戦略発表から1年、IBMのBAO事業の「いま」を聞く
米IBMは2009年4月15日、IBM ビジネス・アナリティクス・アンド・オプティマイゼーション(BAO)を発表。新たなコンサルティング組織を設置するとともに、同事業を今後の重点領域のひとつに掲げ、世界的に推進していく姿勢を示した。それから約1年。この間、日本IBMでもBAOサービスの専門組織を発足。年内には500人体制にまで拡大することを示すなど、世界各国でBAOに対する取り組みが活発化している。来日した米IBMのGlobal Leader-BAO Analytics Solutions Team and CoC Solution RepresentativeのMichael Schroeck氏に、この1年間の取り組みなどについて聞いた。
―BAO戦略を発表してから1年。この間の成果をどうとらえていますか。
米IBMのGlobal Leader-BAO Analytics Solutions Team and CoC Solution RepresentativeのMichael Schroeck氏 |
Schroeck氏
IBMが取り組んでいるBAOとは、顧客にとっても、IBMにとっても、最大の成長分野になるといえます。企業には、多くの情報が散在しており、しかもその量は膨大で、さらに多様なデータが含まれている。また、これらが急速な勢いで増加している。これらの情報を、統合、管理するとともに、最先端のデータ分析と最適化技術によって、より確実な効果予測を行い、埋もれてしまっていたオポチュニティの発掘につなげ、さらに、それらのオポチュニティを全社レベルに波及させることを支援する、情報活用の新たなサービスがBAOです。従来から、BIを活用した情報分析はありましたが、BAOはその概念を超えたものであり、情報を、より価値のあるもの、より活用できるものにできるという点に意味があります。
最近、IBMでは、CFOやCIOを対象にした2つの調査結果を発表しました。この結果から導かれるのは、CFOやCIOは、自らが競合に勝つためには、情報分析を最大限活用することが大切であるという認識が広がっている点です。BAOを活用することで収益を高め、効率性を高めることができると感じている。この1年でBAOに対する認識は広く浸透し、分析、最適化という概念によって、新たなマーケットを創出できたと考えています。その結果、われわれは2010年の計画を変えることになりました。昨年4月に予想していたよりも、高い成果が出ているからです。むしろ、この成長のペースにあわせて、われわれはどう体制を強化していかなくてはならないか、という課題に直面しているといえます。
―しかし、その一方で、情報システム部門におけるBAOの理解が遅れているという指摘もありますが。
Schroeck氏
BAOにおいて重要なことは、ビジネスの見地から解決を図ることができるという点です。CEOやCFOなど、ビジネス全体を統括する人たちは、BAOの良さを理解しています。これまでは、情報があるのにアクセスできなかったり、タイムリーな形で必要な情報を入手できず、意思決定ができないといった問題に直面していた。情報を有効活用できないことにフラストレーションを感じていたわけです。こうした人たちにとって、ビジネスに活用するためにBAOは有効であるという認知は高まっていると感じています。
一方で、CIOや情報システム部門では、社内でBAOを活用するチャンスがあることは感じています。情報システム部門においては、情報から真の価値を見い出せているのか、情報の価値が生かされているのか、という点で大きなプレッシャーがかかっているものの、これまでのITでは、それを実現できないというフラストレーションがありました。いままで企業は、BIの導入、ERPの導入などに取り組んできたが、その多くがデータを集めることにばかり力を入れていたのが実態です。分析することでデータをより広い分野に活用していくことや、データを使って、最適化するという点には、踏み込んでいなかった。だがBAOでは、分析、最適化によって、セールス、マーケティング、コールセンターの部門といった現場が活用できるようになり、まさに、ITとビジネスの接点が実現されることになる。ビジネス全体を変えることができ、これが財務諸表の改善につながることになります。情報システム部門のフラストレーションを解決できることが、新たな認識として広がりつつあると理解しています。
―一方で、IBMにとってBAOの位置づけはどうなってきましたか。
Schroeck氏
IBMでは、Smarter PlanetやSmarter Citiesといったコンセプトを掲げており、これを実現する手段のひとつとして、BAOを位置づけています。交通機関、送配電網、食糧生産、医療などの分野においてもBAOを活用するといった動きが出ており、集められた情報を分析し、よりよい意思決定が図られる環境が作られようとしている。BAOによって、企業や公共機関だけでなく、社会全体が進化できるようになる。
その一方で、BAOを取り囲む形でさまざまな製品を用意することにも力を注いでいる。レポーティングで定評があるコグノスや、分析や統計解析で強みを発揮しているSPSSの買収のほか、最適化に優れたILOGなどにより、情報分析、情報の最適化環境を提供するといった点で力をつけることができた。さらに、ハードウェアも拡張性を最大化する製品の開発に力を入れている。加えて、世界各国のIBM基礎研究所でも、分析力を高める努力を行い、その成果が表れようとしている。
規模的にも、機能的にも拡充した組織を作ってきた実績がある。コンサルタントの専門知識、IBM基礎研究所の数理分析での知見、情報管理や高度なデータ分析を提供するソフトウェア、処理能力の高いサーバーやストレージ製品などを提供できるというIBMの総合力によって、社会にサービスを提供できるのがIBMのBAOであり、世界で唯一、これらをエンド・トゥ・エンドで提供できる企業だといえます。
―BAOの活用は、どんな領域から進展していますか。
Schroeck氏
