週刊海外テックWatch
自分の仕事を教えたら不要になる AIが人間を“蒸留”する時代
2026年6月22日 11:19
Metaが全従業員に導入 ワークフロー収集ソフトの波紋
スキルを「蒸留」する。AIモデルについて勉強した人には、この言葉はピンとくるだろう。
「蒸留(distillation)」は機械学習の専門用語だ。大きなモデルが持つ知識や判断パターンを、小さなモデルへ転写する技術を指す。Knowledge Distillationとして2015年ごろに確立し、AIの軽量化・効率化の技法として定着してきた。colleague.skillが実際に行っていることは、RAG(検索拡張生成)やプロンプトエンジニアリングに近く、厳密にはこの手法とは異なるが、労働者にとっての結果は同じだ。
スキルを写し取ったあと、オリジナルの人間は業務で不要になる。企業が競って業務のAI化を進める中、「蒸留される」という比喩は中国のテック系労働者に即座に刺さった。
だが、人間のスキルをデータとして吸い上げようという動きは、中国企業だけのものではない。Metaは4月、まさにそれを目的とした監視ソフトウェアを全米の従業員に展開した。
Metaが導入した監視ソフトウェア「Model Capability Initiative(MCI)」は、従業員のPCにインストールして、GmailやSlackなどのアプリからキーストローク、クリック、マウスの動き、定期的なスクリーンショットを収集し、AIエージェントの訓練に利用する。GDPR(一般データ保護規則)で強いプライバシー保護を保障されている欧州の職場は適用外となったが、米国の従業員は拒否することを許されない。
その目的について同社の広報担当者はCNBCにこう説明している。「コンピューターを使って日常タスクを完了するエージェントを構築するには、人間が実際にどう使うかの実例が必要となります」
Reutersなどによると、この扱いに反発した従業員たちは、「Employee Data Extraction Factory(従業員データ抽出工場)」と書いたチラシを職場で配布し、中止を求める請願書には、6月はじめまでに1500人超の署名が集まった。会社側は、最大30分間のデータ収集一時停止を要求できるようにするなど若干の譲歩をしたものの、撤回には至っていない。