験的にサポート

試験的サポートだが、サーバー側のGPUを仮想デスクトップで利用できるようになる

 XenServer 5.6 FP1では、Windows Server 2008 R2 SP1でサポートされているRemoteFXのように、サーバー側のGPUを仮想デスクトップで利用できるようにする「HDX 3D Pro Graphics仮想マシン対応機能」が試験的にサポートされた。

 ただ、Windows Server 2008 R2 SP1のRemoteFXと異なるのは、IOパススルー機能を使って、特定の仮想マシンがGPUを使用する点だ。

 サーバー側でサポートしているGPUは、NVIDIA SLI対応のGPU(FX3800、FX4800、FX5800)になる。また、クライアント側では、専用のGPUコーデックを持った特別なクライアントではなく、GPUコーデックをインストールすることで多くのクライアントOSで動かすことができる。

 つまり、サーバー側のGPUを利用して、仮想デスクトップからGPGPUを利用したアプリケーションを利用することができる。例えば、動画のトランスコードを高速に行ったり、IE9ブラウザのようにGPUを利用したアプリケーションも仮想デスクトップ上で利用したりすることができるようになる。

 この機能は、試験サポートとなっているため、本格的にビジネス環境で利用するには、制限も多い。ただ、XenServer 5.6 FP1で、サーバー側でのGPUサポートが行われたことで、今後XenServerにおけるGPUサポートの方向性が示されたと思う。

 将来的には、HDXをよりチューンナップして、クライアントでのGPUサポートが進んでいくだろう。また、Windows Server 2008 R2 SP1でサポートされたRemoteFX機能を取り込むことになるだろう。

 仮想デスクトップであっても、高機能なGPUを使った環境が提供されることになる。このようになれば、ローカルか、仮想デスクトップか、エンドユーザーには全く同じに見えるだろう。

 また、XenClientが実現しているようなクライアントPCの仮想化と融合すれば、自分が利用するOS環境をローカルPCで動かすのか、サーバーの仮想デスクトップ環境で動かすのか、エンドユーザーはシーンによって切り替えて使えるようになるだろう。もしかすると、エンドユーザーは、自分が使っているPC環境がどこで動作しているか、全く気にしないようになるのかもしれない。

 

そのほかのアップデート

ブラウザを使って、仮想マシンのコンソール画面も表示されるため、ここで操作も行える

 XenServer 5.6 FP1では、エンドユーザー・セルフサービス機能が用意されている。新しいXenServerウェブ管理コンソール(XenServer Web Management Console)によって、管理者はエンドユーザーに担当する仮想マシンへのアクセス権を付与できる。

 これにより、膨大な数の仮想マシンを運用するにあたり、担当に仮想マシンの管理を任せることができるので、管理の手間が大幅に省ける。また、管理コンソールは、Webベースになっているため、各社のブラウザからアクセスできる。こういった機能を利用することで、プライベートクラウドなどの運用がXenServerベースで簡単に行えるようになるだろう。

XenServer 5.6 FP1でサポートされたウェブセルフサービスのコンソール画面ウェブセルフポータルでは、仮想マシンが使用しているCPU、メモリ、ディスクなどの情報も確認できる
自動スナップショットでは、スケジュールを設定して自動的にスナップショットを撮れる

 また、XenServer 5.6 FP1には、新たにVM保護・復旧機能が追加されている。この機能は、VMディスクやメモリーの自動スナップショットをスケジューリングしてバックアップすることが可能になる。また、そのバックアップを世代管理することができるため、運用中の仮想マシンにもし何かトラブルが起こっても、すぐに以前のバックアップに戻せる。

 スナップショットを撮るのにスケジューリングできるようになり、管理者の手を煩わせなくても、自動的にバックアップを行うことができる。これにより、管理者の手間を大幅に省くことができる。

 このほかには、マルチパス環境でのSAN Boot対応、HA環境における仮想マシン再起動時に優先プライオリティの設定、StorageLinkの設定の簡易化などがある。

 また、XenServer 5.6 FP1のゲストOSとして、Windows 7 SP1、Windows Server 2008 R2 SP1、Red Hat Enterprise Linux 6.0(CentOS 6.0、Oracle Enterprise Linux 6.0を含む)、Debian Squeeze (32 and 64-bit), and SLES 11 SP1などが追加されている。

 

 XenServer 5.6 FP1は、XenカーネルとしてはXen 3.4という安定バージョンを使っているが、プライベートクラウドを構築する上では、さまざまなアップデートが行われている。これらの機能は、クラウドプロジェクトのXen Cloud Platformからポーティングされるなどしている。ここまでくると、XenServerは、単なるサーバー仮想化ソフトではなく、プライベートクラウドを構築するための基盤といえるだろう。

 2011年になりXen 4.xベースのXenServerがリリースされれば、単体の仮想化されたサーバーから、多数の仮想化されたサーバーを管理するプラットフォームへと進化していくのではないか。

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