仮想化エバンジェリスト・タカハシ氏が語る“仮想化の落とし穴”【第一回】
“仮想化エバンジェリスト”誕生の経緯
Enterprise Watchでは、「仮想化道場」で仮想化にまつわるさまざまな話題を取り上げてきたが、特に“サーバー”を中心とした記事が多かった。“サーバー仮想化”を考える上でサーバーが中心となるのは当然ではあるが、一方でサーバー単独では役には立たず、ネットワークに接続され、ストレージが用意されてこそのサーバーであるのもまた確かである。
そこでユニアデックスでは、「サーバーが仮想化されたときに、ネットワークやストレージはそのままでよいのか。そこに落とし穴はないのか」という点について、親しみやすい語り口のビデオで紹介するというユニークな活動を行っている。この特集では、ビデオにも出演している同社のバーチャリゼーションエバンジェリスト、高橋優亮氏(タカハシ氏)に、“仮想化の落とし穴”を聞き、今後数回にわたり紹介していく。
第一回となる今回は、まず、なぜ“落とし穴”を取り上げるようになったのかを聞いた。
■“仮想化はうさんくさくない”ことを示すためにエバンジェリストへ
タカハシ氏 |
今回はまず、タカハシ氏が仮想化エバンジェリストを名乗るようになった経緯から、ここ数年の仮想化の普及状況を振り返ってみたい。タカハシ氏が仮想化エバンジェリストとしての活動を開始したのは2006年だが、この年をタカハシ氏は「IAサーバーの仮想化に冠するイノベーティブな部分がだいたい終わった年」だと評する。
「わたし自身は“イノベーター”に属するエンジニアで、新しいテクノロジーや未踏分野が出てくると、まず分け入ってサンプルコードや実証コードを書き、できたとなるとそこで興味が尽きてしまうタイプです」と話すように、タカハシ氏は新しい技術に真っ先にチャレンジすることが好きな、イノベータータイプのエンジニア。それがなぜ仮想化エバンジェリストになったのだろうか。
「品質向上のためのバグつぶしやエラー処理のためのコードを追加していくといった作業は、苦手とはいわないまでも嫌いなんです。その観点からすると、2006年というタイミングは、IAサーバーの仮想化という技術の、イノベーティブな部分がだいたい終わった時期。正直言えば『とっととみんな使えばいいのに』と思っていました。確かにいろいろ問題点はあり、トラブルに遭うことはあるけど、原理原則が分かっていれば問題点を回避して使うことはできます。問題点を回避して使うことができれば必ずメリット、ベネフィットがある技術なので、ぜひ使うべきだと考えていたんですが、導入はちっとも進みませんでした」。
「ユーザーの話を聞いてみると、『ベンダーは確かによいことを言っているけど、うさんくさく聞こえる』という話が聞こえてきて。つまり、“仮想化はうさんくさい”と思われていたのが2006年というタイミングだったんです。そこで、『仮想化には技術的なバックグラウンドがちゃんとあって、うさんくさくなんかない技術なんだよ』と語る必要があるのかなと思いました」(以上、タカハシ氏)
つまりタカハシ氏にとっては、この時期が次の新しいテーマに向かうべき時期でもあったろう。
■仮想化だからこそできた“99.99999%の安定度”でメリットを実感
とはいえ、仮想化製品の開発元ではなく、市場にある“優れた技術”を選んで組み合わせ、ユーザーにとってもっともよい“システム”を構築し、その運用を支援していくというベンダー・ニュートラルな立場に立つユニアデックスの立場からすれば、仮想化製品ベンダーのうたい文句をうのみにしてそのまま繰り返すわけにはいかない。そこには、「仮想化技術は確かにユーザーにとってメリットのある技術だ」という確信が必要だ。
「2006年当時、ミッションクリティカルなASPサイトを自社サービスとして構築/運用するというプロジェクトにも加わっていたのですが、そのASPサイトを24時間365日運用した結果、ある5年間、99.99999%(seven nines)という安定度で運用できていたという実績を残せました。実は、この安定度を実現できたのは、仮想化を使っていたからにほかなりません。仮想化していなければ、こんな運用は不可能だったはずです。I/O量も多いアプリケーションだったので、その点が問題になるかと予想していたんですが、意外に大丈夫でした。運用の最中にはいろいろな問題に出会いましたが、その解決もやはり『仮想化されていたからこそ解決できた』ことも数多くあり、仮想化には大きなメリットがあるということは実感として理解していました。こうして、実運用の現場で仮想化にまつわるさまざまなTipsやノウハウを比較的早い段階で蓄積することができたので、ユーザー企業に対しても『もう大丈夫です』と言ってしまいたいと思ったわけです」(タカハシ氏)。
自社システムの運用にいち早く仮想化を採り入れ、99.99999%という可用性を達成したことが、エバンジェリストとして仮想化のメリットをユーザーに知らせていく際の裏付けとなっているわけだ。なお、99.99999%という値から計算してみると、5年を通じた総ダウンタイムは約16秒となる。一般にミッション・クリティカル・システムといわれるシステムが目標として掲げる可用性が99.999%(five nines)であることを考えれば驚異的な実績だ。これほどの成果が得られる仮想化技術をなぜ使わないのだろうか、という疑問が生まれるのも無理はない。
