大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
リモートワークのやり方・考え方を棚卸ししよう――、先進企業に学ぶ“長期化する在宅勤務への備え”
2020年4月13日 06:00
4月1日は、各社が新入社員を迎える日だ。
だが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、入社式を中止したり、延期したりする企業が相次ぐ一方、IT系企業を中心に、オンラインで入社式を行った企業もあった。
新入社員が各拠点に散らばって参加し、各会場をオンラインで結ぶといったケースや、新入社員が自宅から参加するという例もあり、最新テクノロジーが新入社員の門出をサポートした格好だ。
日本マイクロソフトも、オンラインで入社式を行った1社である。リモートワーク、そして最新テクノロジーの活用に関しては一歩進んだ企業として知られるマイクロソフトが、こうした現状の中でどういった取り組みをしているのかを紹介する。
初めてのオンライン入社式
2020年4月1日、「Microsoft Japan Entrance Ceremony 2020(入社式)」を行った日本マイクロソフトは、新たに迎えた48人の新入社員全員がMicrosoft Teamsを使って自宅から入社式に参加した。日本マイクロソフトの吉田仁志社長、マイクロソフト ディベロップメントの榊原彰社長をはじめとする役員やマネージャーなど、合計で約100人が参加したという。
リモートワークへの取り組みでは先進的企業である日本マイクロソフトにとっても、オンラインによる入社式は初めてだ。吉田社長からは、入社式のなかで、今年の新入社員がオンライン入社式第一号の社員たちである、ということが示された。
ただ日本マイクロソフトの場合、2019年10月1日に内定式を行っており、すでに社長や役員とは交流があったり、学生時代にインターンをしていたり、というケースがほとんどで、Teamsでのやり取りに慣れているという背景もある。
「例年に比べて、新入社員へのメッセージが伝わりにくかったというような課題は生まれなかった。あえていえば、入社式後には昼食の時間帯を使って、新入社員と役員、配属先のマネージャーが懇親ランチ会を行うが、それができなかったことが残念。新型コロナウイルスの感染状況や政府の方針にもよるが、配属式などに形を変えて実施することも検討したい」としている。
入社式では、吉田社長が同社のミッションの説明や、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組み、社会貢献に向けた強い意志などについて言及。最後に時間を割いて、これまで新入社員一人ひとりを支えてきた保護者やサポートしてくれた人たちへの感謝の大切さを説いた。このあたりは、吉田社長の人柄が感じさせる内容だったといえるだろう。
ちなみに、今回の新入社員の内定式が行われた2019年10月1日は、吉田社長にとっても日本マイクロソフトの社長に就任した日。同じ時期に日本マイクロソフトに入ったという意識が強いのかもしれない。
また、マイクロソフト ディベロップメントの榊原社長は、テクノロジーの進化や社会環境の変化によって、IT業界が異業種まで広がっている現状などについて触れながら、そこにおけるマイクロソフトの役割について説明。新入社員に「スキルを身につけること、磨くことを重視してほしい」と呼びかけた。
吉田社長や榊原社長は日本語でメッセージを送ったが、2人の新入社員代表は、本人たちの希望もあり、英語でスピーチを行ったという。
なお、来年の入社式をオンラインで実施するかどうかは、現時点では検討していないとのこと。
企業活動のあらゆるシーンで活用広がる
なお日本マイクロソフトでは、3月14日に、京都市の立命館小学校で行われた卒業式を、Teamsでライブ配信する支援を行ったり、大阪市に対して、4月1日から勤務する新職員約520人に向けたオリエンテーションや研修にTeamsを利用する提案を行ったりしている。
日本マイクロソフトはこうした取り組みの例を示しながら、「今後は新人研修などにもTeamsを利用してもらえるよう支援を実施する」と語る。
実際、日本マイクロソフトの新入社員に対する研修も、Teamsを活用したオンラインで行われるという。
ちなみに日本マイクロソフトでは、Teamsを利用して、ウェビナーや製品説明会、全社会議、年頭訓辞などのライブイベントを開催する際のガイドを公開している。
【Microsoft Teamsでオンラインイベントを開催しよう(PDF)】
記者会見でもTeamsを利用する例が増加しており、今後は、企業活動のあらゆるシーンでTeamsが利用されることになりそうだ。
自らの経験などをもとにした「テレワーク導入ガイド」を公開
一方、政府が発令した緊急事態宣言により、首都圏や関西などにおいて、外出の自粛要請、イベント施設の使用制限を要請がはじまり、リモートワークによる勤務がさらに広がることになった。
