次の段階に進むDropbox Jobs氏のオファーも断っていた


 クラウドサービスのDropboxが第二段階として2億5000万ドルの資金を調達した。シリコンバレーでも最近では大型の資金調達である。同時に、以前、Appleから買収を持ちかけられていたことも明らかとなり、さらに注目を集めている。TwitterやFacebookに続くハイテク界の人気者になりそうな気配だが、同時にその弱みを指摘する声も出ている。

勢いに乗るクラウドストレージサービス

 Dropboxは、パソコンのデスクップからフォルダにドラッグするだけでさまざまなファイルを保存できるオンラインストレージだ。ドキュメント、写真、音楽などに対応し、ログオンなどの手続きは不要。複数のデバイスからアクセス可能で、自動的にデータを同期する機能も備える。

 創業は2007年。マサチューセッツ工科大学(MIT)卒業生のDrew Houston氏とArash Ferdowsi氏の2人が立ち上げた。容量2GBまでは無料。それを超えると有料サービスとなり、料金は50GBで月額9.99ドルから。企業を狙ったグループ向けの料金プランもある。

 使いやすさのほか、スマートフォンやタブレットの普及も追い風となってユーザーはどんどん増え、同社によると現在4500万人が利用している。さらに年内に3倍に増える見込みという。ユーザーがDropboxに保存するファイル数は、3日で10億ファイルに上る。

 今回、Dropboxは、Skypeなどに投資した目利きのベンチャーキャピタルであるIndex Venturesを中心とする7社から計2億5000万ドルを調達した。評価額は40億ドル。Dropboxは過去にも、Sequoia CapitalやAccel Partnersらから720万ドルの出資を受けており、著名な出資者に支持されている。

 Houston氏は、新しい資金調達は「まったくのチャンスのため」とReutersに述べている。96%が無料ユーザーというが、「われわれはすでに黒字化しており、資金は必要ない」と自信を見せ、新たな資金は買収、戦略的提携など、より大きな目標に向けて使うという。

Jobs氏の買収オファーを一蹴

 だが、それ以上に業界の関心を引いたのは、Forbesの記事で明らかになった“秘話”、Appleによる買収交渉だ。Steve Jobs氏が2009年の段階で、Dropboxに買収を持ちかけていたというもので、その金額は9ケタ、つまり億ドルのレベル。8億ドルと伝えたメディアもある。2009年といえば、まだオンラインクラウドサービスが今ほど注目はされてはいなかった。Jobs氏が考えていたのは、いうまでもなく、今年発表した「iCloud」だ。

 このオファーを、当時24歳だったHouston氏らは断った。Houston氏はFinancial Timesに対し、「クラウド、そしてさまざまなデバイスからユーザーの情報にアクセスできるというニーズは、今後10年間でも最大の技術的な転換となる」「重要な分野だからこそ、オンリーワンになろうと計画してきた」と述べている。なお、Forbesによると、Houston氏自身は、Jobs氏をヒーローと崇拝しているという。

 投資家らもDropboxの将来を確信しており、「アイコン的な技術企業になる可能性がある」(Index Venturesのパートナー)、「技術の利用において、土台的な変化を象徴する企業」(Sequoiaのパートナー、)など評価は高い。

キーワードは「製品」

 Dropboxのようなクラウドサービスのニーズは既に実証済みだ。今年に入ってAppleがiCloudを発表。Microsoftも「SkyDrive」を持ち、Amazon、Googleも提供している。専業ベンダーとしては、Dropbox以外にYouSendIt、主に法人をターゲットにしたBox.netなども登場している。

 iCloudがApple製品にしか統合されておらず、SkyDriveがMicrosoft製品にしか統合されていないのに対し、専業ベンダーであるDropboxの強みは中立性だ。

 だが他方で、Dropboxの弱みを指摘する声もある。ForbesのDavid Coursey氏は、Dropboxを「アプリケーションではなく、機能だ」と述べ、「長期的に独立した会社として生き残るとは思えない」と予想する。

 Coursey氏は、機能は「既存のものに容易に組み込まれるもの」、アプリケーションは「スタンドアロンである必要があるもの」と定義した上で、iCloudはApple版のDropboxであり、OSとアプリケーションに統合されていると指摘。機能を提供するに過ぎないDropboxの存在意義には疑問があり、「製品ではなく機能を開発して、消えていった会社を山ほどみてきた」と厳しい評価を与える。

Jobs氏の警告

 実はDropboxは、2007年に、同じ警告をAppleのJobs氏からも受けていた。Forbesによると、買収オファーを拒否したHouston氏に対してJobs氏は、自分たちもクラウド市場に参入する、と微笑みながら述べたという。そして「(Dropboxは)機能であって、製品ではない」と言った。

 Houston氏はその後のiCloudの発表の際、従業員あてのメモで、MySpace、Palm、Yahoo、Netscapeなど、それぞれの分野で時代を切り開いた企業が、後に生き残りに苦戦した(あるいは、今も苦戦している)ことを挙げ、同じ轍(てつ)を踏まないよう注意を促したという。

 その対策の1つとしてDropboxが積極的に取り組んでいるのが提携戦略だ。同社はすでにHTCと提携し、HTCのスマートフォンにデフォルトで搭載されることが決まっている。Gigaomによると、モバイル分野ではHTCのほかに6社と話を進めており、TV分野も視野に入れているという。「われわれのやるべきことは、あらゆるところにDropboxアイコンを載せることだ」とHouston氏は語る。

 Forbesは言う。「Dropboxは、Steve Jobs氏が間違っていたことを実証しなければならない。そして、これは容易なことではなく、成功例も少ない」。潤沢な資金を得たDropboxの次の一手が注目される。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/10/24 10:47