「モバイルワークスタイルとクラウドを柱に日本企業のイノベーションを先導」~シトリックス マイケル・キング社長


 「日本のお客さまが、シトリックスに対して、さらに高い関心を持ちはじめていることを感じる」と、シトリックス・システムズ・ジャパンのマイケル・キング社長は切り出す。ここ数年、相次ぐ買収によって、クラウド市場における製品およびサービスのラインアップを強化するとともに、仮想化デスクトップでのリーダーとしての存在感を増してきたシトリックス。

 CloudStackのApache Software Foundationへの寄贈といった取り組みも、同社のエコシステムを加速することに寄与しているという。2012年の事業戦略で力を注いでるのは「モバイルワークスタイル」と「クラウドサービス」。今年12月には日本への進出から15周年を迎えるシトリックス・システムズ・ジャパンのマイケル・キング社長に話を聞いた。

 

シトリックスはクラウド市場におけるキープレイヤー

――シトリックスでは、日本のクラウド市場の変化をどうとらえていますか。

シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 マイケル・キング氏

キング社長:シトリックスは、クラウド市場におけるキープレイヤーであり、それを裏付ける3つの重要な製品があります。

 ひとつはNetScaler。これは世界有数のWebサイトで活用されている製品です。2つめはXenDesktop。仮想デスクトップ市場におけるリーダーであることを象徴する製品です。そして、3つめに、昨年7月に買収したCloud.comによって、シトリックスのプロダクトとなったCloudStack。CloudStackは、世界の80のパブリッククラウドサイトで活用されています。

 日本ではこれまで以上に、シトリックスに対する関心が高まっていることを感じます。日本の企業は、最新の技術に対しては様子見という状況があり、クラウドに対してもあまり積極性がなかった。しかし、一気にクラウドに対する注目が高まっています。

 東日本大震災はクラウドに注目が集まるという意味では大きなきっかけとなっていますし、グローバル化の進展とともに、人々の意識が変化し、これまでとは違うことをやらなくてはならない流れが出てきていることも、クラウドに注目が集まる理由のひとつではないでしょうか。

 さらに世界的な経済環境の減速に加えて、日本では円高という状況にあり、海外でビジネスを推進する際にも、ほかの国以上にコストと費用効果を強く意識しなくてはならない。これまでとは違う売り上げの源泉を生み出すという意味でも、新たなテクノロジーを利用しなくてはならない。そうした経営者の意識変化の側面が見逃せません。

 加えるなら、日本の企業には、大手グローバルプレイヤーの動きをとらえ、自分たちのビジネスを失ってしまうのではないかしまうのではないかという危機感もある。

 そうしたなかで、シトリックスに対しても、数々のリクエストが出てきています。どんな先進事例があるのか、それをできるだけ早く情報として提供してほしいという声が増えていますし、シトリックスに対して、積極的に支援してほしいという声が出てきています。

 コンサルティングを含めて、これまでにない関係づくりを求める企業が増加していること、パートナーに対しても、トータルソリューションを求める声が高まり、マルチテクノロジーに対する関心が集まっている。もはや、小さいシステムから動かすという段階は過ぎているといえます。米国本社には、エグゼクティブ・ブリーフィング・センター(EBC)という施設がありますが、ここを訪問する日本のユーザー企業のトップも増えていますよ。

 

日本でも先進的な活用事例が生まれて来た

――日本のユーザーの変化は具体的にどんな形でみられていますか。

キング社長:今年5月に開催した当社のプライベートイベントであるCitrix Synergy 2012では、2012 Citrix Innovation Awardのファイナリストに、今回初めて、日本の顧客としてIDCフロンティアが選出されるなど、先進的な活用事例も出てきています。

 日本の大学でもクラウドテクノロジーに注目しており、これをひとつの事例として横展開することもできますし、日本のゲーム業界ではクラウドに対して、積極的な投資を行い、これによって高い生産性を実現している。

 日本におけるCloudStackの開発者グループも世界最大規模のものに育っていますし、今後も開発者向けの動きも加速させていきたいと考えています。

 加えて、シトリックス・システムズ・ジャパンは、先ごろ、クリエーションラインとの提携を発表しましたが、こうした動きを通じて、日本における重要なパートナーとの協業体制を強化していきたいと考えています。クリエーションラインとの協業では、プロダクトのいち早い変化への対応、迅速なクラウドの実装が期待できます。