だが、各社ともにリモートワークの導入、運用には苦慮しているだろう。そうした課題解決の一助になりそうなのが、日本マイクロソフトが、自らの経験などをもとにした「テレワーク導入ガイド」だ。同社サイトにおいて、無償で公開している。
【テレワーク導入ガイド(PDF)】
「働き方改革推進会社」を標榜してきた同社が提供するコラボレーションツール「Microsoft Teams」を活用した事例を、「どの組織でも再現可能なレベルでご紹介いたします」(同ガイドより)とした内容だ。
44ページで構成される同ガイドは、「日本マイクロソフト“働き方改革”の進化」、「Q&Aで学ぶ!スムーズなテレワーク導入ノウハウ~明日から真似できる日本マイクロソフトの文化と制度」、「使ってみようMicrosoft Teams」、「日本マイクロソフトのMicrosoft Teams活用事例」などで構成され、ITツールの活用ノウハウだけにとどまらず、企業文化や制度、ポリシー、オフィス環境の整備などにも言及。
同社が2019年夏に実施し、話題を集めた週休3日制(日本マイクロソフトでは週勤4日制と呼ぶ)の成果のほか、営業部門や人事部門、パートナー部門、カスタマーサポート部門、サービス部門といった部門ごとの活用事例も紹介するなど、実践的な内容となっている。
例えばガイドのなかでは、「ワークスタイルの変化に伴い、社員に求めるスキルや成果の質も変わる」と指摘。新たな人事評価制度として、「チームワークを通じた成果の実現」、「成長を加速しより良い結果を出すためのフィードバックの仕組みの実装」、「インパクトに応じた報酬の分配」という3つの目標を設定したことを紹介。「他者と比較した個人の結果だけを見るのではなく、会社、組織、お客さまに与えたインパクトの大きさが個人の評価につながる制度へと進化させている」など、リモートワークの前提となる制度改革が必要であることなどを示している。
また具体的な事例では、同社営業部門のひとつを紹介している。ここには13人の社員が在籍しているものの、オフィスにいないのが当たり前の環境にあり、プロジェクトのきめ細かな進ちょく管理を対面で行えないといった課題があったという。さらに1時間の商談のために、擦り合わせだけで合計1.5時間の会議をしていたとのこと。
そこで同社では、TeamsとPlannerを組み合わせて、自分と関係者のタスクを可視化。さらに顧客ごとにチャネルを切り替えながら議事共有などを行うことで、緊密なコミュニケーションを達成したという。
Teamsによるオンライン会議や議事録の共有などで営業工数が大幅に削減され、ひとつの商談で月間20時間の削減を実現。効率化したことで案件を回すサイクルが早くなり、結果的にこなせる案件数が増え、売り上げ増につながったとした。
また、営業活動上の困りごと相談や参考事例の共有、メールでやり取りをしていたExcelの売り上げ予測をTeams上で共同編集することにより、横の連携も活性化したそうだ。
「自分の営業状況を適切な相手と共有し合うことで、さまざまな視点を持つメンバーとデータを分析し合うことで、ひとつ上の営業スタイルが実現できる」としている。
「テレワーク導入ガイド」には、こうした事例や導入のポイントが紹介されており、リモートワークを行う企業には、ぜひ一読をお勧めしたい。
相談窓口やブログでの提言なども
また日本マイクロソフトでは、「セキュア リモートワーク相談窓口」を設置して、テレワークに関する相談や電話やウェブで受け付けたり、自社に合った導入を行うためのテレワーク診断を15問に回答するだけで行ったりできる「テレワークアセスメントプログラム」を用意したりしている。こうしたサービスを利用してみるのも手だ。
このほか、日本での「テレワーク導入ガイド」の無償提供とは別に、米Microsoftでは「在宅勤務ガイド」を従業員に配布。英語版ではあるが、一般向けにも提供している。
Guide to working from home(pptxファイル)
ブログを通じて、リモートワークにおける働き方のコツを伝授する動きもある。これも参考になるだろう。
例えば、米Microsoft Microsoft 365担当コーポレートバイスプレジデントのジャレッド・スパタロウ氏は、ブログのなかで、「この状況下において、ミーティングのスケジューリングからチームの管理方法に至るまで、すべてを見直さなくてはならなくなった。多くのお客さまも同じような状況だと聞いている。そこで、完全なリモートワークを実践するチームとして、気づいた重要なことのなかから一部を紹介したい」とし、自らの実践を通じて得ることができたリモートワークのコツを公開している。
ここでは、
・生産性を向上し、家族に仕事中であることを伝えるために、専用のスペースを用意しておくことが重要。ダイニングテーブル、ベッドルームの隅、娯楽室のゲームテーブルなど、集中に適した場所をワークスペースとして活用できる
・完全なリモートワークに移行すると、日々のリズムが変わる可能性がある。特に、子育てと仕事を両立している人に当てはまる。自分の勤務時間を、チームの他メンバーに知らせ、何時ならば連絡が取れるのかを明確にしておくべき
