大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

Windowsの無償提供でMicrosoftが狙うこと~日本市場への影響を考える (謎が多い、Windowsの“無償提供”)

謎が多い、Windowsの“無償提供”

 では、もうひとつの新たな施策であるWindowsの無償提供はなにを狙ったものなのか。

 この施策は、IoT向けのWindowsと、OEMおよびODMベンダー向けに提供する9型未満のディスプレイを搭載したデバイスへのWindowsの無償提供とに分かれる。

 だが、今回の発表では、詳細にまで触れていない部分があるため、そのあたりは一部推測しなければならないところもある。

 例えば、Windowsのどのバージョンがその対象になるのかといった点も、今回の発表では明らかにしていない。「今年夏までにはOEMおよびODMベンダーを対象に提供する」と言及している点では、最新版となるWindows 8.1 Updateや、4月後半にも搭載スマートフォンが投入される予定のWindows Phone 8.1、そして、IoT向けにはWindows Embedded 8.1がその対象になると推察できるが、いつまでの施策なのかは明らかではない。

 Windows 9と呼ばれる次期メジャーバージョンアップ版でも継続するのかどうか、あるいは期間限定的なものなのかは、現時点の発表ではわからない。

 さらに、リリースでは、「ハードウェアパートナーは、1GBのRAMと、16GBのHDDを備えたデバイスといった低価格のマシンで利用できる」という表記があり、機能を限定したWindowsが提供される可能性も残っている。

 また、この記事では、日本マイクロソフトが日本向けリリースで使用した9型「未満」という表記を採用しているが、Build 2014においては、9型「以下」という表記が行われている資料もあり、9型ちょうどのディスプレイを搭載したデバイスにもWindowsを無償で提供するのかどうかは未定だ。

9インチ未満のディスプレイを搭載したデバイスには、Windowsが無償で提供される(Build 2014のストリーミングより)

 では、なぜ、MicrosoftはWindowsの無償提供に乗り出すのか。

 その最大の理由は、出遅れているタブレットやスマートフォン市場でのシェア拡大だ。

 実は昨年の段階で、Microsoftは8型のタブレットなどの普及に向けて、OEMおよびODMベンダー向けのWindowsのライセンス料を、3分の1程度にまで引き下げた経緯がある。昨年秋以降、8型ディスプレイを搭載した低価格のWindowsタブレットが相次いで登場した背景には、このライセンス施策が見逃せない。

ライセンス価格の見直しなどもあり、Windowsタブレットは急速に普及しているが…

 だが、この施策だけではまだ不十分だといえる。

 PC市場においては約9割のシェアを持つWindowsだが、タブレット市場では第3位のメーカー。日本においても、2013年10~12月において、Windowsタブレットが26%のシェアを獲得。ようやく全体の4分の1に到達したところだ。

 そして、スマートフォン市場においては、Microsoftの苦戦は依然として続いている。IDCが発表した、2013年10~12月における全世界のスマートフォン市場シェアによると、Androidが78.1%、iOSが17.6%のシェアであるのに対して、Windows Phoneはわずか3.0%のシェアにとどまっている。特に、スマホ先進国のひとつである日本においては、Windows Phone搭載の最新製品が2年以上投入されていない状況だ。

 こうした状況を打破するための施策が、今回のWindowsの無償提供ということになる。日本市場においては、年内にはタブレット市場全体の33%をWindowsタブレットが占めるという目標を日本マイクロソフトが掲げているが、この目標達成と、その次のステップに向けた取り組みに、今回の施策がプラスになるは明らかだ。これまで以上に、戦略的な価格の製品がラインアップされることになるのは間違いないからだ。

 Microsoftが、存在感拡大が早急の課題となっている9型以下の市場に対しては無償でWindowsを提供するものの、Windowsが圧倒的ともいえる10型以上のPC市場においては、引き続きライセンスによる販売を継続するという姿勢を貫いている点でも、今回の施策が戦略的であることがわかる。

(大河原 克行)