■仮想化に“ドライブを掛ける”ための方策を考えた
ところで、「エバンジェリストと名乗らせてもらうようになった2006年の時点では『みんな仮想化について知らないよね』ということで、『サーバーを仮想化するとこういういいことがあるよ』『ストレージを仮想化するとこういういいことがあるよ』と、まずは“いいこと”を語り、それを知ってもらう、というところから活動を開始しました」というタカハシ氏が、仮想化のよさをアピールするに当たり、一見逆にも見える“仮想化の落とし穴”の話をするようになったのはどういう経緯なのだろう。
「その後、ユニアデックス社内に仮想化推進センターができて案件を処理していくという流れになったんですが、『どうも掛かりが悪い』と思い始めました。もちろん、仮想化推進センターのメンバーは忙しくしていたんですが、それでもあえて言ってしまえば『会社全体が仮想化推進センターになってもいいくらいのビジネスボリュームが潜在的にはあるはずだ。にもかかわらず、まだこれしか来ていないのはおかしい』と考えたわけです」(タカハシ氏)。
実のところ、2006年という年は、IAサーバーの仮想化市場のリーディング・カンパニーであるVMwareが“VMware Infrastructure 3”をリリースした年でもある。まさに、企業ユーザーが業務システムで本格的に仮想化技術を導入し始めた年に当たる。しかしながら、その後数年を経て、最近になってようやく仮想化に取り組もうという気運が高まってきているようにも見える状況だ。このタイムラグに直面したタカハシ氏には危機感もあったという。
「多分、仮想化プラットフォームは近い将来コモディティになってしまうでしょう。一部には『もう既にコモディティになっている』という意見もあるほどです。仮想化プラットフォームがコモディティになったときにユニアデックスが“仮想化プラットフォームのインテグレーション”をビジネスにできるかどうかは、現時点での“ダッシュ”に掛かっているはずです。だったら『もっとドライブを掛けないといけないよね』と考えていました」(タカハシ氏)。
■安心して仮想化に取り組んでもらうために、あえて落とし穴を示す
こうした状況を踏まえてのエバンジェリストとしての活動なのだが、どうやったらユーザーに仮想化の意義を伝えられるのかは難しい問題である。
「そうした状況もあって、仮想化のメリットをどうすれば分かりやすく伝えられるかを考えていたんですが、とあるセミナーでの講演内容を練っていたときに、社内の若手に『仮想化のメリットの話は聞き飽きた。みんなが同じ話をしている』と言われてしまいました。そこで、『では、みんなの逆を行ってみよう』ということで“仮想化の落とし穴”について話してみようかというアイデアが生まれました」。
ユニアデックスでは2004年からVMwareを本格的に売り始めており、その時点で既に多数の事例を手がけてきた。そして、多数の事例の中には当然ながら“失敗”“ドツボ”“チョンボ”といったものもたくさんあったという。
「こうした事例をつまびらかにし、どういう理由で失敗し、それをどう解決したのかを明らかにしていくと、そういう話には集客力があるんじゃないかと思い、あるイベントで開催されたセミナーで、軽い気持ちで『仮想化の落とし穴』というタイトルの講演をしてみたところ、最速で満席になってしまい、立ち見も多数出るという大盛況となりました」。
「その結果を見て思ったのは、『やはりみんな仮想化はやりたいんだな』ということです。やりたいんだけど、IT部門の人たちは“成功しても褒められず、失敗すると責任を追及される”という状況になってしまっているため、リスクのある提案ができなくなっているだろうと思ったわけです。だとしたら、『仮想化にはこういう落とし穴が現存します。それに対してはわれわれはソリューションを持っていますし、未知のトラブルが起こったとしても解決する力があります』ということをきちんと示すことができれば、ユーザーも安心して仮想化に取り組めるのではないだろうかと思いました」(以上、タカハシ氏)。
社内システムの運用で仮想化の圧倒的なメリットを体感しつつ、ユーザー企業のシステム構築事例の経験から、落とし穴についても熟知している。そうしたタカハシ氏が語る「仮想化の落とし穴」が、面白くないはずはない。興味本位で聞くだけでも他人の失敗談は興味深いものだが、いずれは仮想化に取り組むつもりのユーザー企業は真剣みが違うだろうし、導入を成功させるための予習としての意味も大きいはずだ。システム・インテグレーターとしてはまさに商売道具ともいえる貴重なノウハウを動画の形で分かりやすく紹介しているタカハシ氏の活動は、まさに仮想化エバンジェリストと名乗るにふさわしいものだと言える。
なお、次回からは、いよいよ、具体的な落とし穴の話をタカハシ氏から聞いていくことにするが、その前に、ユニアデックスのサイトで公開されているタカハシ氏のプロフィールを紹介するビデオを、ここでご覧にいれたい。
このビデオ興味を持たれた方は、、同社のサイトで公開されているほかのビデオも、ご覧になってはいかがだろうか。