・チームの他メンバーに対して進ちょく状況を頻繁に連絡することを習慣化してほしい
・他メンバーとつながっている感覚を得る上で、特に不都合がない限り、すべての参加者がカメラをオンにすることを勧める
・参加者が多すぎる会議では、意見の交換が困難になる。会議の主催者は、参加者に対して頻繁に質問を求め、意見表明にチャットウィンドウも使用すべき
・会議の時間が重なることは避けられないため、組織のルールとして許されるのであれば、社員が後でキャッチアップできるように、Teamsの会議を記録したほうがいい
といった提案が示された。
「精神的に退社すること」を心掛けてほしい
このほか、「給水器や自販機の近くのおしゃべりは、重要な情報や洞察に気づかせてくれる機会。チャットメッセージをバーチャルな給水器であると考え、定期的にチェックするようにしてほしい。また、絵文字、GIF、スタンプはチャットをおもしろく気軽なものにするために重要」と指摘。「非公式な会話を補完することが大切である」と強調している。
そして、こんな提案もなされた。
「オフィス内では、ミーティングが連続しても自然に間が空き、廊下を歩いたり、全員が到着するまで待っている時間もあり、これがチームメイト同士のカジュアルな会話を生んだり、ちょっとした息抜きになっていた。マイクロソフトでは、会議を各時間の55分または25分に終わらせるように推奨している。休みなしの連続ミーティングで燃え尽きる危険性を回避するには非常に効果のある方法だ」(スパタロウ氏)
さらに、帰宅途中のバスでぼーっとするなど、1日のできごとの区切りをつけ、次に進む準備が必要であることも指摘している。「ランチを食べに行く、帰宅するなど、通常の勤務形態で見られるような何かのきっかけがないと、PCをオフにすることが難しくなる場合がある」からだ。
こうしたことを受け、「リモートワーカーが、運動、社交活動、適切な食事なしに、長期間働き続けてしまうことがよくある。これはストレスや極度の疲労につながる。健康が何よりも重要であることを念頭に置き、食事の時間を設け、十分な水分を取り、仕事が終わった後はリモートワークから。『精神的』に退社することを心掛けてほしい。これらの行動は、健康のために重要であるだけでなく、長期的に見て生産性を向上することにもつながる」と提言している。
提案の中では、Teams上で仮想瞑想(めいそう)セッションを用意したり、離れている状態であっても可能な限りチームカルチャーを構築し続けるために、チームメイトのバースデーパーティーを行ったりすることなども挙げられており、日本にあてはめれば“オンライン飲み会”のような提案だといえるだろう。
スパタロウ氏は、「多くの人が突然リモートワークに移行すると、重要な時のみ集まるといった状況に陥りがちになり、元の状態に戻るまでチームでの楽しい瞬間を延期するようになる。リモートワークでチームカルチャーを促進するような集まりを成功させることは、最初は難しく感じるかもしれないが、皆でつながり前進するために、努力するだけの価値はある」と提案する。
こうした「余力」ともいえる活動を加えることが、リモートワークを成功させるコツであるというのが、マイクロソフトの提案だ。
ちなみに、イベント部門を統括する米Microsoft イベント担当コーポレートバイスプレジデントのボブ・ビジャン氏は、Teamsを通じてバンドを結成。社員とのコミュニケーションを楽しんでいるという。
在宅勤務での工夫や気付きを共有した「Coffee Break」
日本マイクロソフトでも、リモートワークを円滑に行うため、いくつかの試みを行っているのが、そのなかでも、4月1日に同社マーケティング部門が実施した「Coffee Break」の例を紹介しよう。
約30分間に渡って行われた「Coffee Break」は、Teamsを使って、約50人の社員が自宅から参加。業務そのものも話題は行わず、長期化する在宅勤務で工夫していることや困っていること、それに伴う新たな気づき、そして、Teamsの利用ノウハウなどを共有する場となった。
例えば、Teamsで会議に参加する際には背景変更機能を使うことで、自宅の様子が映らないようにできる例を共有。写真のように、右上の岡玄樹執行役員常務は背景をぼかして参加。左下の女性社員はビーチの映像を背景に使用した。
写真左上の社員も、部屋の様子が自然に見えるが、実は実際の自宅ではなく、別の映像を差し込んだものだという。見晴らしがいい間取りにしたり、豪華な部屋にしたりといった演出ができるというわけだ。また、右下の写真は、犬の写真となっているが、これはアバターとして利用しているもので、本人がしゃべると犬の口が動き、あくびすると犬があくびをするという。
日本マイクロソフトでは、Teamsによる会議の際には、自らの映像をオンにすることを推奨としているが、それを強制はしていない。しかも、画像にはアバターを利用することもでき、会議の際に「ほっこり」とした雰囲気が生まれる場合もあるという。