この1年は、世界的な経済環境の低迷という影響もあり、まずはインテリジェントにコストを削減することができないか、という観点からBAOを導入する例が目立ちました。しかし、いまや経済が回復基調に移り、注目される分野が変化してきました。つまり、より収益をあげるためには、どうするかといった点に移行してきたのです。より先進的な顧客分析のほか、サプライチェーンをいかに最適化するといった動き、そして人材を分析し、これをいかに成長につなげるかといった点が注目されています。
BAOは、ビジネスリーダーと情報システム部門とがより密接に協業することで、よりよい価値を提供できるようになる。特に、サプライチェーン、在庫、人材、リスクマネジメントといった領域では、ITとビジネスの協業の成果が出ており、BAOが有効利用されている分野だといえます。
例えば、最適化したアルゴリズムを活用することで、コールセンターのように、顧客に直接接する部門が、情報を瞬時に得て、最適な対応を図ったり、ATMを使用中の顧客にも最適な情報やサービスを提供したり、サプライチェーンにおいては情報を活用して、最適な購入をすることもできる。そして、HR部門ではどんな人材を採用し、教育し、配置するかといった利用もできる。そして、経営層に対しては、ビジネスの意思決定を支援し、それがうまくいっているのかどうかといった指標を出すことができる。一方で、学術分野でもBAOを活用する例が出ており、情報を必要とする広範な人に、BAOを提供できるようになっています。
―日本IBMでは、BAO専任部隊を設置し、これを年内に約500人に拡大すると発表しました。また、東京には、BAOアナリティクス・ソリューション・センターを設け、世界のセンターと連携を強化するという動きもあります。今後、日本における取り組みはどうなりますか。
Schroeck氏
今回の来日を通じて、日本においてBAOに対する需要が高まっていることを肌で感じます。専門組織を500人体制に拡大するのは、市場が拡大していること、そのニーズにあわせて体制を整えていく必要があるということの表れです。また、これからは、日本以外の地域におけるBAOの成功体験を活用できるような形にしていくことが必要です。世界各国の事例を日本のマーケットに紹介していくことは大切な取り組みです。日本で提供した事例を世界に発信していくコミュニケーションもこれから活発化させたい。
いま私は、BAO CoC( Center of Competency)も担当していますが、ここでは全世界のBAOの経験を取りまとめ、先進的な分析ソリューション、数々の最適化の実績を蓄積しています。情報を分析して不正利用に関する動きを事前に検知したり、サプライチェーンマネジメントにおける最適化を行ったりといった事例もある。さらに、サブジェクト・マター・エキスパートと呼ばれる個々の課題を解決する専門家が、世界各国でBAOプロジェクトの支援、セールス支援、ソリューション提案の支援、デリバリーの支援なども行っていく体制を整えています。さまざまな業種での数理分析や情報管理におけるIBMの豊富な専門技術を活用し、お客さまのビジネスにおける意思決定のスピードと質を向上させ、その決定によってもたらされる結果やビジネス成果を把握することを支援できる体制が確立しています。
―4月1日付けで、日本IBMのGBS(グローバル・ビジネス・サービス)に、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)が統合されます。これはBAO事業にどんな影響を与えますか。
Schroeck氏
日本IBMとIBCSとの統合によって、CRMやSCMといった観点からも、また、金融、製造、流通などの業界知識という観点からも提案が可能になる。さまざまな業種のビジネスニーズに合わせ、業種特化型のソリューションを提供し、最適なものを選択できます。BAOのコンサルティングからインプリメンテーションに至るまで、逆目なく、エンド・トゥ・エンドでの提案が可能になる。その点に大いに期待しています。
―これまでの取り組みから、成功するBAOの条件を導くことは可能ですか。
Schroeck氏
BAOには3つの側面があります。ひとつは、大量の多様なデータに対して、適切な管理をするという点。2つめは、すべての人が意思決定に活用できるものであるという点。そして、そのために必要とされるツールを持つという点です。企業には、それぞれに固有の文化、ガバナンス、人材、プロセスというものがある。これら固有の要素を把握し、適切な形でBAOを導入することが、価値の最大化につながる。世界各国でBAOにより、成功した顧客をみると、こうした観点をしっかりととらえている企業が多いことがわかります。
―最後に日本のユーザーに対するメッセージをお願いします。
Schroeck氏
IBMは、この1年でBAOという新たな市場を築いたのは紛れもない事実です。競合会社がアナリティクスという分野に興味を持ち、追随していることからもそれは明らかです。そして、われわれの計画も予定通り、いやそれ以上の進ちょくをみせている。マーケットが望んでいた回答を提案できている。今後も、この分野に注力していくべきだということを確信できた1年だったといえます。この市場を創出した、真のリーダーとしてこれからもビジネスを伸ばしていきたい。そして、Smarter Plametの実現にもつなげていきたい。
BAOは、企業が抱えている問題や、課題を戦略的に取り込み、それを分析して、ビジネスの課題を解決できるソリューションです。データウェアハウスソリューションやERPは技術指向のものであったが、BAOはこれまでにはないビジネス指向のソリューション。ビジネスプロセスにおける課題を改善し、価値を最大化する。また、情報を、企業の意思決定プロセスにつなげることができるようになり、企業全体のパフォーマンスをあげることができる。分析力と最適化力によって、情報を最大活用することで、他社をしのぐ企業競争力の確保につながることを強調したい。日本でも、このことをすでに理解している企業がある。それは日本におけるBAO事業が成長していることからも明らかです。BAOによって、競争力を高め、成長へとつなげてもらいたい。IBMはそれを支援する体制を整えています。