週刊海外テックWatch
ハイブリッド戦略で差別化を図る IBMが「ソブリンAI」市場に参入
2026年1月26日 11:27
製品デモ前に失格も 変わる調達基準
デジタル主権への要求の高まりは、企業の調達基準の変化からもみてとれる。Black Book Market Researchの2026年レポートによると、国際的なヘルスケアIT調達の80%が主権要件を「合格/不合格基準」として扱っており、製品デモ前の失格も増加しているという。
どんなに優れた機能を持つ製品でも、主権要件を満たさなければ、検討の土俵にすら上がれない。レポートを紹介したHIT Consultantは、AIがこの変化を加速しており、省庁は推論がどこで実行され、モデルテレメトリーがどこに保存されるかの正確な把握を要求していると分析する。
一方、The Registerは、調査会社Forresterの分析を引用し、2026年に欧州企業が米国ハイパースケーラーから完全に移行することはないだろうと伝えている。既存の投資と運用の継続性が、移行に慎重な姿勢をとらせているようだ。
急拡大するソブリンAI市場への参入を目指すIBMだが、同社は決して先発ではない。Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Googleといったハイパースケーラーは、それぞれ自社クラウドに特化したソブリンAIソリューションを提供している。
AWSはIBM Sovereign Coreの発表と前後して「AWS European Sovereign Cloud」を正式リリースし、78億ユーロ(約92億ドル)超を投資してドイツに展開。ベルギー、オランダ、ポルトガルへの拡大を予定している。Microsoftは2026年末までに15カ国でCopilotの国内処理に対応する「Sovereign Cloud」をフランスとドイツで展開中だ。Googleも、NATOとの契約を獲得したCloud Airgapped solutionを提供している。
これらはいずれも自社クラウドに特化したソリューションだが、IBMはクラウドに依存しないハイブリッド・マルチクラウド対応で差別化を図る。
ハイパースケーラーのソリューションを「特定の航空会社の便にしか乗れない」とすれば、IBMのアプローチは「どの航空会社の便でも、自分の車でも、鉄道でも使える」柔軟性を持つ、と言えるかもしれない。
Moor Insights & Strategyの主席アナリスト、Jason Andersen氏は「オンプレミスと複数クラウドをまたいで動作するハイブリッド環境向けのソリューションは、IBM以外にまだ見当たらない」と評価する。同氏は、IBM Sovereign Coreが展開時にAI推論の実行場所を指示できる点を重視し、「既存ソリューションはデータ保存・処理が中心だったが、今ではAIによる新コンテンツ生成への対処が必要だ」と説明する(TechTarget、Fierce Networkなど)。
IBMは欧州のCegeka(ベルギー・オランダ)、Computacenter(ドイツ)とのパートナーシップでSovereign Coreの初期展開を開始する予定だ。ハイブリッド戦略が、ハイパースケーラー支配に風穴を開けられるか。2026年半ばの正式リリース後の動向が注目される。