さらに日本マイクロソフトでは、社外とのミーティングの際もアバターでの参加もOKとしている。実際、犬のアバターでCoffee Breakに参加した社員は、社外の会議でも同じアバターで参加しているという。
もちろん、会議の目的とかテーマ、あるいは会議相手などに配慮したものであり、関係構築ができている相手であれば、むしろコミュニケーションがとりやすくなるという。
一方で社外のミーティングでは、日本マイクロソフトの社員はできるだけ映像をオンにすることで、Face-to-Faceに近い環境をつくり、コミュニケーションの効力を上げることを心掛けているという。
ただ社内のミーティングでは、共同作業で資料を作成するといったケースも多いため、それぞれの顔を表示するのではなく、必要な資料を表示して議論をするという場合の方が多いようだ。
ちなみに、Teamsの利用全体を対象に調査したところ、映像をオンにしている国としてはノルウェーとオランダが多く、約60%の通話で映像がオンになっているという。また豪州が57%、イタリアが53%、チリが52%、スイスが51%、スペインが49%となっている。
日本は39%で、米国の38%とほぼ同レベルだという。インドは22%と低いが、デバイスが入手しづらいことやインターネット回線が安定していないことなどが要因だとしている。
なお日本マイクロソフト社内では、Teamsによる会議が予定時間よりも10分ほど早く終わると、会議主催者が「皆さんに、時間を10分お戻しします」という言葉で締めくくる場合が多いという。
時間の使い方の改革に取り組んでいる同社らしいフレーズだといえるかもしれない。
そのほかにも、Coffee Breakでは、さまざまな情報が共有されたようだ。
在宅勤務時の仕事場所は、子ども部屋の机を活用したり、ベッドルームを工夫したり、夫婦で在宅勤務をしている場合には仕事の時間と家事を分担して1人で仕事ができるスペースを確保したり、といった内容のほか、子どもがいる家庭では、eスポーツやMinecraftに挑戦させ、「いかに仕事しているところに近づけないか?」という努力をしている例などが紹介されたという。
また、朝起きてそのままTeamsの会議に入ることが増え、パジャマのまま過ごす日が増えたという社員の声や、服装や寝ぐせで他の会議参加者には見せられる状態じゃなく、映像をオンにできないという言い訳が増えたとの声も出ていたという。
米本社ではユニークな例もある。PR部門を統括する米Microsoft コミュニケーションズ担当コーポレートバイスプレジデントのフランク・ショー氏は、毎日働く服装をチーム内で決めて、Teamsの会議に参加。月曜日はパジャマ、火曜日は帽子などかぶりもの、水曜日はスポーツウェアというような楽しみ方を社員とともに行っているという。
さらにCoffee Breakでは、会議のスケジュールを詰め込みすぎると、を詰め込みすぎると、PCの前にいる時間が長くなり、昼食がちゃんと食べられずに、家のなかに置いてあったカップめんを食べ、それが運動不足と相まって、太る原因になっている、といった切実な悩みなどが吐露されたという。
一方、先に触れたオンライン入社式に出席した新入社員も、このCoffee Breakに参加。写真のように、社員から入社を祝う「パチパチパチ」「88888」などの文字がチャットボックスに並んだ。また2月や3月に入社した社員は、入社後にそのまま在宅勤務となっており、Teamsの会議に参加するたびに「はじめましてー」と自己紹介をすることが繰り返されているという、こぼれ話も明らかになったという。
そのほか、ちょっとしたリフレッシュのために行う散歩で、近所の公園事情に詳しくなった近況や、Teamsで飲み会を開催したことなどが報告されたという。
今回のCoffee Breakでは、リモートワークを行う上での情報がさまざまな形で交換されたというが、そのなかで、リモートワークによって、効率性や生産性を上げるということだけでなく、リモートワークならではの仕事の仕方を楽しむこと、あるいはリフレッシュすることの大切さが共有されたという。オフィスワークならば自然とできていたことが、リモートワークではできにくいということを再認識し、社員同士が工夫を凝らしている結果を共有する場になったともいえる。
日本マイクロソフトでは、「ワークライフバランス」の次のステップとして、社員一人ひとりが仕事や生活の事情や状況に応じた、多様で柔軟な働き方を自らがチョイスする「ワークライフチョイス」の定着を目指しているが、Coffee Breakを通じて、これまで以上に仕事と生活を一体として考え、「ワークライフチョイス」を推進することが重要である、という気づきもあったようだ。
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リモートワークでは個人による管理が、より重要になる。政府の緊急事態宣言により、多くの人がリモートワークを余儀なくされ、それが長期化することになる。ここでいま一度、リモートワークのやり方や考え方を棚卸ししておくことが、これからの働き方にプラスになるのではないだろうか。