 日本において、シトリックスは、クラウドのベストブランドという評価を得ている。その点ではビジネスもうまく行っています。

――日本での業績はどうなっていますか。

キング社長:2011年におけるグローバル全体での売上高成長は、前年同期比30%増という高い伸びとなりましたが、日本を含むAPACでの成長は、前年同期比40%増の成長と、さらに高いものになっています。

 世界のあらゆる地域のなかでも、日本の市場がもっとも早い成長を遂げているという状況はいまでも変わりません。シトリックス製品の市場への普及率もナンバーワンです。そして、この勢いはまだ続くとみています。シトリックスは、日本を戦略的な市場と位置づけています。それを裏付けるように日本に対する大きな投資も行っています。

 日本にローカルのR&D部門が存在していることや、日本はAPAC市場の一員でありながらも、レポートラインが米国本社と直結し、本社との緊密な関係でコミュニケーションをとっていることなどは、その一例です。これは、日本のパートナー、ユーザーにとって、本社から多くの情報を入手できることにもつながります。

 そして、今年後半には、日本にもEBCを設置し、トレーニングの拠点として、また、ソリューションに関する情報を提供する拠点として、これを活用していきたいと考えています。詳細は、あらためてお知らせすることになりますが、こうした動きをとらえても、デスクトップの仮想化において、日本が強力な成長を遂げるチャンスを持った市場であると確信していることがわかっていただけるのではないでしょうか。

 

BYODが注目されるモバイルワークスタイルへの取り組み

――シトリックスでは、2012年の方針としては、「モバイルワークスタイル」と「クラウドサービス」の2つの柱を掲げています。半年を経過し、これらへの取り組みはどうなっていますか。

キング社長:シトリックスは、どこでも仕事ができる、人生を楽しむ、ということを長期的な方針として取り組んでいます。

 その一方で、2012年は、グローバル化、BYODといった流れが注目されるなかで、「モバイルワークスタイル」と「クラウドサービス」に対して取り組んでいます。これらの活動を通じて、いかに日本の企業のイノベーションをけん引していくかが大切です。

 一例として、モバイルワークスタイルの取り組みをご紹介します。

 現在、シトリックスでは、XenAppを利用しているユーザーに対して、無償でモバイル対応の追加モジュール、SDKを提供しています。iPadをはじめとした新たなデバイス向けにアプリケーションを開発する際に、iPad向け、Android向けにスクラッチで開発したり、異なる画面サイズにあわせて開発するというのでは効率が非常に悪い。HTML 5で解決するという手もありますが、まだまだ標準にはなっていない。

 一方で、企業がすでに活用しているWindowsアプリケーションは数多くあります。大手企業では数百種類ものWindowsアプリケーションを動かしているという例も少なくない。それらのアプリケーションのなかには、モバイル対応をして、営業担当者が持ち運んで利用したい、社員が持っているスマートフォンで動かしたいというニーズもあります。この部分をすべて開発するのではなく、XenAppを利用してモバイル対応していくという提案を、シトリックスは行っているわけです。

 Windowsアプリケーションは、キーボードとマウスを必要としますが、XenAppを通じて、iPadやAndroid端末に求められるタッチフレンドリーなインターフェースにすることができる。まさにiPad用のために開発されたアプリケーションのように仮想化した環境で動作させ、その裏ではしっかりとWindowsアプリケーションが動作しているというわけです。

 シトリックスでは、こうした提案にあわせて、モバイルアプリケーションデベロッパーコンテストを実施し、テクノロジーそのものだけでなく、広く活用してもらうための仕掛けも進めています。

――パートナー戦略についてはどんな取り組みを行っていますか。

キング社長:シトリックスは、この2年間において、製品中心の戦略から、ソリューション中心の戦略へと大きくシフトしてきました。これまではワンプロダクト型の販売戦略が中心でしたが、シトリックスからのメッセージにおいても、またパートナーの取り組みにおいても、マルチソリューション、トータルソリューションをキーワードとした展開を活発化させています。

 また、シスコシステムズやマイクロソフトなど、キーとなる企業のパートナーシップの確立も重要なものだといえます。

 パートナーコミュニティの進ちょくについては、リリースや事例などを通じてお話しすることができればいいのですが、それは時期尚早です。ただ、認定されているパートナーの数は、2倍の勢いで増加していますし、認定されているパートナーも次のステップの認定を目指して、より深い関係を構築するための動きが、顕著に見られ始めています。

