「情報分析」と「行動」を直結させるBI
Part 2:先進企業が挑む“クイックPDCA”への道
■“クイックPDCA”実現に向けて新たなマネジメント手法を確立へ
「単にBIツールを導入するわけではない。“10年後に世界NO.1のゴルフ総合サービス企業を目指す”という長期ビジョンを 実現するための、マネジメント手法の改革が本当の狙いだ」。ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の中澤氏は、導入中の BI基盤について、こう言い切る。「BIを日常業務に溶け込ませる」ともいう。その意味と実践手法を、中澤氏自身が解説する。
企業のIT投資対象はERPや業務システムからBI・DWHといった情報流通システムに移りつつある。厳しさを増す競争環境の中で、「企業内に蓄積された膨大なデータをどう活かすのか?」という視点・ステージに企業の関心が移ってきたことが、その背景にあると思われる。
ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)も同様で、約1年半前に筆者の管轄するマーケティング部は「DWH・BI」の導入に着手した。その目的を一言で言えば、「クイックPDCAの実現」になる。つまりGDOが提供する様々なサービスにおいて、その現状や進捗状況、実績などを、客観的な指標に基づき見える化し、問題の発生や予兆を素早く把握。さらに確実に対応して競争力を向上することだ。そのためにBI基盤の導入と並行する形で、「KPIマネジメント・フレームワーク構築プロジェクト(MFプロジェクト)」も立ち上げた。
筆者は本プロジェクト全体の設計(アーキテクト)を担当し、実践フェーズとなる2011年度においては経営管理部を兼任し、全社的な視点でクイック PDCAの定着を推進する責務を負う(図2-1)。ここではその立場から、“経営に貢献するBI”について、筆者らの考え方を解説する。
【図2-1】GDOが目指す「クイックPDCA」の姿 |
■クイックPDCAを阻む3つの壁
これまで、多くの企業がBIを導入してきた。そうした先行ユーザーに導入後の経過を尋ねると「導入効果が見えない」「思うように活用が進まない」といった悩みを聞くことが多い。筆者はその理由を、これまでのBIへの取り組みの多くが「見える化」にとどまり、「素早くかつ確実な打ち手=対策の実行」にまで至っていなかったからだと考える。その結果、BIがビジネスにもたらす効果に疑問の声が上がるようになったのだ。
ではなぜBIを導入して見える化しても、「素早くかつ確実な打ち手」の実行へとつながらないのか。筆者なりの考察では、BI活用がうまくいっていないユーザー企業には次の3点が共通している。
1. 有効な指標・KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を導出できていない。
2. 指標・KPIをどのように組織的意思決定につなげるかのルールや手順が明確でない。
3. 組織的意思決定をどのようにアクションにつなげるかのルールや手順が明確でない。
誤解を恐れずに言えば「BI環境を整備したので、後は自由に使って下さい」といった感じで終わり、活用や定着に結びつかなかったのではないか、ということだ。先行する企業の多くが突き当たったこうした課題は当然、BIをこれから導入しようとしているGDOにとっても課題になることは容易に想像できた。そこで我々はこれらを乗り越えるため、前述の「MFプロジェクト」を2009年12月に立ち上げた。
ここでKPIマネジメント・フレームワークとは何かを明らかにしておきたい。当社はこのフレームワークを、「組織の共通言語としてKPIを定義するとともに、KPIを用いたコミュニケーション・ルールを整備することで、組織における意思決定の精度と速度を向上させる仕掛け・仕組み」と位置づけている。
MFプロジェクトの目的は、このフレームワークを具現化するためのツールを用意することだ。ツールとは、「共通言語」「コミュニケーション・ルール」「推進体制」「IT環境」の4つである。これらがそろって初めて、「クイックPDCA」を実現できる。