週刊海外テックWatch

自分の仕事を教えたら不要になる AIが人間を“蒸留”する時代
2026年6月22日 11:19
自分の仕事のやり方を全てAIに教え込んだら、次は解雇される――—。SF的なディストピアではなく、いま中国の職場で静かに起きていることだ。「蒸留」は、大きなAIモデルの知識を小さなモデルへ転写する機械学習の用語だが、その対象が今や人間そのものになりつつある。しかも、同様の動きは米国の大手テック企業にも及んでいる。
自分の代替品を、自分で育てる
中国・杭州で大手インターネット企業に勤める契約社員のLiu氏(仮名、26歳)は、毎日少しずつ、自分の「代替品」を育てていた。「自分の業務フローをすべて(OpenClaw=オープンソースの自律型AIエージェント=に)入力し終えたら、基本的には解雇されることになります」。Liu氏は、Reutersにこう語っている。
Liu氏の会社は今年、OpenClawを含むAIツールの使用を社員に義務付けた後、3月から契約社員を密かに解雇し始めたという。「ほとんどの人が行っている業務は、OpenClawによって完全に置き換えられる可能性があります」ともLiu氏は言う。
Reutersは、Liu氏を含めて9人の労働者の話を紹介している。そこからは、テクノロジー、エンタメ、広告など、業種を問わず、中国各地で同様の静かな人員削減が広がっていることが分かったという。
人間のスキルをAIに転写するのは、もうSFの話ではない。MIT Technology Reviewは4月の記事で、「colleague.skill」と名付けられた中国のGitHubプロジェクトがSNSで話題となったことを伝えている。上海のAI研究所に勤めるエンジニア、Tianyi Zhou氏が作り上げたオープンソースのスキル転写ツールで、GitHubで1万8500超のスターを集めた。
5月末にZhou氏のグループが発表したcolleague.skillの技術論文は「Automated AI Skill Generation via Expert Knowledge Distillation(専門知識の蒸留によるAIスキルの自動生成)」というタイトルで、人間の持つスキルをAIで再現・パッケージ化することを論じている。
従業員が残したさまざまなデータ(ドキュメント、メール、チャットの履歴、レビューのコメントなど)をシステムに入力する。そのデータを「実務スキル」と「振る舞い」の2つに分けて抽出してAIに学習させる。これを業務に使えば、その人の持つノウハウや判断基準をAIで代替できるという。
MIT Technology Reviewによると、実際にcolleague.skillを利用して同僚を再現してみたというエンジニアは、「驚くほど精巧」で、「反応の仕方や句読点の癖といった、その人のわずかな癖まで捉えていた」と感嘆した。
プロジェクトは、その後、dot-skillへと改称して、職場の同僚だけでなく自分も含めて誰でも転写できるよう進化している。中国ではエージェント化の嵐で、多くの労働者が自分は不要になるのではないかという不安の中で働いている。