 私が感じているのは、パートナー側からシトリックスに積極的に働きかけるという動きが、これまで以上に増えている点です。App-DNAやCloud.comの買収といった大きな動きをとらえて、これからどの方向に行こうとしているのか、そこにどんなビジネスチャンスがあるのかということに注目をしていただいています。

 パートナーが持つソリューションと、シトリックスのテクノロジーを融合することで、ユーザーにベストソリューションを提供していきたい。そのための施策を強化していくつもりです。

 それと、余談ですが、パートナーの口から「MetaFrame」という言葉が聞かれなくなったのは大変いいことですね(笑)

 

CloudStackの寄贈が事業戦略に与えた影響は?

――それは大きなニュースです(笑)。ところで、今年4月には、CloudStackをApache Software Foundationに寄贈しましたが、これは今後のシトリックスの事業戦略にどんな影響を及ぼしますか。

キング社長:シトリックスは、これまでにもApache Software Foundationに対しては、迅速な動きをとってきました。また、その一方で、Cloud.comの買収には多くの開発者やユーザーが注目していました。

 CloudStackはデファクトプラットフォームと位置づけられており、開発者コミュニティにおいては、オープンソースの重要性がますます高まっている。こうしたなかで、Apache Software Foundationへの寄贈は、CloudStackの今後の大きな成長が期待できる環境を整えることにつながったともいえます。

 買収から寄贈まで、迅速に行動ができたことは、多くの方々に評価していただけるのではないでしょうか。むしろ、批判の声はほとんどなかったと思います。Apache Software Foundationのメンバーである3万人の開発者が、この動きを歓迎している。Apache Software Foundationに寄贈するという、オープンソースの本命のところで展開したことで、これを使っていこうという気運が高まっており、結果としてシトリックスのクラウドビジネスにおいてもプラス効果が期待できます。

 シトリックスのエコシステムの拡大、充実にもつながるのではないでしょうか。同様に、日本においてもこの動きは歓迎されていると判断しています。今後は、リブランディングをしながら、動きを加速できると考えています。

――シトリックスの戦略をみてますと、デスクトップの仮想化戦略に比べて、サーバー仮想化領域におけるXenServerの存在感が薄い感じが否めません。今後の事業バランスはどう考えていますか。

キング社長:デスクトップの仮想化領域においては、これからもリーダーとして君臨できるように取り組んでいく姿勢は変わりません。

 一方で、ご指摘のサーバーの仮想化領域ですが、ワールドワイドにおいて貢献してきた実績があり、ナンバーワンのポジションであると自負しています。引き続き、この領域には力を注いでいくことになります。シトリックスの開発チームも、新たな製品を開発しつづけることを表明していますし、この分野におけるオープン性も維持していくことになります。

 

新製品や買収企業の製品を生かしてソリューションを提供

――今年5月に開催したプライベートイベントであるCitrix Synergy 2012ではさまざまなプロダクトが発表され、さらにProject Avalonというコンセプトも明らかになりました。これらは今後のシトリックスのビジネスにおいてはどんな意味を持ちますか。

キング社長:日本からのSynergy 2012への参加者は、パートナーやユーザーを含めて約120人でしたが、これらの製品群に関する情報はこれからさまざまな形で詳細を明らかにしていくことになりますし、これにあわせて新たな買収といった動きも出てくることになるでしょう。そして、日本のパートナー、ユーザーにとってどんな影響があるのかといったこともクリアにしていく必要があります。

 シトリックスは、この1~2年は積極的に企業を買収してきました。こうした買収によって得た技術と、シトリックスの技術を、新たな製品としていかに統合していくのかが重要であり、その一端を示すことができたのではないかと思っています。

 ユーザー企業のIT部門は、社内のサービスプロバイダーにならなくてはならないという転換点を迎えています。そのときに、Windowsの新旧バージョンが混在した環境であったり、さまざまな製品が複雑な形で導入されているなかで、ユーザーがそれを意識しないで利用できるようにサービスを提供しなくてはなりません。

 またユーザーの増減にあわせて、柔軟にリソースを変更できるようなオンデマンド型の環境も求められている。オンプレミスと、外部のパブリッククラウドとを自由に使うサービスを提供する必要がある。この環境の実現に向けて、新たに発表した製品や買収した企業の製品を加えたシトリックスの製品群として、提案をしていくことになります。

