“Xbox Surface”開発中? Microsoftのコンシューマー戦略


 Microsoftが“Xbox Surface”とも呼ばれるゲーム用タブレットを開発中と報じられ、注目を集めている。任天堂の「Wii U」への回答、あるいはAppleの「iPad Mini」対抗などと取りざたされる中で、メディアが一致して挙げているのは、Microsoftのコンシューマー戦略強化と、その際の自社ブランドハードウェアが不可欠という点だ。

Microsoftのゲームタブレット報道再燃

 「Xbox Surfaceプロジェクト」を報じたのは11月6日付のThe Vergeで、Microsoftの本社勤務筋からの情報という。ゲーム向けのカスタムARMプロセッサ、大容量RAM搭載などのスペック情報とともに伝えている。

 “Xbox Surface”は、未発表のIntelのシステムオンチップ(SoC)を搭載できる柔軟な仕様で、これまでのXbox製造業者とは別に、極秘のハードウェア製造プロセスを設けたという。シリコンバレーのオフィスで開発中であり、MicrosoftはXboxチームが作業をする複数のオフィスビルへのアクセスを制限している、とThe Vergeは伝えている。発売時期には言及していないが、次世代のXbox発表の前にベールを脱ぐのではないかと期待を寄せる。

 実はXbox Surfaceのうわさは初めてではない。今年6月、やはりThe Vergeが「Xbox Surface」とロゴの入ったスペック表とともにゲームタブレットが開発中であると伝えた。スペック表には、7インチのマルチタッチLED画面、AMDのカスタム28nmのGPUなど詳細な仕様が並んでいた。結局、The VergeがXbox Surface発表日ではないかと挙げた日に、MicrosoftはSurfaceを発表した。

 MicrosoftウォッチャーのMary Jo Foley氏も、今回のThe Vergeの記事の前10月23日に「Surface Mini」として7インチタブレットの可能性を述べている。そこで6月のThe VergeのXbox Surface報道に触れるとともに、Surfaceチームが7インチタブレットの可能性について否定していない点も指摘している。


ゲーム環境の変化がカギ

 Xbox Surfaceが今度こそ登場するのか――。SurfaceでMicrosoftがハードウェア企業の方向を打ち出した今、コンシューマー分野でのラインアップ強化は、ありそうな話のように思える。これを機にいくつかのメディアが、Microsoftのコンシューマー戦略を精査している。

 ReadWrite.comは、ゲーム市場が大きく変わりつつあるという流れからXbox Surfaceの可能性を検討している。ゲーム市場では、スマートフォンとタブレットというモバイル端末の急速な普及によって変化が起こっているのだ。

 例えば、10月のMicrosoftの業績報告によると、直近の四半期のXboxゲーム機の出荷台数は170万台で、前年同期から26%の大幅減だった。Microsoftだけではない。ソニー、任天堂もともに前年から出荷台数を減らしている。任天堂とソニーはモバイルゲームを展開しているが、この分野は減少度が比較的小さいという。また、調査会社NPDのモバイルゲームユーザー人口調査によると、米国のゲーム愛好者に占めるモバイルゲームユーザーの比率が2011年の9%から2012年には23%に急増しているという。

 そこで、ReadWrite.comは、ポータブル(モバイル)ゲームでMicrosoftに勝機があるかもしれない、と予想する。ただし、「SmartGlassアプリ(Windows、さらにはiOSなどの端末とXbox 360の連携を可能にするソフトウェア)を搭載したXboxブランドのSurfaceタブレットに過ぎないかもしれないが…」とも付け加える。

 CNetは「次世代Xboxのアクセサリ(コンパニオン)なのか、スタンドアロンの端末になるのか」と問題提起。その上でXbox Surface関連情報を通じ、Microsoftが置かれている立場や、Xbox Surfaceが成功に必要であることを分析した。

 それによると、ゲームだけでみるなら「任天堂のWii Uへの回答」になり、モーションコントロールを導入したWiiへの回答として「Kinect」を投入するといったこれまでの実績がある。同時に「Microsoftがゲームタブレットで成功するにあたって最大の障害となるのは、iPad Miniだ」と述べ、「MicrosoftのデバイスではなくXboxのデバイスと思われるようにすべき」「SurfaceとXboxの機能連携を最大限に追求すべき」などと提言する。

 このほか、Xbox Surfaceで注目すべき点として、SmartGlass対応、価格、そして既存のゲームエコシステムがそのまま利用できるのかどうかなども挙げている。


タブレットがゲームとPCの両方を侵食

 このように、メディアの多くはXbox Surfaceに可能性があるとみている。背景にはMicrosoftがコンシューマー分野を推進していることがある。

 “コンシューマリゼーション”という言葉に代弁されるように、ハイテク業界はコンシューマー主導となりつつあり、この分野を中心とするApple、Google、Amazonなどが覇権争いをする展開になっている。こうした流れから、「Microsoftがハードウェアに進出するのは不可避」と、Strategy Analyticsのアナリスト、Neil Mawston氏はeWeekにコメントしている。

 また、IHS iSuppliのアナリストAndrew Rassweiler氏も、Microsoftは“ソフトウェア企業”から“デバイスとサービス企業”への転身を図っており、ここでは「高い収益性のあるハードウェアを提供することが大切」とeWeekに述べている。なお、Mawston氏は、Microsoftが2013年から2014年の間に自社スマートフォンを投入するとの予想も示している。

 ハードウェアへの本格展開については、Steve Ballmer CEO自身の言葉がある。同氏は10月初めの株主あて書簡で「特定の目的に合う特定の端末をわれわれ自身が構築するときが来る」と明確に述べており、問題は、“どのように進めるのか”に移ったと言える。

 PCMag.comに寄稿したTim Bajarin氏は、創業時からMicrosoftを知る立場からコンシューマー戦略を分析してみせた。それによると、モバイルやゲームはこれまで優先順位が低い分野だったが3年前の組織改編とともに、タッチやモバイルなどの分野の研究開発を強化しているという。

 Bajarin氏は「その成果が出始めている」と評価する。Bajarin氏の記事はXbox Surfaceをテーマにしたものではないが、Surfaceタブレットについては「遅すぎるという懸念も残るが」としながら、タッチUIを持つ「Windows 8」の効果に期待し、ユーザーがWindows 8に慣れ親しむことが、市場に変化を起こすかもしれないと楽観する。

 ReadWrite.comも「(Xbox Surfaceは)リスキーな賭けになるが、タブレットがPCを侵食する中、Xbox Surfaceは時代を先取りする動きととらえることもできる」と肯定的だ。

 Microsoftは、つい先日、自社IM「Windows Live Messenger」のSkypeへの統合などのコンシューマー分野の発表を行っており、iOS向けOfficeのうわさも浮上している。“ポストPC”をにらんだコンシューマー分野での動きはさらに活発化しそうだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2012/11/12 10:17