 Project Avalonに関しては、ベータ版が年末にかけて出てくることになります。シトリックスの製品は、日本において、2万7000社を超えるお客さまに利用していただいています。そうしたお客さまがこれまでに投資してきたものを無駄にせず、将来にわたって継続して利用でき、投資の観点で心配することがないということをProject Avalonによって実証できると確信しています。

 それを、ベンダーのペースではなく、お客さまのペースによって実行できるという点も重要な要素です。詳細については、これからきちっと説明していかなくてはならないですね。

 パートナーにとっても、Project Avalonによって、クラウドのツールや、SNSのソリューションといったように、より多くのものを販売できるチャンスに恵まれるのではないかと思っています。これまでにないものを提供できるといえるでしょう。シトリックスにとっても、Project Avalonを通じて、パートナー、ユーザーと長期的な信頼関係を確立できるようになると考えています。

――7月に日本で開催されるCitrix iForum 2012では、Project Avalonについても新たな情報が追加されますか?

キング社長:7月17日、18日の2日間、東京・芝公園のザ・プリンスパークタワーでユーザー向けカンファレンス「Citrix iForum 2012」を開催します。お約束できるのは、Synergy 2012で発表された内容について、はるかに詳細な情報がここで発表されるということです。

 また、CEOのマーク・テンプルトンが来日し、6年ぶりに基調講演を行います。マークは、日本が大好きですし、ビッグアナウンスをしたいタイプの人間ですから(笑)、エキサイティングな内容が発表されることは確かでしょう。今年は昨年の来場者数の2倍となる4000人強の参加を見込んでいます。この数字が、当社に対する高い関心を示しているのではないでしょうか。

 

2012年後半の重点ポイント

――2012年の後半における重点ポイントはどこになりますか。

キング社長:デスクトップの仮想化においては、Xen Desktop、VDI-in-a-Box、App-DNAを中心として、エンタープライズの市場のみならず、中堅、中小企業に向けても、より強化した形で事業を展開していきたい。

 2つめは、パブリッククラウドを利用しているユーザーに対して、CloudPlatformとNetScalerを統合することによって、ベストソリューションを提供するということ。

 そして最後に、イマージングソリューションと呼んでいるのですが、製品を単体だけでなく、統合した形で新たなソリューションとして提供していきたい。

 こうした3つの取り組みを通じて、他社にはない訴求が可能になり、日本におけるシトリックスの事業を拡大することにつながります。これらの取り組みは、お客さまにとって価値の高いものになると信じています。

 さらに、GoToMeetingやGoToMyPCといったシトリックスオンライン製品の事業化も視野に入っています。パーソナルクラウドを実現するFollow-Me-Dataや、コラボレーションサービスのShare Fileなど、興味深く、ユニークな製品もあります。加えて、最近買収したPodioについても、長期的にみて、面白いソリューションになると考えています。

――オンラインサービスの日本での正式なサービス開始はいつになりますか。

キング社長:日本でのサービス開始について、時間がかかりすぎているという印象を持っているかもしれませんが、今回のiForum 2012においては、正式な形でオンラインサービスディビジョンが参加することになっていますし、ブースも設置することになっています。

 ただ、日本での展開については現時点では明確なことはいえません。新たなサービスを日本で展開するには、あらゆるものを分析して、慎重な姿勢で取り組んでいく必要があると考えています。ローカライズについても、料金設定やサポート体制に関しても徹底して議論をしています。その点で少し時間がかかっていると考えてください。

――SynergyやiForumといった大型イベントを通じて、今年後半に事業方針が変化する可能性はありますか。

キング社長:モバイルワークスタイルへの取り組み、クラウドサービスの見える化という、今年の注力ポイントには変更がありません。ただ、私が個人的に注力したいのは、「Work Better. Live Better.」。クラウドの世界をパーソナルなレベルにまで落としていきたいですね。

 シトリックス・システムズ・ジャパンは、「自社内におけるデスクトップ仮想化ソリューションを活用したテレワーク」の取り組みについて、日本テレワーク協会から表彰されていますが、こうした動きを活動も重要な意味を持ちます。シトリックス・システムズ・ジャパンは、2012年12月には、15周年を迎えます。

 当社の活動の多くは、15年間の活動をベースにやってきたものです。その間、基本戦略そのものには変更がありませんし、これからも変更がありません。これからもパートナー、お客さまとともに、日本市場で成長してきたいと考えています。

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